最新の薬物療法

 

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認定内科医、認定痛風医
アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医


飯嶋正広

 

 

肝疾患の治療薬について(No1)

 

<肝炎の予防について>

 

わが国の慢性肝炎や肝硬変・肝癌の原因の大部分はウイルス性です。C型肝炎ウイルス(HCV)が約50%、B型肝炎ウイルス(HBV)が約12%です。
 

当クリニックでは、慢性肝炎またはそのキャリア(註)の方は限られていますが、後述するように、医療従事者自身がHBV感染ハイリスクグループでもあるため、常に警戒を怠らないようにして、早期発見に努めています。

 

(註)キャリア:

免疫機能が未熟な乳幼児、透析患者さん、免疫抑制剤を使用している方などがB型肝炎ウイルスに感染すると、免疫機能がウイルスを異物と認識できないため肝炎を発症しないことがあります。その場合、ウイルスが排除されず、ウイルスを体内に保有した状態< 持続感染 >になります。このように、ウイルスを体内に保有している方を “ キャリア ”と呼びます。

私自身は、研修医療機関であった虎の門病院で、勤務早々にB型肝炎ワクチン接種を受けました。

 

 

さて、肝硬変・肝癌の原因となる慢性肝炎の発症を予防することはとても重要です。
一般に、肝炎の予防には ❶ 免疫グロブリン、❷ 肝炎ワクチン、❸ 抗ウイルス薬、などがあります。

 

❶ 免疫グロブリン:B型肝炎予防のためには、そのウイルス抗原であるHBs抗原が陽性である血液に汚染する事故が発生した場合に、その曝露者に対して、予めHB抗原抗体系統の検査をします。
そして、曝露後48時間以内に、抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を筋注します。
検査の結果、HBs抗原陰性の場合にのみ、ワクチンを接種します。
その後、6カ月間、肝機能検査、HBs抗原・抗体を定期的に検査して、肝炎発症を監視し続けます。

 

❷ 肝炎ワクチン:B型肝炎ウイルス(HBV)のワクチン接種は、母児感染やハイリスクグループ(註)の感染予防のために行います。使用するのは精製HBs抗原です。通常接種者の90%以上が免疫を獲得できます。ただし、抗体で中和できないHBV株も存在するため注意が必要です。

 

2016年よりHBVワクチンは0歳児対象の定期接種(公費)となりました。 初回、1カ月後、6カ月後と3回接種します。

 

(註)HBV感染ハイリスクグループ

・第1高リスク群:HBVキャリアの配偶者・同居者
    

・第2高リスク群:医療従事者(医師、看護師、検査技師など)
    

・第3高リスク群:消防士、救急救命士、警察官

 

 

❸ 抗ウイルス薬:C型肝炎ウイルス(HCV)陽性の血液による汚染事故後は、定期的な採血で経過観察しますが、予防的投与は推奨されていません。

ただし、HCVのRNA陽性、トランスアミナーゼの上昇が6カ月以上見られた場合に、はじめて抗ウイルス薬を投与します。

 

また、抗ウイルス薬には種々の注意点があります。

まず胎児毒性の可能性があるため、若年者では服用中に妊娠しないように注意させます。その他、

1) 副反応:汎血球減少症、頭痛、倦怠感など

 

2) 併用禁忌・注意薬:脂質異常治療薬(スタチン系)、糖尿病治療薬、高血圧治療薬(カルシウム拮抗薬、ARB)、抗不整脈薬、抗てんかん薬、睡眠薬、抗アレルギー薬など多数

 

3) 耐性株の出現(要注意)

 

4) 服用中止後の増悪(要注意)

 

 

次いで、A型肝炎の予防について、同様に確認してみます。

 

❶ 免疫グロブリン:A型肝炎流行地に抗体陰性者が駐在する場合や保育園・施設での流行時などに施行します。

市販のヒト免疫グロブリンは高力価のHVA抗体価を有しています。これを3~5カ月間隔で筋肉注射します。

 

❷ 肝炎ワクチン:A型肝炎のワクチンは副反応が少ない3回接種法を基本とします。ただし、緊急予防の場合には2回接種で予防可能となります。

 

❸ 抗ウイルス薬:A型肝炎用の抗ウイルス薬はありません。