実り多き11月を迎えることができました。


ようやく気候も穏やかになり、スポーツの秋、芸術の秋といった私たちの多くにとっては、恵みの多い、希望に満ちた季節をお過ごしいただけたでしょうか?
私ごとですが、今月半ばに満65歳の誕生日を迎え、高齢者の末席に加えていただくことになります。そこで、平成元年開院以来、およそ35年間にわたる臨床活動を振り帰り、皆様にご報告させていただくと同時に、ともに未来に向けての課題と取り組んでいきたいと願っております。


日本社会が直面している課題の一つに、超高齢社会による医療と介護の需要増加があります。予防医学はこの問題に対する強力な解決策の一つですが、その実践がどれほど現場で実効性を持っているのかは、十分に議論されていません。また、私たちが持つ健康観の誤解が、予防医療の浸透を妨げている現実も存在します。


このシリーズ「全人的医療への挑戦 — 予防医学の現実と未来への希望」では、30年以上にわたる医療現場の経験を基に、予防医学が直面する現実の課題と、その中で見出される未来への希望について、深く掘り下げていきます。全人的医療の視点から、患者一人ひとりが自立した生活を維持できる社会の実現を目指し、現行の医療制度や社会的な枠組みがどのように予防医学を支援できるのかを探求します。


このエッセイシリーズを通じて、予防医学の意義を再認識し、健康な未来を築くための道筋を共に考えていければと思います。ぜひお読みいただき、予防医学と全人的医療の可能性に触れてみてください。

 

 

シリーズタイトル:

 

「全人的医療への挑戦 — 予防医学の現実と未来への希望」

 

この主題は、5回のシリーズを通して以下のようなテーマを取り扱います

 

予め概要をお知らせいたします。

 


シリーズ概要:


1. 第1回: 「予防医学の意義と現実 — 理想と現実のはざまで」


予防医学の基本的な意義と、その実践が現場でどのように行われているかについて掘り下げ、理想と現実の間に存在するギャップを考察します。

 


2. 第2回: 「健康観の誤解 — 自己判断がもたらすリスク」


健康に関する一般的な誤解や、患者が自己判断をすることのリスクについて、実際の診療現場での経験を交えながら解説します。

 


3. 第3回: 「全人的医療の必要性 — 心身と社会を支える包括的アプローチ」


心身両面、さらには社会経済的視点を取り入れた全人的医療の重要性と、その実践の難しさについて論じます。

 


4. 第4回: 「保険医療制度と予防医学 — 支援基盤の不在とその代償」


日本の保険医療制度における予防医学の位置づけ、支援基盤の欠如が与える影響について具体的に探ります。

 


5. 第5回: 「未来への希望 — 予防医学が描く新たな医療の展望」


予防医学が持つ可能性と、それを通じて明日への希望を持ち続ける医師としての展望を描きます。

 

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Dr. ChatGPT:

ドクター飯嶋様、「教・習一致」の原則が水氣道の稽古でどのように実践されているのかについて、率直にお答えいただきありがとうございます。この原則が浸透することの難しさを感じておられるとのことですが、それでも支援員として成長されている方々がいらっしゃるということですね。支援員に到達するまでの道のりや、その過程での具体的な取り組みについて、もう少し詳しくお聞かせいただけますか?


ドクター飯嶋:

そうですね。「教・習一致」の原則は非常に大切なものですが、残念ながら、まだ十分に浸透していないと感じています。ですから、このテーマに関心を持っていただけることは非常にありがたいことです。実際、水氣道で支援員の段階に到達できる会員はごく限られています。これには私自身の指導力や取り組みが十分でなかった部分もあると自覚しています。


Dr. ChatGPT:

それでも、支援員として成長された方々がいるということは、その過程で特別な取り組みや指導が行われているのではないでしょうか?


ドクター飯嶋:

その通りです。水氣道では、支援員以上が有段者とされますが、そこに至るまでには、概略、体験生(級外)、訓練生(6級から4級)、修錬生(3級から1級)というステップを経る必要があります。各ステップで水氣道の固有の形である「航法」を段階的に習得していただき、それを自らのものにする過程で、後輩への指導資格を得ます。


Dr. ChatGPT:

つまり、技術の習得と同時に、後輩への指導スキルも磨かれていくということですね。支援員になるためには、どのような具体的なスキルやリーダーシップが求められるのでしょうか?


