第一基礎航法(修錬生用)テキスト

第一基礎航法(修錬生用)テキスト


―「三方向の屈曲航法」を通して、軸・呼吸・揺らぎを読む―

 

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Ⅰ.修錬生の役割と目的


修錬生の学びは、訓練生の「説明する」段階を超え、「観察し、整え、深める」段階に入る。


第一基礎航法(三航法)は、すべて股関節屈曲・膝関節屈曲位を共通フォームとし、

• 掌膝航法:膝が斜め前方外側の水面に向かう

• 側膝航法:膝が真横の水面に向かう

• 臀踵航法:踵が後方の水面に向かう

という三方向ベクトルで構成されている。

 

第一基礎航法(支援員用)修錬生は、この三航法について

1. 動作の“内側”を理解する
 筋連動、軸、呼吸、浮力・重力・水圧の関係


2. 他者の動作を観察し、必要最小限の言葉で“調整”する


3. 教えることを通して、自身の身体理解を深める(教習一致)


ことを目標とする。


訓練生が「説明できる人」なら、


修錬生は 「動きを読み取れる人」 である。

 

 


Ⅱ.第一航法:掌膝航法(しょうしつこうほう)


― 浮力と重力の交点を“聴き取る”技法 ―


1.修錬生が理解すべき内部構造

• 膝を掌の高さまで上げる瞬間、
浮力・重力・呼吸が交わる中庸点が生まれる。


• 主動筋:腸腰筋(股関節屈曲)


• 拮抗筋:大殿筋・ハムストリング(伸展側)
→ これらが**等張的協調(過剰収縮でも脱力でもないバランス)**をとる。


• 呼吸曲線:
 呼気 → わずかな屈曲・沈降(重心が沈む)
 吸気 → わずかな伸展・浮上(浮力が勝つ)

この「沈」と「浮」の往還が動作を導く。


• 上半身は「固定」ではなく、
胸郭の余裕と肩の脱力を保ちながら、静かに支える。

 


2.修錬生が観察するポイント

• 膝の高さが掌とほぼ一致しているか
 高すぎる:軸が崩れ、腸腰筋の過緊張/呼吸の浅さが出やすい
 低すぎる:浮力が活かされず、単なる「脚上げ運動」になりやすい


• 手(前腕)の高さが水面上で安定しているか
 手が沈み込んでいたら、上半身が支え切れていないサイン


• 呼吸の“切り替え点”
 吸→吐、吐→吸の転換が、動きと滑らかに連動しているか


• 股関節と体幹の連動
 股関節のみの局所運動になっていないか
 腰椎が反りすぎたり、胸郭が固まりすぎたりしていないか

 


3.修錬生が行う“調整の助言”の例


• 「膝を急いで上げるのではなく、水が持ち上げてくるのを待つつもりで動いてみてください」


• 「掌が水面の“天井”になります。膝がそこにふれる瞬間を探してみましょう」


• 「肩の力を抜いて、胸の前に少し空間を残してみてください」


• 「吐くときに、体がそっと沈む感じを、吸うときに少し軽くなる感じを意識してみましょう」


掌膝航法の本質は、“受容の中にある上昇” を見抜くことである。

 

 


Ⅲ.第二航法:側膝航法(そうしつこうほう)


― 側方安定と“倒れない揺らぎ”を読む技法 ―


1.修錬生が理解すべき内部構造

• 共通フォーム:股関節屈曲+膝関節屈曲位


• 母趾が外側(真横)を向くように下肢全体を配向し、膝は真横の水面に向かってゆっくり浮上する。

 


第一基礎航法(支援員用)

• 膝関節の挙上方向にしたがって、躯幹軸は同側へ回旋する。
 この同側回旋の角度は、股関節屈曲位での外旋可動域によって個人差が生じる。


• 主に関与する筋・構造
 中殿筋・小殿筋・梨状筋など股関節外転/外旋筋群

 大腿筋膜張筋・腸脛靱帯(下肢外側の張力)

 腰方形筋・腹斜筋群・脊柱起立筋側方線維(体幹の側屈・回旋)

 支持脚側の足関節・膝関節周囲筋(側方バランス保持)

 

• 水中では、浮力と水抵抗によって
股関節-骨盤-体幹の連鎖パターンがスローモーション化され、「横に揺れながらも倒れない軸」が観察しやすくなる。

 


2.修錬生が観察するポイント

1. 膝・母趾の向きと軌道
 母趾が真横を向いているか(前や後ろに流れすぎていないか)


 膝の挙上軌道が、
 掌膝のように前に流れていないか
 臀踵のように後ろに流れていないか

 

2. 体幹の同側回旋と側屈
 膝の向きに合わせて体幹が少し同側に回っているか
 回旋ゼロ(完全固定)でもなく、過剰なねじれでもないか

 


3. 支持脚側の安定性
 支持脚の膝・足関節がガチガチに固まっていないか
 小さな横揺れを微調整で受け止めているか、
あるいは大きくぐらついてしまうか

 


4. 左右差と恐怖感
 右と左で、挙上高さ・外旋角度・体幹回旋にわかりやすい左右差がないか
 特定側のみ顔がこわばる・力が抜けないなど、心理的な防衛反応が出ていないか

