― 掌膝・側膝・臀踵の三航法で「沈静・安定・再生」を育む ―
【総論】第一基礎航法とは
第一基礎航法(三航法)は、水気道の入口となる体験航法の中核であり、
水中で「安全に沈み、安心して揺れ、静かに再生していく」ための身体的基盤(postural base)をつくる稽古である。
第一基礎航法は、いずれも股関節屈曲・膝関節屈曲位を共通フォームとし、
- 掌膝航法:膝が斜め前方外側の水面に向かう
- 側膝航法:膝が真横の水面に向かう
- 臀踵航法:踵が後方の水面に向かう
という三つの方向ベクトルから構成されている。
第一基礎航法(指導員用)
この三航法を通じて、
- 前方:沈静と安心(掌膝)
- 横方向:側方安定と協調(側膝)
- 後方:循環と再生(臀踵)
という三つの治療的位相を、水中で安全に体験していくのが第一基礎航法の役割である。
支援員は、「難しい理論」を直接説明する必要はない。
大切なのは、参加者が
「水に支えられている感じがする」
「横に揺れても大丈夫だと感じる」
「身体が軽く、あたたかくなってきた」
といった主観的な安心感と変化を味わえるように、フォーム・呼吸・スピード・声かけを丁寧に整えることである。
Ⅰ.第一航法 掌膝航法 ― 浮力を受け入れて「沈静」する
- 技法の本質
掌膝航法は、「水に支えられる身体」を取り戻すための技法である。
- 両前腕(または掌)を水面に置く。
- 片脚ずつ、膝を掌の高さに近づけるように、ゆっくり斜め前方外側へ持ち上げる。
- 呼気とともに身体全体がわずかに沈み、吸気でふわりと浮き上がる感覚を味わう。
「頑張って脚を上げる稽古」ではなく、
浮力に身を預けながら、ゆっくり膝が掌に近づいてくるのを待つ稽古である。
- 支援員の声かけのポイント
- 「水に支えられている感じを探してみましょう」
- 「息を吐くときに、そっと沈んでみます」
- 「吸うときに、少しだけ体が軽くなるのを感じてください」
- 「脚は高く上げなくてよいので、痛くない範囲で静かに動かしましょう」
- 適応と効能(支援員向けまとめ)
表1 掌膝航法の適応と効能(支援員用)
支援員は、掌膝航法を
「まずここから始める、心と身体のブレーキ稽古」
と理解しておけばよい。
Ⅱ.第二航法 側膝航法 ― 横にひらき、「倒れない安心」を育てる
- 技法の本質
側膝航法は、横方向の揺らぎに対しても倒れない身体=側方安定性を育てる技法である。
- 基本姿勢から、股関節・膝関節を同時に屈曲し、
- 母趾が外側(真横)を向くように脚全体を配向する。
- 膝は真横の水面に向かってゆっくり浮かせる。
- 膝の向きにつられて、上半身も少し同じ側に回る(同側回旋)。
この回り方には個人差があってよい。
第一基礎航法(指導員用)
ポイントは、「横に揺れても、水と脚と体幹が協力して支えてくれている」
という感覚を体験することである。
- 支援員の声かけのポイント
- 「膝と足の親指を、横の水面に向けるつもりで、そっと持ち上げます」
- 「上半身も、少しだけ同じ側に向きたくなったら、自然に任せてかまいません」
- 「ぐらっとしても、すぐ戻れれば大丈夫です。小さく揺れる練習です」
- 「右と左で違ってもかまいません。いまの自分のクセを知る時間です」
- 適応と効能(支援員向けまとめ)
表2 側膝航法の適応と効能(支援員用)
支援員は、側膝航法を
「横に揺れても倒れない、転倒予防と対人不安ケアの中間技法」
として位置づけるとわかりやすい。
Ⅲ.第三航法 臀踵航法 ― 後ろから支えられ、「再生」していく
- 技法の本質
臀踵航法は、身体の後ろ側(背面)の循環と再生を促す技法である。
- 股関節をおおむね伸展位に保ったまま、
- 膝を屈曲し、踵を臀部に近づけるようにゆっくり曲げる。
- 踵全体としては、後方の水面方向へ向かって浮き上がる動きになる。
この動きにより、
- ハムストリング
- 大殿筋
- 腰背部の筋群
が協調して働き、「身体の後ろから支えられている」感覚が生まれる。
- 支援員の声かけのポイント
- 「かかとを、おしりのほうに、ゆっくり近づけてみましょう」
- 「からだの後ろ側(ふともも裏・おしり・腰)が、やさしく動き出すのを感じてください」
- 「呼吸と合わせて、すこし上がって、すこし沈む…というリズムを味わいましょう」
- 「無理に高く曲げなくて大丈夫です。痛くないところで、小さく続けていきます」
- 適応と効能(支援員向けまとめ)
表3 臀踵航法の適応と効能(支援員用)
支援員は、臀踵航法を
「後ろから押してもらうような、水中のリハビリと再生の技法」
として理解しておくとよい。
Ⅳ.第一基礎航法(三航法)の位置づけと使い分け
- 三航法の簡易比較(支援員用)
表4 第一基礎航法(三航法)の比較(支援員用まとめ)
- 稽古の進め方(基本の流れ)
支援員は、参加者の状態に応じて、次のような流れを基本としてよい。
- 掌膝航法
- まず「沈静」と「親水」をつくる。
- 不安が強い人・水に慣れていない人は、ここを丁寧に長めに行う。
- 側膝航法
- 安心感が出てきたら、横方向の揺らぎと側方安定を育てる。
- 転倒不安・歩行不安がある人、高齢者には特に重要。
- 臀踵航法
- 最後に、背面の循環と再生を促す。
- 腰痛・冷え・慢性疲労のある人に、無理のない範囲で導入する。
「落ち着く → 横に揺れても大丈夫になる → 後ろから支えられて前に進める」
という三段階が、第一基礎航法のイメージである。
Ⅴ.支援員へのメッセージ
第一基礎航法は、指導員にとっては
神経・免疫・体液・心理を統合する治療技法としての側面をもつ。
しかし、支援員に求められているのは、
それを難しい言葉で説明することではなく、
- 安全なフォームを守ること
- 呼吸と動きを急がせないこと
- 参加者の表情・息づかい・揺れ方をよく見ること
- 「それで大丈夫です」「いまのくらいで十分です」と安心を伝えること
である。
第一基礎航法(三航法)は、水気道のすべての航法の入り口であり、基礎体温であり、地ならしである。
支援員自身もまた、これら三航法を通じて、自分の浮心・重心・安心を日々確かめながら、参加者とともに「動く治療」と「動く祈り」の時間を共有していってほしい。
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