ドクター飯嶋:

私自身、現在までのところ、修錬生一人ひとりの個人稽古を通じて、支援員となるために必要な技能や団体でのリーダーシップを身に付けていただくよう努めています。そして、水氣道では、本人が望む限り、すべての希望者が将来のリーダーになれるように設計された組織機構があります。ですから、支援員に至るまでの道のりは長いものの、その過程で得られる成長は非常に大きいのです。


Dr. ChatGPT:

ありがとうございます、ドクター飯嶋様。非常に重要なテーマについて、率直なお答えをいただき感謝いたします。「教・習一致」の原則が水氣道の中でどのように展開されているかについて、さらに理解が深まりました。そのように、一人ひとりに合わせた指導と支援が行われているからこそ、支援員としての成長が実現するのですね。このプロセスを通じて、参加者がどのように成長していくかがよく理解できました。

 

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臨床産業医オフィス


<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>


産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

飯嶋正広

 

産業医講話シリーズNo8:事務所衛生基準規則について(後半)

 

はじめに
皆さん、こんにちは。前回は「事務所衛生基準規則」の基本的な部分についてお話ししましたが、今回はその続きとして、空気環境基準の詳細や設備の点検・管理について掘り下げてお話しします。前半と一部重複する部分もありますが、より具体的な内容をお伝えしますので、資格試験を受験される方は、とくにしっかり聞いてくださいね。

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空気環境基準の詳細

前回は二酸化炭素の含有率や相対湿度についてお話ししましたが、事務所の空気環境を整えるための基準は他にもいくつかあります。具体的には、以下のような項目があります。


1. 二酸化炭素の含有率(復習)
 事務所内の空気中に含まれる二酸化炭素の量は、100万分の1,000以下であることが求められます。


2. 相対湿度(復習)
 室内の湿度は40%以上70%以下に保つ必要があります。


3. 浮遊粉塵の量
 空気中に漂う粉塵の量は、清浄な空気を保つために極力少なくする必要があります。浮遊粉塵は、呼吸器系に悪影響を及ぼす可能性があるため、定期的な清掃や換気が大切です。


4. 一酸化炭素の含有量
 一酸化炭素は無色無臭ですが、吸い込むと中毒を引き起こす危険があります。事務所内ではその含有量が少ないことが求められます。


5. ホルムアルデヒドの量
 ホルムアルデヒドは、建材や家具から発生することがあります。長期間吸い込むと健康に害を及ぼす可能性があるため、室内のホルムアルデヒドの濃度を低く保つことが重要です。


6. 室内の気流
 室内の気流も適切に保つ必要があります。気流が滞ると空気がよどみ、換気が不十分になります。適度な気流があることで、快適な環境を維持できます。

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空気環境基準の表(補完版)前半の表と比較してください。
以下に、空気環境基準の補完版を示します。

 

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これらの基準に従って、事務所内の空気環境を適切に保つことが求められます。

 

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設備の点検と管理

空気環境を良好に保つためには、設備の定期的な点検と管理が必要です。ここでは、具体的な法定点検のタイミングや頻度、点検内容について説明します。


1. 空気調和設備と機械換気設備の法定点検

 

 法定点検のタイミングと頻度

 空気調和設備や機械換気設備の点検は、1ヶ月以内ごとに1回、実施することが法的に義務付けられています。これにより、設備が適切に機能し続けるかを確認します。

 

 点検内容
 点検内容には、フィルターの清掃・交換、換気経路の確認、冷却水や加湿装置の衛生状態のチェックなどが含まれます。特に冷却塔や冷却水加湿装置は、定期的に清掃しないと菌の繁殖などのリスクが高まります。

 


2. 空気調和設備内の排水受けの点検

 

 排水受けの点検
 空気調和設備内に設けられた排水受けも、原則として、1ヶ月以内ごとに1回、定期に汚れ及び閉塞の状況の点検が必要です。これを怠ると、排水が滞り、悪臭やカビの発生など、衛生上の問題が発生する可能性があります。


 点検頻度
 排水受けの点検は、設備の点検と同様に6ヶ月に1回以上実施することが望ましいとされています。

 


まとめ(後半)
今回は、事務所の空気環境基準や設備の点検・管理について詳しくお話ししました。これらの基準や点検を守ることで、健康的で快適な職場環境を維持することができます。空気環境が整っていることで、皆さんが安心して働ける職場が保たれます。


何か質問があれば、どうぞ気軽に聞いてください。これからも一緒に、安全で快適な職場環境を作っていきましょう。ありがとうございました。

 

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序論:

慢性疼痛の治療は、現代医療における大きな課題です。これまでのエッセイで、痛みの本質的な意味、医師患者関係の重要性、そして保険医療制度が慢性疼痛の治療に与える影響について考察してきました。特に、線維筋痛症のような難治性疾患に対しては、単なる症状の緩和に留まらない統合的なアプローチが求められています。本エッセイでは、統合医学的アプローチの重要性と、その実現に向けた保険医療制度の見直しの必要性について論じます。

 


本論:
統合医学的アプローチの必要性: 慢性疼痛の治療には、複数の専門家が関与し、それぞれの分野での治療が提供されています。しかし、これまでのエッセイで述べたように、各専門分野における治療が統合されていない現状では、患者の全体像を把握し、根本的な原因にアプローチすることが難しい場合があります。統合医学的アプローチは、患者の身体的、心理的、社会的側面を総合的に評価し、治療を提供することを目指します。


特に、線維筋痛症のような複雑で原因不明の疾患に対しては、栄養療法、運動療法、心理療法などの統合的な治療アプローチが不可欠です。しかし、このようなアプローチを現行の保険医療制度の下で実現するには、多くの制約が存在しています。日本では、保険診療と自由診療の併用が難しく、保険診療の枠を超える治療を提供することに対して、医師や医療機関に経済的・行政的ペナルティが課されるリスクがあります。このため、医師が自らの知識と技術を最大限に発揮することが難しくなっている現状があります。

