前回はこちら

 


声楽の理論と実践から学ぶNo.5


水氣道の稽古と声楽のレッスンの共通点(続)

 

歌をうたうという芸術の神髄と水氣道(その1)

 

私は今年、武蔵野音大に通っていますが、現在すでに62歳です。そして、今年63歳を迎えます。クラシックの声楽家歌としての今後の活躍についてとなると、多くの皆様から期待していただける可能性は乏しいかもしれません。   

 

しかし、師匠の岸本力先生は、先日、デビュー50周年記念リサイタルを立派に成功させているし、私と同年の時に、立派な業績を残したソプラノ歌手の事例によって、勇気を与えられています。そのソプラノ歌手とは、リリー・レーマン (Lilli Lehmann, Elisabeth Maria Lehmann 1848年11月24日-1929年5月17日) です。彼女はドイツのヴュルツブルク出身のオペラ歌手で声楽教師でした。
 

生涯にわたって現役の声楽家であることは至難の業ですが、可能な限り、高齢に至っても進歩を遂げようとする声楽家の姿こそ、生涯エクササイズを名乗る水氣道が目指している方向性なのです。
 

彼女は著書でこう述べます。「科学の目が歌をうたうことにほとんど向けられていない、科学的にものをとらえることのできる声楽家がほとんどいない」と。

 

これは現在に至っても変わらない事実です。私は、科学的な教育を受けてきた医師として声楽に入門したのですが、科学的なメソッドでレッスンを受けたことはほとんどありません。しかし、医師であるからこそ、指導者のアドバイスを医学的な知識や理解を助けとして、再構成して身につける機会に恵まれていたことには大いに感謝しています。
 

 

そこで、リリー・レーマンについて、まず簡単に紹介します。

 

リリー・レーマンは、63歳の時にODEON RECORDに多数の優れた歌唱を録音している。

まだ旧式の機械式録音の時に行ったのであるが、その歌声は非常に張りが在り、綺麗な美声であって、アーティストの名前を知らずに聴くと、既に63歳になっている人が歌唱をしていると、 誰もが気付かないし、いつ録音したか、何歳での録音かを知ら無い人が聴いたら、その歳とは気付くことは不可能である。

 

若い歌手と同様な高音部も難無く熟しており、他の優れていた著名な歌手が衰えて、高音部の歌唱の時に、苦労しているのが観られたり、音程を下げての歌唱に代えたりしているが、リリー・レーマンにはそのような事は無縁であった。
      

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 

 

・声楽教師としてのリリー・レーマンは1902年に『Meine Gesangskunst』という声楽理論書を出版しています。(邦訳『私の歌唱法—テクニックの秘密—』川口豊訳 2010年 シンフォニア)。

 

そこで、水氣道に対して重要な示唆を与えるレーマンの考え方を、この翻訳書の18頁から「抜粋」して、紹介するとともに、そこから、改めて水氣道に光を当ててみたいと思います。

 

抜粋1「歌をうたう芸術の神髄は、特に呼吸について正確に知るということにある。また、鼻、舌、上あご等によって作られるフォームーすなわち歌うためにのどのフォームを組み立てるーを知るところにある。息はそのフォームの中を通り抜けて行く。」
 

水氣道の目指すものは、健やかに生きる姿勢について、仲間と共に生涯を通して探求し続けることにあります。水氣道にもフォーム(形)があり、各種の航法があります。この形(かた)や航法の稽古を通して、健康的な姿勢や呼吸、動作を組み立てていくのが水氣道です。稽古を通して身に着けた形(かた、フォーム)は、水中に限って有効に作動するのではなく、ふだんの陸上での日常生活全般を通してイキイキとして活気に満ち、生産的で創造的な活動を可能とします。
 

水氣道では、まず姿勢、つぎに呼吸、さらに動作という一連のステップが水中では陸上よりも自然に、自動的に整うことに着目して体系が組まれています。

 

ですから、水氣道の稽古を続けていくうちに、歌う人にとっては、特に呼吸について正確に知らなくても、鼻、舌、上あご等によって作られるフォームーすなわち歌うためにのどのフォームが組み立てられていきます。

 

水氣道は声楽家に特化して発展してきた訳ではありませんが、結果的に、水氣道によって整えられた姿勢、呼吸、動作によって構築されたフォームの中を、芸術的な歌唱をするにふさわしい息が通り抜けて行くようになります。

 

私がしばしば、「水氣道は人体を楽器にしてくれる」と発言している根拠はここにあるのです。

 

前回はこちら

 

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

飯嶋正広

 

見落とされがちな微量栄養欠乏症<亜鉛>No.2

 

<なぜ亜鉛欠乏症に注目したのか?>

 

私が亜鉛欠乏症に注目していたのは、東大の衛生学教室に所属して、微量栄養元素の欠乏症の研究に従事していたころがきっかけです。その後、栄養系の大学で10年程、臨床栄養学を教えていたこともあり、このテーマとは長い付き合いになります。

微量栄養素の欠乏症は、身体症状のみならず精神症状にも影響を及ぼすため、心身医学のテーマになりうる領域であると考え続けてきました。

 

なお日常診療においては、糖尿病の患方に、亜鉛欠乏症を見出すことが多かったので日頃から注意を払っております。

また、アレルギー(難治性蕁麻疹やアトピー性皮膚炎など)やリウマチ関連疾患(骨粗鬆症、線維筋痛症など)をはじめ種々の自己免疫性疾患の診療対象者で、治療反応の良好でない方についても、同様の結果が得られました。

 

さらに、最近2年間で経験したのは、Covid-19に感染した方の血液中の亜鉛濃度やビタミンDの濃度を検査したところ、いずれのケースも例外なく、いずれかが低値を示していたことです。

 

 

<なぜ亜鉛欠乏症になるのか?>

 

原因としては、先天性亜鉛吸収障害(腸性肢端皮膚炎)が有名ですが、ほとんどは後天性であり、生活習慣や環境によるものと考えられます。

 

亜鉛の摂取不足や吸収不全(高齢者、経管栄養、肝疾患、炎症性腸疾患など)が主ですが、妊娠、糖尿病、尿毒症やHIV感染症が原因となることも知られています。医原性といって、キレート作用のある薬剤の服用、血液透析例も原因となっています。

 

しかし、多くの場合は以下の例が多いようです。

 

1 偏食の増加・ファーストフードや加工食品の普及で亜鉛摂取不足

 

2 慢性肝疾患の亜鉛吸収障害

 

