『水氣道』週報

 

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水氣道実践の五原理・・・集団性の原理(起論)

 

(教習不岐・環境創造の原則)

 

水氣道における段級位制度の特質とその意義

 

段位及び級位はそれぞれ武道や芸道、スポーツ、遊戯において現在の技能、過去の実績などの段階を示すものとされています。

たとえば、将棋の奨励会などのように能力(勝率)などが上がれば昇級し、下がれば降級する制度の場合、段級位は現在の実力の目安といえます。

 

しかし、将棋のプロ棋士の段位をはじめ多くの段級位制はタイトル奪取、大会優勝、試験合格、経験年数、勝数、授与者の裁量などで昇級するが、能力が衰えても基本的に降級しません。この場合は、段級位は現在の実力というより、過去の実績や、その世界での序列を示していると認識することができるでしょう。

 

水氣道においても、段位及び級位は現在の技能、過去の実績などの段階を示すものなのですが、組織における役割の種別を示すものでもあるということがより重要になってきます。

 

一般的に、段位は級位の上位にあり、初級者は級位から取得し、段位の認定を目指すことになります。段位は、例外もありますが、初段(「一段」という表記は慣例的に用いられていません)にはじまり、十段を最高位とする10段階で構成されていることが多いです。

たとえば剣道はかつて十段までありましたが、2000年に九段、十段は廃止され現在では八段を最高段位としています。

 

水氣道の段位は、十段を最高位としますが、現段階では正七段が最高位で、それ以上は空位になっております。

その理由は、水氣道が発展途上であり、組織規模も小さいものだからです。

 

それにもかかわらず、段の階級が細分化されていることが特徴になっています。

たとえば、初段も4階級あり、少初段下⇒少初段上⇒大初段下⇒大初段上というふうに昇格していくことになります。その理由は、水氣道の段位は、後で詳しく説明しますが、現行の一般的な段位とは異なる独自の意味があるからです。

 

武道における段位制は、柔道(講道館柔道)を興した嘉納治五郎が明治時代に講道館を設立する際に囲碁・将棋を参考として導入しました。その際、段位を帯の色で表すことにしました。

 

水氣道では稽古帽の色と階級条線であらわしていますが、これは柔道の帯の色というよりも、直接的には冠位十二階の古式を参考にしたものです。

 

その他の武道にも段級制度が広まったのは、講道館や警視庁が採り入れたのが契機となっています。また古武道においては、示現流が古くより初度、両度、初段、二段、三段、四段と段階を呼称しています。これは段階的な修行が行われ各段階で学ぶ内容があることから他流での切紙・目録などの修得段階を示すものと同じですが、一般的な段位制とは異なる内容になっています。

 

水氣道でも修行が行われる各段階で修得する技能があり、これらを「航法」と呼びならわしています。そして、定期的に「航法」の習得状況を見極めたうえで、認定証を発行しています。これは古武道における切紙・目録に相当するものです。こうした実績が昇段のための必須の基準の一つとしています。

 

現在では多くの武道で段級位制が使われていますが、これは戦前の日本において、武道の振興、教育、顕彰を目的として活動していた財団法人大日本武徳会が各武道を段級位制で統一したためです。

 

ただし、水氣道の段位制には水氣道独自の役割と機能をもたせているため、現代社会で一般的に普及しているこれらの段位制とは区別しています。水氣道の段級制は日本古来の位階制(冠位制や律令における階位制)や軍隊の階級制に倣っています。これは、水氣道が集団性の原理に基づき、<教習不岐の原則>を打ち立てていることと密接な関係があります。

 

水氣道の<教習不岐の原則>とは、教育者と学習者とを二分割しないという水氣道独自の哲学に基づく原理です。これは、教え導くことと、学び習うこととは、一貫した修行であるという考え方です。単に個人としての能力(勝率)などが上がれば昇級し、下がれば降級する制度とは本質的に異なります。

 

大小の稽古集団において、その階級と能力に応じて、学び習うことだけではなく、他者を教え導く経験と技能を、水氣道は重視しているからなのです。つまり、その階級にふさわしい能力の評価は、教え導くことと、学び習うことの両方の能力が調和しているかどうか、ということに掛かってくるということになります。

 

上級者から十分に学び習うことができなければ、下級者を適切に教え導くことができないことは明らかですが、逆に、下級者を適切に教え導くことができていなければ、その人の学びや習い方は未熟である、と水氣道では判断しているからなのです。