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聖楽院主宰 テノール 

 

飯嶋正広

 


長引く新型コロナパンデミックは、世界経済を沈滞化させ、政情を不安定化させ、芸術活動を大いに妨げています。しかし、悲観してばかりでは幸運はやってきません。

 

私は、日々、新型コロナ対策に追われてきましたが、それによって世界を見る目や医療に対する考え方や芸術観が大きく転換してきているのを感じています。

 

たとえば、本日は武蔵野音大声楽科別科の入学試験の実技試験を江古田キャンパスで受けるのですが、それで飽き足らずに、その足で、お茶の水に向かうことになります。

 

原寸大以上の大きなスクリーンが準備されている専用スタジオで高名なバーバラ・ボニー先生の個人レッスンを受けるチャンスに恵まれました。ボニー先生は、高名な世界的ソプラノ歌手で、世界的声楽コーチとして、NHKスーパーオペラレッスンでも放映され大きな反響を得ました。私も偶々視聴していましたが、生徒達の歌声が魔法のように変化する彼女のレッスンは、とても感動的でした。

 

先生は現在モーツァルテウム音楽大学教授&英国王立音楽院客員教授です。

1956年4月14日 、アメリカ生まれで幼少よりピアノとチェロを学び、オーストリア・ザルツブルク大学でドイツ語と音楽を学んでいる最中に、チェロから声楽へ転向、その後モーツァルテウム音楽大学で声楽を集中して学んだという異色の経歴の持ち主です。

 

1979年ダルムシュタット州立歌劇場で、『ウィンザーの陽気な女房たち』のアンナ役でデビューし、ロンドンのロイヤルオペラハウス、ミラノスカラ座などヨーロッパ主要な劇場で活躍されました。

 

1987年には、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場(MET)でリヒャルト・シュトラウス『ナクソス島のアリアドネ』ナイアーデ役、ウィーン国立歌劇場で『ばらの騎士』ソフィー役を務め、一躍脚光を浴びました。その後の活躍は目覚ましく、世界中の主要歌劇場を舞台に観客を魅了しました。

 

オペラのリリックソプラノ歌手としてDecca, DGG, EMIといったレーベルから100以上の録音を出したが、1999年以降、歌曲を中心に音楽を極めていくことになりました。

 

バロックから20世紀まで幅広いレパートリーを誇り、現代の最高ランクのリリックソプラノ歌手として世界的に評価されている方ですが、現在、母校オーストリア・モーツァルテウム音楽大学教授の他、英国王立音楽院では客員教授として、また多くのマスタークラスでも後進の育成にも力をいれています。

 

1999年10月12日に私の故郷の茨城県水戸市の水戸芸術館にて先生のリサイタルの開催が予定されていましたが、東海村JCO臨界事故の影響を懸念して中止された、とされています。いつか水戸芸術館でのリサイタルが実現されたらどんなに素晴らしいことでしょうか。

 


バーバラ・ボニーのベルビエ音楽祭マスタークラス

 

スーパーオペラレッスン第1回

 


声楽レッスン:ブレスの仕方

 


 

当日の個人レッスン曲は以下の3曲を予定しております。

 

#1.Im wunderschönen Monat Mai(Dichterliebe Nr.1)

美しい五月に(詩人の恋、第1曲)/R.シューマン作曲

 

#2.L‘ultima Canzone

最後の歌 /P.トスティ作曲

 

#3.Che gelida manina

冷たき手を(オペラ「ボエーム」第1幕から)/G.プッチ―ニ作曲

 

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認定内科医、心療内科指導医・専門医、アレルギー専門医、リウマチ専門医、認定痛風医

 

飯嶋正広

 

 

賢い選択?<赤旗サイン>

 

直近の医療費は、2016年度の41.3兆円、17年度の42.2兆円、18年度の42.6兆円と年々増加していました。この背景には2025年度にピークを迎える高齢化に伴う医療需要の増加が大きく影響したためと分析されています。


ただ、厚労省保険局調査課は令和3年8月31日、「2020年度概算医療費」の年度集計を発表によると、医療費は前年度より1.4兆円減の42.2兆円(前年度比3.2%減)となり過去最大の減少を記録しました。新型コロナウイルス感染症に伴う受療行動の変化などで、受診延日数は前年度比8.5%減、逆に1日当たり医療費は5.8%増となりました。このように医療費の伸びに一定程度のブレーキがかかったのは、コロナ以外の患者の受診控えも発生するなど、例年とは異なる受療行動もあったことによるものと分析されています。

ただし、概算医療費とは、医療機関からの診療報酬の請求(レセプト)に基づいて、医療保険・公費負担医療分の医療費を集計したものであることに注意してください。

 

従来であれば国民医療費の約98%に相当するものでした。このデータには労災や全額自費等の費用の他、PCR検査や新型コロナワクチンなど国家から無償提供される医療費は含まれていません。これに対して、令和3年度および令和4年度の新型コロナ対策予備費は5兆円を計上しているので、実際の国民医療費の総額は新型コロナ蔓延以前に比べて10%程度増加していることになります。


超高齢社会、生産年齢人口の減少を踏まえ、過剰ないしは不適切な医療資源の使用について、患者と医療者とが共に熟慮し、診療プロセスにおいて「賢明な選択」ができることがますます求められてくる背景もこの辺りにありそうです。


2011年、米国内科専門医機構財団(ABIM)は、「賢明な選択:持続可能なシステムを構築するための医師、患者、医療界の責務」をテーマとしたフォーラムを開催しました。

