こころの健康(身心医学)

 

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認定内科医、心療内科指導医・専門医、アレルギー専門医、リウマチ専門医、認定痛風医


飯嶋正広

 

「死亡診断書」と「死体検案書」のお話No2

 

 

主治医であっても死亡診断書を発行できないケースがあります。

たとえば、異状死は死亡確認後24時間以内に警察に届出る義務があります。

 

 

人はすべて、いずれ死を迎えることになり、医師も例外ではありません。自分自身の死亡診断書や死体検案書を書ける医師も存在しません。私自身もどなたか他の医師の御世話にならない限り、死亡診断書は発行されず、したがって埋葬許可も得られないということになるということを、改めて認識しなおしている次第です。

 

患者の死亡確認を行った後の対応の6つのケース

 

ケース1:

特段の基礎疾患の無い夫が、居間で死亡しているのを、帰宅直後に発見した医師である妻が発見し、救急車を呼ぶこともなく、所轄警察署に連絡した。〇

 

⇒医師法第21条は、「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」とあります。この事例の情報では、死体を検案したかどうかは不明です。

 

しかし、厚生労働省(平成31年2月8日医政医発0208第4号)はこれに対して、「医師が死体を検案するに当たっては、死体外表面に異常所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署に届け出ること」としています。

 

このケースでは、死亡者の妻は救急車を呼びませんでした。外観から明らかに死亡していると判断できるとき以外は、救急車を呼ぶことが基本となります。

 

ただし、明らかに死亡している場合、結論から申し上げれば「呼んでもいいが、出来れば呼ばない方が良い」です。なぜなら、救急車が自宅に到着したとしても、死亡していると判断されれば病院に救急搬送されることはなく、救急隊員から警察に連絡が行われ、警察が介入することになるからです。死亡者の妻は医師であるため、適切な対処行動をとったことになります。

 

 

ケース2:

熱射病のため入院していた患者が死亡した。熱射病の診断名で死亡診断書を交付した。✖

 

⇒ 診療中の患者の院内死亡例です。診療中の疾患による死亡もしくは内因性死因が確定できれば、熱射病は外因病です。したがって、熱射病での死亡は外因死です。

 

外因死の場合は、所轄警察署に届けることを要します。

外因死とは、外傷・中毒・窒息など、外部で生じた原因による死亡を意味します。その他、交通事故・火災・中毒・ 自殺・他殺 などの他、暑熱・寒冷などの物理的な環境作用による死亡もこれに含まれます。⇔内因死。

 

 

ケース3:

縊頸(首吊り)で心肺停止状態の患者が来院し、蘇生術に反応なく死亡を確認した。死亡診断書は交付せず、所轄警察署に連絡した。〇
    

⇒ 縊頸(首吊り)による死亡は、窒息による死亡ですから、明らかな外因死であり、しかも異状死です。したがって、所轄警察署への届け出を要します。

 

異状死とは、外因死、外因の後遺症(外因に関連して発症した肺炎、DIC、 蘇生後脳症などで、入院の有無、期間の長短問いません)、内因か外因か不明の死(診断のつかないCPA-OA症例 ・診療行為中の予期せぬ死)がこれに含まれます。

 

CPA-OA症例とは、新規患者の院内死亡などです。たとえば新型コロナワクチン接種による死亡が疑われる場合は、因果関係が明かでない場合であったとしても、内因か外因か不明の死ということになり、所轄警察署への届け出を要することになるはずですが、実際の運用については、私にはよくわかりません!

 

 

ケース4:

重症慢性心不全で通院中の患者を診察した。翌日に自宅で死亡していた。死後診察なしで慢性心不全の診断名で死亡診断書を交付した。〇


⇒ これは、診療継続中の患者の院外死亡例です。最終診療以後24時間以上経過していても遺体を診ることで診断書を発行できます。(医師法20条但し書き) また、死亡時の情報から内因性の死因の診断のついた例も死亡診断書を発行できます。

診察中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合、死亡の際に立ち会っていなかったとしても死亡診断書を交付することができます。

 

ところで、医師法第20条は「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方箋を交付し、自ら出産に立ち会わないで出産証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない」としています。

これに対して厚生労働省(昭和24年4月14日厚生省医務局長通知医発第385号)は、「死亡診断書は、診察中の患者が死亡した場合に交付されるものであるから、その者が診察中の患者であった場合は、死亡の際に立ち会っていなかった場合でもこれを交付することができるが、この場合においては法第20条の本文の規定により、<原則として死亡後改めてしなければならない>としています。

ただし、例外として<診察中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に限り、改めて死後診断をしなくても死亡診断書を交付し得る」としています。

 

 

ケース5:

来院時心肺機能停止患者が救急外来で死亡した。画像検査の結果から急性大動脈解離による死亡と考えられた。急性大動脈解離の診断で死亡診断書を交付した。〇

 

⇒この事例は、新規患者の院内死亡(CPA-OA症例を含む)例に相当します。救急外来に搬送されてきた心肺機能停止患者も診察中の患者に含まれます。

 

そして、診察中の患者が病死であり、かつ異常がないと判断すれば、死亡診断書を交付することができます。画像などの検査所見やその他の診療情報から内因性の死因が確定できる例は、初診から24時間以内の死亡でも死亡診断書を発行できます。

 

 

ケース6:

肺癌末期状態で往診対応中の患者の様子がおかしいと家族から連絡があり、訪問したところ、患者は死亡していた。体表面に外傷痕が見られた。死亡診断書は交付せず、所轄警察署に連絡した。〇

 

⇒「体表面に外傷痕が見られた」ということは、外因による外傷ということです。

医師が往診時に、すでに「患者は死亡していた」場合の体表面の観察を検案といいます。

検案によって異状を認めれば、所轄警察署への通報が必要です。

 

ここで「検案」とは、いわゆる東京都立広尾病院事件の東京高裁判決にあるように「医師が、死亡した者が診察中の患者であったか否かを問わず、死因を判定するためにその死体の外表を検査すること」をいい、簡単に言えば、死体の体表面を観察することです。

また「診察中の患者であっても、それが他の別個の原因、例えば交通事故等により死亡した場合は、死体検案書を交付することになる。死体検案書は、診察中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるものである」としています。