国家試験より易しい肝臓専門医認定試験問題No4

1第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学 

 

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昨日までのおさらいをしてみます。B型慢性肝炎の患者さんが最近、筋力低下、骨の痛みが生じるようになったので受診しました。しかし、B型慢性肝炎だけでは、筋力低下や骨の痛みは生じることは少ないです。B型慢性肝炎であるということを前提に考えるのであれば、慢性肝炎が肝硬変、さらには肝癌に至ることがあるので担当医は、まずそれを疑うことでしょう。

 

肝硬変になっても代償期という段階では、肝機能障害に基づく明らかな症状はみられませんが、それが非代償期にまで進展してしまうと肝機能低下に伴い肝でアルブミン蛋白や血液凝固因子などの重要な生体物質合成能力が低下します。

それに伴い黄疸、浮腫・腹水をはじめ貧血や出血傾向を生じ、体力も低下するため、筋力低下がもたらされることがあります。

さらに肝硬変から肝癌が発生すると全身倦怠感が強くなることがあり、筋力低下は生じる可能性はあります。

骨の痛みは説明がつかないので、その場合は、さらに転移性肝癌を一応考えます。

 

肝癌の転移は門脈を介しての肝内転移が最も多く、遠隔転移としては肺への血行転移が多く、それに次いで骨転移があります。骨転移があれば骨の痛みを生じることになります。

 

しかし、その場合の観察のポイントは、腹水や肝性脳症といった症状の有無とその程度、血清のアルブミンやビリルビン値、プロトロンビン時間などですが、提示症例のデータには示されていません。

また、一般血液検査や血清生化学検査でも特段の異常を認めないため、肝硬変や肝がんを強く疑う必要はないということになります。

 

そのような場合には、慢性肝炎その他の治療薬を確認することと、慢性肝炎以外の疾患を疑うことになります。とくに骨の痛みを訴える場合には、骨組織の基質となるカルシウムやリンの代謝の異常を確認する必要があります。

 

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45歳の男性。B型慢性肝炎に対しアデホビルとラミブジン併用療法を行なっている。

 

3カ月前の検査では

赤血球450万/μl,

ヘモグロビン14.1g/dl,

白血球4,800/μl,

血小板18.9万/μl,

AST25IU/l, ALT28IU/l,

γ-GTP32IU/l,

HBV-DNA検出せず,

 

であったが,最近,筋力低下,骨の痛みが生じたため受診した。

 

 

考えられる血液検査異常はどれか。

 

a.クレアチニン上昇 b.リン低下 c. γ-GTP上昇 d.ALT上昇 e.亜鉛低下

 

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本日は実際の試験問題の問いを加えて、医学クイズにチャレンジしてみることにします。

 

血液検査異常の有無について、データがすでに与えられているは、d.ALTのみです。これは、かつてGPTと表記され、肝機能の評価の上では最も重要な指標で、5~40単位が基準です。ALT28IU/lというデータは基準値以内で問題ありません。

 

肝臓に関連する検査項目としては、他にc. γ-GTPが選択肢に挙げられています。この項目は人間ドックでもおなじみの項目のはずですが、上昇している場合は、1)肥満、2)アルコール摂取、3)薬剤の使用などを振り返ってみる必要があります。提示された問題症例の情報内では3)薬剤がもっとも考えられます。すなわち、薬剤性肝障害の合併を疑います。

 

ただし、薬剤性肝障害の場合は、通常ALTもしくはALPが基準値の2倍以上となり、ALTが正常範囲である場合は、肝細胞型の薬剤性肝障害の可能性は低いです。また、仮にγ-GTPが上昇しているとしても、筋力低下や骨の痛みという臨床症状には結びつきません。
 

治療薬の副反応(副作用)に注目すべきなのは、肝機能異常の他には腎機能異常です。その場合、使用している薬剤が代謝されるのが肝臓なのか腎臓なのかがポイントになります。

腎蔵で代謝される薬剤を用いるためには、定期的に腎機能を評価しておく必要があります。

そして腎機能の評価指標として最も重要なマーカーはa.クレアチニンです。クレアチニンが上昇しているということは、腎機能障害が生じていることを示唆します。

そして、昨日の解説で説明したように、様々な腎機能障害の中でも特に腎の近位尿細管障害がもたらされると、低リン血症を生じます。低リン血症は、骨軟化症を来し、骨折、骨痛、筋力低下などを生じます。

 

アデホビルとラミブジンの併用療法は、抗B型肝炎ウイルス薬のアデホビルは、ラミブジンおよびエンテカビル耐性ウイルス株に対して用いることがガイドラインで推奨されています。

とくにアデホビルはB型肝炎ウイルスの増殖を伴い肝機能の異常が確認されたB型慢性肝疾患およびB型肝炎ウイルスの増殖抑制のために用いられます。しかし、腎不全、ファンコーニ症候群等の重度腎障害、骨軟化症、骨折、乳酸アシドーシスおよび脂肪肝をもたらすことがあります。

その他、クレアチニンの上昇(1~2%)、無力症(1%以下)などが生じます。定期的に血清リンとALPを検査することが推奨されています。 

 

これに対してラミブジンはB型慢性肝炎の他に肝硬変にも有効ですが、投与終了後にウイルス再増殖に伴い肝機能の悪化や肝炎重症化がみられることがあるため、HBV-DNA,ALT,T-Bilなどの定期検査が必要となります。しかし、腎機能障害は指摘されていません。
 

最後に、e.亜鉛についてですが、これは最近、注目されているミネラルです。血清亜鉛低下によってもたらされる症状は亜鉛欠乏症候群として知られています。成人では、味覚障害、食欲不振、下痢、鉄剤不応性貧血、骨粗鬆症などの慢性症状が主体です。本症例では、筋力低下,骨の痛みが主であり、これら典型的な亜鉛欠乏症候群の臨床症状はみられていません。
 

以上より本症例で考えられる血液検査異常は a.クレアチニン上昇 b.リン低下
ということになります。