関節リウマチで当院通院中の40代の女性が、他の病院の人間ドックで肝機能障害を指摘され、その原因はリウマチの治療薬によるものではないかと疑って相談を受けました。

 

まじめに内服を続けられ、治療反応も良好であったため、使用していた2種類の抗リウマチ薬のうちメトレキサートは1週間に1回1カプセル(2㎎)のみとなり、サラゾスルファピリジンも通常投与量の半量(1日500㎎)でコントロール可能となっておりました。

 

本人は一切飲酒せず、正常体重であり、まずアルコール性肝障害は除外され、また生活習慣病による脂肪肝の可能性は低いうえに、ウイルス性肝炎でないことはすでに確認済みでした。

そのため、少量投与とはいえ本人が内服している抗リウマチ薬(メトレキサートとサラゾスルファピリジン)のいずれか、あるいは両方による薬物性肝障害を疑うのも尤もです。

確かに、いずれの薬剤も注意すべき副作用として肝障害が挙げられているため、無理はありませんでした。

 

自己免疫性肝炎では20%程度が肝硬変であり、3~5%に肝細胞癌が合併します。幸い、腹部超音波検査では、脂肪肝等は見出せず、肝硬変や肝癌の所見もありませんでした。

 

追加して実施した血液検査では、抗核抗体640倍(基準値≦40倍)、IgG3,280㎎/dl(基準値≦1,700)でした。抗核抗体は、全身性エリテマトーデス(SLE,陽性率ほぼ100%)、混合性結合組織病(同ほぼ100%)、全身性硬化症(80-90%)、シェーグレン症候群(70-90%)、多発性筋炎/皮膚筋炎(50-80%)では陽性率が高く、関節リウマチ患者でも40%程度に見られます。

 

この患者さんの肝機能障害の原因が、薬物性肝障害なのか、自己免疫性肝障害なのかの臨床的鑑別は困難であるため、転院先の病院で肝組織検査を受けていただくことになりました。

 

組織による病理検査によって、自己免疫性肝炎の診断が得られ、副腎皮質ステロイド薬の内服が開始されました。

その間、抗リウマチ薬は継続しておりましたが、肝機能は徐々に改善していったようです。

ただし、副腎皮質ステロイド薬の長期投与は、必然的に骨粗鬆症(ステロイド骨粗鬆症)を招くことになるため、新たな副作用対策が必要となります。

 

遠方への転居のため更なる転医をされたために、連絡が途絶え、その後の経過は不明です。

あらゆる肝障害、とりわけ急性あるいは慢性の肝障害を見出した場合に常に念同に置くべき肝疾患の一つが自己免疫性肝炎です。

これは中年以降の女性に好発する慢性肝炎で、その発症に自己免疫機序が関与すると考えられていますが原因不明です。

 

そして自己免疫性肝炎には特異的な診断根拠となる検査はないため、国際診断基準などをもとに診断します。

その過程の中で、肝障害をもたらす他の原因を除外する必要があります。

そのなかで、もっとも苦慮するのが薬物性肝障害です。その理由は、薬物性肝障害も、やはり除外診断をしながら診断基準から推定していくからです。

 

また、自己免疫性肝炎症例の約1/3に他の自己免疫性疾患の合併が認められ、慢性甲状腺炎(橋本病)、シェーグレン症候群、関節リウマチなどがその代表です。

 

そのため、私は、は、自己免疫性肝炎とは、アレルギーやリウマチ膠原病の専門知識があって、かつ、すべての肝障害を熟知していなければ診断できない、極めつけの肝炎であると考えています。

 

典型的な自己免疫性肝炎であれば、少なくとも抗核抗体もしくは抗平滑筋抗体が陽性、免疫グロブリンIgG高値となります。

しかし、やっかいなことに、抗核抗体が低力価(もしくは陰性)かつIgGも正常な症例もあるので、それだけでは診断の決め手にはなりません。

つまり、血液検査情報だけでは、診断を絞り込むことは困難です。そのような場合は、肝組織検査が必須となり、入院設備を持つ病院へ紹介する必要があります。

 

自己免疫性肝炎の予後は、治療例では進行例が少なく死亡率も高くないため一般的には良好です。しかし、複数回の再燃を繰り返す症例や無治療例では進行は早く、肝硬変に進展することも稀ではありません。

