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骨粗鬆症の予防と効果的な治療の指針となる骨代謝マーカーについて(入門編)

 

令和3年は、新型コロナ感染症対策の盲点となった、感染症対策そのものによってもたららされるビタミンD低下⇒骨量低下⇒骨粗鬆症、およびビタミンD欠乏による自然免疫力低下について警鐘を鳴らし続けてきました。そこで、骨粗鬆症に対する皆様の関心が、女性ばかりでなく男性においても、以前に増して高まってきているのを実感しています。

 

そこで、今月は、「骨粗鬆症」を理解し、診断や治療選択において、ますます重要性が認められてきている骨代謝マーカーについて、3段階(入門編⇒基礎編⇒発展篇)にわけてQ&A形式で解説することにしました。各編とも5つのQ&Aで解説します。杉並国際クリニックにおける令和4年の診療内容の理解の助けとしてご活用いただければ幸いです。

 

ところが、年齢とともに体の持っている再生能力が衰えると、骨を「つくる」能力が低下してしまいます。すると、「壊す」働きの方が強くなってしまうので、骨密度が低下します。また、女性ホルモンのエストロゲンには、骨を壊す破骨細胞の働きを抑制する作用がありますが、女性の場合、閉経後にエストロゲンの分泌が落ちるので骨密度が低下します。このように骨密度が低下することで生じるのが骨粗しょう症です。

 

 

 

Q1.そもそも丈夫な骨とはどのような骨なのですか?

 

A1.丈夫な骨とは骨組織の強さを意味します。骨組織の強さ、すなわち骨強度は1)骨密度と2)骨質の2つの要因によって規定されています。

 

骨の強さを決めるのは「骨密度が7に対し骨質が3」とされています。同じ骨密度の人では、年齢が高い人ほど骨折する人が多くなります。このことからも、骨折しやすくなるのには骨密度の低下と骨質の劣化の両方が関わっていることがわかります。骨密度が高いから骨折の危険性はないとは言い切れないのです。

 

まず1)骨密度を維持するためには骨のリモデリングが起こっている部位で骨吸収と骨形成の量が等しくならなければなりません。(骨のリモデリングについては、Q3をお読みください)

 

しかしながら、加齢や閉経、すなわちエストロゲンの欠乏などによって破骨細胞による骨吸収が骨芽細胞による骨形成を上回るようになってしまうと、最終的には骨密度が低下して骨粗鬆症となってしまいます。

 

次に2)骨質という要因です。骨の質が悪いと骨は弱くなり、たとえ骨密度がそれほど減っていなくても骨折する危険性が高まります。骨質は年とともに低下しますが、食事や運動不足などの生活習慣も深く関わっています。骨を強くするためには、骨の質を高める生活を心がけることが大切です。
 

骨粗しょう症になって骨が弱くなると、骨折する危険性が高まります。ところが、同じ骨密度であっても、骨折する人もいればしない人もいます。また、骨密度が低下していないのに、骨折する人もいます。このことから、骨の強さには骨密度だけではなく、骨の性質を示す「骨質」が関係していると考えられるようになりました。
そうして「壊す」と「つくる」という骨代謝のバランスがとれているときは骨量が一定で、骨の強度を保つことができます。

 

 

Q2.骨質についてもう少し詳しく説明してください。

 

A2.骨の質の衰えに大きく関係すると考えられているのが、コラーゲンの劣化です。
 

骨はコラーゲンというたんぱく質が束になってコラーゲン線維となり、ビルにたとえると鉄筋部分の役割をしています。コラーゲンは骨以外にもアキレス腱や、膝のお皿を動かす膝蓋腱(しつがいけん)のほとんどを作っていて、非常に力強い性質を持っています。骨はこの強靭なコラーゲンが柱を形成し、そのまわりにカルシウムなどのミネラルがコンクリートのようにはりついた構造をしています。
 

強い骨になるには、コラーゲンにミネラルが均一に沈着する必要があります。そのためには、コラーゲンがきれいに並んで揃った状態になっていなければいけません。しかし、コラーゲンの量や質が変化すると、きれいな束にならず、ミネラルが均一に沈着しにくくなります。つまり、骨量を示すカルシウムなどのミネラルがいくら十分であっても、柱となるコラーゲンの質が悪ければ、強い骨を作れなくなってしまうのです。
 

コラーゲンは、30~40歳代をピークに年とともに減少します。コラーゲンがそのものが作られるためにはビタミンCが不可欠です。その他、ビタミンK、ビタミンD、葉酸などが不足することでも骨量の減少だけでなく骨質の劣化が起こります。これらは骨の質を良い状態に保つのに大切な成分です。不足してコラーゲンの劣化が起こると、骨に大変小さなひびができます。これを「微細構造の変化」といい、骨折を招きやすくします。
 

コラーゲンは骨だけではなく、筋肉や関節をつなぐ靭帯などにも含まれています。そのため、減少すると体がスムーズに動くのに影響を及ぼして、転倒のリスクも高めてしまいます。このようにコラーゲンは骨の質だけではなく、転倒のリスクにも関わり、骨折の危険性をさらに高めることになるのです。

 

 

 

Q3. 骨のリモデリングとは何ですか?

