心臓・脈管 / 腎・泌尿器の病気

 

テーマ:拡張型心筋症(続編)

 

症例:H.K.46歳男

 

身長169㎝、体重82.9kg、BMI29(肥満度Ⅰ)

 

河北総合病院循環器内科で3種類の降圧剤と抗血栓薬の処方を受けています。

 

 

動悸(-)、息切れ(-)、呼吸困難(-)などの自覚的心不全症状なく、

 

交互脈などの明らかな不整脈もなく、血圧のコントロールも良好で、浮腫などの他覚所見もありません。

 

水氣道®の継続参加の安全性確認のため、拡張型心筋症の重症度を確認しました。

 

打診所見では、心臓の左濁音界が鎖骨中線より2横指外側(心拡大を示唆!)

 

のため、胸部エックス線検査で確認する。

 

聴診所見では、Ⅰ音正常(心収縮能低下なし)、Ⅱ音正常(肺高血圧合併なし)、

 

Ⅲ音、Ⅳ音などの異常心音は認めませんでした。

 

ただし、心房細動合併の際にはⅣ音は消失するため、

 

心電図で確認する。

 

 

検査:

<心電図>

所見:左房負荷

心電図2

図1.

H.Kさんの心電図胸部12誘導のうち肢誘導(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)

   

第Ⅱ誘導(上から2番目)の矢印『⇒』はP波の部位を示しています。

   

Ⅱ誘導でのP派の幅≧3mm、2峰性であれば左房拡大。

 

 

 

 心電図3

図2.心電図の波形

 正常パターン(上)、第Ⅰ度房室ブロック(下)

 

正常のP波は、上に凸の山の形ですが、

 

図1のH.KさんのP波は筑波山のように頂上が2つあり、

 

2峰性を示しています。

 

 

 

筑波山

図3.

筑波山の写真

   

筑波山は男体山(左)と女体山(右)の2峰性の名山です。

 

 

 

 

心レントゲン2

図4.

H.Kさんの胸部エックス線写真正面PA【後前】像

 

所見:

心・胸郭比(CTR)= 0.59 >0.50 :心拡大

   

胸郭の幅に対して、心臓の幅が正常より大きいです。

   

その比率が60%近いので、心拡大であることがわかります。

   

聴診所見と、ほぼ一致します。

 

 

 

心レントゲン1

図5.正常の胸部エックス線写真

 

心臓の幅(B)と胸郭の幅(A)の比を心・胸郭比(CTR)といいます。

 

心・胸郭比(CTR)>0.5の場合は、心拡大と評価します。

 

H.Kさんの心・胸郭比(CTR)は0.59なので、心拡大を認めます。

 

 

 

心エコー 

図6.H.Kさんの心臓超音波検査(Mモード)

 

<心エコー> 左心室のMモード画像です。(良く写せないのが残念です!)

 

心室壁運動:良好,心筋収縮能の低下は認めない

 

左室内腔:拡張を認めるが、顕著ではない

 

左室拡張末期圧径:拡大

 

左室壁厚:正常

 

Mモード 

○僧房弁拡張末期BB’step

左房収縮による左室への血液流入に対して、心室のコンプライアンスの低下

 

     

〇DDR減少

 

 

 

評価:

心機能は良く保たれていますが、明らかな心拡大や左房負荷を認めますので、十分であるとは言えません。

 

肥満度Ⅰですが、少なくとも正常上限まで減量することが最重要課題です。

 

身長169㎝の人の体重の正常上限の目安としてBMI25を元に計算すると目標体重は63㎏です。

 

現在83㎏とすると20㎏の減量が必要です。

 

薬物療法に関しては適切に行われています。

 

 

今後の留意点としては、合併症予防、

 

とりわけ不整脈と心腔内血栓形成(特に左心腔)対策が重要です。

 

胸部圧迫感、栓塞症状、不整脈(心室性期外収縮、心室頻拍)は、

 

そのいずれもが突然死に直結します。

 

 

どんな難病でも、長期的な成績を向上させるためには、

 

最終的には自然療法(各人にとって好適な養生と鍛錬)が不可欠です。

 

H.Kさんの場合、減量が最重要課題ですが、

 

教科書的にも生活指導(塩分、水分、飲酒制限)、

 

規則正しい生活とストレス管理が強調されています

 