3 アルコール過飲や多剤内服による亜鉛過剰消費、

等が増えておりその臨床像が注目されています。

 

 


<亜鉛欠乏症の症状とは?>

 

亜鉛不足が続くとさまざまな体調不良が起こります。その症状には、味覚障害(味がわからない、本来の味と違う味に感じる)、食欲不振(食欲がない、食が細くなる)、皮膚炎(かぶれやすくなる、かぶれがいつまでも良くならない)、脱毛、貧血(顔色が悪くなる、電車に乗っていると気分が悪くなる)、口内炎等があります。

 

亜鉛は代表的必須微量元素で,欠乏により味覚異常,皮膚炎,脱毛,貧血,口内炎,男性 性機能異常,易感染性,骨粗しょう症などが発症します。さらに,肝硬変,糖尿病,慢性炎症性腸疾患,慢性腎臓病患者の多くでは,血清亜鉛値は低下し,亜鉛欠乏状態であることが指摘されています。

 

2016年にようやく日本臨床栄養学会のミネラル栄養部会が「亜鉛欠乏症の診療指針」をミネラル栄養部会報告として発表しました。(日本臨床栄養学会誌 38 (2): 104-148, 2016.)しかし、診療指針に示されていないその他の重要な亜鉛不足症状としては血糖値悪化があります。亜鉛は血糖値を下げるインスリンホルモンの合成・分泌にも関与するからです。

 

また亜鉛は脳の働きにも重要な役割を果たしており、記憶を司る脳の海馬には亜鉛が多く存在するので亜鉛不足は記憶低下につながります。また「やる気ホルモン」と呼ばれる脳内ドーパミンの合成が減るためうつの原因にもなります。さらに体のあちこちに慢性疼痛を訴え色々検査しても原因のはっきりしない方の気付かれにくい要因として亜鉛不足による神経障害性疼痛があります。当クリニック通院中の線維筋痛症の方は、ほぼ例外なく亜鉛欠乏症もしくは低亜鉛血症でした。

 

それでは、次回は亜鉛欠乏症をどのように診断するかについて説明することに致しましょう。

 

前回はこちら

 


臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

<今月から、当面の間、職場の健康診断をテーマとして、産業医紹介エージェント企業各社が提供しているコラムを材料として採りあげ、私なりにコメントを加えてみることにしています。>

 

産業医紹介サービス企業各社が提供する<健康診断>コラム

 

No1.エムスリーキャリア提供資料から(その2)

 

 

健康診断の種類

 

健康診断には、いくつかの種類があります。ここでは、従業員を雇い入れたときに行う雇入れ時健康診断と、年1回のペースで行う定期健康診断について詳しく紹介していきます。

 

 

従業員を雇い入れたときの健康診断

 

対象となる労働者を雇い入れる直前か直後のタイミングで、健康診断を実施する必要があります。これが、従業員を雇い入れたときの健康診断です。
 

対象者が入社前3カ月以内に必須の診断項目を受けていて、その結果を会社に提出する場合には、この健康診断を省略することが可能です。対象となる労働者とは、常時使用する労働者と呼称されます。

 

具体的には、1年以上使用する予定で、週の労働時間が正社員の4分の3以上と定められています。よって、その対象は正社員に限りません。
 

さらに、週の労働時間が2分の1以上であっても企業には努力義務が課せられています。ほかにも、派遣社員は派遣元で実施する義務があるなど、いくつかの線引きがされています。

 

 

定期健康診断と特定業務従事者健康診断

 

企業はまた、対象となる労働者に対して、1年に1回のペースで定期的な健康診断を行う義務もあります。対象となるのは、雇い入れたときに実施する健康診断と同じく、常時使用する労働者です。
 

ただし、特定の化学物質を扱う職種など、厚生労働大臣が定める特定業務従事者については、この対象者に当てはまりません。6カ月以内に1回のペースで行う、特定業務従事者健康診断を実施することになります。実施する項目については、定期健康診断と同じです。

 

 

コメント

『特定業務に従事する労働者に対して実施される特定業務従事者の健康診断』とは、一般健康診断の一つであり、労働安全規則第13条第1項第2号に掲げる業務に従事する労働者に対して行われるものです。

業務への配置替えの際、6月以内ごとに1回健康診断を実施する事が必要とされています。

 

特定業務とは・・・以下のリストを眺めただけでも、世間で業務には、いろいろなご苦労が伴なうことを改めて知ることができることでしょう。

このような業務に就いている労働者の一人一人の方こそが、社会における真の英雄なのだと思います。社会に貢献している、そうした英雄の皆様を、産業医として、少しでも支援していきたいと願っております。

 

1 多量の高熱物体を取り扱う業務および著しく暑熱な場所における業務

 

2 多量の低温物体を取り扱う業務および著しく寒冷な場所における業務

 

3 ラジウム放射線、X線その他の有害放射線にさらされる業務

 

4 土石、獣毛等の塵埃または粉末を著しく飛散する場所における業務

 

5 異常気圧下における業務

 

6 削岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務

 

7 重量物の取り扱い等重激な業務

 

8 ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務

 

9 坑内における業務

 

10 深夜業を含む業務

 

11 水銀、ヒ素、黄リン、フッ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、苛性アル 
カリ、石炭酸、その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務

 

12 鉛、水銀、クロム、ヒ素、黄リン、フッ化水素、塩素、塩酸、硝酸,亜硫 
酸,硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸,ベンゼン、アニリンその他こ
れらに準ずる有害物のガス、蒸気または粉塵を発散する場所における業

 

13 病原体によって汚染のおそれが著しい業務

 

14 その他労働大臣が定める業務

 

前回はこちら

 


常陸國住人 

飯嶋正広

 

夭折の詩人、立原道造をしのんでNo2

 

さて、なぜ、立原道造を調べはじめたのかというと、それにはきっかけがあります。

 

水戸の駅近くの大通りに面して、「とらや書店」という老舗の古書店があります。私が中学生のころからご縁のある書店です。立原道造と水戸の繋がりについて、この書店の2代目店主のツイッター記事が私のワイフから送られてきました。

 

私の家系のルーツ研究の拠点となる水戸市飯島町を訪れてみると、飯島姓は皆無で、そのかわりに立原姓の表札が目立っていたことが印象に残り、気になっていたところでもありました。

 