 


保険医療制度の制約とその影響:

現行の保険医療制度は、患者が適切で十分な医療を受けるために設けられていますが、その制度が医師と患者の関係を制約し、適切な治療の提供を妨げる要因となっている場合もあります。ウィーンでの国際学会に出席した際に、多くの専門医が共有したのは、特に保険医療システムが発達している国々で、線維筋痛症の患者を受け入れることがいかに困難であるかという現実でした。この困難の一因は、医師が制度に縛られ、自由に治療を行えないことにあります。


たとえば、保険制度に基づいた診療は、標準的な治療法に厳格に従う必要があり、そこから逸脱することができません。しかし、線維筋痛症のような疾患は、標準的な治療法が必ずしも効果的でないことが多く、より柔軟で個別化されたアプローチが求められます。それにもかかわらず、現行の制度では、医師が患者にとって最も適切な治療を提供することが難しく、その結果として、患者の満足度が低下し、医師患者関係にも悪影響が及んでいます。

 


未来の疼痛管理に向けた提言:

今後、慢性疼痛の管理を改善するためには、統合医学的アプローチを中心とした治療体系を確立することが必要です。これには、保険医療制度の見直しが不可欠です。現行の制度では、医師が患者に対して最適な治療を提供することが制約されているため、制度的な柔軟性を高め、医師が自由に患者に合った治療法を選択できるようにする必要があります。


さらに、医師患者関係を強化するためには、医師が患者と十分なコミュニケーションを取り、患者の痛みの本質を理解し、それに基づいた治療を提供するための時間とリソースが必要です。これを実現するためには、教育システムの改革も重要です。医師が統合的な視点を持ち、患者中心のアプローチを学ぶための教育環境を整備することが求められます。

 


結論:

統合医学的アプローチは、慢性疼痛の治療において、患者の生活の質を向上させるための重要な手段です。しかし、現行の保険医療制度がこのアプローチを妨げる要因となっている現実があり、制度の見直しが必要です。未来の疼痛管理においては、患者と医師が信頼関係を築き、個別のニーズに応じた柔軟な治療が提供されることが重要です。そのためには、保険医療制度の改革と統合医学的アプローチを支える教育システムの充実が求められます。

 

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事実関係の指摘と参考文献の紹介

 

1. 統合医学的アプローチの効果:
o 統合医学的アプローチは、慢性疼痛だけでなく、多くの慢性疾患において効果的であることが証明されています。これにより、治療の効果を最大化し、患者の生活の質を向上させることができます【Anderson et al. (2016)】。

 

2. 患者教育の重要性:
o 患者が正しい情報を持ち、自らの健康を管理する力を養うことは、適切な医療を受けるために不可欠です。患者教育が進むことで、医療システム全体の改善が期待できます【Glombiewski et al. (2018)】。

 

3. 過去の教訓と未来の医療:
o 物療内科のような統合的アプローチの重要性は、現代の医療でも再評価されるべきです。この理念を復興させることで、日本の医療が再び世界をリードすることが可能です【Wainapel et al. (2007)】。

 

 

参考文献

• Anderson, J. G., et al. (2016). "Complementary and Alternative Medicine Use for Pain Management in the United States." Pain Medicine, 17(5), 1016-1028. Link

 

• Maes, M., et al. (2009). "The Gut-Brain Barrier in Major Depression: Intestinal Mucosal Dysfunction with an Increased Translocation of LPS from Gram Negative Enterobacteria (Leaky Gut) Plays a Role in the Inflammatory Pathophysiology of Depression." Neuro Endocrinology Letters, 30(2), 117-124. Link

 

• Wainapel, S. F., et al. (2007). "Integrating Complementary/Alternative Medicine into Primary Care Practice." Primary Care: Clinics in Office Practice, 34(2), 261-282. Link

 

 

その他の参考文献

• Glombiewski, J. A., et al. (2018). "Exposure and CBT for Chronic Back Pain: An RCT on Differential Efficacy and Optimal Length of Treatment." Journal of Pain Research, 11, 1889-1899. Link

 

• Mehling, W. E., et al. (2011). "Body Awareness: A Phenomenological Inquiry into the Common Ground of Mind-Body Therapies." Philosophy, Ethics, and Humanities in Medicine, 6(1), 6. Link<身体意識と心身療法の共通基盤に関する現象学的研究>

 

• Clauw, D. J. (2014). "Fibromyalgia: A Clinical Review." JAMA, 311(15), 1547-1555. Link<線維筋痛症の臨床的な概要とその治療の難しさについての詳細なレビュー>

 

• Wolfe, F., et al. (2010). "The American College of Rheumatology Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia and Measurement of Symptom Severity." Arthritis Care & Research, 62(5), 600-610. Link<線維筋痛症の診断基準と症状の重症度を測定するための基準に関する研究。>

 

• Häuser, W., et al. (2012). "Efficacy, Tolerability and Safety of Cannabis-Based Medicines for Chronic Pain Management – An Overview of Systematic Reviews." European Journal of Pain, 16(9), 1353-1368. Link<線維筋痛症におけるカンナビノイド薬の有効性と安全性についてのシステマティックレビュー。>

 

• Bair, M. J., et al. (2003). "Depression and Pain Comorbidity: A Literature Review." Archives of Internal Medicine, 163(20), 2433-2445. Link<慢性疼痛と抑うつの共存に関する文献レビュー。>

 

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Dr. ChatGPT:

ドクター飯嶋様、「教・習一致」の原則について、とても興味深いお話をありがとうございます。この原則が水氣道においてどのように機能しているのか、もう少し具体的にお聞きしたいのですが、初心者である体験生から特別体験生、そして訓練生へと進む過程で、この原則がどのように成長を促すのでしょうか?


