今月のテーマ<呼吸器の特定内科診療>
慢性閉塞性肺疾患(+肺がん)
80代の男性。「痰混じりの咳が出て息苦しい」とのことで長男の嫁に連れられて来院。
お話を伺うと、二日前に痰混じりの咳が始まり、
だんだん息苦しくなってきたとのことでした。
すでに20年以上も前から、少し動くと息が苦しくなっていたそうです。
お耳が遠いせいか、息苦しいとおっしゃる割には大きな声で話をされ意識は清明でした。
喫煙は50本/日を50年間
(⇒ブリンクマン係数=50×50=2,500:最重度の喫煙者、肺癌の可能性あり。)
身長165㎝、体重47㎏(BMI=17.3:低栄養)。
呼吸数28/分。体温37.8℃。
経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)86%(⇒低酸素血症)
診察所見:頸静脈が怒張、胸郭がビア樽状。
両側の胸部に喘鳴(ゼーゼー)と粗い水泡音(プツプツ)を聴取
胸部レントゲン検査:肺の過膨張、肋間腔の拡大、横隔膜の平低化滴状心
(両方の肺が拡張して両側から心臓を圧迫している状態)
肺動脈主幹部の拡大、肺の上部の正常の陰影が薄い。
心臓の陰影に重なる半円形の異常陰影。
ただちに、禁煙をおすすめしたところ、
「タバコが俺の生き甲斐。患者の生き甲斐を奪わずに治すのが仁術じゃないんすか。
まどろっこしい説教はたくさん。すぐになんとかしてくれ。」とおっしゃる。
そこで、「わかりました。
たしかに、いまから急いでタバコを止める必要はなくなる可能性もあります。
その代り、約束していただきたいことが一つだけございます。
精密検査が必要ですので、紹介先の病院を直ちに受診してください。」
とお答えしました。
レントゲンの正面のフィルムに部分的に見えた影が、
どうも質の悪そうな顔をしていました。
すぐに側面像を追加で撮影したかったのですが、
正面のフィルムを貸出すことにとどめて、
そのあとの検査は紹介先の病院にお願いすることにしました。
長男の嫁からの報告:「先生からお借りしたフィルムをお返しに参りました。
先生が心配されていた通り、義父は、肺がんでした。
永年吸っていたタバコのせいで肺気腫がひどくなっていた上に、
肺がんにかかり、気管の空気の通りが悪くなったところへ、さらに感染症を併発し、
敗血症から多臓器不全を起こして昨夜亡くなりました。」
とのご報告でした。
立て板に水のようなご報告だったので、それとなく伺ってみると、
彼女は某大学病院の呼吸器科病棟の看護師長とのことでした。
かなり前から、義父を高円寺南診療所に受診させたいと思っていらして、
やっと首を縦に振ってくれた矢先の悲しく残念なできごとでした。