水氣道®と聖楽院でのヴォイストレーニングは、

 

H.Kさんにとって理想的な自然療法です。

 

是非、楽しく継続していただきたいと思います。

 

 

<第4ステップ> その2

 

前回は、「自己スティグマ」が助けを求める妨げとなることについて、

 

私の研究結果をもとに、その理由をご紹介いたしました。

 

また、その他の理由として、

 

○混乱していて、そこまで考えが及ばない状態である、

 

○人に助けを求められないほど、疲弊しきっている、

 

○無気力になっていたり、投げやりになっていたりする、

 

といったことも挙げられます。

 

 

上記のような理由が解消され、人に助けを求めた方がいい、

 

自分にとってプラスであると判断されれば、

 

「人に助けを求めよう」という意思が固まります。

 

 

臨床心理士といった専門家は、どなたのどんな悩みでも、

 

その方にとって大切な問題であると受け止めます。

 

 

今まで書いてきたように、専門的な知識を持っており、

 

自尊心が低下することなども熟知しています。

 

それらに配慮しながら慎重に、そして支持的に来談者の皆さまの悩みに耳を傾けます。

 

その上で、これから問題にどう取り組んでいけばよいかを示唆します。

 

認知行動療法であれば、問題解決に向けて目標を立て、

 

カウンセラーと来談者の共同作業によって、対処法の習得を進めていきます。

 

 

* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房

 

 

ストレス対処 MIYAJI 心理相談室(高円寺南診療所内)

 

主任 臨床心理士 宮仕 聖子

 

理気航法No2

 

理想的な呼吸を保つためには、前提条件があります。

 

それは、「良好な姿勢」です。

 

姿勢が崩れていると、理想的な呼吸に近づくことはできません。

 

正しい姿勢の保持も、呼吸と同じ理屈で、

 

トレーニングのときだけ意識するだけでは十分に矯正することはできません。

 

水中での歩行は、おのずと「良好な姿勢」になっていなければ運動が継続できません。

 

水氣道の稽古は、特別に姿勢を意識せずとも、

 

無意識に「良好な姿勢」になるように考えられています。

 

この無意識での力みのない「良好な姿勢」は、

 

「良好な呼吸」をもたらすことに繋がります。

 

 

 

もう一つの大切な条件。

 

それは「氣」とは何かということを探求し続けることです。

 

私は理気航法の名称の由来にもなっている「氣」、

 

このキーワードを常に頭に入れておくことがとても大事だと考えています。

 

 

それは呼吸を意識し体を自然に動かすことによって、

 

全身に流れているエネルギーを整えていく、

 

それこそが、この航法の中心であり、要だと実感しているからです。

 

また、理気の「理」には、<整える>、<理に適っている>、<理想的>という意味が込められています。

 

 

このように、理気航法には様々なメリットがあることが、お分かりいただけると思います。

 

 

実は、私自身も呼吸が浅く、メンタルでの不調が身体化しやすい体質のため、

 

この理気航法による鍛錬と養生を特に必要としている一人でもあります。

 

 

「自分自身の弱点を理解することが、他人を理解することに繋がる」

 

このことを忘れずに、これからも、皆さんとともに弛まずに

 

楽しくエクササイズしていけたらと思っています。

 

 

日本水氣道協会 副支援員 水氣道少初段上

 

水氣道理気航法 直伝 金澤 克彦

 

 

 

呼吸器 / 感染症 / 免疫・アレルギー・膠原病

 

テーマ:成人予防接種のガイダンス

 

 

<2016年改訂版>

 

【1】一般に推奨される予防接種

 

1)肺炎球菌ワクチン

 

対象者:65歳以上の高齢者

 

PPSV23(ニューモバックスNP):2歳以上65歳未満のハイリスク者

 

PCV13(プレべナー13):2カ月以上6歳未満の小児

 

 

2)インフルエンザワクチン

 

対象者:任意接種

 

一般には、インフルエンザワクチンは接種後2週目から効果がみられ、

 

半年程度は効果が持続するとされていますので、

 

高円寺南診療所では11月末までに接種を完了するようにしています。

 

 

3)麻疹(はしか)・風疹ワクチン

 

<風疹>風疹は20~40歳代の男性が60%(2012年)を占めたという報告や、

 

30~50歳前半の男性の20%は風疹に対する抗体がないことから、

 

