10月16日(金)
第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学
本日は、当クリニックに多い関節リウマチの治療中の皆様にとっては、特に大切なお話をいたします。
B型肝炎ウイルス(HBV)は、へパドナウイルス科に属するDNAウイルスの一種です。
複製の過程で肝細胞のDNAポリメラーゼという複製酵素を利用して前ゲノムRNAを転写し、これを鋳型として使うことによって、ウイルスのDNAポリメラーゼを逆転写酵素として働かせてDNAへと逆転写させます。
HBVは、こうして、ひとたび肝細胞に感染すると核内に複製中間体である二本鎖閉鎖環状DNA(cccDNA)が生産され、ミニ染色体として存在し続けます。
そのため血中HBs抗原が持続的に陰性を示しても感染細胞自体が排除されない限りHBVの完全排除は困難です。
成人で急性B型肝炎の慢性化率は、B型肝炎ウイルスの遺伝子型(genotype)により異なります。
現在ではわが国での急性B型肝炎の半数を欧米型のgenotype Aが占めていますが、これは発症後12カ月でのHBs抗現陽性率が7.5%であり、慢性化し易いことが知られています。
これに対してgenotype Bによる急性肝炎は頻度は少ないが、プレコア変異を伴う場合があり、その場合は劇症化し易いので注意を要します。
またB型肝炎ウイルス(HBV)陽性者からの肝癌発生率は非発生者と比べて200倍を超える相対危険率を示しています。B型慢性肝炎においては、血中HBV-DNA量が肝細胞癌発生の有意な危険因子となります。核酸アナログを投与することは肝発癌を抑制します。
わが国では遺伝子型Cが最も多く、次いで遺伝子型BのB型肝炎ウイルスが多いですが、肝細胞癌を発症するのは遺伝子型CのB型肝炎ウイルス陽性例に多いです。
HBs抗原はB型肝炎ウイルス(HBV)が産生するウイルスの表面蛋白です。
これはHBVの活発な増殖と関連します。HBs抗原量は年齢とともに年率1~2%減少します。
血中のHBs抗原の陰性化はHBVの複製低下や停止に伴って生じます。ただし、HBV遺伝子が変異することによって、見かけ上で陰性となる場合があるので注意を要します。
そこで肝炎の鎮静化という点では、HBe抗原からHBe抗体へと転換するセロコンバージョンが目安として重要です。HBe抗原消失は年率7~16%にみられます。
HBe抗原のセロコンバージョンには、
1) HBVの増殖低下に伴うHBe抗原産生の減少、
2) プレコア領域のG1896A変異(停止コドン)になり、HBe抗原の産生停止、
3) コアプロモーター領域のA1762T/G1764A変異(プレコアm-RNAの転写低下)になり、HBe抗原の低下
などが関与します。
2)、3)はHBe抗原のセロコンバージョンが生じても、変異ウイルスによる複製能が維持されるため、HBe抗体陽性肝炎の進展に関与していると考えられます。
その場合、HBV-DNAの高値が持続する場合は、HBe抗体陽性慢性肝炎として病期の進行がみられ抗ウイルス薬治療の対象となります。
HBc抗体は既往感染と現在の感染の両方で陽性となります。通常、現在の感染で高力価陽性となります。
そこで、HBs抗原またはHBV・DNAが陽性なら現在の感染、両者とも陰性であれば既往感染と判定されます。
ただし、B型肝炎の重症例では、強い免疫応答が生じるため、発症早期となります。
その場合はHBs抗原が陰性になることがあるため診断が難しくなるので注意を要します。
B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアのー急性増悪は、IgM-HBc抗体が上昇したとしても低力価であることが一般的なので注意を要します。
現在HBVのde novo 肝炎が問題となっています。
これは、それまで臨床的には治癒状態と考えられていた既往感染例(HBs抗原陰性かつHBc抗体またはHBs抗体陽性例)において核内のcccDNAからウイルスが再増殖して生じる肝炎のことです。
de novo肝炎は既往感染例に強力な免疫抑制・化学療法によって免疫が抑制されて生じます。
劇症肝炎亜急性型の報告が多く、初感染のB型急性感染に比して予後は不良です。
なお、HBV再活性化リスクは、HBVの感染状態と使用薬剤による免疫抑制の程度で規定されます。
杉並国際クリニックにおける今後の改善点
当クリニックは、リウマチ専門医として関節リウマチの診療をしております。
関節リウマチの病気の性質は自己免疫疾患といって、免疫の異常が原因となっています。
そのため、関節リウマチをはじめとする自己免疫疾患である膠原病の治療薬としては、免疫に働きかける薬を用いています。
つまり、リウマチ治療は、一般的に免疫を抑えてしまうのです。
そのなかでも、アザルフィジン®やリマチル®などのいわゆる「免疫調節薬」というタイプの薬剤であれば、免疫を抑える力は強くはないので、肝炎ウイルスの再活性化を引き起こす可能性は極めて低いと思われます。
これに対してリウマトレックス®などの「免疫抑制薬」そしてレミケード®などの「生物学的製剤」を使用する可能性がある場合は、必ずB型肝炎の検査を実施していきたいと考えています。
そのため、この免疫抑制療法を行う前に必ず行わなくてはいけない検査が複数あります。その中でもB型肝炎に関しては、リウマチ治療によって死亡例も報告されています。必ず事前に検査をする必要があります。
B型肝炎の検査も一般的な健康診断などで行われている肝機能検査の項目だけでは不十分です。リウマチ学会のガイドラインでは、① HBs抗原 ② HBs抗体 ③ HBc抗体の3種類の抗体を必ず検査するよう推奨されています。
① HBs抗原(+)
これはウイルス量が多い状態です。
あらかじめB型肝炎ウイルスを抑える治療が必要です。
リウマチ治療の前に速やかに肝臓専門医を紹介いたします。
② HBs抗原(-) HBs抗体(+) HBc抗体(-)
事前に病歴を聴取をしておきますが、HBs抗体のみ(+)のケースは、感染ではなくワクチン接種による抗体獲得の場合があります。その場合は、リウマチ治療を開始することができます。
③ HBs抗原(-) HBs抗体(+) HBc抗体(+)
ワクチン接種歴がなく、HBs抗体・HBc抗体が(+)の方は既感染パターンと言って、過去にウイルス感染をしたが、現在はウイルスの活動性が抑えられている状態です。
一度B型肝炎に暴露されている限り、ごく僅かながら体の中にウイルスが残っている可能性が高いのであって、B型肝炎が完治したわけではありません。そして、リウマチ治療をすることによって、この抑えこまれていたウイルスが大暴れ(再活性化)し、劇症肝炎という非常に致死率の高い肝炎を発症するケースが報告されています。
ですから、この既感染パターンの時には、次にHBV-DNA定量検査を行います。これはHBs抗原よりも検出感度の優れた検査で、ごく僅かなウイルス量でも確認することができます。
この検査である一定以上のウイルス量が確認された場合には、やはりリウマチ治療に先行して肝炎の治療をする必要があります。
HBV-DNA定量検査で検出感度以下の場合には、リウマチ治療を先行し、随時ウイルス量をチェックします。そして、ウイルス量が上昇してくるようなら、ウイルスを抑える治療を併用いたします。
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