 

A3. 人間の体の中には、古い骨は破骨細胞という細胞によって吸収され、さらに骨が吸収された部位には骨芽細胞によって新しい骨が形成される、そういった新陳代謝の生体現象が起こっています。この骨の新陳代謝を骨リモデリングといいます。
 

つまり、古くなった骨を破骨細胞が壊し、骨芽細胞が新しい骨をつくる、という骨代謝を繰り返しています。言い換えれば、骨は一度作られたらそれで終わりというわけではないということです。このことは、実に多くの皆さんが誤解されているようです。とくに顕著な誤解は、<老化によって衰えた骨は若返らない>という思い込みです。杉並国際クリニックで実施している骨量検査(保険診療にて、概ね半年に一回測定しています)では骨年齢を算出していますが、80歳を超える女性でも骨年齢の若返りが観察され、これまでの常識が覆されつつあります。こうした方々の骨代謝の変化について今後追跡を続けていく意義は大きいと考えます。
 

この骨代謝の状態を血液や尿を用いて生化学的なマーカーで評価することができます。それが骨代謝マーカーです。(骨代謝マーカーについてはQ3をお読みください)

 

 

 

Q4.骨代謝マーカーとはどのようなものなのでしょうか?

 

A4.骨代謝マーカーとは、骨代謝の状態を評価するために血液や尿を測定する方法の一つです。骨代謝マーカーは、骨吸収の状態を評価できる骨吸収マーカーというものと、骨形成の状態を評価できる骨形成マーカーというものがあります。さらには、骨マトリックス関連マーカーといわれるものもあります。  

 

骨吸収マーカーには検体の違いによって、血清マーカーと 尿中マーカーという区別の仕方があります。

 

骨形成はわかりやすいですが、骨吸収はわかりづらいのではないでしょうか。そこで、骨吸収という言葉について説明します。私自身は医学生の頃から、骨吸収という言葉に違和感を覚え続けてきました。なぜかと言いますと、まず第一に、骨が吸収するのか、骨が吸収されるのか、という区別がつきにくい表現だからです。そこで骨吸収とは、骨組織の吸収である、と説明されてはじめて、骨組織が吸収するのではなく、何かに吸収されてしまうことであることがおぼろげながらにイメージできることでしょう。それでも骨は何に吸収されるのかも不明であるためピンと来ませんでした。

 

骨吸収とは、<破骨細胞が骨の組織を分解してミネラルを放出し、骨組織から血液にカルシウムが移動するプロセスである>ことを説明されてはじめて何とか理解できます。簡単に言えば、骨組織が分解されて血液に吸収されてしまうことなのです。
骨の吸収に関与するそこで主役となるのが破骨細胞であり、これは多数のミトコンドリアとリソソームを含む多核細胞です。破骨細胞は通常、骨膜のすぐ下の骨の外層に存在します。新陳代謝の一環として骨が破骨細胞に分解され、カルシウム・コラーゲンなどが血液に吸収されることが骨吸収ということになります。

 

 

 

Q5.骨代謝マーカーには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

 

A5.血清の骨吸収マーカーの中にはⅠ型コラーゲン架橋N テロペプチド(NTX)の他に、Ⅰ型コラーゲン架橋Cテロペプチド(CTX)、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ-5b分画(TRACP5b)といったものがあります。  

 

また、尿中の骨吸収マーカーでは NTX、CTXのほかに、デオキシピリ ジノリン(DPD)というものの測定が可能です。

 

一方で骨形成マーカーに関しては、骨型アルカリホスファターゼ(BAP) や、あるいは最近ではⅠ型プロコラーゲンNプロペプチド(P1NP)といったものがあります。  

 

杉並国際クリニックでは、骨吸収マーカーとしてNTX,骨形成マーカーとしてBAPを採用しています。これらはいずれも血清マーカーとして採血検査で実施しています。

 


臨床産業医オフィス

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

飯嶋正広

 

 

いろいろな産業医面談

個人面談のための事前ガイダンス資料(その1)

 

企業の嘱託産業医をお引き受けすると、産業医として企業に定期訪問するだけでなく、スポットでの相談に乗らなくてはならない事例が発生します。その多くは、いわゆる総合臨床専門医としての相談です。広くかつ深い臨床経験がなければ、企業から信頼される産業医として活躍を続けることは、ますます難しくなっていくことでしょう。

 

今回から、実際のやりとりを紹介します。特定の企業名や個人名を伏せる形でご紹介いたします。

 

 

はじめまして。

私は御社の嘱託産業医の飯嶋正広と申します。

 

本日、御社の担当者様を通して、11月X日にあなたのための面談を担当させていただくことになりました。       

 

私は、日頃、以下のような、あなたと同様の「お悩み」のご相談に対応することがしばしばあります。

 

<手術後の傷の痛み、突っ張り感や傷痕内部のうずくような痛みに悩まされている。>

 

こうした相談には、以下の5つのステップのアドバイスが役に立つことが多いです。簡単にまとめてみましたが、軽く読み流しておいていただくだけでも十分です。面談に先立つ事前の準備のために少しでもご参考になれば幸いです。

 

 

ステップ1

【焦りや混乱状態から脱却しましょう!】

 

手術をした後、しばらくたっても痛みがとれないという患者さんがいます。それを医者に話すと、「手術は成功したし、もう悪いところはない。傷がいえれば痛みも減りますよ」とか、「多少痛みは残ることもあるが、一年もすれば消えますよ」と言われることがありがちです。

 