これを発端に、エビデンスに基づいた適切な医療資源の活用を目指した“Choosing Wisely(賢く選択すること)キャンペーン”が世界的に広がり、当時のわが国においても、小泉純一郎首相、徳田虎雄徳洲会理事長らを中心に同様の啓発運動が展開されて今日に至っています。

 

それでは、世界の主要先進国、OECD、コクラン共同計画などの参加を通じて議論された賢明な選択インターナショナル(Choosing Wisely International)の推奨事項とはどのような内容でしょうか。これは10項目あります。

 

 

なお、<賢明な選択>キャンペーンが強調しているのは、科学的根拠に準拠した判断材料となる情報を患者と医師とが共有し、対話を通じた共同の意思決定を目指すことにあります。

 

1. レッドフラッグサインがない限り、発症後6週間以内の背部痛に対して画像検査をしないこと

 

2. 症状が7日以上続く、もしくは発症後の症状の増悪がない限り、軽度~中等度の急性副鼻腔炎に対してルーチンで抗菌薬を処方しないこと

 

3. 高齢者の不眠、興奮、せん妄の第一選択薬としてベンゾジアゼピンもしくは他の鎮静・睡眠薬を使用しないこと

 

4. 胃腸症状に対してプロトンポンプ阻害薬(PPI)を少なくとも年に1回の中止もしくは減量の試みなしに長期投与しないこと

 

5. ハイリスクマーカーが存在しない限り、心臓由来の症状がない患者の初期評価において、負荷心臓画像検査や非侵襲的画像検査を施行しないこと

 

6. 認知症の精神・行動症状の治療の第一選択として抗精神病薬を使用しないこと

 

7. 低リスクの外科的処置の前に定例の術前検査を行わないこと

 

8. 特有の尿路症状がない限り、高齢者の細菌尿に抗菌薬を使用しないこと

 

9. 重症ではない患者のモニタリング、利便性、失禁管理を目的に尿道カテーテルを挿入、留置をしないこと

 

10. 無症候性の患者の定期的なフォローアップとして毎年の負荷心臓画像検査を行わないこと

 

 

以上の項目について、次回以降に私の立場から検討していきたいと思います。

 

 

 

今回の締めくくりとして、第1番目のレッドフラッグサイン<赤旗サイン>について概説します。

 

ここでいう<赤旗サイン>とは、腫瘍や感染を示唆する安静時痛、体重減少および発熱、明らかな外傷、馬尾症候群、広範な神経学的異常、副腎皮質ステロイドの使用、50歳以上です。こうした諸条件のいずれにも該当しない場合には<赤旗サイン>なし、という判断基準の根拠となって、発症後6週間以内の背部痛に対して画像検査を行うべきではない、という主張になるということです。

 

なお、超高齢社会である日本では、年齢による基準を含めない場合もあります。本来であれば、年齢50歳以上の患者は<赤旗サイン>あり、ということで、発症後6週間以内の背部痛に対して画像検査を行うことが支持されることになります。


しかし、超高齢社会であることをもって、年齢を基準から除外しようとする立場は、財政的理由のみによって高齢者の健康権を制限しようとする政策的な意図を読み取ることができると、私は考えています。

 

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水氣道実践の五原理・・・集団性の原理(承論)

(教習不岐・環境創造の原則)

 

水氣道の<教習不岐の原則>の基本的運用の実際

 

通常の段級位制における級位は、1級を上限とし、初段の1つ下が1級、1級の1つ下が2級であり、級位の下限はカテゴリーによって異なります。

 

水氣道の級位も1級を上限とし、7級を下限としていますが、入門してしばらくの期間は「級外」として、稽古の場では「体験生」という呼称を用いています。この制度の理由は、水氣道が世間一般に広く認知されている健康活動団体として十分に認知されていないため、言葉による説明ではなく、実体験により慣れ親しんでいただくための最初期の期間を設定することが欠かせないためです。

 

やむを得ないことであるとはいえ、水氣道の入門者にとっては、あたかも行先不明の電車に乗り込むときのような勇気が必要になることでしょう。広く世界に周知されていない水氣道には信頼関係のみで入門していただくことにならざるを得ません。

 

頻度の多寡はあるにせよ、定期的、計画的に稽古に参加することができてはじめて稽古にふさわしい活動が開始されるといえるので、「体験生」には、いわば試験的に気楽に参加していただくことになっています。やがて、稽古習慣が身に着いた頃合いに、「級外」に区分された「体験生」は、はじめて入級して「7級」を得ます。

ただし、この段階は、まだ体験生の延長とみなすため、稽古の場においては「特別体験生」(略称、特待生)と呼び、懇切丁寧な稽古指導を受けることが可能となるような配慮を受けることができるようにしています。7級(特別体験生)を経て、小審査で合格すれば、6級(初等訓練生)に昇級することができます。

 

なお、小審査とは、水氣道3カ月に1回、定期的に実施している体験生や訓練生のための昇級審査です。訓練生とは、6級(初等訓練生)を皮切りに、5級(中等訓練生)、4級(高等訓練生)までの稽古者の呼称です。そして、5級(中等訓練生)になると、水氣道の技法である、各種の航法を順次修得して、一定の成果が得られればそれぞれの航法のファシリテータ(促進員)として認定され、認定証が授与されます。

 

水氣道の<教習不岐の原則>とは、教育者と学習者とを二分割しないという水氣道独自の哲学に基づく原理であることは前回述べましたが、この原則が本格的に活かされてくるのが5級(中等訓練生)あたりからです。