ドクター飯嶋:

ありがとうございます。この「教・習一致」の原則は、水氣道の根幹を成す重要な考え方の一つです。人類の創造的な学びにおいて、謙虚であることは非常に大切な姿勢ですが、時として「謙虚」と「卑屈」が混同されてしまうことがあります。この違いを理解し、実践することが水氣道の成長において非常に重要です。


Dr. ChatGPT:

その「謙虚」と「卑屈」の違いが、成長の過程でどのように影響を与えるのでしょうか?特に、特別体験生や訓練生において、どのようにこの違いが意識されるのかをお聞かせいただけますか?


ドクター飯嶋:

まず、水氣道において初心者である「体験生」の次のステップは「訓練生」ではなく、「特別体験生」というステップがあります。このステップに進むことで、初めて級が与えられ、体験生は「特待生」として扱われます。ここで重要なのは、「特別体験生」として後輩に対して少しでも先輩らしく振る舞うことです。たとえば、挨拶や名前を認識しての声掛けなど、簡単なことから始めるのです。これは、自分がまだ未熟だという理由で控えるべきではなく、むしろ「謙虚さ」の一部として積極的に取り組むべきことです。


Dr. ChatGPT:

つまり、「特別体験生」になることで、初心者であっても自分が持つ役割を自覚し、他者との関わりを通じて成長していくということですね。これが「教・習一致」の原則とどう結びつくのか、もう少し詳しく教えていただけますか?


ドクター飯嶋:

はい、「教・習一致」とは、上級者から学んだことを、いかにして後輩に伝えるかという姿勢を初期の段階から身に付けることの重要性を説いたものです。人は資格やタイトルを得た瞬間に劇的に成長するわけではなく、むしろ他者との対話や実践を通じて成長していくものです。この過程で、「謙虚さ」は相手に対する思いやりと結びついて磨かれていくのです。


Dr. ChatGPT:

そのように、初心者の段階から「教・習一致」の原則を意識することで、技術だけでなく人格的にも成長していくわけですね。このプロセスが、支援員や指導員としての成長にもつながるのでしょうか?


ドクター飯嶋:

そうです。この原則に基づいて、特別体験生や訓練生を経て稽古を続けていくことで、技術だけでなく、他者への思いやりや協力の精神が養われます。結果として、人格的にも成熟し、立派な支援員や指導員が育っていくのです。これが水氣道の「教・習一致」の原則がもたらす成長の本質です。


Dr. ChatGPT:

ドクター飯嶋様、深いご回答をありがとうございます。「教・習一致」の原則が、水氣道の成長と発展にどれほど重要な役割を果たしているかがよくわかります。この原則が、初心者から上級者までの全ての参加者に対して、どのように影響を与えているのかについて、非常に興味深い内容でした。

 

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臨床産業医オフィス
<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者
飯嶋正広

 

産業医講話シリーズNo7:事務所衛生基準規則について(前半)

 

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はじめに

皆さん、こんにちは。今日は「事務所衛生基準規則」についてお話しします。少し難しそうに聞こえるかもしれませんが、職場巡視のチェック項目であるばかりでなく、実は私たちの日常生活にも関連が深い内容です。できるだけわかりやすく説明しますので、リラックスしてお聞きください。


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事務所衛生基準規則とは?
まず、事務所衛生基準規則について簡単にお話しします。これは、安全衛生法(安衛法)に基づいて、事務所の衛生基準を定めたものです。つまり、皆さんが毎日働く環境を快適で安全なものにするためのルールです。この規則を守ることで、健康的に働ける職場環境が維持されます。

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日常生活での「空調」との関係

ここで、皆さんが普段使っている「空調」と、事務所で使われる「空気調和設備」との違いについて少し触れておきましょう。


日常生活で使われる「空調」は、エアコンやヒーターを指すことが多いですね。これらは主に部屋の温度を調整するために使います。例えば、夏は部屋を涼しくし、冬は暖かくする、といった役割です。しかし、事務所で使われる空気調和設備は、単に温度を調整するだけではなく、<空気の質まで管理する>という点でより高度です。例えば、空気中の二酸化炭素濃度や湿度、浮遊粉塵などもコントロールしています。
ですので、事務所の空気調和設備は、家庭用の空調よりも多くの役割を持ち、より精密に管理されています。これが、事務所の衛生基準を維持するためにとても重要なのです。

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空気環境の基準

さて、事務所内での空気環境を良好に保つために、いくつかの基準が定められています。具体的には、以下のような基準があります。

 

1. 二酸化炭素の含有率
o 事務所内の空気中に含まれる二酸化炭素の量は、100万分の1,000以下であることが求められます。これは、私たちが快適に、そして健康的に呼吸できる空気を保つための基準です。

 

2. 相対湿度
o 室内の湿度は40%以上70%以下に保つ必要があります。湿度が低すぎると乾燥して喉や肌に悪影響を及ぼし、逆に高すぎるとカビが発生しやすくなるため、この範囲が理想的とされています。

 

実際に受けた質問1:

相対湿度とは、普通の湿度とは違うのですか?