飯島町には鹿島神社という村社があります。

村社ながら、風格があり、治承2年(1178年)創建とされます。御祭神は武甕槌命(タケミカツチノミコト)で、神社の由緒書に「鹿島神宮より御分霊を迎え水江添(現飯島町)の古墳上に奉斎」とあるとおり、社殿は円墳上に建てられている他、境内に円墳が2基残っていると伝えられています。

飯島の地は、古来重要な塩の道として太平洋と内陸を繋ぐ要衝であったようです。

 

詩人立原道造の家系は本姓が桓武平氏であり、常陸平氏大掾氏の一門・鹿島氏の庶流といい、鹿島成幹の子・立原五郎久幹を祖とするとされています。

後に、立原城常陸守護職 佐竹氏の家臣あるいは常陸守護代江戸氏の家臣となる一族が分流していきました。

私は、鹿島郡を本拠にしていた立原氏が、塩街道に沿う飯島に勢力を伸ばしてきたのではないか、と考えています。

なお、佐竹氏の家臣あるいは江戸氏の家臣となる一族が分流したことについては、飯島氏と共通点が見出されました。

 

ただし、飯島氏の一族のうち徳川幕藩体制下で水戸藩士となった流れは見出せません。その点が立原氏とは異なる点です。

 

参考のために、水戸藩士となった立原氏について、ウィキペディアから引用します。

 

 

水戸藩士 立原氏 (立原蘭渓流)

貞保の代から水戸藩士となり、徳川宗堯に仕官したという。立原蘭渓がはじめて世に知られるようになる。蘭渓には嫡男の立原翠軒萬、早世する演、永井方教の室となる於幸がいた。 嫡男 翠軒は山崎氏と婚姻し、杏所任と鶴見氏に養子入りする弘を生む。立原氏はこの翠軒、杏所の代に藩で重用されたことで家運向上した。ちなみに、杏所には9人の子があり、長女・阿端、於青、長男・元三郎、二男・清彦、三女・栗、三男・朴二郎、徳川斉昭側室で喜連川縄氏の生母となる四女・利子(夏)、友部煕正に嫁す五女・辰子、千葉道三郎に嫁す六女・稲子がいた。このうち、家督は三男 朴二郎が継ぎ、水戸藩家老・安島帯刀信立の娘婿となるが、尊皇攘夷運動に加わり、死罪となる。なお、朴二郎には妻・松子との間に、早世する萬之介と長女・羊子がおり、羊子の婿に野口氏より豊三郎を迎える。豊三郎は妻との間に佐武郎が生まれるという。

 

・・・・・・・・・・・・

 

上記の情報をもとに、蘭渓流立原氏の直系の系譜を作製すると、

 

立原翠軒(1)―立原杏所(2)-立原朴二郎(3)―羊子―佐武郎

 

となります。

立原道造までの流れを確認することは簡単ではないようです。

 

前回はこちら

 

 

 

― On ne peut pas toucher a un malade, a un homme qui s’est pendu, n’est-ce pas, docteur?

Rieux le considéra un moment et l’assura enfin qu’il n’avait jamais été question de rien de ce genre et qu’aussi bien, il était là pour protéger son malade. Celui-ci parut se détendre et Rieux fit entrer le commissaire.

 

「病人に手出しはできないですよね。首を吊った自分のような男を、そうですよね、先生?

リゥ医師はしばし彼の状態を見極め(註1)、最後に、この種のことはかつて一度も取り沙汰されたことはなかったし、いずれにしても、自分は患者を守るために自分がここに控えているからと請け合った。この患者の緊張が和らいできた様子だったので(註2)、リゥ医師は警部を中に入れた。

 

・・・・・・・・・

 

(註1)

しばし彼の状態を見極め
Rieux le considéra un moment
    

この部分は、実際に患者を診てきた実務経験のある医師であれば、責任感のある医師として描かれているリゥであればどのような行動をとるのか、という観点で内面的な側面も洞察して読み解いていくことでしょう。

 

「リウーはいっとき彼の様子を見まもり、」(宮崎訳) 

 

「リユーは一瞬彼を見つめたあと」(三野訳)

 

「リューはしばしコタールの顔を見つめ、」(中条訳)

 

considérerという動詞は、よく見る、考察する、という意味の拡がりがありますが、目的をもってよく見て観察し、考察し判断するという、一連の知的思考プロセスを表しています。

ですから、単に相手を見つめるのではないし、顔色だけをうかがうものでもなく、相手の総合的な状況、すなわち様子を観察するものであると考えます。

 

それでは、リゥ医師がどんな目的でコッタール氏を観察し、判断するかについてですが、「診察して見立てをする」という医師としては当然の行動をとっていると理解することが可能です。そういう意味では、私は宮崎訳を最も高く評価します。

 

un momentの解釈についても、瞬時、短時間という意味の他にしばらくの間、かなりの時間という意味も含まれます。

つまり、物理的な時間の長さとしての幅は大きいといえるでしょう。

かなりの時間の場合には、多くの場合bon momentと表現されるとしても、少なくとも瞬時、短時間と訳すことは必ずしも妥当しないケースがあるということです。

リゥ医師がコッタール氏に対してどれだけの時間をかけて状態を観察していたかについては、逆に言えば、コッタール氏の状態を観察するに必要な最小限の時間は必要になるということになるでしょう。

少なくとも、「一瞬」(三野訳)ではなく、「いっとき」(宮崎訳)、「しばし」(中条訳)が適していると考えます。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

(註2)

この患者の緊張が和らいできた様子だったので

Celui-ci parut se détendre

 

この部分は、医師としてのリゥが患者であるコッタールの状態を誠実に観察して、医師として次にどのような対応をすべきかという配慮がなされているという理解の上で翻訳したいものと考えます。

 

「コタールはやっと緊張がほぐれたらしく、」(宮崎訳) 

 

「病人の緊張はほぐれたように見え、」(三野訳)

 

「コタールはほっとした顔を見せ、」(中条訳)

 

・・・・・・・・・・・
 

On lut à Cottard le témoignage de Grand et on lui demanda s‘il pouvait préciser les motifs de son acte. Il répondit seulement et sans regarder le commissaire que « chagrins intimes, c’était très bien ». Le commissaire le pressa de dire s’il avait envie de recommencer. Cottard, s’animant, répondit que non et qu’il désirait seulement qu’on lui laissât la paix.
 