 

ファシリテータである訓練生は、体験生(特別体験生を含む)の日常の稽古が滞りなく勧めて行けるように促進する役割を担うことになります。それを可能とするためには、6級(初等訓練生)の段階で、ファシリテータの役割と機能について、稽古中にしっかりと見習っておく必要があるといえるでしょう。

 

そのような意味において、体験生と訓練生との違いは、稽古に自主的に参加して、あとは専ら受け身で指導を受ければ足りるのが体験生(特別体験生を含む)、<教習不岐の原則>に則って、上級者からの指導を受け、自らも意識的に稽古を継続する他、水氣道の各航法を習得し、体験生(特別体験生を含む)を導くのが訓練生であるということができます。

 

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内科認定医、心療内科指導医・専門医 飯嶋正広


血液病学と循環器病学の接点

 

<抗血栓療法の微妙な戦略>No2

 

抗血栓療法のあらまし

血栓症の原因としては、血管壁の異常、血流の異常の他に、血液凝固の亢進があるため、抗血栓薬の使用の意義があります。血栓には動脈血栓、静脈血栓、心腔内血栓、人工弁血栓などがありますが、種類によって、血栓薬を使い分ける必要があります。
抗血小板療法が適応になるのは動脈血栓です。これに対して抗凝固薬が適応になるのは、静脈血栓、心腔内血栓、人工弁血栓などです。


たとえば、前回紹介したアスピリンは抗血小板薬に分類され、血小板の凝集を抑制する働きをもっています。

鎮痛解熱薬として広く用いられているアスピリンは、抗血小板薬としては少量投与で用いられます。

そのため、高熱を来した際に通常量もしくは過量を用いると、血小板の凝集を過剰なまでに抑制し、出血リスクを大きく高めてしまうことになるため、注意の喚起が必要です。

 

残念なことに、新型コロナウイルスに感染して発症し、高熱を来した方の中には、こうした解熱鎮痛薬を解熱目的で過量に服用して、出血をはじめ、症状を増悪させたり、不幸な転帰をとることになったりした方も少なくなかったように思われます。

 

消化性潰瘍のある方に対してアスピリンは禁忌とされる他に、消化性潰瘍の無い方へ投与する場合でも、その発症リスクを有するため、投与に際しては、適宜、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸分泌抑制薬が併用されています。

 

それでも抗血小板薬が必要な病態がいろいろあります。抗血小板薬の適応は、不安定狭心症、心筋梗塞・脳血管障害の二次予防、冠動脈ステント・バイパス術後などです。
アスピリン以外の抗血小板薬には、チエノピリジン系抗血小板薬をはじめ、種々の薬剤があります。

とくに、播種性血管内凝固症候群(DIC)という重篤な病態に際しては、ヘパリン(低分子ヘパリンを含む)、ダナパノイド、トロンボモデュリン、ガベキサート/ナファモスタット、アンチトロンビンⅢを病態によって血液病専門医にとっても容易でない微妙な使い分けが必要となってきます。

 

COVID-19はまさに全身病変を引き起こしました。

この原因に係るのが全身臓器に分布するACE2受容体です。ウイルス感染によりサイトカイン(細胞から放出されて,免疫作用・抗腫瘍作用・抗ウイルス作用・細胞増殖や分化の調節作用を示すタンパク質の総称)が放出されますが、これが過剰となりサイトカイン・ストーム(サイトカインの嵐)に至ると、組織の酸素代謝がうまくいなくなり、SIRS (全身性炎症反応症候群)となり、播種性血管内凝固症候群(DIC)を来し、多臓器障害(MODS)を発症させて死に至る重篤な病態をもたらします。

 

ですから、抗血小板薬の使用が必要になる狭心症や心筋梗塞などの病気で、治療のために冠動脈ステントを使用している患者さんがCOVID-19に感染すると、循環器専門医にとっても容易ならざる事態となりがちです。次回は、その話をします。

 

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臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

 

ハラスメント対策の本質論(No1)

 

Ⅰ序論(ハラスメントを取り巻く社会的動向)「ハラスメント」の現状

 

近年、企業内における「ハラスメント」は増加しています。厚生労働省が発表した「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は118万8,340件(前年度比6.3%増)、12年連続で100万件を超えています。また、民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全てで、「いじめ・嫌がらせ」が引き続きトップを占めています。
 

このような現状を背景に、昨年の6月に大企業にパワハラ防止措置が義務化されましたが、今年4月からいよいよ中小企業にも適用されます。

 

2019年4月に厚労省が発表した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、予防・解決の取り組み上の課題として『ハラスメントか否かの判断が難しい』を挙げた企業の割合が66.5%と、2位に倍以上の差をつけて最高でした。

 

日本労働組合総連合会が2019年5月に発表した「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」でも、職場で「ハラスメント」を受けたことがある人が全体の38%、そのうちの54%が「仕事のモチベーションを失った」と回答しています。ですから、「ハラスメント」の未然防止と迅速な解決を進めなくては、職場環境の健全さが維持できず、労働生産性にも大きな影響が出てしまうことになります。

 

いずれにしてもハラスメントかどうかの判断が難しい、の回答が多いということは、上記の「ハラスメントとは何か?」「何が問題となるのか?」

の認識が十分できていないから、と言えるのではないでしょうか。

 

「ハラスメント」とは、相手の意に沿わない言葉や行動によって不快な想いをさせてしまう、嫌がらせを指します。 ただし、行為者自身に意図があったか、なかったかは関係がないことが「ハラスメント」とは何かを難しくしているものと思われます。