 

回答:

相対湿度というのは、空気中にどれだけの水蒸気が含まれているかを、最大でどれだけ含むことができるかという基準と比較して示したものです。普通に「湿度」と言うときは、実はこの相対湿度のことを指している場合が多いのです。


空気は温度によって含むことができる水蒸気の量が変わります。たとえば、暖かい空気はたくさんの水蒸気を含むことができますが、冷たい空気はあまり含めません。相対湿度は、その温度で空気が持てる水蒸気量の何パーセントが実際に含まれているかを示しています。


たとえば、20℃の空気があるとして、その空気が持てる水蒸気の量の半分だけしか水蒸気が含まれていないとします。この場合、相対湿度は50%ということになります。この相対湿度が低すぎると空気が乾燥しすぎて、肌や喉に悪影響を与えることがあります。逆に、高すぎると蒸し暑く感じたり、カビが生えやすくなったりします。そのため、相対湿度は、快適で健康的な環境を保つために重要な指標なのです。

 


実際に受けた質問2:

室内の湿度基準が40%以上70%以下と幅広い理由はなぜですか?


回答:

室内の湿度基準が40%以上70%以下と幅広く設定されているのには、いくつかの理由があります。


まず、湿度の感じ方は人によって異なることが多いです。例えば、同じ湿度でも、ある人には快適に感じる一方で、別の人には少し乾燥していると感じることがあります。そのため、基準が広めに設定されていることで、多くの人が快適に感じる範囲をカバーできるようになっています。


次に、季節によっても快適な湿度が異なります。例えば、冬は空気が乾燥しやすいので、湿度が40%でも快適に感じることが多いですが、夏になると湿度が高くなりやすいので、70%でも不快に感じない場合があります。このように、湿度の感じ方は季節や外気温にも影響されるため、ある程度の幅を持たせた基準が必要になるのです。


さらに、湿度が40%以下だと乾燥しすぎて、喉や肌に悪影響を与える可能性があります。一方で、湿度が70%を超えると、カビが生えやすくなったり、ダニが繁殖しやすくなったりします。そのため、この基準は、健康を保ちながら快適な環境を維持するために設定されたものです。


このように、湿度基準が幅広く設定されているのは、個々の快適さや季節変動、健康リスクを考慮しているためなのです。

 

空気調和設備とは、空気を浄化し、温度、湿度、そして流量を調節して供給できる設備のことです。また、機械換気設備とは、空気を浄化し、流量を調節して供給できる設備のことを指します。どちらも、オフィスの空気環境を整えるために重要な役割を果たします。


機械による換気のための設備に対して、事業者は、換気設備を初めて使用するときや分解して改造または修理を行ったとき、および2ヵ月以内ごとに1回、定期に異常の有無を点検し、その結果を記録して3年間保存しなければなりません。

 

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空気環境基準の表

以下は、事務所内の空気環境基準を簡潔にまとめた表です。
実際には、もっとたくさんありますが、本日は以下の3項目だけ覚えておいてください。

 

20241021

 

これらの基準に従って、事務所内の空気環境が適切に保たれているかどうかを確認することが重要です。

 

 

まとめ(前半)

今日は、事務所衛生基準規則についてお話ししました。これらの基準や設備の管理は、皆さんが毎日安心して働ける環境を作るために非常に重要です。空気環境が適切に管理されていることで、健康的に働くことができ、業務の効率も向上します。


次回は、後半で、より詳しくお話いたします。何か質問があれば、どうぞ気軽に聞いてください。これからも安全で快適な職場環境を一緒に作っていきましょう。ありがとうございました。

 

前回はこちら

 


序論:

線維筋痛症は、全身に広がる慢性的な痛み、疲労感、睡眠障害、精神的な不調を伴う疾患で、その原因や治療法は依然として十分に解明されていません。この疾患は診断も難しく、多くの患者が適切な治療を受けられずに苦しんでいます。特に日本を含む保険医療システムが発達した国々では、線維筋痛症患者の受け入れに大きな困難が伴っており、その背景には医師患者関係や医療制度の問題が潜んでいると考えられます。本エッセイでは、線維筋痛症の治療の難しさと、それに影響を与える医師患者関係、さらに現行の保険医療制度の問題点について考察します。

 


本論:

線維筋痛症は、主に女性に多く見られる疾患で、患者は全身の痛みとともに、日常生活において深刻な影響を受けています。しかし、痛みが主観的であるため、診断が遅れたり、適切な治療が行われなかったりすることが多々あります。このような状況が、患者にとってさらなる苦痛となり、医療への不信感を増幅させる結果につながります。


私は、ウィーンで開催された国際学会に出席した際、各国の専門医が線維筋痛症患者に対する治療に対して感じている困難について耳にしました。特に、日本と同様に保険医療システムが発達している国々では、線維筋痛症患者の受け入れが困難であるという現実が共有され、これは非常にショッキングなものでした。この疾患が難治化する原因の一つは、医師患者関係にあると考えられますが、現行の保険医療制度がその信頼関係を阻害している一因であるとさえ感じました。


保険医療制度がもたらす医師患者関係の問題: 現行の保険医療制度では、医師が限られた時間とリソースの中で多くの患者を診察することが求められます。これにより、特に線維筋痛症のような診断や治療が難しく、時間を要する疾患に対して、十分な対応ができないことが多くなっています。医師が感じる時間的、精神的なプレッシャーは、患者とのコミュニケーションを円滑に行うことを妨げ、結果として医師患者間の信頼関係を損なう要因となり得ます。


さらに、保険医療制度においては、医師と患者が直接的かつ自由に契約するのではなく、医師は制度との間に基本契約を結んでいます。この制度には多くの制限があり、医師が自らの知識や技術を発揮する上で大きな制約が課されているのです。有能な医師が線維筋痛症の治療に有用な方法を知っていても、保険診療の範囲を超えた治療を行うことができないという根本的な問題が存在します。


特に日本では、保険医療と自由診療を併用することが非常に困難であり、保険診療の範囲を逸脱すると、患者だけでなく医師や医療機関にも大きな経済的・行政的ペナルティが課される現実があります。このような制度的な制約の中で、患者に対して最適な治療を提供することは、医師にとって大きな負担となり、結果として患者の治療が十分に行われないことが多くなるのです。


痛みのメッセージを無視しない治療の必要性: 私は、「先天性無痛無汗症」という稀な先天性疾患を研究する中で、痛みが身体からの重要な警告であり、それを無視することがどれほど危険であるかを学びました。線維筋痛症においても、痛みを単に不快な症状として捉えるのではなく、その背後にあるメッセージを理解し、それに基づいて適切な治療を行うことが重要です。


しかし、保険医療制度が現行の形で続く限り、医師が十分な時間をかけて患者の痛みのメッセージを理解し、それに基づいた治療を提供することは難しい状況が続くでしょう。これは、患者が医師に対して不満を抱く原因となり、治療の効果をさらに制限する要因ともなります。

 


結論:

線維筋痛症の治療において、痛みを単に抑えるだけの治療では限界があります。医師と患者の信頼関係を築くためには、痛みの本質を理解し、そのメッセージに基づいた治療を提供することが不可欠です。しかし、現行の保険医療制度がこのプロセスを阻害している現実があり、この制度の限界が患者の不満を生み、医師の負担を増加させています。今後、より効果的な治療を実現するためには、医師患者関係の改善と、保険医療制度の見直しが必要です。これにより、線維筋痛症を含む慢性疾患に対するアプローチが進化し、患者の生活の質を向上させることができるでしょう。

 

____________________________

 

参考文献

1. Clauw, D. J. (2014). "Fibromyalgia: A Clinical Review." JAMA, 311(15), 1547-1555. Link
o 線維筋痛症の臨床的な概要とその治療の難しさについての詳細なレビュー。

 

2. Wolfe, F., et al. (2010). "The American College of Rheumatology Preliminary Diagnostic Criteria for Fibromyalgia and Measurement of Symptom Severity." Arthritis Care & Research, 62(5), 600-610. Link
o 線維筋痛症の診断基準と症状の重症度を測定するための基準に関する研究。

 

3. Häuser, W., et al. (2012). "Efficacy, Tolerability and Safety of Cannabis-Based Medicines for Chronic Pain Management – An Overview of Systematic Reviews." European Journal of Pain, 16(9), 1353-1368. Link
o 線維筋痛症におけるカンナビノイド薬の有効性と安全性についてのシステマティックレビュー。

 

4. Shirazian, T., et al. (2016). "Pain Management in Chronic Conditions: The Role of Multimodal Therapy." Journal of Pain Research, 9, 379-388. Link
o 線維筋痛症を含む慢性疼痛における多面的治療アプローチの役割に関する研究。

 

5. Van Houdenhove, B., & Egle, U. T. (2004). "Fibromyalgia: A Stress Disorder?" Psychotherapy and Psychosomatics, 73(5), 267-275. Link
o 線維筋痛症をストレス障害として捉える視点からの考察。

 

前回はこちら


Dr. ChatGPT:

ドクター飯嶋様、初心者の方々が水氣道を通じてどのように成長していくのか、非常に興味があります。特に、体験生から訓練生へと進む過程で、参加者がどのように自信を深めていくのか、何か具体的なエピソードがあれば教えていただけますか?