一同はコッタールの前でグラン氏の証言が読み上げ、彼に自身の行為の動機を供述できるかと尋ねた。コッタールは警部には目もくれず、「個人的な悩みねえ、ご名答ですよ。(註3)」と答えるだけであった。そして、警部は、「もう一度やろうと企てていないないかどうかの言質を迫った(註4)。コッタールは興奮して、そんな気はない、ただ波風を立てないでほしいだけだ(註5)と答えた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

(註3)

「個人的な悩みねえ、ご名答ですよ

« chagrins intimes, c’était très bien »
    

コッタールは警部には目もくれずに答えていることの意味をよく弁えて翻訳したいものです。私はコッタール氏は、証言者のグラン氏に対しても、警部に対してもシニカルな返答をしているものと理解しています。

 

「内的な悲嘆というのは、たいへんよく当たっています」(宮崎訳) 

 

「内心の苦悶、まさにそれです」(三野訳)

 

「内面的な悲しみというのはよく当てはまる」(中条訳)

 

・・・・・・・・・・・・・

 

(註4)

言質を迫った

(Le commissaire) le pressa de dire s’il…

 

警部は、自分の取り調べを手っ取り早く片付けるために、都合の良い調書の作成に必要な文言を残そうとやっきになっていることがうかがわれる場面です。

 

「しきりにいわせようとした」(宮崎訳) 

 

「言わせようとした。」(三野訳)

 

「なんとかいわせようとした。」(中条訳)

 

・・・・・・・・・・・

 

(註5)

ただ波風を立てないでほしいだけだ

il désirait seulement qu’on lui laissât la paix
   

解釈が難しいというよりは、日本語として自然な訳文とは何かを検討したい部分です。

 

「ただ自分の平和な生活をそっとしておいてもらいたいだけだ」(宮崎訳) 

 

「自分はただ平穏を与えてもらいたいのだ、」(三野訳)

 

「自分の平和を大事にしてもらいたいだけだ、」(中条訳)

 

・・・・・・・・・・・

 

― Je vous ferai remarquer, dit le commissaire sur un ton irrité, que, pour le moment, c’est vous qui troublez celle des autres.
 Mais sur un signe de Rieux, on resta là.

「はっきり言わせていただくが(註9)、目下のところ、世間を騒がせているのはあなたの方なのですよ。

と、警部は苛立った口調で言った。

しかし、リゥ医師が身振りでたしなめてその場を収めた(註10)。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

(註9)

はっきり言わせていただくが

Je vous ferai remarquer
   

この部分は、多様な表現が可能なところですが、対人相互の関係性をどのように捉えるかによってニュアンスの違いが生まれます。ただし、二人称単数形の<vous>を活かした訳に心掛けたいと思います。

 

「ご注意申しますがね」(宮崎訳) 

 

「言っておくがね」(三野訳)

 

「いっておくがね」(中条訳)

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

(註10)

身振りでたしなめて、その場を収めた

sur un signe de Rieux, on resta là
   

<un signe>を「合図」と訳すのは適切か、という疑問があります。警部とリゥ医師が昵懇の間柄で予め合図を決めていたというのでなければ、何らかの了解可能な身体動作である「身振り」としました。そして、「合図」であれ「身振り」であれ、行為の目的があるはずであり、この場合は、<on resta là>(その場が収まる)ようにたしなめることに他ならないのではないでしょうか。

 

「リウーの合図で、それもその程度で打ち切られた」(宮崎訳) 

 

「リユーの合図によって、彼はそう言うにとどめた。」(三野訳)

 

「リューが合図して、話はそこまでになった。」(中条訳)

 

・・・・・・・・・・・・

 

― Vous pensez, soupira le commissaire en sortant, nous avons d’autres chats à fouetter, depuis qu’on parle de cette fièvre...
Il demanda au docteur si la chose était sérieuse et Rieux dit qu’il n’en savait rien.

「お察しください(註10)、この熱病のことが取り沙汰されてからというものは、他にも厄介な諸々の仕事が残されているんです…(註11)と、警部は退出しようとしながら、ため息まじりにつぶやいた(註12)。

警部はリゥ医師に、事態は深刻なのか(註13)どうかと尋ねると、リゥ医師は、それは自分にも皆目わからない、と答えた。

 

・・・・・・・・

 

(註11)

お察しください、

Vous pensez

 

この部分の解釈も、警部とリゥ医師との関係性の読み取りが必要であるように思われます。

宮崎訳では<Vous>を親称二人称複数形として解釈しています。

これは、いささか不自然です。その場合は、警部の対手はリゥ医師とコッタール氏ということになりますが、警部はリゥに対する敬意とコッタール氏に対する反感とを抱いていて両者を区別して一緒にはしていないと理解するのが妥当ではないかと思います。

これに対して三野訳と中条訳では、<Vous>を敬称二人称単数形として訳出しています。しかし、「お察しの通りです」(三野訳)とまで訳すことができる背景や根拠が不明です。私は、警部が、リゥ医師に理解を求める気持ちを端的に表現しているものと理解しています。

 

「あんたがたはどう思っとるか知らんが」(宮崎訳) 

 

「お察しの通りです」(三野訳)

 

「ご存じとは思うが」(中条訳)

 

・・・・・・・・・・・・

 

(註12)

他にも諸々、厄介な仕事が残されているんです

…nous avons d’autres chats à fouetter
   

Avoir d’autres chats[chats]à fouetterという慣用句があり、これは「ほかにもっとも大事な仕事がある」という意味です。そして<fouetter>とは、鞭打つこと、≺à fouetter>は鞭打つべき、ということになります。

 

「余計なことになんぞかかり合っとる暇はありゃせんですよ」(宮崎訳) 

 

「われわれには他にやらなきゃならん仕事があるのです、」(三野訳)

 

「やらなきゃならないことがたくさんあるんです」(中条訳)

 

・・・・・・・・・・・・・

 

(注13)

(警部は)退出しようとしながら、ため息まじりにつぶやいた

soupira le commissaire en sortant,

 

<en sortant> 前置詞<en>と現在分詞<~ant>とでジェロンディフを構成しています。これは同時性(~しながら)を表すことが多く、宮崎訳、三野訳では、この解釈に基づいていますが、中条訳では、(出てから)といているように、その他にもさまざまなニュアンスを表す可能性があります。
   

また動詞<soupira>の不定形soupirerは、自動詞であれば単に(溜息をつく)ですが、他動詞であれば(溜息交じりに言う)という意味になります。

soupira le commissaire en sortant,はVous pensez nous avons d’autres chats à fouetter,

(我々は他にも諸々、厄介な仕事が残されているということはお察しであるとは思いますが)と警部が発言している一文への挿入句であることに着目して解釈したいと思います。

 