相手に対する言動の結果として、相手が不快に思い傷ついたり、不利益を被ったりしてしまうと、その行為は「ハラスメント」と認定されてしまうことになります。

 

ただし一口に「ハラスメント」といっても多種多様あります。ここでは、産業医が関与する労働衛生の観点から、職場で発生しやすい代表的3つの「ハラスメント」を採りあげ、それぞれの「ハラスメントの特徴は何か?」「何が問題となるのか?」について紹介します。

 

 

●セクシャルハラスメント(セクハラ)

 

セクシュアルハラスメントとは、相手に不快感を与える性的な嫌がらせです。男性が女性に対して行うイメージが強いですが、ここ数年の傾向としては、女性から男性や同性同士といったケースも珍しくなくなっています。

 

セクハラは「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」に大別されます。前者は、立場や上下関係を利用して、下位にある者に対して言動を強要することです。後者は、性的な言動を繰り返すことで職場環境を悪化させることを指します。いずれにしても、自分としてはセクハラという意識がなかったと言っても、相手はセクハラとして受け取るということもあるだけに留意する必要があります。

 

セクハラは、以上のように、個人としての尊厳を傷つけたり、就業環境を悪化させたりしてしまうことが問題になります。その結果、個人や組織全体の能力を十分に発揮できなくなり、企業の生産性の向上を損なってしまうことも看過できない問題となります。

 

 

 

●パワーハラスメント(パワハラ)

 

パワーハラスメントとは、同じ職場で働く人に対して、職務上の地位や権力などの優位性を乱用し、業務の適正な範囲を越えて精神的・身体的な苦痛を与えることです。上司が部下に、先輩が後輩に行うことが多いとされてきました。具体的には、目標をクリアできなかった社員を長時間立たせたままにする、特定の社員だけミーティングに呼ばないといった行動が挙げられます。

 

しかし、最近では部下から上司にというケースも増えているのですが、まだ十分な検討がなされていない模様であり、今後の課題です。

 

 

 

●マタニティハラスメント(マタハラ)

 

マタニティハラスメントとは、妊娠中、出産間近、子育て中といった女性に向けた嫌がらせを言います。具体的には、妊娠した旨を伝えてきた女性社員に解雇や雇止め、降格、減給を言い渡すといった不利益な取り扱いに当ります。 

 

こうした行為は、労働基準法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの法律でも禁止されており、企業は防止措置を取ることが義務付けられています。出産後も女性が職場に復帰しやすい環境・制度づくりに注力していくことが大切です。

 

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一般社団法人 日本温泉物理医学会

認定温泉専門医(登録番号第150号)/ 温泉療法医(登録番号686号)

 

飯嶋 正広

 

「知られざる茨城の名湯・秘境」シリーズ

 

第二弾:常磐うぐいす谷温泉 竹の葉(北茨城市)その4

 

<常磐うぐいす谷温泉竹の葉は療養に適する温泉か?>

 

「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」を温泉医学的にまとめてみると、冷鉱泉(湧出口での泉温15.4℃<25℃)、弱アルカリ性泉(pH値8.0:7.5以上から8.5未満)、低張泉(ガス性のものを除く溶存物質計0.784g/㎏<8g/㎏)に分類される温泉の可能性があります。

 

ただし、温泉の分類はそれだけではありません。温泉医学的には、その温泉が「療養泉」に該当するかどうかも関心がもたれます。まず、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」が低張泉であるということから「療養泉」(註)の中の「単純温泉」との異同について検討してみることにします。  

(註)療養泉:

温泉の中でも、特に治療の目的に供し得る温泉とされます。その定義は温度が25℃以上、または、遊離二酸化炭素や鉄イオン、水素イオン、総硫黄などの物質いずれか一つが一定以上含まれていることです。 その成分ごとに9ないし10の泉質に分類されています。

 

 

「単純温泉」とは、温泉水1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg未満かつ湧出時の泉温が25℃以上の温泉です。ここで重要なのは、、温泉水1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg未満または湧出時の泉温が25℃以上の温泉ではないということです。

 

「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」は低張泉(ガス性のものを除く溶存物質計784mg/㎏)で1,000mg未満には該当しますが、泉温が25℃に達しない冷鉱泉(湧出時の泉温が15.3℃)でありため、単純温泉には分類できないことになります。また、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の泉質は、他の成分組成からみても、その他、いずれの療養泉にも該当しません。

 

しかし、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の泉質として記載されているメタホウ酸は切り傷など皮膚や粘膜のダメージを回復させる働きがあるとされます。メタホウ酸(HBO2)はホウ素イオンに水酸イオンと酸素イオンが結びついたもので、とても弱い酸性を示します。ホウ酸のグループは弱い制菌効果を示しますが、酸性が弱いため、作用が穏やかで安全性が高いと考えられ、ホウ酸の水溶液が目の洗浄剤や口腔洗浄剤に用いられてきました。現在ではほとんど殺菌効果が無いとされていますが、ホウ酸の微弱な酸性を用いてpH調整をするために今日でも目薬にはホウ酸が加えられていることがあります。

 

さて、ここで興味深いのは、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の泉質を特徴つける含有物質のメタホウ酸が弱酸性であるにもかかわらず、温泉分析でのpH値は8.0で弱アルカリ性であることです。このデータから、温泉水の成分中にはアルカリ性を呈する物質が一定以上溶存していることが示唆されます。成分表が掲示されていないのは残念な限りです。

 