これまでに風疹の罹患歴のない、あるいは風疹の予防接種を受けたことがない成人では、

 

MRワクチンの摂取が推奨されます。

 

なお、成人女性の場合は、妊娠していない時期にワクチン接種を行いますが、

 

その後、2カ月間の避妊が必要です。

 

 

<麻疹>最近の成人麻疹患者の大半は、

 

麻疹ワクチン未接種、麻疹の既往がなかったとされ、

 

小児例と比較して、脳炎、ADEMなどの中枢神経合併症が多く報告されています。

 

麻疹の罹患歴がなく、麻疹ワクチンの接種歴がない成人には

 

MRワクチンの接種が進められます。

 

ただし、妊娠している人、免疫機能に異常がある人、

 

免疫抑制薬による治療を受けている人などは摂取禁忌です。

 

 

【2】特定の集団、機会に推奨される予防接種

 

1)高齢者への予防接種

 

実際に、平成26(2014)年10月から、

 

高齢者の肺炎球菌感染症が定期の予防接種を行うB類疾病として

 

予防接種法により定められました。

 

それに基づき、成人用のPPSV23(ニューモバックスNP)

 

65歳以上の高齢者を対象に5歳刻みで公費助成のもと接種される体制が整いました。

 

高齢者ではインフルエンザワクチンの接種とともに、

 

肺炎球菌ワクチンを併用摂取することが推奨されます。

 

2)職業感染対策としての予防接種

 

医療関係者に主唱されるワクチンは、B型肝炎、

 

インフルエンザ、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎などがあります。

 

また、救急救命士、消防士、警察官、高齢者施設職員、

 

小学校・幼稚園教員、保育士などは

 

職業感染対策としての予防接種が望ましいとされています。

 

 

3)海外渡航時の予防接種

 

以下の3群に分類できます。

 

①麻疹や水痘などみずからの感染予防のみならず、周囲への感染を防止するため、主に小児期より定期接種するもの

 

②黄熱のように、入国時などに予防接種証明書を要求されることがあるもの

 

③A型肝炎、狂犬病など渡航先で流行している感染症で、我が国では存在しないか、感染する危険性が少ない病気を予防するという個人防衛によって接種回数、効果の持続期間が異なるので、常に記録は怠らず、次回の接種はいつ行うかをしっておくことが必要です。

 

 

【3】最近臨床応用された予防接種

 

帯状疱疹ワクチン

米国では、水痘ワクチン(VARIVAX®)と帯状疱疹ワクチン(ZOSTAVAX®)が使い分けられ、

 

50歳を超えたらZOSTAVAX®を定期的に予防接種します。

 

そのZOSTAVAX®は、水疱瘡ワクチンを元にして製造されています。

 

海外の大規模な臨床試験では、ZOSTAVAX®は帯状疱疹の予防効果を認めています。

 

なお、日本ではZOSTAVAX®は発売されていません。

 

そのかわりに子供用の水疱瘡ワクチン<乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」®>

 

帯状疱疹ワクチンとして予防接種することが、

 

2016年3月18日から認められています。

 

消化器系の病気

 

テーマ:口内炎

 

口内炎(こうないえん)とは、口の中や舌の粘膜に起きる炎症症候の一つです。

 

見た目からは「カタル性口内炎」、「アフタ性口内炎」、「潰瘍性口内炎」に分類される。

 

また痛みの有無から有痛性口内炎無痛性口内炎に分類されます。

 

 

症状:代表的な「アフタ性口内炎」は口内粘膜に直径5ミリ程度の灰白色斑(アフタ)をつくり痛みを伴います。

 

通常は一週間程度で自然に完治するが、複数箇所に口内炎が発症する重度のものでは

 

痛みのため摂食不能になりやすいです。

 

また、口の中が清潔でない場合は口内炎の発症時に口臭を伴うことがあり、

 

悪化すると滲み出るように出血します。

 

 

診断:鑑別診断が必要です。基礎疾患が疑われる場合はその検査が必要です。

 

アレルギー内科やリウマチ(膠原病)内科の専門医のように、

 

全身を診る内科医であれば、無痛性口内炎は全身性エリテマトーデスを疑います。

 

有痛性口内炎ではベーチェット病の可能性があり、

 

専門医でなければ、アフタ性口内炎等との区別は難しいです。

 

