第3回かぜやインフル予防に「補中益氣湯」がおススメ

 

 

2019/1/28

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 

2019年1月、新しい年を迎えて、今シーズンもインフルエンザが猛威をふるっています。当院でも、休日には200人近い救急患者が救命救急センターに来院します。 

 

救急医療の最前線で、研修医たちはカフェインたっぷりのレ○ド○ルやバ○ンといったエナジードリンクを飲みながら頑張っていますが、中には残念ながら当直明けにインフルエンザに倒れてしまう人もいます。そんな中で、研修医に「エナジードリンクも良いけど、どうせ飲むならこれが良いよ」とそっと処方する漢方薬が、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。

 

 今回は、かぜを引かないからだ作り、ストレスに負けないこころ作りにおススメの「漢方エナジードリンク」、補中益氣湯をご紹介します。

 

 

補中益氣湯は氣(き)のお薬 

補中益氣湯は、13世紀の中国で李東垣(りとうえん)先生により考案されました。戦乱の世にあった中国で、かぜを引いた兵隊を3日で最前線に戻すための薬を作るように皇帝から命じられた李先生が、命がけで生み出した薬です。

 

人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、朮(じゅつ)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)、当帰(とうき)、柴胡(さいこ)、升麻(しょうま)の10種類の生薬から構成される漢方薬です。補中益氣湯という薬名は、消化管(中)を補い(=補中)、氣を益(ま)す(=益氣)煎じ薬(=湯)という意味に由来します。

 

 

ここで少し、薬名に含まれる「氣(き)」について説明します。

 

昔の人はお米を炊く釜から立ち上がる湯気を見て、お米の中から出てくる目には見えないエネルギーを「氣」と名付けました。「氣」のつく言葉には、空氣、雰囲氣、電氣など色々とありますが、いずれも目には見えないけれどもそこにあるものとして、あるいはエネルギーとして、氣は存在していると考えます。

 

氣は生命エネルギーそのものです。私たちは両親から氣をもらって生まれ、おいしい食べ物を食べたりおいしい空氣を吸ったりすることで氣を体内に取り込み、生命活動を営んでいます。病氣や加齢により氣を使い果たしたとき、私たちはこの世を去ることになります。

 

 

氣の異常には3つのパターンがあります。

 

(1)氣虚(ききょ)=氣を体内に取り込めなかったり、使い過ぎたりすることで、氣が足りなくなる

 

(2)氣うつ(きうつ)=ストレスにより氣の流れが詰まってしまう

 

(3)氣逆(きぎゃく)=ストレスによりブチ切れてしまう

 

 3つのパターンの中で、補中益氣湯の効能は

 

(1)氣虚に対する補氣作用=エネルギー補給

 

(2)氣うつに対する理氣作用=ストレス発散・免疫力アップ

の2つとなります。

 

ここからは、2つの作用の仕組みについて少し詳しく解説します。

 

効能その1:氣虚に対する補氣作用=エネルギー補給

【代表的な構成生薬】

・人参(にんじん):朝鮮人参のことで、昔から不老長寿の薬として有名な生薬です。

 

・黄耆(おうぎ):からだの傷を修復し、エネルギー漏れを防ぎます。

 

人参でエネルギーを補いつつ、黄耆でからだの傷を修復し、エネルギー漏れを防ぎます。人参と黄耆を合わせて参耆剤(じんぎざい)と呼びます。参耆剤はスーパー補剤として、癌患者や多忙な研修医など、からだにもこころにも無理がたたっている人をサポートします。

 

なお、参耆剤の仲間には、十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)などがあり、癌患者の緩和ケア領域で処方されています。

 

 

効能その2:氣うつに対する理氣作用=ストレス発散・免疫力アップ

【代表的な構成生薬】

・柴胡(さいこ):ストレスを発散し、免疫力をアップします。

 

・升麻(しょうま):垂れているからだとこころをシャキッと引き締めます。

 

柴胡でイライラを発散し、升麻でからだとこころをシャキッと引き締め、免疫力をアップさせることで、インフルエンザを予防します。

 

帝京大学の新見正則氏は、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)流行時に、補中益氣湯による予防効果について検討しています。内服群(n=179)と非内服群(n=179)に分けて8週間観察したところ、インフルエンザの罹患者数は内服群で1人、非内服群では7人でした。補中益氣湯で新型インフルエンザを予防できる可能性があると報告しています(BMJ. 2009;339:b5213)。

 

補中益氣湯はKing of Drugs=医王湯(いおうとう)

補中益氣湯の適応は、「ツムラ補中益氣湯エキス顆粒」の添付文書によると以下のようになっています。

 