アルカリ泉は肌には石鹸のようなクレンジング効果が期待できます。強いアルカリ泉は肌の脂分が取られ過ぎ、カサカサになるので注意が必要でが、肌に優しい弱アルカリ性の温泉は肌がすべすべして美肌の湯・美人の湯と呼ばれたりしています。

 

「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の効能効果については、以上の理由から、弱アルカリ性単純温泉が参考になるでしょう。弱アルカリ性単純温泉には、古い角質を取ることで美肌効果があるとされています。「単純温泉」は「単純泉」と呼ばれることが多いですが、「単純温泉」が正式な名称です。

 

弱アルカリ性単純温泉の利点はたくさんあります。

まず、刺激が小さく「やさしい温泉」であるため、子供からお年寄りまで家族揃って安心して入れる温泉であるということです。

 

そもそも単純温泉は「湯あたり」を起こしにくい代表的な泉質でもあります。人間は、古来、出生直後に産湯に浸かることを経験してきましたが、温泉には生後1カ月以降から入ることができます。 そうした温泉デビューのとき、赤ちゃんは肌が弱いので、40℃以下の弱アルカリ性単純温泉からはじめることをお勧めします。温泉の刺激に不安がある方は、まずは単純温泉に入ることから始めてください。単純温泉は安心して入れる温泉なので、私は患者さんたちに対しても「温泉療養のスタートは単純温泉から」はじめることをお勧めしています。

 

なお、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の<温泉の成分と使用説明>では、禁忌症として一般的禁忌症が掲載されています。一般的禁忌症は、すべての温泉を対象とするものであって、この温泉に限っての注意ではありません。

 

 

〇 禁忌症

 

一般的禁忌症:

急性疾患(特に熱のある場合)、活動性の結核、悪性腫瘍、重い心臓病、呼吸不全、腎不全、出血性疾患、高度の貧血、その他一般に病勢進行中の疾患、妊娠中(特に初期と末期)

 

なお、禁忌症の中に悪性腫瘍がありますが、2人に1人が「がん」に罹る時代において、悪性腫瘍を持つ方すべてが温泉入浴が禁忌であるとまで考える必要はないと思います。秋田県の玉川温泉には、全国からがん患者が湯治に訪れています。また、妊婦に対しての禁忌も調査研究が進み、次第に緩和されつつあります。いずれにしても、禁忌症に該当する場合には、主治医と相談しておくことをお勧めいたします。

 

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Ils avaient poussé une porte et se trouvaient sur le seuil d’une chambre claire, mais meuble pauvrement. Un petit homme rond était couché sur le lit de cuivre. Il respirait fortement et les regardait avec des yeux congestionnés. Le docteur s’arrêta. Dans les intervalles de la respiration, il lui semblait entendre des petits cris de rats. Mais rien ne bougeait dans les coins. Rieux all avers le lit. L’homme n’était pas tombé d’assez haut, ni trop brusqument, les vertèbres avaient tenu. Bien entendu, un peu d’asphyxie. Il faudrait avoir une radiographie. Le docteur fit une piqûre d’huil camphrée et dit que tout s’arrangerait en quelques jours.

二人が一つのドアを押し開けてみると、そこは明るいけれども家具の乏しい部屋の入り口だった。真鍮のベッドには、小柄で丸々と太った男が横たわっていた。男は荒い息を切らせながら、血走った眼で二人を見ていた。医師は立ち止まった。その息遣いの合間に、ネズミどものかすかな鳴き声が聞こえてくるように感じられたからだ。しかし、隅々まで何も動いている気配はなかった。リウはベッドに向かった。男が転落したのは、さほど高い所からでもなく、勢いが強かったわけでもなく、椎骨は無事だった。もちろん、若干の窒息状態ではある。レントゲン写真を撮っておく必要があった。医師はカンフル注射をして、数日たてばすっかり良くなるだろうと言った。

 

 


・・・Merci, docteur, dit l’homme d’une voix étouffée. Rieux demanda à Grand s’il avait prévenue le commissariat et l’employé prit un air déconfit:

「ありがとうございました、先生」、と含み声で男は言った。リウはグランに、警察には知らせているかと尋ねると、狼狽気味に

 

 

・・・Non, dit-il, oh!non. J’ai pense que le plus pressé...

「いえ、それは、その、まだ。最も急を要するのは何かと考えたわけなので・・・」と彼は答えた。

 

 

・・・Bien sur, coupa Rieux, je le ferai donc.
「なるほど、それでは私がやっておきましょう」とリウが切り出した。

 

 

Mais, à ce moment, le malade s’agita et se dressa dans le lit en protestant qu’il allait bien et que ce n’était pas le peine.

しかし、その瞬間に病人は色をなし、ベッドで立ち上がり、「良くなったので、それには及ばない」と抗議した。

 

 

・・・Calme-vous, dit Rieux. Ce n’est pas une affaire, croyez-moi, et il faut que je fassee ma déclaration.

「落ち着いてください。大ごとにはしません。私に任せてください。ともかく私には届け出の義務があるのです。」とリウは言った。

 

 

…Oh!fit l’autre.
Et il se rejeta en arrière pour pleurer à petites coups. Grand, qui tripotait sa moustache depuis un moment, s’approcha de lui.

「ああ!」と、相手は折れた。
そして、仰向けにのけぞってさめざめと泣いた。しばらく前から口ひげを弄んでいたグランが、その傍らに寄ってきた。

 

 

・・Allons, mousieur Cottard, dit-il. Essayez de comprendre. On peut dire que le docteur est responsable. Si, par exemple, il vous prenait l’envie de recommencer...