痛みは主観的なものなのです。そのため、周囲の人にはわかりにくいことがあります。また痛みに伴うつらさは、なかなか人に伝わりにくいともいえます。その理由は、痛みは個人差があり、客観的には判断しにくいものなので、医師などの医療者、家族などに伝わりにくくなりがちだからです。そのため、医師など医療者が判断している痛みによるつらさと、患者さんが感じる痛みによるつらさに隔たりが出ることもあります。

 

しかし、そこで焦ってしまうと混乱や不毛な医療不信に陥ってしまうので気を付けましょう。そうならないための方策を伝授いたします。

 

 

 

ステップ2

【自分の痛みの状況を知りましょう!】

 

焦りや混乱に陥らないようにするために、まず、痛みについて冷静に振り返って整理してみましょう。自分の痛みの性質や特徴について整理できていないと、素人の他人だけでなく、専門の医師の理解や共感を得ることも難しくなるからです。そこで自分の痛みについての整理の仕方のコツをご紹介いたします。

 


痛みを整理してみましょう!

 

(1)どのような時に痛みが出てくるのか、あるいは強くなるのか

例)歩いているとき、動き始めるとき、からだの向きで、からだをひねったとき、重いものを持ったとき、雨の日や湿気の多い時期、下着などで傷跡周辺がこすれたときなど

 

(2)どのあたりが痛むのか

具体例)創(きず)跡全体、創(きず)の左側の奥の方、など

 

(3)どのくらい痛むのか

具体例)数字で表してみる

0-10の数字で表す(0: 全く痛くない.........10: 耐えられないくらい痛い)一日のうち、時刻による変化を数字で表してみる

 

(4)どのように痛いのか

具体例)きりきり痛い、ズキンズキンする、時々ピリッと電気が走るよう、など(動作に伴って痛むときは、体を右にひねったとき、かがんだとき、なども伝える)

 

(5)痛み止めを使っていればその効果はあるか

具体例)

・痛み止めをのむと、1時間くらいでいったん楽になるけれど、6時間くらいでまた痛くなる

・痛み止めを飲んでも、痛くて夜に眠れないときがある

・痛みのために、気分がふさぎがちになったり、イライラしたりすることがある

 

茨城に人気がない理由(その1)

 

日本の近代化が災いしている可能性⁉

 

高名な観光地が少ない背景は、地底の火山活動が活発ではなく、山が低く、海岸線が平凡で、顕著で卓越した温泉が少ないことが挙げられます。茨城県には、ポスターで人目を引くような温泉や絵になりやすい自然景観が少ないことが指摘されることがあります。

 

茨城県の山で1000mを超えるのは、唯一八溝山(やみぞさん)標高1,021.8mのみです。茨城県最高峰の山ですが、茨城県と福島県の県境にある山であるため、茨城県独自の山ではないということになります。

 

茨城の山で古くから名山とされてきたのが筑波山ですが、この山は900mにも達しないのですが、日本100名山にリストされています。標高だけで名山が決まるのもおかしな話なので当然といえば当然ですが、例外的なノミネートであることもまた確かなことです。

 

以下に、800mを超える茨城の山々を一覧にしましたが、筑波山を除いて、すべて県北に位置していますが、残念ながら、私自身を含めて、それらの山を知っている水戸市以南の茨城県人は限られているのではないかと推測します。
 

筑波山が古来からの名山であり、現代では、筑波大学をはじめ筑波研究学園都市が大いに発展し、「日本の東大、世界の筑波」と一部で気勢をあげて、「つくば」の名が世界中に轟きわたっているほどには、筑波山の魅力や評判が回復していないのはなぜでしょうか。
 

私は、その原因は、日本の近代化にあると考えています。近代化に伴う都市建設によって、建物が高層化し、乱立するようになりました。私が杉並区内に転入するまで住んでいた本駒込の最寄りには文士村の名を残す田端でした。

 

かつては、田端の高台から北西の方角に筑波山を望むことができたそうです。芥川龍之介や板谷波山らも、この筑波山の遠望を楽しんでいたに違いありません。

 

明治後期から昭和中期にかけて活動した日本の陶芸家で、日本の近代陶芸の開拓者であり、陶芸家としては初の文化勲章受章者である「波山」の名はは故郷の名山である「筑波山」に因むことが知られています。

 

関東平野の中の独立峰である筑波山は、遥か遠方に住まう多くの人々や、旅人にとって、掛け替えのない日常の風景の要素であり、天然のランドマークであり、道標であったことでしょう。

 

 

【高笹山】
0921m
久慈郡大子町大字上野宮

 

【栄蔵室】
0881m
北茨城市関本町小川

 

【筑波山】
0877m
つくば市筑波

 

【和尚山】
0804m
北茨城市関本町小川

 

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__ Hein, docteur, dit-il pendant la piqure, ils sortent, vous avez vu?