「消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:

夏やせ、病後の体力増強、食欲不振、多汗症、結核症、感冒、胃下垂、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随」

 

色々な病名が並んでいますので、最初は何のことやらと混乱してしまいますが、先ほど述べた人参、黄耆、柴胡、升麻の効能を思い出していただくと、それぞれの病名を理解しやすくなります。具体的には、

 

・人参:夏やせ、病後の体力増強、食欲不振

 

・黄耆:多汗症

 

・柴胡:結核症、感冒

 

・升麻:胃下垂、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随

 と分類できます。

 

 1つの漢方薬で様々な病氣を治すことができることを異病同治(いびょうどうち)と言います。補中益氣湯は異病同治が可能な万能薬であり、“King of Drugs”を意味する「医王湯(いおうとう)」と呼ばれています。

 

今シーズンを補中益氣湯で乗り切りましょう

 

ここまでお読みいただいた方には、補中益氣湯が、かぜを引かないからだ作り、ストレスに負けないこころ作りに効く「漢方エナジードリンク」であることがお分かりいただけたかと思います。

 

 

からだとこころが疲れたと感じたら、補中益氣湯をぜひお試しください。補中益氣湯がご自身に合っているかどうかの判断基準は、

 

・飲んでみておいしいと感じたら、体力が落ちていて補中益氣湯が必要な状態

 

・飲んでみてまずいと感じたら、体力が十分あって補中益氣湯が不要な状態

 です。

おいしいと感じた方はインフルエンザの流行が終了するまで、あるいは元氣になっておいしいと感じなくなるまで、補中益氣湯を飲み続けましょう。

 

なお、補中益氣湯は小児、特に、受験が迫っているようなお子さんにもオススメです。かぜやインフルエンザに加え、受験のストレスにも負けないからだとこころ作りに役⽴ちます。補中益氣湯を飲んでみておいしいと感じたお⼦さんは、そのまま飲み続けながら受験シーズンを無事乗り切ってください。

 

 

聖ヒルデガルドの医学と漢方医学との接点(4)

If the stomach is irritated through different harmful foods and the bladder weakened through miscellaneous detrimental drinks, then they both will bring bad juices to the intestines and send a foul smoke to the spleen. The spleen will swell and become sore, and through its swelling and soreness create heart pain and cause slime to appear around the heart. But the heart is still strong and offers resistance to the heart pain. If, however, the previously mentioned juices increase in the intestines and spleen of the person and also bring the heart much trouble, then they will turn back to the black bile and mix together. Irritated through this black bile, together with the other juices, will rise angrily toward the heart with a black, foul smoke and tire it through numerous afflictions occurring suddenly. This is why such persons are sad and grouchy and eat and drink so little that they lose weight and sometimes can hardly stand upright. (CC174,21)

 

胃がいろんな害の多い食物で刺激され、膀胱が諸々の有害な飲み物で弱るならば、その両臓器は腸に悪い体液をもたらし、脾臓に腐敗したしぶきを送ることになるでしょう。脾臓は腫大して傷んできて、こうし腫れや傷みは心臓痛を引き起こし、粘液を生じて心臓の周りに出現します。しかし、心臓は依然として強く心臓痛に対する抵抗を示します。しかし、すでに言及した体液がその人の腸や脾臓で増加し、心臓にもさらなる問題をもたらし、そうなると両者は黒色胆汁に戻り、ともに交じり合います。この黒色胆汁が、他の体液と一緒に刺激されると心臓に向け黒くて腐敗したしぶきをともなって激しく増加し、種々の病気が突然発生することによって、それを疲弊させます。そのような人たちは悲しみにくれ不機嫌となり、ほとんど飲食しないので体重が減少し、ときどきまっすぐに立っていられなくなります。

 

独法国立相模原病院・アレルギー科 

VS 杉並国際クリニック・アレルギー科(その1)

 

杉並国際クリニックのアレルギー科が行っているアレルギー専門外来診療の守備範囲を説明する目的で、我が国におけるアレルギー診療の最先端の医療センターである相模原病院との比較してみました。

 

情報源は、同病院のホームページです。

 

 

アレルギー科

成人アレルギー全体の診療

 

受診される方

水曜日(検査日)を除く、月曜日から金曜日までの8時30分~11時00分が受付時間となっております。

 

できるだけ、現在おかかりの医療施設の紹介状をご持参下さい。

 

国立病院機構相模原病院では、アレルギー疾患に関して耳鼻いんこう科、皮膚科、眼科と協力して診断、治療を行っております。

 