「ねえ、コッタールさん。納得してください。医師にとっての責任といえるのですよ。万が一、あなたがまたやりかねないとしたら・・・」

 

 

Mais Cottard dit, au milieu de ses larmes, qu’il ne recommencerait pas, que c’était seulement un moment d’affolement et qu’il désirait seulement qu’on lui laissât la paix. Rieux rédigeait une ordonance.

しかし、コッタールは涙にまみれながら、自分はもう同じ繰り返しはしない、一時の気の迷いに過ぎないので、ただそっとしておいてほしいだけだ、と言った。リウは処方箋を書いた。

 

 

・・・C’est entendu, dit-il. Laissons cela, je reviendrai dans deux ou trois jours. Mais ne faites pas de bêtises.

「了解しました。そういうことにしておきましょう。二、三日したらまた来ます。でも、馬鹿な真似はしないでくださいね。」と彼は言った。

 

 

Sur le palier, il dit a Grand qu’il était obligé de faire sa déclaration, mais qu’il demanderait au commissaire de ne faire son enquête que deux jours après.

階段の踊り場で、彼はグランに、届出義務はあるのだが、取り調べは二日後までは行わないように警察に申し入れておく、と言った。

 

 

・・・Il faut le surveiller cette nuit. A-t-il de la famille?

今夜は彼を監視しておく必要があります。彼には家族がいますか?

 

 

・・・Je ne la connais pas. Mais je peux veiller moi-même.
Il hochait la tête.

家族のことは知りません。でも、私が代わりに付き添えますから。
彼は首を縦に振った。

 

・・・Lui non plus, remarquez-le, je ne peux pas dire que je le connaisse.

Mais il faut bien s’entraider.

彼のことさえも、それがですね、知り合いだとは言えないのです。でも、お互いに助け合わなければならないですから。

 

註:

この場面はコッタールという謎の人物の自殺未遂の顛末で、劇的で印象的な展開が繰り広げられました。ただし、それまで読者の関心を引いていた怪事件は異常なネズミ共に係るものでした。ところが、この場面ではそれらとの繋がりの有無がいっそう不鮮明です。ネズミ共との関わりが、ここでも全く無関係でないかもしれないという、意味ありげな描写があります。

 

 

Dans les intervalles de la respiration, il lui semblait entendre des petits cris de rats.

(その息遣いの合間に、ネズミどものかすかな鳴き声が聞こえてくるように感じられたからだ。)

リウ医師にとってはまさに「声はすれども姿は見えず」であり、次々に発生する怪事件という姿には、まざまざと遭遇させられる一方で、病気の原因がさっぱりわからない、という不穏な状況を象徴しているかのようです。

 

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聖楽院主宰 テノール 飯嶋正広

 

武蔵野音楽大学別科声楽コース受験(2月11日・12日)

突然のご報告になりますが、私は音大を受験することになりました。


私は、バス歌手の岸本力先生とコンタクトを取り、昨年の12月12日に、はじめて個人レッスンを受けました。

 

なぜ、岸本先生かというと、先生が日本声楽コンクールで1位、チャイコフスキー国際コンクールでも日本人初の最優秀歌唱賞を受賞、ロシア大統領(当時)メドヴェージェフ氏から直接プーシキン・メダルを授与されたからではありません。

 

先生と初めて出会ったのが、二期会の夏季講習でしたが、その最初のレッスンで私が、ふとしたことで先生を怒らせてしまったことに端を発しています。先生はご記憶にないようですが、私はそのとき、雷の直撃を受けて、先生の魂の熱さは本物であることを実感したのでした。先生がなぜ、わが国でのロシア声楽の第一人者なのか、理屈抜きで腑に落ちたと瞬間ともいえるでしょうか。

 

先生は失意のどん底にあった若かりし日に、畑を耕しながら「ヴォルガの舟歌」というロシア民謡を口ずさんでたんですが、その歌が自分をすごく元気づけてくれた経験をお持ちです。歌いながら、「こんなにも自分を元気づけてくれる歌はない」と思ったほどだったとのことです。

 

そして、「非常に素朴で単純なメロディなんですが、力強く、土の匂いがする。そこにすごく熱いものを感じました。」と、さるインタビューで述懐されています。

 

そして、さらに

<私には、「本来のロシア民謡のニュアンスを伝える使命感」、「日本で知られていないロシア音楽を日本に伝えるという使命感」の二つの使命感あるんです。「自分がやらなければ誰がやる」という思いがあります。

『私は、ロシアの音楽はもちろん、暖かい心、耐え忍ぶ心を持ったロシア人が大好きですし、ロシアの風土も大好きです。私はロシアを心から愛してます。』>と表明されていました。これ程の迫力のある情熱的で真摯な声楽家のメッセージがあるでしょうか。

 

私はいずれ改めて岸本力先生の個人レッスンを受ける日が来ることを待ち望み、どうにかこうにか独学でロシア語のアルファベットが読めるようになって数年の後、ようやく時期が到来したわけです。

 

その初回レッスンの直後のことですが、岸本先生は、何としたことか私に武蔵野音大別科の受験を熱く勧められたのでした。これにはさすがに動揺しましたが、これも一種の有難い運命と観念して、決断した次第なのでした。

 

 

岸本力(きしもと-ちから)先生のプロフィール:

 