「出て行きながら警官は溜息をついた。」(宮崎訳) 

 

「外へ出ながら署長はため息をついた。」(三野訳)

 

「警視は部屋を出てからため息をついた。」(中条訳)

 

前回はこちら

 


聖楽院主宰 テノール 

飯嶋正広

 

 

岸本力デビュー50周年記念バス・リサイタル(6月3日)

 

6月3日(金)日経ホールにて 岸本先生デビュー50周年リサイタルが開催されました。

 

時節柄にもかかわらず満席状態でした。

 

私はワイフとともに出かけたのですが、水氣道会員の松田要ともホールで会いました。

松田さんの亡くなった奥様は、国立音楽大学の助教授も勤めた塚田京子というソプラノでした。

岸本先生のお話では、若い頃、塚田さんの郷里の桐生市で共演したこともあり、とても懐かしく、また深いご縁を感じる、とのことでした。そこで、松田さんに、このことをお伝えしたところ、とても喜んでくださいました。

 

 

以下は演奏概要です。

 

2012年日本人歌手として初の「ロシア文化勲章プーシキン・メダル」を受章したロシア音楽の第一人者で日本を代表するバス歌手・岸本力デビュー50周年記念リサイタル。

 

チャイコフスキーやラフマニノフの有名な「ロシア歌曲」に加え「ともしび」や「黒い瞳」など魅惑の「ロシア歌謡・ロマ(ジプシー)歌謡」も披露。

 

本公演は、ウクライナの国民的詩人シェフチェンコ作詞の歌曲も追加し、平和回復への祈りを込めて歌います。

 

・・・・・・・・・・・・

 

当日のプログラムについてですが、最初の3曲は、何と現在私がレッスン中の曲なのでした。先生自らが本番の会場で模範演奏をしてくださっていることになるので、私にとっては特別に贅沢な演奏会です。


また、今後、レッスンを予定されている曲も何曲か含まれていました。

 

プログラム

 

【1部】

ロシア・ロマンス

チャイコフスキー/ただ憧れを知る者のみが 作品6-6、

騒がしい舞踏会の中で 作品38-3、

ドン・ファンのセレナード 作品38-3、

森よお前達を祝福する 作品47-5

 

・・・・・・・・・・・

 

チャイコフスキー/12ヶ月 作品37より「11月 トロイカ」ピアノ・ソロ

 

・・・・・・・・・・・


ラフマニノフ/歌うな、美しい女よ 作品4-4、春の流れ 作品14-11、

ここはすばらしい 作品21-7、小作農奴 作品34-11

ウクライナの国民的詩人シェフチェンコ詞による歌曲

ラフマニノフ/私は悲しい恋をした 作品8-4、思い 作品8-3

 

《休憩》

 

【2部】

ロシア歌謡

イサコフスキ詞/ともしび

ヤン・フレンケリ(ガムザートフ詞)/鶴

ノヴィコフ(オシャーニン詞)/道

ソロヴィヨフ=セドイ(マトゥソフスキー詞)/モスクワ郊外の夕べ

 

・・・・・・・・・・・


スクリャービン/ノクターン(左手の為の)作品9-2 ピアノ・ソロ

 

【3部】

ロシア・ロマ(ジプシー)歌謡

ブラーホフ(チュエフスキー詞)/もえよ、もえよ私の星

フォーミン(ポドレフスキー詞)/悲しき天使

ブリゴーリエフ詞/2つのギター

グレビョンカ詞/黒い瞳

 

・・・・・・・・・・・


プログラムの内容からして、アンコールはないものと予測していましたが、ワイフは『ボルガの舟歌』が聴けるはず、と予測していました。果たしてその通りになりました。

 

第9回レッスン(6月7日)の際に、そのことを岸本先生にご報告したところ、とても喜んでくださいました。

 

武蔵野音大での個人レッスンも毎回、順調に推移しております。

 

第9回レッスン(6月7日)のご報告は、次回に予定しております。

 

前回はこちら

 

 


認定内科医、認定痛風医

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

 

飯嶋正広

 

 

肝疾患の治療薬について(No2)

 

<C型・B型肝炎の治療には医療費助成制度があります>

 

わが国では、ウイルス性肝炎に対する医療費助成制度があり、患者の経済的負担も少なくて済みます。

ただし、申請の詳細は都道府県によって異なります。そして、肝臓専門医による適応判断も求められます。

そのため私のような肝臓の非専門医は、専門医への紹介が必要となります。

 

C型慢性肝炎の治療は、抗ウイルス治療によるウイルス駆除を目標とします。

 

C型肝炎の治療は、この数年間に大きく変わりました。

治療の中心はインターフェロン(IFN)(註1)から経口抗ウイルス薬(DAA製剤)へと移行しました。

この種の経口抗ウイルス薬は副作用も少なく忍容性・安全性が高く、効率に治療が完遂できるため、ウイルス排除が可能な症例であれば80歳を超える高齢者でも速やかな治療開始が推奨されています。

 

とはいっても、糖尿病の治療薬を使用している方、血栓防止のためにワルファリンを使用している方、膠原病などで免疫抑制剤のタクロリムスなどを使用している方は、これらの薬剤は肝臓で代謝される治療域が狭いため、C型肝炎直接型抗ウイルス薬(DAA)を開始して、出血傾向等が生じたら、すぐに主治医に連絡しなければなりません。
 

また、C型慢性肝炎がIFNや抗ウイルス薬治療により著効が得られたとしても、発癌がみられる例があります。したがって、どのような治療経過でも、長期的に経過観察することを怠ってはなりません。

 

(註1)インターフェロン(IFN):

1) IFN単独の使用によって、うつ症状が約30%にみられます。さらに、自殺の危険を伴うことから投与前後2週間に精神状態を評価します。また、労作時呼吸困難、咳嗽、発熱がみられれば間質性肺炎を疑います。

2) PEG-IFNは、従来型のIFNに比べて、掻痒症、注射部位の赤斑、血球減少(血小板・好中球の減少)の副作用が多いため、白血球数(分画を含む)や血小板数の測定が義務付けられいます。

 

 

そして、非代償性肝硬変を含むすべてのC型肝炎が対象となっています。ただし、ウイルス消失後も10年以上にわたって肝癌の発症をモニターすることが必須となります。

 