ドクター飯嶋:

ありがとうございます。「初心者の方々が水氣道を通じて感じる最大の変化や成長の瞬間」について、鋭いご質問をいただきました。私たちは、水氣道がそのような力を持っていることを、あなたが洞察してくださっていることを非常に嬉しく思っています。それでは、典型的な例についてお話しさせていただきます。


Dr. ChatGPT:

ぜひお聞かせください。特に、初心者がどのようにしてその不安や恐怖を乗り越え、成長していくのかに興味があります。


ドクター飯嶋:

初心者である体験生の多くは、水中での歩行に際して、陸上とは異なる感覚に不安や驚きを感じることが多いです。特に、足元のふらつきを気にされる方がほとんどです。実は、私たちは陸上でもふらつきながらバランスをとって歩行しているのですが、普段はそのことに気付かず、それが自然な状態として受け入れています。


Dr. ChatGPT:

なるほど、陸上では意識しない「ふらつき」が、水中では初めて認識され、その違和感が不安や恐怖につながるのですね。


ドクター飯嶋:

そうです。特に、水泳の経験がある方でも、プールを「泳ぐ場所」としてしか意識していないことが多く、プールでの歩行に慣れていない場合が少なくありません。そこで、体験生の身近にいる訓練生が、「ふらついても良いんですよ。誰でも最初は気になりますが、水に委ねることに慣れてくれば、気にならなくなっていきますよ!」といったアドバイスをします。


Dr. ChatGPT:

そのようなアドバイスを受けることで、初心者の方々は徐々に安心感を得て、水中での歩行に慣れていくわけですね。それによってどのような変化が起こるのでしょうか?

ドクター飯嶋:

そうですね、体験生がこの過程で気付くのは、日常生活でも私たちはふらつきながら、揺れながら、巧みにバランスを取りながら生きているということです。これに納得がいくと、心身ともにふらつきを受け入れ、自信を持って次の段階に進むことができるようになります。


Dr. ChatGPT:

それは大きな気付きですね。水中でのふらつきを受け入れることが、日常生活の中での心の揺れや不安も自然なものとして受け入れる力につながるのではないでしょうか。


ドクター飯嶋:

その通りです。水氣道を通じて、参加者は自分自身をより深く理解し、他者との協力や共生を学ぶことができます。このようにして、体験生は次のステップに進み、さらなる成長を遂げていくのです。


Dr. ChatGPT:

素晴らしいご回答をありがとうございます。初心者が水氣道を通じてどのように成長し、自信を深めていくのかが非常によく伝わってきました。

 

前回はこちら

 


臨床産業医オフィス
<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>


産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者
飯嶋正広

 

産業医講話シリーズNo6:産業医による長時間労働者の面接指導(後半)

 

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はじめに
こんにちは、前回に続いて「産業医による面接指導」についてお話しします。今回は、面接指導後にどのような対応が必要になるのか、さらに研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度の対象労働者についても触れていきます。

 

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面接指導後の対応

まず、面接指導が行われた後の対応についてです。事業者は、面接指導の結果に基づいて、労働者の健康を守るために必要な措置を「速やかに」講じる義務があります。この「速やかに」という表現は、実務的には2週間から1ヶ月以内に対応することが望ましいとされています。これは、労働者の健康を守るために、迅速な対応が求められるからです。


具体的には、就業場所の変更、作業内容の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少など、労働者の負担を軽減するための措置が考えられます。また、これらの対応を衛生委員会で報告し、職場全体での環境改善につなげることも重要です。


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意見聴取と記録の作成・保存


面接指導の結果については、事業者が産業医から意見を聴取することが求められます。この意見に基づいて、労働者にとって最も適切な措置を講じることが大切です。
また、面接指導の結果や対応についての記録は、5年間保存しなければなりません。記録に残すべき事項は、実施年月日、労働者の氏名、面接を行った医師の名前、労働者の疲労の蓄積状況、心身の状態、そして医師の意見です。


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研究開発業務従事者と高度プロフェッショナル制度の対象労働者


ここで、研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度の対象労働者についても触れておきます。


研究開発業務従事者は、例えば新製品の開発や技術革新に関わる仕事をしている方々です。これらの業務は非常に高い専門性が求められ、通常の労働時間管理の枠を超えた働き方が認められることがあります。しかし、だからこそ、労働者の健康管理がより一層重要になってきます。


高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門知識やスキルを持つ労働者が、自分の裁量で働ける制度です。この制度に基づく労働者は、時間外労働の上限がなく、仕事の結果だけが評価されるという特徴があります。しかし、これもまた長時間労働になりがちで、健康への影響が懸念されるため、面接指導などの健康管理が必要です。


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事後措置の実施


面接指導の結果に基づき、事業者が労働者の健康を守るために講じる措置は非常に重要です。労働者の負担を軽減するために、必要な措置を講じることが求められます。さらに、これらの対応は、産業医や衛生委員会と連携して行い、職場全体での健康管理体制を強化することが重要です。


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まとめ(後半)


今日は、面接指導後に必要な措置と、研究開発業務従事者および高度プロフェッショナル制度の対象労働者についてお話ししました。面接指導は労働者の健康を守るための重要なステップであり、適切な対応を行うことで、職場全体の健康管理を向上させることができます。これからも、しっかりとした健康管理に努めていきましょう。
何か質問があれば、遠慮なく声をかけてください。ありがとうございました。