 

原因

① アラキドン酸代謝作用亢進・・・再発性アフタ性口内炎(最も多い)

 

② 細菌・ウイルス感染・・・感染性口内炎

 

現在のところメカニズムについては正確には分かっていない。

 

免疫学的異常が関わっているのではないかという有力説もあります。

 

免疫が関与するということは、自律神経やホルモンバランスも

 

重要な因子であることが示唆されます。

 

高円寺南診療所では、再発性の口内炎に対しては、

 

栄養食事管理、運動指導、ストレスマネジメントが必要だと考えています。

 

〇偏食による鉄分やビタミンの不足

 

〇ストレスや睡眠不足

 

〇不正咬合や、歯ブラシなどによる粘膜への物理的刺激(口内を噛むなど)

 

〇唾液の不足、口腔の乾燥

 

〇口腔内の不衛生、プラーク(入れ歯かす)の付着した入れ歯の装着

 

歯磨き粉成分による粘膜の損傷(ラウリル硫酸ナトリウムなど)

 

また、口内炎になりやすい体質の人(食物アレルギーの人や粘膜の薄い人)もいる。

 

さらに、ビタミン欠乏症の症状として口内炎が現れることもある。

 

 

 

治療:歯科・口腔外科・耳鼻咽喉科・皮膚科の他に一般内科を受診する方が多いものと思われます。

 

ただし、口内炎は、全身的疾患に起因することがあるので、

 

アレルギー内科・リウマチ膠原病内科などの専門科による治療が必要です。

 

 

高円寺南診療所では、まず生活リズムや生活習慣を確認することからはじめます。

 

ストレスに過敏に反応する方、アレルギー体質の方、食生活に偏りがある方に多く見出されます。

 

 

高円寺南診療所では、再発性の口内炎の相談が多いので、

 

生活・食事指導のあと、①ビタミン剤、②漢方薬、③その他の局所治療(軟膏・パッチ)の順に治療を重ねていきます。

 

全身管理をアドバイスしないと、再発しがちだからです。

 

 

ビタミン剤:ビタミンBの不足が原因の口内炎を治療するときに用いられます。

 

主に内服薬として処方するが、注射や点滴などを用いて投与する場合もあります。

 

アフタ性口内炎の場合、ビタミンB12療法がシンプルで安価で低リスクであるというエビデンスがあります。

 

 

漢方薬:安中散、半夏瀉心湯、立効酸、黄連湯などが用いられます。

 

 

軟膏:ステロイド、もしくは抗炎症薬を含む軟膏を患部に塗布する方法。

 

アフタの部分を物理的刺激から軟膏の基剤で保護する意味もあります。

 

 

パッチ(貼り薬):患部に、軟膏と同じく抗炎症薬を含んだパッチを貼る方法。

 

軟膏と同様、アフタの保護も期待できます。

 

 

その他:上記にあげた治療法以外にも患部の洗浄やトローチなどを用いた治療法

第114回日本内科学会講演会に参加して(その5)

 

(4月14~16日:東京国際フォーラム)

 

テーマ:超世代の内科学-GeneraltyとSpecialtyの先へ-

 

招請講演<呼吸不全:病態生理学から分子病態学へ>

 

巽 浩一郎(千葉大医学研究院・呼吸器内科学)氏の公演を聴いて(その1)

 

 

高円寺南診療所では、さまざまな呼吸不全を扱っていますが、在宅酸素療法の経験は僅かです。

 

その理由は、呼吸不全にならないように患者の皆様と共に工夫と努力を続けているからだと思います。

 

 

そもそも呼吸不全とは、多くの慢性呼吸器疾患ばかりでなく、

 

心臓や血管の病気、神経や筋肉の病気などの終末像であるという理解が大切です。

 

高円寺南診療所では、禁煙の重要性を強調し続けています。

 

その他、概ね3か月に1回、定期的にフィットネス・チェック(体組成・体力テスト)を行い、

 

症状出現に至るより前に、リスクを明確にして、患者の皆様にフィードバックしております。

 

その結果を上手に活用して、日常生活の見直しやトレーニングに役立てていただいております。

 

 

それでは、呼吸不全とは、どのような状態を指すのでしょうか。

 

在宅酸素療法は保険適用となる治療法ですが、保険が使えるための諸条件があります。

 