C型非代償性肝硬変に対しては、2019年にソホスブビル・ベルパタスビル(エプクルーサ®)が使用できるようになりました。ただし、重度の腎障害合併例では使用できないこと、Child-Pughスコア≧13点では極めて慎重に使用しなければなりません。また、リバビリン(RBV)(註2)の併用も安全性が確認されていません。

 

(註2)リバビリン(RBV):

抗C型肝炎ウイルス薬の一種でRNAポリメラーゼ阻害薬。RNA及びDNAウイルスに幅広く抗ウイルス活性を持っています。
 

 

主な副作用は溶血性貧血であるため、貧血や心疾患患者では慎重に検討して適応を決めます。また、腎排泄性の薬剤であるため、透析中の腎不全患者には原則禁忌である他、腎障害のある患者では慎重投与となります。その他、催奇形性の懸念があるため、妊娠・授乳中の女性には禁忌とします。

 

新型コロナウイルスも1本鎖RNAウイルスであるため、リバビリンの効果について京都大学で2020年に検討されていました。しかし、2020年10月にファイザーはリバビリン錠 200mgRE(マイラン®)を「誠に勝手ながら、諸般の事情により販売を中止」と発表しています。ただし、リバビリンは現在でも他社(MSD)からレベトール®が販売されています。

 

これに対してB型慢性肝炎の治療に関しては、現時点でウイルスを完全に排除できる治療法はありません。そのため、B型肝炎ウイルス(HBV)のDNA量が一定以下に持続的に減少し、肝機能のマーカーであるALT値を正常化させることを目標にします。この目標が達成できれば、肝炎の進展や発癌が抑制されるからです。

もっとも、HBs抗原が陰性化すれば発癌率はいっそう低下させることができます。治療は核酸アナログ(註3)あるいはPEG-インターフェロン(IFN)を使用します。

両者はそれぞれ特徴があり、その優劣は一律には判断できないため、いずれを選択するかは、自然経過やそれぞれの薬剤特性を見極めたうえで、個々の症例の病態に応じて選択します。

 

(註3)核酸アナログ製剤:

B型肝炎ウイルス(HBV)の複製過程を直接抑制するB型肝炎ウイルス薬。服薬中止後にウイルス量は元に戻り、ALTも再上昇する症例が多いため、長期にわたり投与せざるを得ません。また、血液・悪性疾患に対する免疫抑制や癌化学療法後にHBVが再活性化し、劇症化する例もあります。
     

 

そこで、治療開始前には、HBs抗原、HBc抗体およびHBs抗体を測定して、ウイルスキャリアか既往感染かを鑑別します。
     

・HBs抗原(+)⇒キャリア、 

 

・HBs抗原(-)かつHBc抗体(+)かつ/またはHBs抗体(+)⇒既往感染

 

ただし、HBc抗体(+)あるいはHBs抗体(+)であれば、血中HBVが未検出でも、免疫抑制薬や抗悪性腫瘍投与中であったり、治療後12カ月以内であったりする場合は、HBVのモニタリングを継続し、≧20(IU/mL)であれば核酸アナログ製剤を投与します。
 

アデホビル(ETV)

テノホビルジソプロキシル(TDF) 

テノホビルアラフェナミド(TAF)
 

 

長期投与にあたっては、血清リン値、推定糸球体濾過率(eGFR)、骨密度の低下に注意し、ファンコーニ症候群(註4)発症を予防します。

 

(註4)ファンコーニ症候群:

腎臓の近位尿細管の機能不全によって生じる疾患の一つです。ブドウ糖、アミノ酸、尿酸、リン酸、炭酸水素塩(HCO3)が再吸収されずに尿中にそのまま排泄されてしまいます。診断は尿検査で、糖尿、リン酸尿、アミノ酸尿を証明することです。遺伝性のものもありますが、後天性(薬剤性、重金属)によるものは予防が必要です。
    

 

治療の対象は、慢性肝炎・肝硬変、いずれも①組織学的進展度、②ALT値、③HBVのDNA量により選択します。

 

慢性肝炎では②ALT≧31(IU/mL)かつ③HBV・DNA量≧3.3log(IU/mL)すなわち≧2,000(IU/mL)です。

 

肝硬変では、③HBV・DNAが陽性であれば治療対象となります。

 

肝臓病の治療薬は、1)広義の抗ウイルス薬と2)その他の治療薬に分けて整理すると把握し易いと思います。当クリニックで使用経験のある薬剤は限られています。また、肝臓の病気以外の目的で使用することが多いです。

 

1) 広義の抗ウイルス薬(肝炎ウイルスに直接作用)

❶ インターフェロン製剤:

直接の抗ウイルス作用の他に免疫調整蛋白を誘導します。

例)ペグインターフェロン(PEG-IFN)α-2a

 

❷ 抗C型肝炎ウイルス薬:
・RNAポリメラーゼ阻害薬(RNAおよびDNAウイルスに幅広く抗ウイルス活性をもつ)

・NS5Bポリメラーゼ阻害薬(HCV複製の中心的役割をもつポリメラーゼの働きを抑える)

・配合剤

 

❸ 抗B型肝炎ウイルス薬:

B型肝炎ウイルスの複製過程を直接抑制する

 

 

2) その他の肝臓病治療薬

❶ 肝機能改善薬(肝細胞保護に働く肝庇護薬):

ウイルスには直接作用しないが、肝機能の指標(AST,ALT)を改善させる

 

例)

グリチルリチン製剤

当クリニックでは、主として中毒疹や慢性肝臓病に静脈注射しています。

ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)

当クリニックでは、主として、コレステロール系胆石症に処方しています。

 

❷ 肝不全治療薬(栄養製剤を含む):

アンモニア代謝、アルブミン合成に働きかける

 

❸ 金属解毒薬:

銅や鉄の代謝に作用して、病気の進行を抑制する

例)

酢酸亜鉛水和物(ノベルジン®)

当クリニックでは、もっぱら低亜鉛血症の治療に処方し、免疫力を強化しています。

 

前回はこちら

 


声楽の理論と実践から学ぶNo.4

 

水氣道の稽古と声楽のレッスンの共通点

 

私が声楽レッスンのためにウィーン国立音楽大学でクラウディア・ヴィスカ先生のマスタークラスで集中レッスンをうけていたとき、医師である私の研究分野を尋ねられたことがあります。

その際に、心身医学(Psychosomatische Medizin)とお答えしたところ、ヴィスカ先生は、ただちに、声楽も心身医学の芸術的表現です。」とお答えになったことを印象深く記憶しています。


