『水氣道』:水氣道稽古の12の原則(16)弱点優先の原則(その3)

 

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健診や人間ドックなどの医学的評価(メディカル・チェック)ばかりでなく、それ以前に、基礎健康評価(フィットネス・チェック)が必要です。

 

なぜならば、人間ドックで異常がみつからないからといっても、ただちに健康が保証されるわけではないからです。

 

健診や人間ドックの検査項目は、既製服のようなものであって、必ずしも個性豊かな一人一人のために仕立てられてはいないからです。

 

たとえば、ビタミンDなどは、フレイルやロコモの予防のためにも免疫力の保全のためにも重要であることが知られています。そして、これが充足している人は20%に満たないにもかかわらず、高額な人間ドックでも測定されていません。

 

つまり、一般的な医学的評価において正常範囲とされたとしても、基礎健康評価が至適状態でない限り、確かな健康は保証されないことになります。逆に言えば、基礎健康評価が至適状態に向かって改善されていけば、医学的評価において改善されにくい項目も改善し易くなるといえます。

 

さらに言うならば、医学的評価において異常が出現しないうちに、基礎健 康評価において見出された問題点や課題を克服しておくことが極めて効果的な健康法になることでしょう。

 

病気になってから治すのではなく、半健康の状態(医学的評価では正常、基礎健康評価では課題あり、の状態)のうちから、健康の質を向上させておくことが賢明な方法です。「未病を治す」という言葉をご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、まさに、こうした半健康の状態が「未病」に相当するのです。

 

杉並国際クリニックで実施しているフィットネス・チェックは「体組成・体力評価」票に則って、季節ごと(年4回、3カ月ごと)に実施しています。

 

ただし、通常の医療機関でこれを実践するのは容易ではないので、たとえば日本医師会で認定している「健康スポーツ医」や日本体育協会で認定している「公認スポーチドクター」などの資格を持っているだけではなく、熱心に実践指導の経験をもつドクターに巡り合うことができた方は幸運だといえるでしょう。そうした指導をする上でたいせつなポイントを3つ紹介させていただきたいと思います。
 

 

1つめ。

これが今回のテーマなのですが、自分の弱点を認識すること。多くの人たちは、自分の得意なこと、自信のある分野を更に伸ばしていきたいと思っています。それは、とても楽しみでもあり、運動を続けていくうえでの動機付けにもなるので意味のある事です。

 

しかし、競技や特定の領域の記録の向上を目指すだけでは真の健康は得られません。活動寿命を無理なく自然に延ばすための生涯エクササイズとしては、自分の苦手なところ、弱点を見落とさないように定期的にチェックして、それらの弱点を克服できるような意識で稽古プログラムに参加するのが良いでしょう。

 

はじめのうちは、なかなか弱点を改善できないかもしれませんが、「継続は力」です。焦る必要はないので、根気強く希望をもって意欲的に取り組んでいけば、いつの間にかに成果が見られるようになります。また、各自の弱点克服のために有効なプログラムとなるように、継続的な工夫がなされ、改良を加えながら発展してきたのが水氣道であるともいえるのです。このような実証的な方法で発展を続けているのは世界広しと言えども「水氣道」をおいて他に類例をみることはありません。

 

2つめ。

正しい健康法を『継続』させること。これはとても大切です。いくら正しいやり方だとしても継続できそうもない健康法では全く役に立ちません。

 

だから単なる「ブーム」のような健康法はお勧めできません。そして、医学的根拠があるとしても、ひとの心理や行動パターンに関する知見が欠如していたり、断片的で単純すぎる展開の無い動作の繰り返しであったり、一時的に流行っていたりするような健康法には信用に足るものは少ないです。

 

逆に、一見、地味なエクササイズに見えたり、簡単過ぎるように見えたりしても、実際に試してみると、予想していたほど簡単なのものでも味気ないものでもなく、次第に高度で複雑な動作を身に着けるために必要なスキルであることに気づけるエクササイズこそが有意義なエクササイズであることに気づくことが多いのではないでしょうか。

 

ですから、シンプルで基本的なことからキチンと続けられ、無理を伴わない、体系的にプログラムされ,全体としての稽古の流れを体感できるような健康法をお勧めしたいです。無理がないプログラムであるからこそ、苦手であり弱点でもあるポイントを安全に安心して、しかも楽しく克服していくことができるのです。
 

 

最後に3つめ。

その時々の体調に応じてプログラム路線を変更できる「柔軟な健康法」であること。かたくなに信じこんで修正のきかない強制的な健康法はしばしば身心を壊すことがあります。別の言い方をするならば、稽古プログラム自体が各人の体と心の状態との相互コミュニケーションが可能なエクササイズであることが「柔軟な健康法」であるということです。