バス・声楽家。東京藝術大学卒業、同大学院修了。

昭和48年に日本フィル「第九」、大阪フィル「森の歌」でバス歌手としてデビュー。

昭和59年文化庁芸術祭優秀賞。平成22年文化庁長官表彰賞受賞。

平成24年当時、ロシア大統領であったメドベージェフ氏より、日本人歌手として初の「プーシキン・メダル」(ロシア文化勲章)を受章。

日本・ロシア音楽家協会副会長。

「二期会ロシア歌曲研究会」及び「二期会ロシア東欧オペラ研究会」代表。

日本におけるロシア音楽の第一人者。

 

前回はこちら

 

認定内科医、心療内科指導医・専門医、アレルギー専門医、リウマチ専門医、認定痛風医


飯嶋正広

 

「死亡診断書」と「死体検案書」のお話No2

 

 

主治医であっても死亡診断書を発行できないケースがあります。

たとえば、異状死は死亡確認後24時間以内に警察に届出る義務があります。

 

 

人はすべて、いずれ死を迎えることになり、医師も例外ではありません。自分自身の死亡診断書や死体検案書を書ける医師も存在しません。私自身もどなたか他の医師の御世話にならない限り、死亡診断書は発行されず、したがって埋葬許可も得られないということになるということを、改めて認識しなおしている次第です。

 

患者の死亡確認を行った後の対応の6つのケース

 

ケース1:

特段の基礎疾患の無い夫が、居間で死亡しているのを、帰宅直後に発見した医師である妻が発見し、救急車を呼ぶこともなく、所轄警察署に連絡した。〇

 

⇒医師法第21条は、「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」とあります。この事例の情報では、死体を検案したかどうかは不明です。

 

しかし、厚生労働省(平成31年2月8日医政医発0208第4号)はこれに対して、「医師が死体を検案するに当たっては、死体外表面に異常所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署に届け出ること」としています。

 

このケースでは、死亡者の妻は救急車を呼びませんでした。外観から明らかに死亡していると判断できるとき以外は、救急車を呼ぶことが基本となります。

 

ただし、明らかに死亡している場合、結論から申し上げれば「呼んでもいいが、出来れば呼ばない方が良い」です。なぜなら、救急車が自宅に到着したとしても、死亡していると判断されれば病院に救急搬送されることはなく、救急隊員から警察に連絡が行われ、警察が介入することになるからです。死亡者の妻は医師であるため、適切な対処行動をとったことになります。

 

 

ケース2:

熱射病のため入院していた患者が死亡した。熱射病の診断名で死亡診断書を交付した。✖

 

⇒ 診療中の患者の院内死亡例です。診療中の疾患による死亡もしくは内因性死因が確定できれば、熱射病は外因病です。したがって、熱射病での死亡は外因死です。

 

外因死の場合は、所轄警察署に届けることを要します。

外因死とは、外傷・中毒・窒息など、外部で生じた原因による死亡を意味します。その他、交通事故・火災・中毒・ 自殺・他殺 などの他、暑熱・寒冷などの物理的な環境作用による死亡もこれに含まれます。⇔内因死。

 

 

ケース3:

縊頸(首吊り)で心肺停止状態の患者が来院し、蘇生術に反応なく死亡を確認した。死亡診断書は交付せず、所轄警察署に連絡した。〇
    

⇒ 縊頸(首吊り)による死亡は、窒息による死亡ですから、明らかな外因死であり、しかも異状死です。したがって、所轄警察署への届け出を要します。

 

異状死とは、外因死、外因の後遺症(外因に関連して発症した肺炎、DIC、 蘇生後脳症などで、入院の有無、期間の長短問いません)、内因か外因か不明の死(診断のつかないCPA-OA症例 ・診療行為中の予期せぬ死)がこれに含まれます。

 

CPA-OA症例とは、新規患者の院内死亡などです。たとえば新型コロナワクチン接種による死亡が疑われる場合は、因果関係が明かでない場合であったとしても、内因か外因か不明の死ということになり、所轄警察署への届け出を要することになるはずですが、実際の運用については、私にはよくわかりません!

 

 

ケース4:

重症慢性心不全で通院中の患者を診察した。翌日に自宅で死亡していた。死後診察なしで慢性心不全の診断名で死亡診断書を交付した。〇


⇒ これは、診療継続中の患者の院外死亡例です。最終診療以後24時間以上経過していても遺体を診ることで診断書を発行できます。(医師法20条但し書き) また、死亡時の情報から内因性の死因の診断のついた例も死亡診断書を発行できます。

診察中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合、死亡の際に立ち会っていなかったとしても死亡診断書を交付することができます。

 

ところで、医師法第20条は「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方箋を交付し、自ら出産に立ち会わないで出産証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない」としています。

これに対して厚生労働省(昭和24年4月14日厚生省医務局長通知医発第385号)は、「死亡診断書は、診察中の患者が死亡した場合に交付されるものであるから、その者が診察中の患者であった場合は、死亡の際に立ち会っていなかった場合でもこれを交付することができるが、この場合においては法第20条の本文の規定により、<原則として死亡後改めてしなければならない>としています。

ただし、例外として<診察中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に限り、改めて死後診断をしなくても死亡診断書を交付し得る」としています。

 

 

ケース5:

来院時心肺機能停止患者が救急外来で死亡した。画像検査の結果から急性大動脈解離による死亡と考えられた。急性大動脈解離の診断で死亡診断書を交付した。〇

 

⇒この事例は、新規患者の院内死亡(CPA-OA症例を含む)例に相当します。救急外来に搬送されてきた心肺機能停止患者も診察中の患者に含まれます。

 