わたしは水氣道を心身医学の実践体系として構築してきたためか、水氣道と声楽との繋がりを、ますます密接に感じながら今日に至っております。

 

現代のストレス社会においては、行政による理不尽な行動抑制や社会的同調圧力なども加味して、なかなか自分を解放することが難しくなってきています。  

 

そのような生活環境の中で抑圧された自分の現実を直視することから逃避していては問題を先送りにして解決を困難にするばかりです。そのためには、自分の感情をみずからが否定したり、押し殺したりすることを止めようとする勇気と決断が必要です。

 

つまり、自分を解放するためには、まず抑圧された、あるいは抑圧されて凍り付いていた自分の感情を、温め、解凍し、動き出すことが求められるのです。

動きが無ければ音楽が成り立たないように、水氣道にも動きがありますが、そのためには、まず自由な体の動きを可能とする、とらわれのない心の動きへ働きかけることから始めなければならないのではないでしょうか。

 

ちょっとした不愉快なできごとや心配事、その他ネガティブな体験をした瞬間に、私たちは無意識のうちに自己防衛システムが作動して、自動的に呼吸と筋肉が収縮します。

一瞬ではあっても、呼吸も動作も止まってしまいます。そのような状況下にあると、再び動き始めたとしても、息は浅いまま、動きもぎこちないままとなってしまいがちです。

 

私は水氣道や声楽によって自然に復帰した姿勢・動作・呼吸・発声を通じて、閉ざされていたエネルギーの通路が開いたことをしばしば体験し、その体験をくり返すことによって、そうしたメカニズムが、より確かに作動するようになるという経験を重ねてきました。

 

水氣道の体験生や修錬生たちも私と同じプロセスを経て成長を続けています。

これらの一つ一つはとても感動的な体験であり、また何度でも再現可能な解放的で美しい経験になっていきます。

 

私たちの無意識のうちに「凍りついて流動性を失った」感覚は、水氣道の実践によって、徐々に「解凍」され、溶けていき、流れるような、自由なスイングと感覚を持った本来の自分の心身の状態へ回帰していきます。

その瞬間から、鼓動や呼吸のリズムが再生し、心身の音楽が流れ始めるのです。

 

そこから、水氣道のメソッドに従ってさらに体系的に稽古をしていくこと、水氣道では、それを「修錬」と呼んでいます。この段階に至るためには、水氣道独自の感動的な「体験」を経て、自分の心身のあるがままの姿に対する気づきが促されなければなりません。

つまり、単回の偶然の事象や一過性の受動的な「体験」ではなく、反復して再現させることができる能動的な「経験」を「技」と体得していく必要があります。

そして、こうした「体験」や「経験」は単に主観的で個人的な感覚のレベルにとどまっている限りにおいては、「技」として定着するには至りません。他者との共有が必要だからです。互いに共鳴し、調和することができなくては水氣道は成立しないのです。

 

水氣道の「技」は教えられ、自ら実践して完成するものではなく、自らが教えられた通りに、自らの実践してきた通りに、未体験・未経験の参加者に伝達することができるまでのレベルに達していなければなりません。水氣道における「修錬」は、そこから始まるのです。

 

訓練(クンレン)の「レン」は練習の「練」で糸偏です。これに対して、修錬(シュウレン)の「レン」は鍛錬の「錬」で金偏です。

読みは同じ「レン」であっても、水氣道においては、「訓練」と「修錬」とにおいて存在する格段の質の違いをわかりやすく表示したものなのです。

 

水氣道は、無理なく、皆に楽しく味わっていただける稽古体系です。

多くの皆様を、より楽しくより充実した喜びに誘うためにも、稽古の体験・訓練・修錬という段階を、これからもいっそう丁寧に踏襲していきたいと思います。

 

前回はこちら

 

 

 

認定内科医、認定痛風医

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

 

飯嶋正広

 

見落とされがちな微量栄養欠乏症<亜鉛>No.1

 

<なぜ亜鉛欠乏が増え続け、見落とされがちなのか?>

 

今日のわが国では亜鉛欠乏症は決して稀ではありません。そもそも、亜鉛欠乏症に関しては,最近まで国内で信頼できる診療指針が発表されていなかったため大きく見落とされていたといえるでしょう。

 

2003年の全国調査では、亜鉛欠乏症に関連する味覚異常者は推定23万人と報告されています。しかし、食生活の欧米化・現代化による食事性亜鉛欠乏(註1)および近年の高齢化社会と慢性疾患者の増加を考えると、亜鉛欠乏症患者は非常に増加していることが推定されます。

 

なお、高齢化に伴って、薬剤の服用量が増える傾向(ポリファーマシー)が問題視されていますが、どうしてもキレート作用のある薬剤による薬剤性亜鉛欠乏(註2)を長期に服用することになりがちとなり、それによってますます亜鉛欠乏をきたしやすくなります。

 

(註1)食事性亜鉛欠乏

キレート作用(配位子が金属イオンをはさむようにして錯体を形成する)の強いポリリン酸やフィチン酸が繁用されている加工食品(ファーストフードやコンビニの弁当など)の増加、偏食、ダイエットなどによる亜鉛不足。

アルコールの飲み過ぎ。(体内では飲酒後、アルコールを分解するために亜鉛が多量に消費されます。)

 

(註2)薬剤性亜鉛欠乏

キレート作用を持つ薬剤(降圧薬、脳循環改善薬、抗腫瘍薬、抗うつ薬など(下記リスト参照)の長期連用・併用による亜鉛不足。

(これらの薬剤の使用により、尿からより多くの亜鉛が排出されるために亜鉛不足となる、多くの場合は服用後 2~6 週間で症状が発現します。)

日常診療で頻用する多くの薬剤が亜鉛キレート作用をもっていることに着目する必要があります。

 

・・・・・・・・・

 

味覚障害を起こす可能性がある薬剤の例(リスト)

 

<睡眠剤・抗不安薬>

ゾルピデム酒石酸塩、フルニトラゼパム、ブロチゾラム

 

<抗てんかん薬>

カルバマゼピン、ゾニサミド、トピラマート

 

<解熱鎮痛消炎剤>

イブプロフェン、エトドラク、ジクロフェナクナトリウム、セレコキシブ

 

<抗パーキンソン薬>

エンタカポン、セレギリン塩酸塩、プラミペキソール塩酸塩水和物、ペルゴリドメシル酸塩、レボドパ、レボドパ・カルビドパ水和物

 