__ やあ、先生。連中が出きたのを見ましたかい?と注射を打たれながら彼は言うのであった。

 

 

__ Oui, dit la femme, le voisin en a ramassé trois. Le vieux se frottait les mains.

__そうなんですよ、お隣では3匹見つけたのよ、とその妻が言うのであった。老人は手をこすり合わせていた。

 

 

__Ils sortent, on en voit dans toutes les poubelles, c’est la faim!

ネズミどもが出てきて、どのゴミ箱にも入っているのを見るにつけても、こいつは飢饉ですな。
  

 

Rieux n’eut pas de peine à constater ensuite que tout le quartier parlait des rats. Ses visites terminées, il revint chez lui.
その後、リューは、近所中がネズミの話題で持ちきりになっていることを労せずに気づいた。往診が済むと家に戻った。
 

 

__ Il y a un télégramme pour vous là-haut, dit M.Michel.
お宅の電報が上の階に届いていますよ、とミシェル氏が言うのであった。
 

 

Le docteur lui demanda s’il avait vu de nouveaux rats.
医者は彼に、ネズミを新たに見たかと尋ねた。

 

 

__ Ah! Non, dit le concierge, je fait le guet, vous comprenez. Et ces cochons-là n’osent pas.

__ とんでもない、私が警備しているんで、わざわざネズミ共が出てくる幕はありませんよ、と管理人は言うのであった。

 

 

Le télégramme avertissait Rieux de l’arrivée de sa mère pour le lendemain. Elle venait s’occuper de la maison de son fils, en l’absence de la malade. Quand le docteur entra chez lui, la garde était déjà là. Rieux vit sa femme debout, en tailleur, avec les couleurs du fard. Il lui sourit:

__ C’est bien, dit-il, très bien.

電報には、彼の母が翌日到着することが記されていた。病気の妻が不在となる息子の家の世話をしに彼女は来るのであった。医師が家に入ると、付添婦がすでにいた。リューは、妻がスーツ姿で化粧をして立っているのを見た。彼は彼女に微笑みかけて

__いいよ、とてもいいよ、と言うのであった。
 

 

Un moment après, a la gare, il l’installait dans le wagon-lit. Elle regardait le compartiment.

しばらくして、彼女を駅で寝台車に乗せた。彼女は客室を見ていた。

 

 

__ C’est trop cher pour nous, n’est-ce pas?
私たちには贅沢すぎるのではないかしら?

 

 

__ Il le faut, dit Rieux.

必要だよ、とリューは言うのであった。

 

 

__Qu’est-ce que c’est que cette histoire de rats?

ネズミの一件はどうなっているの?

 

 

__ Je ne sais pas. C’est bizarre, mais cela passera.

わからないね。奇妙な話だが、それは片が付いていくことだろう。

 

 

Puis il lui dit très vite qu’il lui demandait pardon, il aurait du veiller sur elle et il l’avait beaucoup négligée. Elle secourait la tête, comme pour lui signifier de se taire. Mais il ajouta:

それから、彼は、ひどく急き立てられるように彼女に詫びて言うのであった。彼女に気を付けてやるべきだったこと、ずいぶんと放っておいてしまったことを赦してほしい、と。彼女は、そんなことは言わないで、とばかりに首を振っていた。 しかし、彼はこう付け加えた。

 

 

__ Tout ira mieux quand tu reviendras. Nous recommencerons.

きみが戻ってきたら、すべてが良くなる。また、やり直そう。

 

 

__ Oui, dit-elle, les yeux brillants, nous recommenceron.

彼女は目を輝かせて「そうね、また、やり直しましょう」と言うのであった。
 

 

Un moment après, elle lui tournait le dos et regardait à travers la vitre. Sur le quai, les gens pressaient et se heurtaient. Le chuintement de la locomotive arrivait jusqu’à eux. Il appeal sa femme par son prénom et, quand elle se retourna, il vit que son visage était couvert de larmes.

しばらくして、彼女は彼に背を向けて車窓の外をながめていた。ホームでは、急ぎ足の人々がぶつかり合っていた。機関車の蒸気の音が彼らのところまで聞こえてきた。彼は妻を呼ぶと、妻は振り向いたが、その顔は涙で溢れていた。
 

 

__ Non, dit-il doucement.

だめだよ、彼は優しく言うのであった。

 

 

Sous les larmes, le sourrire revint, un peu crispé. Elle respira profondément:

涙の翳には、ややこわばり加減ではあったが、笑顔が戻っていた。彼女は息を深くついだ。

 

 

__  Va-t’en, tout ira bien.

行っておいで、まったく大丈夫だから。

 

 

Il la serra contre lui, et sur le quai maintenant, de l’autre côté de la vitre, il ne voyaite plus que son sourire.

彼は彼女を抱きしめ、そして今はプラットフォームで、彼女のいる車窓の外側から、ただ彼女の笑顔を見るばかりであった。

 

 

__ Je t’en prie, dit-il, veille sur toi.

くれぐれも体を大事に、と彼は言うのであった。

 

 

Mais elle ne pouvait pas l’entendre.
しかし、その声は彼女には届かなかった。

 

註:

Quand le docteur entra chez lui, la garde était déjà là.というところのla gardeの訳に関して、宮崎嶺雄の訳では、「看護婦」となっているのが気になりました。

 

翻訳初版の昭和44年には看護師という言葉はまだ誕生していなかったにしても、看護婦と訳すのが許されるとすれば、原文はl‘infirmièreでなくてはならないと思うからです。

 

la gardeは「付添婦」などと訳すのが適切ではないかと考えます。<医師であるリューが家に入ると看護婦がいた>のであれば、リュー医師は妻のために付き添いの看護師を雇えるほど経済的に豊かな開業医ということになりますが、いかがでしょうか?