1)高度慢性呼吸不全

動脈血酸素分圧が55mmHg以下、あるいは睡眠時または運動負荷時に

 

著しい低酸素血症を来す場合は動脈血酸素分圧が60mmHg以下

 

 

2)肺高血圧症

 

 

3)慢性心不全:ニューヨーク心臓協会(NYHA)の基準でⅢ度以上、

 

睡眠ポリグラフィーで睡眠時のチェイン・ストークス呼吸がみられ、

 

無呼吸低呼吸指数が20以上であること。

 

高度な身体活動の制限がある。安静時には無症状。

 

NYHA基準でⅢ度の慢性心不全とは、日常的な身体活動以下の労作で

 

疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じるレベルです。

 

4)チアノーゼ型先天性心疾患

 

 

高円寺南診療所の診察室で、

 

指でチェックできるパルスオキシメーター®による

 

経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2%)チェックを受けたことのある方は

 

少なくないと思います。

 

これは超音波の原理で計測するので痛くないのがメリットです。

 

動脈血酸素飽和度(SpO2)のデータは飽和度ですから%表示です。

 

外来でふつう観察できるのは90~98%の間がほとんどです。

 

慢性呼吸不全が疑われる動脈血酸素分圧(PaO₂)60mmHgは、

 

SpO₂では90%に相当します。動脈血酸素分圧(PaO₂)55mmHgは, SpO₂では88%です。

 

 

呼吸の状態が不自然なので打・聴診し、呼吸雑音を調巣したので、

 

まずパルスオキシメーター®でチェックしたところSpO₂90%という初診の方を最近経験しました。

 

胸部のレントゲン検査をして肺の陰影があり、東京警察病院の呼吸器科に紹介しました。

 

それまで、ご本人は呼吸苦を訴えておりませんでした。

 

患者さんの自覚症状は重要ですが、それだけでは病気を見落としてしまいがちです。

 

とくに、慢性の病気、とくに慢性呼吸不全の患者さんにはその傾向があり、

 

注意を要します。

血液・造血器の病気

 

テーマ:鉄欠乏性貧血

 

<見落とされやすい鉄欠乏性貧血>

 

わが国では、妊娠可能女性の約25%で鉄欠乏性貧血がみられると推測されます。

 

原因の約80%は、鉄の過剰喪失によります。

 

重要なのは子宮筋腫、過多月経、消化器がん、痔など慢性失血を見落とさず、しっかり治療することです。

 

 

鉄欠乏性貧血は、鉄欠乏により骨髄でのヘモグロビン合成が障害される小球性低色素性貧血です。

 

ヘモグロビン不足を補うため骨髄は過形成になります。

 

 

鉄欠乏性貧血では、小球性低色素性貧血で、網状赤血球も減少します。

 

顕微鏡で観察すると、赤血球の大小不同で赤味が薄い赤血球を認めます。

 

画像1

図1.鉄欠乏性貧血の赤血球像

赤い円盤状の細胞が赤血球です

楕円形や涙の形、変形した赤血球

もみられます。赤みの程度も様々です。

 

 

画像2

図2.いろいろな形の赤血球像

   正常赤血球と小球性赤血球を比べてみましょう。

   鉄欠乏性貧血の患者さんの赤血球は小球性です。

 

 

小球性低色素性貧血に、舌炎、口角炎、嚥下障害が合併することがあります。

 

そのような場合は、プランマー・ヴィンソン症候群といいます。

 

 

検査:

鉄欠乏性貧血では、血清鉄(Fe)は低値となり、総鉄結合能(TIBC)が上昇し、血清フェリチンは低下します。

 

ただし、鉄欠乏性貧血であっても、悪性腫瘍や慢性膵炎、感染などが合併していると、

 

それだけでフェリチンは上昇するので、しっかりと鑑別することが必要です。

 

血清鉄とTIBCが共に低値となるのは二次性貧血、とりわけ、慢性疾患に伴う貧血が疑われます。

 

二次性貧血では、慢性疾患による貧血でも血清鉄の低下がみられます。

 

しかし、網内系に鉄が取り込まれる結果、血清鉄は低下しますが、

 

貯蔵鉄は増えるのでフェリチンが増加します。

 

 

治療:

貧血の程度が強い時は無症状でも鉄剤投与を行います。

 

経口投与では吸収されやすい反面、胃腸症状の副作用が生じる場合があります。

 

