からだの健康(心身医学)

 

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内科認定医、心療内科指導医・専門医 飯嶋正広


血液病学と循環器病学の接点

 

<抗血栓療法の微妙な戦略>No2

 

抗血栓療法のあらまし

血栓症の原因としては、血管壁の異常、血流の異常の他に、血液凝固の亢進があるため、抗血栓薬の使用の意義があります。血栓には動脈血栓、静脈血栓、心腔内血栓、人工弁血栓などがありますが、種類によって、血栓薬を使い分ける必要があります。
抗血小板療法が適応になるのは動脈血栓です。これに対して抗凝固薬が適応になるのは、静脈血栓、心腔内血栓、人工弁血栓などです。


たとえば、前回紹介したアスピリンは抗血小板薬に分類され、血小板の凝集を抑制する働きをもっています。

鎮痛解熱薬として広く用いられているアスピリンは、抗血小板薬としては少量投与で用いられます。

そのため、高熱を来した際に通常量もしくは過量を用いると、血小板の凝集を過剰なまでに抑制し、出血リスクを大きく高めてしまうことになるため、注意の喚起が必要です。

 

残念なことに、新型コロナウイルスに感染して発症し、高熱を来した方の中には、こうした解熱鎮痛薬を解熱目的で過量に服用して、出血をはじめ、症状を増悪させたり、不幸な転帰をとることになったりした方も少なくなかったように思われます。

 

消化性潰瘍のある方に対してアスピリンは禁忌とされる他に、消化性潰瘍の無い方へ投与する場合でも、その発症リスクを有するため、投与に際しては、適宜、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃酸分泌抑制薬が併用されています。

 

それでも抗血小板薬が必要な病態がいろいろあります。抗血小板薬の適応は、不安定狭心症、心筋梗塞・脳血管障害の二次予防、冠動脈ステント・バイパス術後などです。
アスピリン以外の抗血小板薬には、チエノピリジン系抗血小板薬をはじめ、種々の薬剤があります。

とくに、播種性血管内凝固症候群(DIC)という重篤な病態に際しては、ヘパリン(低分子ヘパリンを含む)、ダナパノイド、トロンボモデュリン、ガベキサート/ナファモスタット、アンチトロンビンⅢを病態によって血液病専門医にとっても容易でない微妙な使い分けが必要となってきます。

 

COVID-19はまさに全身病変を引き起こしました。

この原因に係るのが全身臓器に分布するACE2受容体です。ウイルス感染によりサイトカイン(細胞から放出されて,免疫作用・抗腫瘍作用・抗ウイルス作用・細胞増殖や分化の調節作用を示すタンパク質の総称)が放出されますが、これが過剰となりサイトカイン・ストーム(サイトカインの嵐)に至ると、組織の酸素代謝がうまくいなくなり、SIRS (全身性炎症反応症候群)となり、播種性血管内凝固症候群(DIC)を来し、多臓器障害(MODS)を発症させて死に至る重篤な病態をもたらします。

 

ですから、抗血小板薬の使用が必要になる狭心症や心筋梗塞などの病気で、治療のために冠動脈ステントを使用している患者さんがCOVID-19に感染すると、循環器専門医にとっても容易ならざる事態となりがちです。次回は、その話をします。