 

それほどに豊かな開業医の妻が「寝台車」で出発する際に C’est trop cher pour nous, n’est-ce pas?(私たちには贅沢過ぎるのではないかしら?)などと言うのは不自然です。このあたりのニュアンスを

 

宮崎嶺雄先生はどのように受け止めておられたのかについて、ご存命であれば直接うかがってみたいものです。

 

杉並区の内科の開業医で看護師を雇えているのは3分の1程度だという話をきいたことがあります。

 

世間様の勝手なイメージやマスコミに操作されてきたイメージとは異なり、現在の日本においてさえも、平均的な開業医は、得てしてつましいのが実態なのではないでしょうか。

 

それにしても、駅での別れのシーンは映画の中の恋人同士と相場が決まっていそうなものです。それにもまして、夫婦の一時的な別れを、これほどまでに繊細に、印象的に活字で描くことができるカミュは、やはり文豪の名にふさわしい表現者であるといえるでしょう。

 


東京へのこだわりN01:現在編<東京でしかできないこと>

 

令和4年度は、「東京でしかできないことは東京で、郷里(水戸)でしかできないことは水戸で」という私の行動指針が固まってきました。

郷里での生活より、東京での生活の方が遥かに長くなったのですが、いつの頃からか、東京で過ごしているから安心、という根拠の乏しい思い込みに染まり、日々をぼんやり過ごしつつある自分自身に気が付いて反省を始めているところです。

 

そこで、まず「東京でしかできないことは何だろうか?」という自問自答に始まるわけです。

しかし、東京に住んでいるだけで、地元の高円寺をはじめ杉並区のことすら皆目見当がつかないまま過ごしてきたことに気が付いて愕然とするのでありました。

 

まず、高円寺についてですが、高円寺には杉並区立杉並芸術会館があるということを私は本日まで知らないでおりました。もっとも「座・高円寺」の存在はさすがに認識しておりましたが、両者が同一の実体であることは知らなかったわけです。

 

「座・高円寺2」は演劇や音楽・ダンス等のさまざまな文化・芸術活動、発表会、講演会等に幅広く利用できます。また 「阿波おどりホール」は阿波おどりの練習や普及事業のための 専用のホールのようです。おまけに、一般社団法人 日本劇作家協会の事務局が高円寺北2丁目に置かれていて、高円寺は演劇の世界でのメッカでもあることなど全く知らないで過ごしていました。

 

劇団の演出部で演出助手として目下修業中の私の次女が既に数年前に「高円寺は、自分にとって必要なものが何でも揃っている街だ。」と言っているのを耳にしたときに、私は不思議な思いに駆られたものでした。

しかし、やたら遠方の世界に憧憬を抱く傾向にあった私よりも、身近な地元に素晴らしい宝を見出すことができる次女の感覚は大切に育んで欲しいものだと思うし、私自身もそのような発想が持てるように、毎日を生き生きとした感覚で過ごしたいとものです。

 

一言で「表現芸術」といっても色々あるわけですが、そもそも「表現」の仕方や表現者の心構えの在り方も様々であるように思われます。私は、一時期、能のお仕舞やお謡の稽古をさせていただいた時期がありましたが、残念ながら定期的に続けることは断念し、機会に恵まれれば観能を楽しめればと考えています。そのかわり、声楽の稽古は、コロナ禍にあっても、何とか続けております。

 

東京でしかできないこと、というお題で考え始めましたが、高円寺でしかできないこと、杉並区でしかできないこと、と置き換えて、折に触れて考えてみることが大切であることに気づくことができたように思います。

 

大切にしたいことは、もし私が何かの折に高円寺を、そして杉並区を去った後に、学問・芸術・文化等の領域において、高円寺や杉並の魅力を再発見したときに、大きな後悔に襲われないようにしたいということです。そうは言っても、後悔、先に立たずという言葉もあります様に、なかなか思うとおりに行かないのが世の常なのかもしれません。


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厚生労働省は、職場のメンタルヘルスに関するよくある質問と答えをまとめました
として、ホームページで、こころの健康に対してわかりやすいQ&Aを掲載しています。

それに私が臨床の立場からCとしてコメントを加えてみました。

 

⑤ Q.うつ病の根本にある思考パターンを変える3つの方法とは?

 

A.ここでは、うつ病の原因になりやすい思考パーターンを変える方法を紹介します。

 

5-1:自分の本音に気づいてあげる

もし今あなたが「自分の本音」がわからないとしても、必ずあなたの中に本音はあります。

本音がわからない理由は、あなた自身が本音を見ないようにしているからかもしれません。

というのも、本音というのは下に挙げたようなネガティブな感情を含む場合が多いからです。

 

・実は自信がない

・実は無理だと思っている

・実はもう限界だと思っている

・実は助けて欲しいと思っている

・実は自分のことをダメだと思っている

 

ネガティブな感情を含め、自分の本音を受け入れることができれば、気持ちが軽くなります。そうすれば、本音から目を逸らすことに割いていたエネルギーを自分自身の成長に使うことができるようになるでしょう。

 

 

5-2:ひとりで頑張ろうとしない

なかなかうつ病が改善しないのであれば思い切ってカウンセリングを受けてみましょう。

・薬でなんとかなるだろう

・自分の力でもう少し頑張ってみよう

 

ついそう思ってしまいがちですが、これこそがうつ病が長引く原因のひとつなのです。皮肉なことにあなたの「頑張り」があなたのうつ病を長引かせている可能性があります。自分で自分の心のケアを行うとどうしても客観性が失われます。

 