<精神神経用剤>

アミトリプチリン塩酸塩、アモキサピン、塩酸セルトラリン、デュロキセチン塩酸塩、トラゾドン塩酸塩、フルボキサミンマレイン酸塩


<不整脈用薬>

アミオダロン塩酸塩、メキシレチン塩酸塩

 

<利尿薬>

アセタゾラミド、フロセミド

 

<降圧薬>

アムロジピンベシル酸塩、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カンデサルタン シレキセチル、グアナベンズ酢酸塩、シルニジピン、テモカプリル塩酸塩、バルサルタン、マニジピン塩酸塩、リシノプリル水和物、ロサルタンカリウム

 

<高脂血症治療薬>

アトルバスタチンカルシウム水和物、ニプラジロール、ピタバスタチンカルシウム、プラバスタトチンナトリウム、ベザフィブラート

 

<消化性潰瘍薬>

オメプラゾール、ファモチジン、ラベプラゾールナトウム、ランソプラゾール、レバミピド


<抗甲状腺薬>

チアマゾール、プロピルチオウラシル

 

<副腎皮質ホルモン剤>

デキサメタゾン

 

<泌尿器用剤>

イミダフェナシン、コハク酸ソリフェナシン、シロドシン、タムスロシン塩酸塩、ナフトピジル、プロピベリン塩酸塩


<抗血小板薬>

サルポグレラート塩酸塩、シロスタゾール、チクロピジン塩酸塩、クロピドグレル硫酸塩、リマプロスト アルファデクス


<痛風治療薬>

アロプリノール

 

<糖尿病用剤>

ボグリボース、メトホルミン塩酸塩

 

<抗アレルギー薬>

エバスチン、オロパタジン塩酸塩、ケトチフェンフマル酸塩、プランルカスト水和物、レボセチリジン塩酸塩


<抗生剤>

アジスロマイシン水和物、アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン、ミノサイクリン塩酸塩

 

 

そこで、亜鉛欠乏症の代表的な症状である味覚障害の症状と原因についてまとめました。

 

代表的な亜鉛欠乏症の症状として、味覚障害の症状として、部分的には舌の一部や片側が、また舌全体が味覚を感じないことがあります。味覚障害の程度も、濃い味でないと感じないもの(味覚減退)、全く味を感じないもの(味覚消失)があります。さらに、本来の味を異なった味に感じること(異味症)もあります。

 

こうした味覚障害の原因には、大きく分けて以下の 4 つがあります。

 

① 食事性と薬剤性の味覚障害

については、上述した通りです。

他の原因として、② 全身疾患、③ 口腔の病気、④ 心因性味覚障害、を挙げることができます。

 

② 全身疾患:

亜鉛欠乏症はリウマチ専門医としても常に注意すべき課題です!

糖尿病や腎不全・ネフローゼ・透析、肝不全・その他の肝疾患、鉄欠乏性貧血、甲状腺疾患、膠原病、シェーングレン症候群、腫瘍などの全身疾患。妊娠や火傷。

頭頚部腫瘍に伴う放射線治療や末梢神経障害(味覚を感じる顔面神経などの障害) あるいは、脳腫瘍、脳血栓などの病変による味覚中枢障害など。

 

③ 口腔の病気:

新型コロナ感染症も例外ではないと考えます。

舌炎・舌苔・口内乾燥(シェーングレン症候群・加齢による唾液分泌低下など)、風邪でおこった咽頭の炎症、咽頭の病気や嗅覚障害からも味覚障害をおこすといわれます。

 

④ 心因性味覚障害:

心因性ストレスが身体症状化することが見落とされがちなので、心療内科専門医のように心身両面の相互関係に詳しい医師が必要です。

うつ病・精神的ストレスなどとの関連があります。また抗不安薬や抗うつ薬の服用が原因となっている場合もあるため注意が必要です。
  

 

次回は、<亜鉛欠乏状態に陥らないためには?>というタイトルでお話を続ける予定です。 

 

前回はこちら

 



臨床産業医オフィス

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

<今月から、当面の間、職場の健康診断をテーマとして、産業医紹介エージェント企業各社が提供しているコラムを材料として採りあげ、私なりにコメントを加えてみることにしました。>

 

産業医紹介サービス企業各社が提供する<健康診断>コラム

 

No1.エムスリーキャリア提供資料から(その1)

 

社員の健康診断は義務?

企業が理解しておきたいポイントとは

 

2020.09.07 公開

 

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

 

健康診断は、労働者を雇っている会社が定期的に行わなければなりません。その実施は義務といわれていますが、会社を立ち上げた人などの中には、実際に対象となる労働者や健康診断の項目など、その詳細は知らない人も多いのではないでしょうか。この記事では、健康診断の概要に加えて、企業が理解しておきたいポイントについて紹介していきます。

 

 

社員の健康診断は絶対に必要?

 

労働安全衛生法により、事業者は労働者に対して健康診断を受けさせる義務があります。よって、従業員の健康診断は絶対に必要です。受けさせないと、違法行為となってしまいます。
 

違法行為とみなされた場合、労働基準監督署から指導が入り、さらに無視を続けるなどすると、50万円以下の罰金を支払わなければなければなりません。   

そのため、従業員には健康診断を絶対に受けてもらうようにしましょう。

 

対象となるのは、正社員はもちろん、契約期間が1年以上、かつ週所定労働時間の4分の3以上労働する契約社員やパート労働者も該当します。それは、個人事業でもいわゆる中小企業や大企業でも違いはありません。
 

対象となる人を雇った場合には、会社の規模に関わらず健康診断を受けさせなくてはならないのです。

 

 

コメント

社員のための健康診断の実施と活用が必要であることを事業者に理解していただく方法に工夫が必要です。私がいつも残念に感じているのが、法律の存在、行政指導、罰則という一連の記載からはじまる解説です。

 

必要性を十分に理解していただく前に、紋切り型にこのような導入をしてしまうと、どうしても、事業者側は行政から押し付けられた圧力であり、不承不承ながら実施していかなければならない厄介な規則、という印象が形成されてしまいがちです。

特に、嘱託産業医として、健康診断を新規に担当するようなケースにおいて、このような好ましくない雰囲気に晒されがちであるのが現実です。

 

健康診断をどのように活用するか、その適切な実施と運用によって、従業員にとっても事業者にとっても、どれだけのメリットがあるか、ということを納得していただけるような職場環境づくりが最初のステップです。このような取り組みを進めていくうえで、定期的な衛生委員会の活動は大きな役割を発揮することになります。