 

それでは次回は、実際に経験した自己免疫性肝炎の症例について振り返ってみたいと思います。

 

<明日につづく>

私が医学生だった頃には、おそらく非B非C型肝炎として一括りにされたウイルス性肝炎が、その後、次々に同定されました。その一つがE型肝炎です。

 

30年以上も外来診療を続けてきた間に、ひょっとすると一例ぐらいは紛れ込んでいた可能性は否定できませんし、今後は遭遇する可能性が増えるのではないかと考えています。

 

急性E型肝炎の診断にはIgA型HEV抗体(定性)が保険診療で検査することが可能になったのは2011年からです。つまり、言い換えれば、2011年以前では、たとえ急性E型肝炎を疑ったとしても、日常診療で診断を確定することは、実際上不可能であったということになります。

 

従来、E型肝炎は熱帯、亜熱帯地域でウイルスが混入した糞便に汚染された水を摂取することにより感染すると考えられていました。

そして南アジアでは雨季の洪水後の井戸水汚染がHEV流行に寄与して、水系感染を増やしています。

地球の温暖化や輸入食肉の増加による日本での発生の影響を懸念します。

ただし、日本では、水系感染よりもE型肝炎ウイルス(HEV)に感染したブタ(肉やレバーを含む)、イノシシ、シカなどの食肉を十分加熱調理しないで経口摂取して感染した事例が報告され、人畜共通感染症として注目されるようになりました。

 

臨床的にはA型肝炎と類似点が多いです。潜伏期は15~50日(平均6週)で、E型急性肝炎は高齢者で重症しやすいようです。

 

 

HEV感染により劇症肝炎を発症して死亡する割合は1~2%ですが、水系感染を含めて妊婦が感染すると死亡率が10~20%に上昇するという報告もあります。

豪雨による河川の氾濫などによって、どのくらいリスクが増えるのかも気になるところですが、確かなデータはありません。

 

E型肝炎は感染症法では4類感染症に指定されているため、診断した医師はただちに届け出る義務があります。

 

40代男性。最近、筋力低下骨の痛みが生じたため、痛風やリウマチを疑い当科の受診となりました。

 

症状や経過が典型的な痛風でも関節リウマチでもないため、最初は関節リウマチ以外の膠原病や神経疾患を疑いました。病的反射を含め神経系統の異常は認めませんでした。

 

血圧は正常でしたが、尿検査で糖(+)でした。

そこで、詳細な問診を行なうと、これまでに血糖値が高いことはなかったし、糖尿病も指摘されたことが無いとのことでした。

ただし、B型慢性肝炎で某大学病院の消化器科の肝臓病専門医を定期受診していることがわかりました。

 

薬についてお尋ねすると、抗B型肝炎ウイルス薬であるアデホビル(ヘプセラ®)ラミブジン(ゼフィックス®)の併用療法であることが確認できました。これはラミブジン治療で耐性が生じたために、アデホビルの併用を開始したものと想定しました。

 

ラミブジンは長期投与で耐性ウイルスの出現(5年で70%)と副作用の問題があるため、現在では第一選択薬としては用いられなくなりました。

耐性というのは病原体に対する薬が効かなくなるということです。しかし、アデホビルで初期治療をはじめても5年で30%の耐性が生じてしまいます。そのため、近年のガイドラインでは最初から両者を併用することによって耐性出現を減らすように推奨しています。

 

なおアデホビルの副作用として肝臓病専門医が常に念頭に置いているはずなのが、腎機能障害(近位尿細管障害)低リン血症です。

 

低リン血症は通常無症候性ですが,重度の慢性欠乏状態では食欲不振,筋力低下骨軟化症が生じる可能性がある他、重篤な神経筋障害が起こることがあり、これには進行性脳症、痙攣、昏睡、死亡が含まれるため看過できません。

 

この患者さんは、筋力低下、骨の痛みとB型肝炎治療薬との関係性はまったく想起していなかったため、忙しそうな肝臓病の担当医に報告せずにいたようでした。

 

血液検査の結果、肝機能や空腹時血糖値はほぼ正常範囲、HBV(B型肝炎)のDNAも検出できませんでしたが、血清クレアチニンの上昇(⇒腎機能障害)および血清リンの低下(=低リン血症)が確認されました。