また、自分の経験だけで解決しようする為、時間ばかりかかってしまうことが多いです。うつ病とはひとりで改善するものではなく、専門家と力を合わせて改善していくものです。今までひとりで頑張ってきて改善しないのであれば、カウンセリングを受けてみてください。

 

C. 今回の回答Aは分かり易く有用であると思います。私が改めてコメントする必要がない位です。ただし、念のため私が下線を施しましたので、もう一度お読みになっていただければ幸いです。

 

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健診や人間ドックなどの医学的評価(メディカル・チェック)ばかりでなく、それ以前に、基礎健康評価(フィットネス・チェック)が必要です。

 

なぜならば、人間ドックで異常がみつからないからといっても、ただちに健康が保証されるわけではないからです。

 

健診や人間ドックの検査項目は、既製服のようなものであって、必ずしも個性豊かな一人一人のために仕立てられてはいないからです。

 

たとえば、ビタミンDなどは、フレイルやロコモの予防のためにも免疫力の保全のためにも重要であることが知られています。そして、これが充足している人は20%に満たないにもかかわらず、高額な人間ドックでも測定されていません。

 

つまり、一般的な医学的評価において正常範囲とされたとしても、基礎健康評価が至適状態でない限り、確かな健康は保証されないことになります。逆に言えば、基礎健康評価が至適状態に向かって改善されていけば、医学的評価において改善されにくい項目も改善し易くなるといえます。

 

さらに言うならば、医学的評価において異常が出現しないうちに、基礎健 康評価において見出された問題点や課題を克服しておくことが極めて効果的な健康法になることでしょう。

 

病気になってから治すのではなく、半健康の状態(医学的評価では正常、基礎健康評価では課題あり、の状態)のうちから、健康の質を向上させておくことが賢明な方法です。「未病を治す」という言葉をご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、まさに、こうした半健康の状態が「未病」に相当するのです。

 

杉並国際クリニックで実施しているフィットネス・チェックは「体組成・体力評価」票に則って、季節ごと(年4回、3カ月ごと)に実施しています。

 

ただし、通常の医療機関でこれを実践するのは容易ではないので、たとえば日本医師会で認定している「健康スポーツ医」や日本体育協会で認定している「公認スポーチドクター」などの資格を持っているだけではなく、熱心に実践指導の経験をもつドクターに巡り合うことができた方は幸運だといえるでしょう。そうした指導をする上でたいせつなポイントを3つ紹介させていただきたいと思います。
 

 

1つめ。

これが今回のテーマなのですが、自分の弱点を認識すること。多くの人たちは、自分の得意なこと、自信のある分野を更に伸ばしていきたいと思っています。それは、とても楽しみでもあり、運動を続けていくうえでの動機付けにもなるので意味のある事です。

 

しかし、競技や特定の領域の記録の向上を目指すだけでは真の健康は得られません。活動寿命を無理なく自然に延ばすための生涯エクササイズとしては、自分の苦手なところ、弱点を見落とさないように定期的にチェックして、それらの弱点を克服できるような意識で稽古プログラムに参加するのが良いでしょう。

 

はじめのうちは、なかなか弱点を改善できないかもしれませんが、「継続は力」です。焦る必要はないので、根気強く希望をもって意欲的に取り組んでいけば、いつの間にかに成果が見られるようになります。また、各自の弱点克服のために有効なプログラムとなるように、継続的な工夫がなされ、改良を加えながら発展してきたのが水氣道であるともいえるのです。このような実証的な方法で発展を続けているのは世界広しと言えども「水氣道」をおいて他に類例をみることはありません。

 

2つめ。

正しい健康法を『継続』させること。これはとても大切です。いくら正しいやり方だとしても継続できそうもない健康法では全く役に立ちません。

 

だから単なる「ブーム」のような健康法はお勧めできません。そして、医学的根拠があるとしても、ひとの心理や行動パターンに関する知見が欠如していたり、断片的で単純すぎる展開の無い動作の繰り返しであったり、一時的に流行っていたりするような健康法には信用に足るものは少ないです。

 

逆に、一見、地味なエクササイズに見えたり、簡単過ぎるように見えたりしても、実際に試してみると、予想していたほど簡単なのものでも味気ないものでもなく、次第に高度で複雑な動作を身に着けるために必要なスキルであることに気づけるエクササイズこそが有意義なエクササイズであることに気づくことが多いのではないでしょうか。

 

ですから、シンプルで基本的なことからキチンと続けられ、無理を伴わない、体系的にプログラムされ,全体としての稽古の流れを体感できるような健康法をお勧めしたいです。無理がないプログラムであるからこそ、苦手であり弱点でもあるポイントを安全に安心して、しかも楽しく克服していくことができるのです。
 

 

最後に3つめ。

その時々の体調に応じてプログラム路線を変更できる「柔軟な健康法」であること。かたくなに信じこんで修正のきかない強制的な健康法はしばしば身心を壊すことがあります。別の言い方をするならば、稽古プログラム自体が各人の体と心の状態との相互コミュニケーションが可能なエクササイズであることが「柔軟な健康法」であるということです。

 

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前号では、「骨粗しょう症」の診断において、骨量だけでなく骨質の評価が大切であることについてご紹介いたしました。そこで、骨質を評価する上で重要な「善玉架橋」と「悪玉架橋」について述べました。