 


3.修錬生が行う“調整の助言”の例


• 「膝と足の親指を、真横の水面に向けて、ゆっくり持ち上げてみてください」


• 「上半身が、膝の向きに少しつられて回っても大丈夫です。今のくらいで十分です」


• 「ぐらっとしても、すぐ戻れればOKです。小さく揺れる練習だと思ってください」


• 「右と左で違っていてもかまいません。いまの自分の“クセ”に気づくことが一歩目です」

 


4.修錬生が特に見るべき「タイプ差」


• 外旋が出にくいタイプ
 母趾がやや前を向き、体幹の回旋もほとんど出ない。
 助言例:
 「いま出ている角度で十分です。少しだけ横に開く感覚を味わってみましょう」
 「膝の高さは低めで良いので、揺れても戻れる範囲を探してみてください」


• 外旋が出すぎるタイプ
 母趾が後外方を向き、体幹が大きくねじれる。
 助言例:
 「とても柔らかいので、あえて真横で止める美しさを意識してみましょう」
 「今の半分くらいのねじれで、どこまで安定が保てるか試してみてください」

側膝航法の本質は、
「横に揺れながらも倒れない」側方安定と、その人固有の揺らぎパターンを読み解くことである。

 

 


Ⅳ.第三航法:臀踵航法(でんしょうこうほう)


― 動作と呼吸を融合し、水気を“循環”として捉える技法 ―


1.修錬生が理解すべき内部構造

• 股関節をおおむね伸展位に保ちながら、膝を屈曲し、
踵を臀部に近づけるようにゆっくり曲げる。


• 踵全体としては、後方の水面方向へ向かって浮き上がる。


• 主な筋連動
大腿後面(ハムストリング)
大殿筋
それと拮抗関係にある腸腰筋
→ 「交互協働」によって、屈曲と伸展がリズミカルに往還する。


• 呼吸との関係
吸って伸びる/吐いて沈む
この往還が、水気循環の基本波形となる。


• 背面ライン(足底〜下腿後面〜大腿後面〜仙骨〜脊柱)が開くと、呼吸が深まり、心拍変動(HRV)が拡大していく。

 


2.修錬生が観察するポイント

• 踵の軌道
 踵が外へ逃げていないか(股関節外旋優位になりすぎていないか)
 膝が不用意に外側へ開いていないか


• 屈曲→伸展のリズム
 屈曲(踵接近)と伸展(脚が戻る)が急ぎ足になっていないか
 動きと呼吸が一つの波としてつながっているか


• 体幹の軸
 上半身が大きく揺れず、中心線が保たれているか
 腰椎が反りすぎていないか

 


3.修錬生が行う“調整の助言”の例

• 「踵をお尻へ引き寄せるというより、ゆっくり近づいてくるのを許す感じで動いてみましょう」


• 「吐く息でそっと沈み、吸う息で元の位置に戻る…この波に身を預けてください」


• 「脚のうしろ側(ハムストリング)に、水が流れるような感覚を探してみましょう」


臀踵航法の本質は、
“流れを一つにまとめる”循環の感覚を、動作と呼吸の中に見出すことである。

 

 

Ⅴ.修錬生のための教習一致(第一基礎航法版)

第一基礎航法(三航法)における修錬生の役割は、「三方向の屈曲航法」に共通する原理(軸・呼吸・揺らぎ)を、 自他の身体を通して確かめ続けることである。

 


1.修錬生に求められる三つの能力


1. 観察
動作・呼吸・軸の乱れを、“評価”ではなく静かな興味で見る。

 


2. 誘導
短い言葉で、動作そのものではなく、「感覚」や「気づき」を誘導する。

 

3. 自己調整
人に伝えながら、自分の姿勢・呼吸・重心を同時に再調整する。
指導そのものが、自分の稽古にもなっている状態を目指す。


2.修錬生が使うべき言葉の型

• 「〜を感じてみてください」

• 「〜に気づいたら、呼吸を合わせてみましょう」

• 「いまの動き、とても良いです。そのまま少しだけ…」

※ 命令ではなく、気づきを促す言葉が修錬生の言語である。

 

 


Ⅵ.修錬生の到達目標(コンピテンシー)


第一基礎航法(掌膝・側膝・臀踵)について、次のことができれば、修錬生としてこの段階はひとまず修了とみなせる。


• 三航法それぞれの内部構造(軸・呼吸・筋連動・揺らぎ)を説明できる。


• 他者の動作を観察し、
どこで軸が崩れているか
どこで呼吸が途切れているか
を静かに見抜ける。


• 助言が短く・的確で・押しつけがない。


• 自分の動作が、三方向いずれにおいても、静かで、ゆっくりで、均整が取れている。


• 教えている時間そのものが、自分の稽古になっていると感じられる

(= 教習一致が生まれている)。

 

修錬生は、

「水気道の原理を身体で考える人」

として、第一基礎航法の三航法を通じて、

• 受容の中の上昇(掌膝)

• 揺らぎの中の安定(側膝)

• 往還の中の循環(臀踵)

 

という三つのテーマを、日々の稽古の中で磨き続けていく段階に入ったと言える。