心臓・脈管 / 腎・泌尿器の病気
テーマ:拡張型心筋症(続編)
症例:H.K.46歳男
身長169㎝、体重82.9kg、BMI29(肥満度Ⅰ)
河北総合病院循環器内科で3種類の降圧剤と抗血栓薬の処方を受けています。
動悸(-)、息切れ(-)、呼吸困難(-)などの自覚的心不全症状なく、
交互脈などの明らかな不整脈もなく、血圧のコントロールも良好で、浮腫などの他覚所見もありません。
水氣道®の継続参加の安全性確認のため、拡張型心筋症の重症度を確認しました。
打診所見では、心臓の左濁音界が鎖骨中線より2横指外側(心拡大を示唆!)
のため、胸部エックス線検査で確認する。
聴診所見では、Ⅰ音正常(心収縮能低下なし)、Ⅱ音正常(肺高血圧合併なし)、
Ⅲ音、Ⅳ音などの異常心音は認めませんでした。
ただし、心房細動合併の際にはⅣ音は消失するため、
心電図で確認する。
検査:
<心電図>
所見:左房負荷
図1.
H.Kさんの心電図胸部12誘導のうち肢誘導(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ)
第Ⅱ誘導(上から2番目)の矢印『⇒』はP波の部位を示しています。
Ⅱ誘導でのP派の幅≧3mm、2峰性であれば左房拡大。
図2.心電図の波形
正常パターン(上)、第Ⅰ度房室ブロック(下)
正常のP波は、上に凸の山の形ですが、
図1のH.KさんのP波は筑波山のように頂上が2つあり、
2峰性を示しています。
図3.
筑波山の写真
筑波山は男体山(左)と女体山(右)の2峰性の名山です。
図4.
H.Kさんの胸部エックス線写真正面PA【後前】像
所見:
心・胸郭比(CTR)= 0.59 >0.50 :心拡大
胸郭の幅に対して、心臓の幅が正常より大きいです。
その比率が60%近いので、心拡大であることがわかります。
聴診所見と、ほぼ一致します。
図5.正常の胸部エックス線写真
心臓の幅(B)と胸郭の幅(A)の比を心・胸郭比(CTR)といいます。
心・胸郭比(CTR)>0.5の場合は、心拡大と評価します。
H.Kさんの心・胸郭比(CTR)は0.59なので、心拡大を認めます。
図6.H.Kさんの心臓超音波検査(Mモード)
<心エコー> 左心室のMモード画像です。(良く写せないのが残念です!)
心室壁運動:良好,心筋収縮能の低下は認めない
左室内腔:拡張を認めるが、顕著ではない
左室拡張末期圧径:拡大
左室壁厚:正常
Mモード
○僧房弁拡張末期BB’step :
左房収縮による左室への血液流入に対して、心室のコンプライアンスの低下
〇DDR減少
評価:
心機能は良く保たれていますが、明らかな心拡大や左房負荷を認めますので、十分であるとは言えません。
肥満度Ⅰですが、少なくとも正常上限まで減量することが最重要課題です。
身長169㎝の人の体重の正常上限の目安としてBMI25を元に計算すると目標体重は63㎏です。
現在83㎏とすると20㎏の減量が必要です。
薬物療法に関しては適切に行われています。
今後の留意点としては、合併症予防、
とりわけ不整脈と心腔内血栓形成(特に左心腔)対策が重要です。
胸部圧迫感、栓塞症状、不整脈(心室性期外収縮、心室頻拍)は、
そのいずれもが突然死に直結します。
どんな難病でも、長期的な成績を向上させるためには、
最終的には自然療法(各人にとって好適な養生と鍛錬)が不可欠です。
H.Kさんの場合、減量が最重要課題ですが、
教科書的にも生活指導(塩分、水分、飲酒制限)、
規則正しい生活とストレス管理が強調されています。
水氣道®と聖楽院でのヴォイストレーニングは、
H.Kさんにとって理想的な自然療法です。
是非、楽しく継続していただきたいと思います。