丈夫な骨の構造は、以上の他に、骨を作る“骨芽細胞”と骨を壊す“破骨細胞”がお互いに協調し合って働くことにより骨の構造がバランス良く綿密に作られています。このバランスが崩れたりすると骨の構造が破綻し始めます。

 

悪玉架橋は加齢とともに増えるほか、糖尿病や慢性腎臓病などの生活習慣病により動脈硬化の原因として知られるホモシステインの酸化作用や糖化(AGEs:最終糖化産物)が亢進される状態でも増える(過形成)ことが分かっています。非生理的架橋の本態は、このAGEs(最終糖化産物)架橋です。
 

ホモシステインは、ビタミンB₆、ビタミンB₁₂、葉酸などの栄養成分によって代謝が促進されます。  

 

加齢により通常でもコラーゲンは徐々にさびていきますが、生理的なさびであればそれほど骨には影響しません。骨量が十分なのに骨折する患者は、コラーゲンが過度にさびるということが明らかになってきました。生活習慣病の患者さんでは、骨密度検査で正常範囲や高値という結果が出ても骨折リスクが高いことがあります。

 

 

骨粗しょう症により骨折しやすい部位は、

 

背骨(脊椎椎体)、脚の付け根(大腿骨近位部*)、手首(橈骨)、腕の付け根(上腕骨)です。

 

*大腿骨近位部は、骨折すると歩行が困難になり要介護状態になるリスクが高くなる骨折部位です。大腿骨近位部骨折の85%は転倒が直接の原因となっていますので、骨粗しょう症の治療とともに転倒予防も重要です。
 

 

 

背骨が体の重みで押し潰れてしまうことを「圧迫骨折」と言い、背中や腰が曲がるなどの原因となります。

 

圧迫骨折が生じても、単なる腰痛として見過ごしていたり、痛みを感じないていなかったりする場合もあります。

 

1ヵ所骨折すると、その周囲の骨にも負担がかかり、連鎖的な骨折につながりやすいため、早期発見・早期治療が重要です。
 

 

骨質の評価のためには、系統的に骨の構造を確認しておくことが有用です。
 

主たる観察部位:下線は特に骨折しやすい部分


1)足部-足関節-下腿部(脛骨・腓骨)-膝関節-大腿骨-股関節-骨盤部(仙腸関節など)-脊椎(腰椎-胸椎-頚椎)、

 

2)肩関節-上腕骨-肘関節-前腕部(橈骨・尺骨)-手関節-手部

 

 

 

なお、丈夫な骨の構造は、以上の他に、骨を作る“骨芽細胞”と骨を壊す“破骨細胞”がお互いに協調し合って働くことにより骨の構造がバランス良く綿密に作られています。

 

こうした骨代謝のバランスが崩れたりすると骨の構造が破綻し始めます。

 

そこで骨粗鬆症の診断ばかりでなく、治療効果の評価のために役立つのが骨代謝マーカーです。次号では、骨粗鬆症の予防と効果的な治療の指針となる骨代謝マーカーについての話題となります。

 

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<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

飯嶋正広

 

 

今回の相談:ストレスチェックでの質問項目は、主としてどのようなことをチェックすることが目的なのでしょうか?不安に感じている従業員にはどのように説明したらよいでしょうか?

 

 

ストレスチェックと面接指導の実施に係る流れ(厚生労働省)その3
<ストレスチェックの目的について>

 

ストレスチェックは、「職業性ストレス簡易調査票」を用いて実施することが推奨されています。この調査票は57項目からなっています。必須の領域が3つあり、具体的には

 

1)「仕事のストレス要因」、

2)「心身のストレス反応」、

3)「周囲のサポート」

 

に関する項目が主体です。

 

 

このうち、1)「仕事のストレス要因」、と3)「周囲のサポート」の判定は、点数化して評価することができます。しかも、以下の4つの側面ごとの点数で評価することができます。

 

❶ 仕事の量的負担

❷ 仕事のコントロール度

❸ 上司の支援

❹ 同僚の支援

 

これらの結果は職場ストレス判定図として表すことができ、従業員へのフィードバックに役立ちます。

 

また、職域・職場ごとに分析して、グループワークなどを開催し、改善の方策について職場で話し合っていただくことで効果的に活用できます。

 

職場環境改善のためのヒント集」など、厚生労働省のホームページからダウンロードして利用可能なツールが活用されています。

 

 

 

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茨城弁と茨城訛の茨城県人は県外の人々に誤解されやすい⁉

 

他県民が聞く茨城弁は、茨城県生まれの茨城弁話者にとってはごく普通の普段使いの会話であっても驚かれることがあります。一本調子の速口でまくしたて、尻上がり調のうえ、おまけに語尾の「だっぺ」など、耳触りの良くない独特の言葉遣いが、まるで「怒っている」ように、あたかも「けんか腰」のように聞こえると指摘されることもよくありました。

 

茨城弁の代表的な語として列挙される言葉の中に、「ごじゃっぺ」(「でたらめ」など否定的な意味合い)、「でれすけ」(「だらしない、しまりがない男」の意)、「いじやける」(じれったくてイライラする気持ちを表す語)などがあります。こうした独特の語感を持つ語や、我慢の感情を表す他の地域や県には見られない希少な言葉があり、茨城の県民性をよく表す方言ともいわれます。

 