 

アデホビルによって腎の近位尿細管が障害されると低リン血症の他、ファンコーニ症候群を呈することがあります。

 

リン、尿酸などとともにブドウ糖の再吸収障害が生じるため、尿検査で糖が検出されたことが説明できます。低リン血症が生じると骨軟化症から骨折、骨痛筋力低下などが生じます。

 

以上の検査結果に所見を加えた報告書を患者さんから担当の肝臓病専門医にお渡ししたところ、感謝のお手紙が届きました。

 

 (図1)

スクリーンショット 2020-01-07 時刻 12.46.41

JFIQは線維筋痛症の経過観察に欠かせない指標です。

 

 

最高点が100点で、20点未満が正常値になります。

 

 

 (図1)は左側が初期時の点数、右側が現在の点数でその2点を結んだものです。

 

 

 図2)

スクリーンショット 2020-01-07 時刻 12.46.20

 

 

 

(図2)は線維筋痛症の治療効果の割合を表したものです。

 

 

 50以上点数が下がると「著効」です。

 

 

 20以上50未満点数が下がると「改善」です。

 

 

 20未満の点数の低下は「無効」の判定となります。

 

 

<今回の考察>

 

 

正規性の検定で初期値、現在値共に正規性がありました。

 

 

その後、関連2群の検定と推定を行いました。

 

 

1)統計的にみて、JFIQスコアが有意に改善したことが証明されました。P(危険率)=0.001%でした(図1)

 

 

pが0.05以下であれば統計学的優位である。

 

 

pが0.01以下であれば統計学的に極めて優位である。

 

 

2)JFIQスコアの判定基準として、20点以上改善されると治療が有効、50点以上改善されると著効となります。

 

 

  今回、 14名の平均で  32.6点改善していたため、全体として鍼治療は   有効であったと言えます。

 

 

個別でみると、著効3名(16.7%)、有効8名(44.4%)、無効3名(16.7%)でした。(図2)

 

 

 

杉並国際クリニック 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

初診後5日ほど経って再診した際には、幸いに咳はだいぶ軽くなっていましたが、まだ空咳は続いていました。

 

本症例のように、長引く咳に関して、日本呼吸器学会の『咳嗽に関するガイドライン』では、咳の持続期間により、①急性咳嗽(発症から3週間以内)、②遷延性咳嗽(発症から3~8週)、③慢性咳嗽(発症から8週以上)に分類して、それぞれのアプローチ法を示しています。

 

本症例の咳嗽は、すでに発症3週間を過ぎているので、すでに①急性咳嗽ではなく、②遷延性咳嗽に該当します。

 

その場合には、まず感染性疾患なのか非感染性疾患なのかを鑑別することになっていますが、ガイドラインというものは、えてして2者択一的なのがよろしくありません。

 

なぜなら、原因が重なる場合がありえることを完全に無視してしまいがちだからです。

 

乾性咳嗽の原因が、2つ以上重なっていて、一方が感染性、もう一方が非感染性という可能性があるということを実際に経験することになりました。

 

患者さんのお薬手帳を確認すると、使用している降圧剤はACE阻害薬(ロンゲス®)でした。実は、この薬の副作用として有名なのが空咳(乾性咳嗽)なのです。

 

これは、非感染性疾患で、厳しく言えば医原病です。そこで、ついでに本人に挙児希望(赤ちゃんが欲しいという希望)があるかについても尋ねてみました。

すると、昨年結婚してすぐに妊娠したが流産してしまったこともあり高齢出産になる前に子供が欲しいとのことでした。

 

そこで、降圧剤の変更を提案しました。なぜならば、ACE阻害薬は胎児死亡が多く、妊娠の可能性がある女性では使用すべきではないからです。

ACE阻害薬を徐々に減量しながら中枢性交感神経抑制薬メチルドパ水和物(アルドメット®)を少量から加えて行く方法で、最終的にはACE阻害薬を中止することができました。

 

この間には、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、それぞれの抗体検査は陰性で、百日咳抗体のみ陽性であり、百日咳感染症が疑われました。

 

診断の確実性を高めるためには、ペア血清といって、再検して抗体の増加を確認するのですが、その頃には、咳は完全に収まってしまい周囲に対する感染の危険性もなくなったため実施しませんでした。