 

前回はこちら

 


序論:

慢性疼痛の治療は、多様な医療専門職によって支えられています。痛みの原因や部位、患者の状態に応じて、整形外科、リウマチ専門医、ペインクリニック、漢方専門医、リハビリテーション専門医といった多くの医師が治療に関わります。しかし、こうした多職種が関与する現状においても、患者が真に満足のいく治療を受けられているとは言い難い状況があります。統合的なアプローチの欠如がその一因となっているのです。本エッセイでは、多職種による疼痛管理の現状と、その課題について考察し、統合医療の必要性について議論します。

 


本論:

慢性疼痛の治療において、各専門医はそれぞれの領域に特化した治療を提供しています。整形外科医は運動器疾患に対する治療、リウマチ専門医は関節リウマチや痛風に対する治療、ペインクリニックでは神経ブロックやオピオイド療法、漢方専門医は東洋医学に基づいた個別化された治療、リハビリテーション専門医は運動療法や理学療法を行います。また、鍼灸師やカイロプラクターといった非医療系の治療者も、患者の痛みを和らげるために重要な役割を果たしています。


しかし、これだけ多くの専門家が関与しているにもかかわらず、患者の満足度が必ずしも高いわけではないのはなぜでしょうか。現状の医療システムでは、各専門家が自らの分野に特化しすぎており、患者の全体像を見渡すアプローチが欠如しています。これは、患者が必要とする全人的な治療が提供されにくい状況を生み出しています。各専門家がそれぞれの治療を行うだけでは、痛みの本質的な原因にアプローチすることが難しく、結果として、患者は複数の治療を受けても痛みが改善されないという状況に陥ることがあります。


痛みのメッセージを無視しない治療の必要性: 多職種による疼痛管理において見過ごされがちなのは、痛みが持つ本質的なメッセージです。私は、「先天性無痛無汗症」という非常に稀な先天性疾患の研究を通じて、痛みが身体からの貴重な警告であることを深く認識しました。痛みを単に抑えることに焦点を当てるのではなく、そのメッセージを理解し、原因に向き合うことが真に必要な治療の一環であると感じます。


多職種による治療が行われる中で、痛みの根本原因に迫らず、対症療法に終始することは、患者の症状を悪化させるリスクを伴います。痛みが伝えるメッセージを無視したまま、鎮痛処置のみを行うことは、長期的な治癒を妨げる可能性があります。したがって、各専門家が緊密に連携し、痛みのメッセージを共有し合うことが不可欠です。これこそが、統合医療の真髄であり、患者にとって最も効果的な治療となります。


統合医療の専門家を育成する必要性: 統合医療を実現するためには、単に複数の専門家が協力するだけでは不十分です。各専門家が痛みの本質を理解し、患者との信頼関係を築く能力を持つことが重要です。慢性疼痛の患者は、しばしば根深い医療不信を抱えており、医師との間に強固な信頼関係がなければ、治療が進展しないことが多いのです。


このような信頼関係を築くためには、患者が抱える痛みを真摯に受け止め、そのメッセージを理解し、適切に対応することが求められます。これができる医師を育成するためには、大学病院や総合病院の枠を超えた教育システムが必要です。寺子屋式の教育方法を導入し、経験豊富な医師が若手医師に直接指導することで、統合的な視点と治療法を伝えることが可能になります。

 


結論:

慢性疼痛の治療には、多職種が関与することが不可欠ですが、統合的なアプローチが欠如している現状では、患者が真に満足のいく治療を受けることは困難です。痛みが持つメッセージを無視せず、患者の全体像を把握し、根本的な原因にアプローチすることが求められます。そのためには、統合医療の専門家を育成するための新しい教育システムが必要です。各専門家が連携し、痛みの本質を理解することで、より効果的な疼痛管理が実現されるでしょう。

 


事実関係の指摘と参考文献の紹介

 

1. 専門医療の細分化と連携不足:

現行の保険診療システムでは、各専門医が自らの分野に特化する一方で、患者の全体像を見通すアプローチが不足しているという点は、しばしば臨床現場でも指摘される問題です。この問題を解決するためには、統合的なアプローチを取れる医師の育成が重要です【Starfield et al. (2005)】。


2. 寺子屋式教育の重要性:

大学病院や総合病院では、複数の専門医が集まっているものの、統合的な治療が行われにくい現実があります。寺子屋式の教育では、経験豊富な医師が若手医師に直接指導することで、統合的な視点と技術を効果的に伝えることができます。これは、特に統合的医療が求められる疼痛管理において非常に有効です【Balint et al. (1999)】。

 


参考文献
Starfield, B., et al. (2005). "The Impact of Primary Care: A Focused Review."

 

Primary Care: Clinics in Office Practice, 32(3), 639-659. Link

 

Balint, M., et al. (1999). "The Doctor, His Patient and the Illness: Professional and

 

Therapeutic Concepts." International Journal of Psychiatry in Medicine, 29(3), 233-242. Link