そして、診察中の患者が病死であり、かつ異常がないと判断すれば、死亡診断書を交付することができます。画像などの検査所見やその他の診療情報から内因性の死因が確定できる例は、初診から24時間以内の死亡でも死亡診断書を発行できます。

 

 

ケース6:

肺癌末期状態で往診対応中の患者の様子がおかしいと家族から連絡があり、訪問したところ、患者は死亡していた。体表面に外傷痕が見られた。死亡診断書は交付せず、所轄警察署に連絡した。〇

 

⇒「体表面に外傷痕が見られた」ということは、外因による外傷ということです。

医師が往診時に、すでに「患者は死亡していた」場合の体表面の観察を検案といいます。

検案によって異状を認めれば、所轄警察署への通報が必要です。

 

ここで「検案」とは、いわゆる東京都立広尾病院事件の東京高裁判決にあるように「医師が、死亡した者が診察中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するためにその死体の外表を検査すること」をいい、簡単に言えば、死体の体表面を観察することです。

また「診察中の患者であっても、それが他の別個の原因、例えば交通事故等により死亡した場合は、死体検案書を交付することになる。死体検案書は、診察中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるものである」としています。

 

前回はこちら

 


水氣道実践の五原理・・・集団性の原理(起論)

 

(教習不岐・環境創造の原則)

 

水氣道における段級位制度の特質とその意義

 

段位及び級位はそれぞれ武道や芸道、スポーツ、遊戯において現在の技能、過去の実績などの段階を示すものとされています。

たとえば、将棋の奨励会などのように能力(勝率)などが上がれば昇級し、下がれば降級する制度の場合、段級位は現在の実力の目安といえます。

 

しかし、将棋のプロ棋士の段位をはじめ多くの段級位制はタイトル奪取、大会優勝、試験合格、経験年数、勝数、授与者の裁量などで昇級するが、能力が衰えても基本的に降級しません。この場合は、段級位は現在の実力というより、過去の実績や、その世界での序列を示していると認識することができるでしょう。

 

水氣道においても、段位及び級位は現在の技能、過去の実績などの段階を示すものなのですが、組織における役割の種別を示すものでもあるということがより重要になってきます。

 

一般的に、段位は級位の上位にあり、初級者は級位から取得し、段位の認定を目指すことになります。段位は、例外もありますが、初段(「一段」という表記は慣例的に用いられていません)にはじまり、十段を最高位とする10段階で構成されていることが多いです。

たとえば剣道はかつて十段までありましたが、2000年に九段、十段は廃止され現在では八段を最高段位としています。

 

水氣道の段位は、十段を最高位としますが、現段階では正七段が最高位で、それ以上は空位になっております。

その理由は、水氣道が発展途上であり、組織規模も小さいものだからです。

 

それにもかかわらず、段の階級が細分化されていることが特徴になっています。

たとえば、初段も4階級あり、少初段下⇒少初段上⇒大初段下⇒大初段上というふうに昇格していくことになります。その理由は、水氣道の段位は、後で詳しく説明しますが、現行の一般的な段位とは異なる独自の意味があるからです。

 

武道における段位制は、柔道(講道館柔道)を興した嘉納治五郎が明治時代に講道館を設立する際に囲碁・将棋を参考として導入しました。その際、段位を帯の色で表すことにしました。

 

水氣道では稽古帽の色と階級条線であらわしていますが、これは柔道の帯の色というよりも、直接的には冠位十二階の古式を参考にしたものです。

 

その他の武道にも段級制度が広まったのは、講道館や警視庁が採り入れたのが契機となっています。また古武道においては、示現流が古くより初度、両度、初段、二段、三段、四段と段階を呼称しています。これは段階的な修行が行われ各段階で学ぶ内容があることから他流での切紙・目録などの修得段階を示すものと同じですが、一般的な段位制とは異なる内容になっています。

 

水氣道でも修行が行われる各段階で修得する技能があり、これらを「航法」と呼びならわしています。そして、定期的に「航法」の習得状況を見極めたうえで、認定証を発行しています。これは古武道における切紙・目録に相当するものです。こうした実績が昇段のための必須の基準の一つとしています。

 

現在では多くの武道で段級位制が使われていますが、これは戦前の日本において、武道の振興、教育、顕彰を目的として活動していた財団法人大日本武徳会が各武道を段級位制で統一したためです。

 

ただし、水氣道の段位制には水氣道独自の役割と機能をもたせているため、現代社会で一般的に普及しているこれらの段位制とは区別しています。水氣道の段級制は日本古来の位階制(冠位制や律令における階位制)や軍隊の階級制に倣っています。これは、水氣道が集団性の原理に基づき、<教習不岐の原則>を打ち立てていることと密接な関係があります。

 

水氣道の<教習不岐の原則>とは、教育者と学習者とを二分割しないという水氣道独自の哲学に基づく原理です。これは、教え導くことと、学び習うこととは、一貫した修行であるという考え方です。単に個人としての能力(勝率)などが上がれば昇級し、下がれば降級する制度とは本質的に異なります。

 

大小の稽古集団において、その階級と能力に応じて、学び習うことだけではなく、他者を教え導く経験と技能を、水氣道は重視しているからなのです。つまり、その階級にふさわしい能力の評価は、教え導くことと、学び習うことの両方の能力が調和しているかどうか、ということに掛かってくるということになります。

 

上級者から十分に学び習うことができなければ、下級者を適切に教え導くことができないことは明らかですが、逆に、下級者を適切に教え導くことができていなければ、その人の学びや習い方は未熟である、と水氣道では判断しているからなのです。