『聖楽院』便り

 

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聖楽院主宰 テノール 飯嶋正広

 

武蔵野音楽大学別科声楽コース受験(2月11日・12日)

突然のご報告になりますが、私は音大を受験することになりました。


私は、バス歌手の岸本力先生とコンタクトを取り、昨年の12月12日に、はじめて個人レッスンを受けました。

 

なぜ、岸本先生かというと、先生が日本声楽コンクールで1位、チャイコフスキー国際コンクールでも日本人初の最優秀歌唱賞を受賞、ロシア大統領(当時)メドヴェージェフ氏から直接プーシキン・メダルを授与されたからではありません。

 

先生と初めて出会ったのが、二期会の夏季講習でしたが、その最初のレッスンで私が、ふとしたことで先生を怒らせてしまったことに端を発しています。先生はご記憶にないようですが、私はそのとき、雷の直撃を受けて、先生の魂の熱さは本物であることを実感したのでした。先生がなぜ、わが国でのロシア声楽の第一人者なのか、理屈抜きで腑に落ちたと瞬間ともいえるでしょうか。

 

先生は失意のどん底にあった若かりし日に、畑を耕しながら「ヴォルガの舟歌」というロシア民謡を口ずさんでたんですが、その歌が自分をすごく元気づけてくれた経験をお持ちです。歌いながら、「こんなにも自分を元気づけてくれる歌はない」と思ったほどだったとのことです。

 

そして、「非常に素朴で単純なメロディなんですが、力強く、土の匂いがする。そこにすごく熱いものを感じました。」と、さるインタビューで述懐されています。

 

そして、さらに

<私には、「本来のロシア民謡のニュアンスを伝える使命感」、「日本で知られていないロシア音楽を日本に伝えるという使命感」の二つの使命感あるんです。「自分がやらなければ誰がやる」という思いがあります。

『私は、ロシアの音楽はもちろん、暖かい心、耐え忍ぶ心を持ったロシア人が大好きですし、ロシアの風土も大好きです。私はロシアを心から愛してます。』>と表明されていました。これ程の迫力のある情熱的で真摯な声楽家のメッセージがあるでしょうか。

 

私はいずれ改めて岸本力先生の個人レッスンを受ける日が来ることを待ち望み、どうにかこうにか独学でロシア語のアルファベットが読めるようになって数年の後、ようやく時期が到来したわけです。

 

その初回レッスンの直後のことですが、岸本先生は、何としたことか私に武蔵野音大別科の受験を熱く勧められたのでした。これにはさすがに動揺しましたが、これも一種の有難い運命と観念して、決断した次第なのでした。

 

 

岸本力(きしもと-ちから)先生のプロフィール:

 

バス・声楽家。東京藝術大学卒業、同大学院修了。

昭和48年に日本フィル「第九」、大阪フィル「森の歌」でバス歌手としてデビュー。

昭和59年文化庁芸術祭優秀賞。平成22年文化庁長官表彰賞受賞。

平成24年当時、ロシア大統領であったメドベージェフ氏より、日本人歌手として初の「プーシキン・メダル」(ロシア文化勲章)を受章。

日本・ロシア音楽家協会副会長。

「二期会ロシア歌曲研究会」及び「二期会ロシア東欧オペラ研究会」代表。

日本におけるロシア音楽の第一人者。