その場合は静脈注射を行いますが、赤血球輸血は、特別な場合が無ければ行いません。

 

 

ただし見落とされやすい慢性炎症による貧血では、血清鉄は低下しているが、

 

鉄の利用障害なので、鉄剤を投与しても効果は期待できません。

 

その場合は、原因となる炎症そのものに対する治療が優先されます。

 

 

 

高円寺南診療所での実際の症例を提示します。

 

 

症例:A.K 46歳女 (鉄欠乏性貧血に対して経口鉄剤投与中)

 

治療前は、全身倦怠感、めまい、易疲労感、頭痛、顔色不良、動悸、息切れがありましたが、

 

婦人科治療の他に、鉄剤補給、プラセンタ注射、水氣道®参加などにより、現在はすべて解決しました。

 

 

基本データの推移(2008年⒓月9日⇒2017年6月5日)

 

○血清ヘモグロビン(Hb)8.8 ⇒ 12.2g/ dL(基準値:≧12g/ dL)

…高度の貧血からであり、ギリギリ正常へ

 

MCV(平均赤血球容積)77 ⇒ 100fL(基準値:80~100fL)

…小球性から正常上限、ギリギリ正球性、大球性の傾向

 

MCHC(平均赤血球血色素濃度)28.1 ⇒ 32.2%(基準値:31~35%)

…低色素性から正色素性へ

 

赤血球形態 大小不同あり、奇形赤血球あり、低色素 ⇒ 大小不同なし

網状赤血球28.1 ⇒ 26 0/oo…(基準値:2~27 0/oo)

…骨髄過形成傾向

 

血清鉄 ⒓ ⇒ 353μg / dL(基準値:90~150μg / dL)

… 極端な低値から高値へ

 

○総鉄結合能TIBC 498 ⇒ 398μg / dL (基準値:<360μg /dL)

… 貧血のない鉄欠乏状態

 

○血清フェリチン 1.5 ⇒13.0 ng / mL(基準値:≧12 ng / mL)

… 極端な低値からギリギリ正常へ

 

分析:貧血そのものは顕著に改善しています。

 

これは、経口鉄剤の効果というよりは、婦人科疾患に対する治療による効果であると考えます。

 

まだ若干ながら鉄欠乏状態傾向です。

 

 

  MCVが高値傾向なのは赤血球より大きなサイズである

 

網状赤血球の数が増えているためだと考えられます。

 

慢性炎症による貧血の所見(血清鉄低下、血清フェリチン増加など)にも該当していません。

 

 

鉄剤はいつまで続ければよいのか?

 

鉄剤の投与で血色素(ヘモグロビン:Hb)が正常化した時点で中止してはいけません!

 

その理由は、貧血の改善経過を理解しておくとわかりやすいです。

 

鉄剤を投与してから、貧血が改善していく過程では、

 

血清鉄⇒網赤血球⇒血清Hb⇒血清フェリチン

 

の順に回復します。

 

つまり、最終的には血清フェリチンの回復を確認する必要があります。

 

 

この症例では、血清フェリチンが正常に達したので、

 

鉄剤の補給は終了できる段階になってきたといえるでしょう。

 

ただし、子宮病変とともに過多月経があり、

 

月経過多などによる失血性の貧血では網状赤血球が増加します。

 

 

鉄剤投与中止後の鉄分は、肉、魚、内臓【レバー】、穀類、緑黄色野菜に多いです。

 

特に、肉、魚から接種できる動物性の鉄分がヘム鉄であり、

 

植物性の成分である非ヘム鉄よりも吸収率が5倍ほど高いです。

 

中毒・物理的原因による疾患、救急医学

 

テーマ:口の乾き

 

口腔乾燥症状改善薬サラジェン®(ピロカルピン塩酸塩)の功罪

 

高円寺南診療所の日々の臨床の課題は、特異体質の方のサポートをどうすべきか、ということです。

 

特異体質の方は、一般に症状が多彩で、あらゆる症状に対して過剰な反応が現れやすいです。

 

アレルギー体質やリウマチ体質の皆様を多数診させていただいているのは

 

、専門の関係で当然ではあります。

 

しかし、アレルギー体質やリウマチ体質、線維筋痛症などの病気は、

 

症状が全身におよび、心理的、気候や環境的要因が複雑にかかわってきます。

 