 

感受性のある抗菌薬を使用した場合、百日咳の治療開始後5~7日で百日咳菌は陰性となるからです。

 

 

患者さんは、症状ごとに自分の判断で各専門医を受診するといった、ごく普通と思われている受診行動をとっています。

 

しかし、体は一つであること、病気の原因は一つとは限らないことをしっかりと学ばれたようです。

 

「これからは何でも報告しますので、主治医としてお願いいたします。」とおっしゃったまましばらく音信が途絶えましたが、ある日、高円寺のパル商店街を駅に向かうと、赤ちゃんをおんぶしている彼女とすれ違い、明るい声と感謝の言葉を掛けていただきました。

 

<完>

鎮咳薬を内服したが改善なく、咳が3週間止まらない30代女性(その1)

 

 

3週間前から痰を伴わない咳(乾性咳嗽といいます)が続いているというので来院されました。

 

手持ちの鎮咳薬の内服を1週間続けても改善しないため、病院の呼吸器内科を受診し、胸部や副鼻腔のエックス線検査を受け、異常がないとのことで、試みに気管支拡張薬を処方されたとのことでした。

 

乾性咳嗽は、なおも続き、夜間に咳嗽で覚醒するなど次第に発作性に咳き込むようになり、嘔吐しそうになるとのことで、再度受診したところ、今度は喘息の疑いで吸入ステロイド剤が処方され、さっそく吸入を開始したが全く改善が見られず、3週目に知人から当院を紹介されて来院されました。

 

血圧120/82㎜Hg、脈拍数78回/分。これまでの臨床症状としては、急性気管支炎が疑われました。

 

しかし、すでに急性期は過ぎていて、体温は平熱で、聴診にて呼吸音は清で、喘鳴や副雑音も聴取しませんでした。呼吸機能検査も正常でした。

 

 

3週間以内の咳嗽の場合、胸部エックス線検査で異常がなく、発熱、CRP上昇、上気道カタル症状(いわゆる鼻汁、喀痰を伴う水っぽい風邪症状)のいずれもが見られない場合には、アレルギー素因や気道過敏性などの有無を確認します。

 

前医では、それらを見いだせないまま気管支喘息や咳喘息を疑っていたようでした。

 

しかし、私は上気道カタル症状に限定せず、感冒様症状が持続するならば、普通感冒、肺炎(マイコプラズマ、クラミジアなど)、百日咳、急性副鼻腔炎などを疑うべきであると考えています。

 

副鼻腔のエックス線検査は異常なしであったので急性副鼻腔炎は否定的であったため、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、百日咳を疑い、それぞれの抗体検査を行ないました。

 

 

その後、改めて服薬状況を尋ねてみると、高血圧のため降圧剤を使用しているとのことが判明しました。しかし、お薬手帳を持参されておらず、薬剤名も把握されていなかったため、帰宅後に確認して連絡をいただくことにしました。

 

患者さんは、<血圧は落ち着いているのになぜ余計な細かい質問をするのか>、と言いたげな迷惑そうな表情でした。

 

処方としては、已むを得ずマクロライド系抗菌薬アジスロマイシン(ジスロマック®)のみを3日分処方しました。

この薬は、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、百日咳のいずれにも効く可能性があります。

 

しかし、急性気管支炎という病名では保険が効きますが、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎、百日咳という病名では保険は通りません。

 

このあたりが臨床実務のやりにくいところです。もう一つの問題は、耐性菌についてです。とくにマイコプラズマ肺炎は、歩いて来院する肺炎として有名ですが、近年、マクロライドの効かないマクロライド耐性マイコプラズマが分離され問題になっています。

 

<明日につづく>

肝機能障害を認めたために問診方法に苦渋した50代男性(その3)

 

血液検査の結果は、AST、ALT、γ-GTPなど肝酵素値が400を超えた高値、IgM型HA抗体0.2、IgM型HBe抗体3.0、HCV抗体陰性でした。

 

2年前の検査でHBs抗原が陰性であったことを確認したため、急性肝炎、しかもB型急性肝炎と診断しました。

 

 

日本においてB型肝炎キャリアの多くは母児感染によるものです。そのためキャリアの家族内集積が起こりえるので、家族歴を確認したところ、母親を含む家族にB型肝炎患者は一人も見出せませんでした。

