アルベール・カミュ作 『ペスト』を読むNo8

 

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Le lendemain 17 avril, à huit heures, le concierge arrêta le docteur au passage et accusa des mauvais plaisants d’avoir déposé trois rats morts au milieu du couloir.

On avait dû les prendre avec de gros pièges, car ils étaient pleins de sang. Le concierge etait reste quelque temps sur le pas de la porte, tenant les rats par les pattes, et attendant que les coupables voulussent bien se traihir par quelque sarcasm. Mais rien n’était venu.
 

翌4月17日の8時、管理人は通りかかった医師を呼び止め、廊下の真ん中に3匹のネズミの死骸を置いていくといった悪戯が起きたことを訴えた。そのネズミたちは血まみれだったので、大きな罠にかかったせいなのかもしれない。管理人はしばらく玄関口に立っていて、ネズミの脚を掴みながら、犯人たちが犯行をさらけ出したくてたまらなくなるのを皮肉をこめて待っていた。しかし、何者も現れなかった。
 

 

__ Ah!ceux-là, disait M.Michel, je finirai par les avoir.

ああ、こいつらを自分が引き受けることになるのだな、とミシェル氏は言った。

 

註:

宮崎嶺雄の訳では、<「まったく、やつら」と、ミッシェル氏はいっていた。「最後にゃ、とっつかまえてやるぞ」>としています。原文はceux-làであり、ceux-ciではないので、その場には存在しない「やつら」、すなわち複数の相手を指すものとした方がたしかに辻褄が合います。par les avoirのlesも「やつら」を指します。それでは、実際に、ミッシェル氏は具体的に「やつら」を知っているのでしょうか。知っていたら苦労がないはずです。そのあたりが気になるところです。

 

 

 

Intrigué, Rieux décida de commencer sa tournée par les quartiers extérieurs où habitaient les plus pauvres de ses clients. La collecte des ordures s’y faisait beaucoup plus tard et l’ auto qui roulait le long des voies droites et poussiéreuses de ce quartier frôlait les boîtes de détritus, laissées au bord du trottoir. Dans une rue qu’il longeait ainsi, le docteur compta une douzaine de rats jetés sur les débris de légumes et les chiffons sales.
 

興味がそそられたリューは、受け持ち患者の中でも特に貧しい人たちが住んでいる場末の周辺地区から往診を始めることにした。この地域でのゴミ収集はかなり遅くに行われ、まっすぐで埃っぽい道を走る車は、縁石に置かれたゴミの箱をかするように突進していく。リュー医師が歩いていた道すがら、野菜くずや汚れた襤褸(ぼろ)布の上にネズミが投げ捨てられていて十二匹を数えた。

 

 

 

Il trouva son premier malade au lit, dans une pièce donnant sur la rue et qui servait à la fois de chambre à coucher et de salle à manger. C’était un vieil Espagnol au visage dur et raviné. Il avait devant lui, sur la couverture, deux marmites remplies de pois. Au moment où le docteur entrait, le malade, à demi dressé dans son lit, se renversait en arrière pour tener de retrouver son souffle caillouteux de vieil asthmatique. Sa femme apport aune cuvette.
 

通りを見下ろす、寝室兼食堂のような部屋で、最初の患者は床に就いていた。彼は年老いたスペイン人で、硬くごわごわした顔をしていた。彼は、自分の掛布団の上に、豆の入った2つの鍋を置いていた。医者が入ってくると、ベッドで半身を起こしているその老人は、喘息もちの老人よろしくゴロゴロという音を伴う息を吸おうとして後ろにのけぞる姿勢をとっていた。おかみさんが洗面器を持ってきた。

 

註:

原文でle malade, à demi dressé dans son lit, se renversait en arrière pour tener de retrouver son souffle caillouteux de vieil asthmatique.の箇所について、宮崎嶺雄の訳では、<ちょうど病人は半ば身を起こして、うしろへそり返り乍ら、喘息病みの老人のごろごろする息づかいを回復しようと試みているところであった。>とされています。pour tener de retrouverの解釈についてですが、<回復しようと試みる>というニュアンスではなく、単に、(痰が絡んで苦しい)息を吸い込もうとする呼吸動作を描写していると見る方が自然な気がします。痰を吐き出すために息を深く吸い込もうとするときに、このような姿勢動作をとりがちです。もっとも、多くの喘息患者が苦手とするのは吸気ではなく、呼気です。痰がからみやすく気道が閉塞しがちになるので、ごろごろ、ゼーゼーと雑音が発生するのです。そのあとおかみさんが洗面器をもってきたのも、喘息の夫が痰を吐き出すためだったのではないかと思います。カミュは喘息患者を良く観察して描写していると思います。