1月14日 忘れてはならないB型肝炎

40代男性。最近、筋力低下骨の痛みが生じたため、痛風やリウマチを疑い当科の受診となりました。

 

症状や経過が典型的な痛風でも関節リウマチでもないため、最初は関節リウマチ以外の膠原病や神経疾患を疑いました。病的反射を含め神経系統の異常は認めませんでした。

 

血圧は正常でしたが、尿検査で糖(+)でした。

そこで、詳細な問診を行なうと、これまでに血糖値が高いことはなかったし、糖尿病も指摘されたことが無いとのことでした。

ただし、B型慢性肝炎で某大学病院の消化器科の肝臓病専門医を定期受診していることがわかりました。

 

薬についてお尋ねすると、抗B型肝炎ウイルス薬であるアデホビル(ヘプセラ®)ラミブジン(ゼフィックス®)の併用療法であることが確認できました。これはラミブジン治療で耐性が生じたために、アデホビルの併用を開始したものと想定しました。

 

ラミブジンは長期投与で耐性ウイルスの出現(5年で70%)と副作用の問題があるため、現在では第一選択薬としては用いられなくなりました。

耐性というのは病原体に対する薬が効かなくなるということです。しかし、アデホビルで初期治療をはじめても5年で30%の耐性が生じてしまいます。そのため、近年のガイドラインでは最初から両者を併用することによって耐性出現を減らすように推奨しています。

 

なおアデホビルの副作用として肝臓病専門医が常に念頭に置いているはずなのが、腎機能障害(近位尿細管障害)低リン血症です。

 

低リン血症は通常無症候性ですが,重度の慢性欠乏状態では食欲不振,筋力低下骨軟化症が生じる可能性がある他、重篤な神経筋障害が起こることがあり、これには進行性脳症、痙攣、昏睡、死亡が含まれるため看過できません。

 

この患者さんは、筋力低下、骨の痛みとB型肝炎治療薬との関係性はまったく想起していなかったため、忙しそうな肝臓病の担当医に報告せずにいたようでした。

 

血液検査の結果、肝機能や空腹時血糖値はほぼ正常範囲、HBV(B型肝炎)のDNAも検出できませんでしたが、血清クレアチニンの上昇(⇒腎機能障害)および血清リンの低下(=低リン血症)が確認されました。

 

アデホビルによって腎の近位尿細管が障害されると低リン血症の他、ファンコーニ症候群を呈することがあります。

 

リン、尿酸などとともにブドウ糖の再吸収障害が生じるため、尿検査で糖が検出されたことが説明できます。低リン血症が生じると骨軟化症から骨折、骨痛筋力低下などが生じます。

 

以上の検査結果に所見を加えた報告書を患者さんから担当の肝臓病専門医にお渡ししたところ、感謝のお手紙が届きました。