 

そして、成人のB型肝炎の主要な感染経路は性交渉なので、性生活について敢えて尋ねたところ、月に1回程度風俗店に通い、性交を避けて直接のオーラルセックスの提供だけを受けていたとのことでした。

性交を避ければ性病を免れることができると誤解していたことも判明しました。

 

患者さんは、「自分はエイズに罹ってしまったのでしょうか」と言って怯えだしたので、血液検査が必要であり、保健所では無料で実施してくれることもお伝えしました。

 

そして、B型肝炎は、1%程度で劇症化があり、致死率が高いことを慎重に伝え、念のため従来の病院へ入院精査をも想定して問いあわせました。

 

その後、幸いにHIV抗体検査は陰性でエイズ罹患はなく、発症後、約1カ月でB型肝炎ウイルス量が減少して治癒に向かったとのことでした。

 

<完>

 

肝機能障害を認めたために問診方法に苦渋した50代男性(その2)

 

数日前より全身倦怠感、食欲不振があるため、初めて来院された方は、定期通院中の病院の循環器科から降圧剤、内分泌代謝科から血糖降下剤の処方を受けていました。

 

「検査は来月、いつもの大きな病院でするので、だるさと食欲不振だけでも何とかしてほしい」と何度も切望され困り果てました。

 

とはいえ、適切な治療のためには系統的な診察は重要です。右季肋部に軽度の圧痛に加えて右肋骨部を軽く叩打すると明らかな痛みを訴えました。そこで直ちに肝炎を疑い、とりわけ非アルコール性脂肪肝炎を疑いましたが、患者本人が持参した前月の血液検査の肝酵素はいずれも正常範囲でした。

 

それでも、最低限度の検査の必要性を説いて実施した胸部X線写真では異常はありませんでした。また、糖尿病が合併しているので、まず脂肪肝を疑い腹部超音波検査で確認したところ、軽度の脂肪肝は認めました。

 

諸症状の進展が短期間であるため血液検査で肝機能と急性肝炎に関与するウイルス項目を調べました。

 

ウイルス性肝炎の診断をする場合に問題なのは、A、B、C、D、Eの5種類のウイルスのうち、わが国で検査できるのが、A、B、Cの3種類のみであることです。D型は不完全ウイルスであり、B型ウイルスとの共存でのみ増殖できるので、B型ウイルス肝炎でない限り問題はありません。ただし、E型肝炎は人畜共通感染症であり、十分に加熱調理されていない猪、豚、鹿の肉あるいはレバーを食したときに感染することがあるので、食生活の問診が重要です。ジビエ料理は好きだが数年前からは食していないとのことでした。

 

<明日につづく>

肝機能障害を認めたために問診方法に苦渋した50代男性(その1)

 

数日前より全身倦怠感、食欲不振があるため、初めて来院された方でした。

 

体温37.0℃(平熱36.2℃)、脈拍数84/分、血圧134/88㎜Hg(普段と変わらず)、身長172㎝、体重88㎏. 尿検査で糖(⧺)、蛋白(+)、潜血(-)、pH6.5.眼瞼結膜は貧血なし、眼球結膜は黄疸なし.頸部リンパ節は蝕知せず.心音・呼吸音に異常なし.腹部は全体的にやや膨満、右季肋部に軽度の圧痛、ただし、筋性防禦や反跳痛は認めませんでした。

 

肝硬変などで見られる羽ばたき振戦はみられず、その他神経学的な異常も認めませんでした。

 

尿検査で明らかに糖(⧺)が検出されたため、受診歴を尋ねたところ、某総合病院の内分泌代謝科に受診中とのことでした。

 

糖尿病治療薬グリベンクラミド(オイグルコン®)、高血圧治療薬アムロジピン(ノルバスク®)を処方され内服継続中であることがわかりました。また主治医の勧めにしたがい最近はほとんど飲酒していないとのことでした。

 

患者さんは、「検査は不要なので、だるさと食欲不振だけでも何とかしてほしい」と切望されました。だるさと食欲不振の背景には、何らかの原因があるはずです。低血圧や糖尿病患者にみられがちな低血糖症状ではなさそうでした。


<明日につづく>