しかも、使用するお薬にとても敏感であるため、さじ加減が難しいことが悩みの種です。

 

 

それでも、これらの患者の皆様に、効果的なケアを提供しないと、

 

予期せぬ他科受診による事故を引き起こしかねません。

 

紹介状を持参して受診していただければ良いのですが、

 

中には<お薬手帳>も持参せずに他科を自身した結果、

 

検査薬を含めて薬剤の相互作用が生じることもめずらしくありません。

 

 

本日のテーマであるサラジェン®、この薬は、唾液の分泌を増やすお薬です。

 

シェーグレン症候群などにおける口腔乾燥症状を改善します。

 

このお薬は、唾液分泌促進薬です。唾液腺に働いて唾液の分泌を増やします。

 

この薬のメリットとしては、唾液の分泌がよくなり口内が潤えば、

 

口の違和感や痛み、摂食・会話障害などの口腔乾燥症状も改善されることです。

 

気管支喘息を始めアレルギー体質の方等には禁忌とされる薬ではありますが、

 

現場では、あえて慎重に使用せざるを得ないことがあります。

 

気管支喘息の治療薬ではM3受容体遮断薬

(M3受容体を阻害して気管支ぜんそくに用いる吸入抗コリン薬の総称)

 

の副作用には口渇、散瞳、排尿困難などがあります。

 

気管支喘息の方で口渇がある方は、まず、この薬の処方医と相談することが大切です。

 

 

この病気を治療しないままでおくデメリットは、

 

唾液が減少を続け、口の乾燥感や痛みを生じ、

 

食事や会話など日常生活にも支障があらわれる点です。

 

この状態がさらに長く続けば、カンジダ症虫歯にもなりやすくなります。

 

これは免疫力の低下を意味します。肺炎などの感染症や、諸々の癌に罹り易くなると考えられます。

 

 

以下に、補足的な説明を加えます。

 

 

【薬理】 作用機序からは副交感神経刺激薬 (コリン作動薬)に分類されます。

 

副交感神経系の唾液腺内ムスカリンM3受容体を刺激することにより、唾液の分泌を促進させます。

 

この薬には神経伝達物質のアセチルコリンに近い性質があり、

 

唾液腺以外のいろいろ臓器に影響をおよぼします。

 

そのため、心臓の悪い人、胃腸や膵臓など消化器系あるいは泌尿器系に病気のある人、

 

また、未治療の気管支喘息、てんかん、パーキンソン症状のある人など使用できないことがあります。

 

 

同類のコリン作動薬との併用は、互いに作用を増強します。

 

逆に、抗コリン作用を持つ一部の胃腸薬や安定薬、抗うつ薬と併用すると、

 

効果が打ち消されるおそれがあります。

 

 

【副作用】 重い副作用はまずありません。

 

しかし、以下のような症状で、つらいときは、医師とよく相談してください。

 

一番多いのは、汗が出やすくなることです。

 

ほかに、鼻炎、吐き気、下痢、頻尿、頭痛、ほてり、などもみられます。

 

 

【使用上の注意】

 

〇指示された用法用量どおりに、正しくお飲みください。

 

ふつう、1日3回、毎食後に飲みます。空腹時は避け、食後30分以内に服用しましょう。

 

〇高円寺南診療所の方針としては、安全性確保のため、

 

この薬を最初から1日3回ではなく、1日2回以下から開始しています。

 

期待する効果より、不快な症状が優っていれば、早期に中止していただきます。

 

なお、この種の薬は、すぐによい効果がでるとは限りません。

 

3か月程度続けて効果が無ければ中止しています。

 

Nogucciはこれまで、色々と怠慢によるミスをしてきました。

 

そのことを反省して、同じミスをしない、そのための懺悔録でした。

 

 

しかし、原因をしっかり確認して次に生かす、

 

このことが、まだまだ足りていませんでした。

 

 

今まで、怠慢や至らぬことで、多々ご迷惑をおかけしましたが、

 

これからは、皆様に喜んで、いただけるよう

 

日々の反省を忘れずに、努力、精進してまいります。

 

 

「四十にして惑わず、五十にして天命を知る。」と論語にあります。

 

私は、次の誕生日に50になります。50まで後1年です。

 

これからは、生まれ変って、死にものぐるいで頑張ります。