また水戸の三ぽい(みとのさんぽい)は、茨城県水戸市を中心とした地域の住民気質を表現したとされる言葉。理屈っぽい・怒りっぽい・骨っぽいの3つからなるが、「理屈っぽい」または「骨っぽい」を「飽きっぽい」に置き換えることもあります。水戸人の直情径行な気質を表したものと解釈され、とても社交的とは言い難い印象を与えてしまいます。

 

これらは本来、水戸藩の「水戸っぽ」の気質を表す言葉でした。かつては「日本のテロ史上に水戸出身者あり」と言われるほど、水戸出身者の義侠心は天下に鳴り響いていましたが、現在ではそうした義侠心は影を潜めています。既に「三ぽい」の性格が見られたのは昔のことであるという主張がなされていますが、私自身が「水戸っポ」なので、本質は昔のままのような気がします。根っからの茨城県人であるはずの私が、県名の「茨城」を「いばらぎ」と発音したところ、「茨城県人なら正確に『えばらき』と発音するように」と叱られたことがあります。もっともその御老人は性格に「いばらき」と発音されているつもりなのです。

 

このように茨城弁では「い」と「え」の区別が曖昧であったり、ときには逆転してしまったりすることがありました。わたしはかつて「ええずま」と呼ばれても、何の抵抗もなく「はい」と答えていました。最近ではさすがに「ええずま」は聞かれなくなりましたが、「ええじまさん」と発音しがちな老人は健在ですし、なぜだかわりませんが「いいずかさん」と明らかに誤って呼ばれたり、「飯嶋」でなく「飯塚」と表記されたりすることがありますが、茨城県に限らず、東日本出身者が多いような気がします。

 

さて日本放送協会が実施した県民意識調査によると、茨城県民は郷土意識があまり高くなく、特に土地の言葉に対する強いコンプレックスが見られるといいます。その理由として、首都圏にありながら垢抜けず、独特の語尾が上がる話し方によって田舎っぽさが増していることが要因の1つとして挙げられています。また、元々の方言に敬語表現が少なく、軽い気持ちで話したとしても威張っている、叱られたように受け取られるという説もあります。しかし、それよりもかつての茨城県人は自分が方言を話しているとか、訛っているという自覚が乏しい人たちも少なくありませんでした。何を隠そう、私自身も茨城特有の語彙を標準語に置き換えれば訛はない、と単純に考えていたのでした。だから、他者から「訛っている」と指摘されても、アクセントやイントネーションのことまで気が回らず不思議な思いを体験したものでした。

 

『茨城県大百科事典』の「県民性」の項を参照してみると、「温暖な気候による閉鎖的農村社会の存続と水戸藩の気風が茨城県の県民性を作り出している」と解説し、「文化や社会の変化と人々の移動によってゆっくりと変容していくであろう」と結んでいました。ただし、これには異論があります。水戸藩は殿様からして常陸国出身者ではなく、主要な藩士の多くも、他国からの寄せ集めだからです。それにもかかわらず、茨城県人、水戸人は、水戸徳川家をよそ者扱いにはしませんし、水戸藩士を他国者呼ばわりをすることもありません。魅力度最下位の茨城県人は、現在でも、他県からの移住者を、お客様としてというよりも、新しい仲間として快く迎えています。

 

茨城県人の私の心によりピンとくるのは、古書『人国記』の常陸国の項の記載です。それは、「昨日の味方が今日の敵になるようなことはめったにないとあり、中世の頃から律儀な性格であるとみられてきた」という一文です。そして、県民性研究の第一人者である祖父江孝男は、著書『県民性の人間学』で、まさに茨城県人の特質を鋭く分析しています。「茨城県民が口下手で、ゴマスリができないことにより、相手に分かってもらえなくて怒り出すが、すぐ忘れてケロリとしている」旨を記述しています。

 

心理学者の宮城音弥は、茨城県の県民性が千葉県と似ているが、関東奥地の躁鬱質が混入しているらしい、としています。特に茨城県民には「理想家はだ」の特性が強く、<三ぽい>の気質が環境・社会教育・武士の道徳だけで形成されるものではない、とも述べていますが、まさに卓見であり、自分自身のことを振り返ってみても、すこぶる腑に落ちる点があります。

 

また矢野新一は、茨城県北部の男性は保守的で見栄っ張り、女性は愛想が今一つで気が強く、県南部は男女とも北部に比べおおらかである、と述べています。これは表面的な観察所見であり、残念な気がします。男性については概ね正解ですが、茨城育ちの女性の愛想が乏しいのではなく、いささか臆病で内気であるにもかかわらず、安っぽく媚びたり甘えたりすることを良しとしない性質であることを申し添えておきたいと思います。茨城の女性は、自分を飾ること少なく、表裏なく誠実さと真心に溢れていることは、理解されていないようです。

 

茨城男子が保守的で見栄っ張りとされるのも、茨城女子が気丈で愛想に乏しいのも、共通するベースがあるような気がします。それは、自己表現や自己宣伝に対して晩稲(おくて)であるということです。弁舌爽やかな人に引き付けられることはあっても、自分自身がそのようになりたいとまでは考えない傾向が、どうやら今日に至る茨城の男女には見られるような気がするのです。そして、表現力が乏しい一方で、自分の純粋な誠意が曲解されてしまうと、深い悲しみと嘆きを覚えます。その気の毒な感情ですら巧みに表現できず、あたかも怒っているかのように受け取られてしまうのはすこぶる残念な気がしてなりません。