症状が鼻症状のみ(鼻炎・副鼻腔炎など)・眼症状のみ(結膜炎など)・皮膚のみ(じんま疹など)でしたら、まず耳鼻いんこう科、眼科、皮膚科を相談されることをお勧めいたします。

 

どの診療科にかかればよいかわからない場合は、アレルギー科へご相談下さい。

 

慢性じんま疹、接触性皮膚炎、金属アレルギーに関しては、アレルギー科ではなく、まずは皮膚科での対応となります。

 

特別なアレルギー疾患や難治性の病気でご相談をご希望される場合は、前もってアレルギー外来に受診日時をご確認下さい。なお病気の経過が長い方は今までの経過を書いたメモをご持参いただくとより密度の濃い相談がしやすくなります。その際、紹介状をご持参いただくことをお勧めいたします。

 

また、「経過中に使用した」もしくは「現在使用中」の薬のリストや薬手帳もご持参下さい。

 

紹介状をお持ちでない方や医師の指定がない紹介状をお持ちの方は、当日担当医のうち対応可能な医師が診察いたします。

 

また、医師指定であっても診療状況によって他の担当医が診察させていただくことがあります。

 

休診情報も当院ホームページで公開されておりますので、必ずご参照のうえ受診して下さい。

 

食物アレルギー外来は完全予約制となります。(必ず紹介状を持参して下さい)

 

診察ご希望の方は、アレルギー科外来までお問合わせ下さい。

 

当院では、アレルギー・呼吸器センターとして呼吸器内科とアレルギー科が一体となって共通の医師が診察を行っており、すべての医師がアレルギー疾患および呼吸器疾患の両方の領域の診療を行っております。

 

化学物質や環境の影響で多彩な症状が出てしまう疾患であるシックハウス症候群や化学物質過敏症の患者さまの診療を行っていた環境医学センター・シックハウス外来は閉鎖いたしました。現在当院では診療を行っておりませんので他施設への受診をお願いいたします。

 

花粉やダニなどの吸入性アレルゲンによる症状がある場合には適応に応じて、アレルゲン免疫療法を行っておりますので希望される場合はご相談下さい。

 

 

 

 <杉並国際クリニックからの視点>

相模原病院では、成人アレルギー全体の診療ということで、アレルギー疾患に関して耳鼻いんこう科、皮膚科、眼科と協力して診断、治療を行っていることが紹介されています。

 

ただし、症状が鼻症状のみ眼症状のみ皮膚のみに限局したものでなく、複合的であってどの診療科にかかればよいかわからない場合は、アレルギー科へご相談下さい、とのことのようです。

 

杉並国際クリニックでは、患者さんにとって混乱しやすい、そうした制限は設けずに診療を受け付けております。

  

相模原病院の上記の説明は、一般の方には少しわかりにくいかもしれません。そして、アレルギー専門医の一人としての立場からしても若干の疑問が生じます。その理由は、自覚症状というのは診療においてもっとも重要な最初の情報ですが、たとえ病気が進んでいても関連する全身の症状に無自覚な場合が多いからです。

 

患者さんが訴えるアレルギ―の症状が鼻症状のみ、眼症状のみ、皮膚のみである場合で、一見軽症のように自己判断しているケースであっても、ほとんどの場合、複数の領域においてアレルギーの所見を見出されるからです。

また、相模原病院のアレルギー科の主たる対象疾患は「鼻、眼、皮膚以外」、すなわち、気管支喘息をはじめとする呼吸器症状や食物アレルギーなど消化器症状など、内科領域であることを示唆している可能性もあります。

 

「特別なアレルギー疾患や難治性の病気」というのも、具体的に例示していけばきりがないのでやむをえないところですが、主に、呼吸器や消化器などのアレルギーや全身性のアレルギー疾患や原因不明のアレルギー性疾患を指しているのではないかと思われます。

  

次に、注目していただきたいのは、『化学物質や環境の影響で多彩な症状が出てしまう疾患であるシックハウス症候群や化学物質過敏症の患者さまの診療を行っていた環境医学センター・シックハウス外来は閉鎖いたしました。現在当院では診療を行っておりませんので他施設への受診をお願いいたします。』という記述です。

 

そして、《よくある質問》のコーナーの末尾に以下のような記述がありました。

 

シックハウス(化学物質過敏症)に関するよくある質問

10年以上にわたり環境医学センタ-およびシックハウス外来の利用をいただきました。診療の特殊性もあり、平成28年3月末を持ちまして閉鎖させていただきました。ご迷惑をお掛けいたしますが、ご理解とご了承の程よろしくお願いいたします。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 いろいろな背景があろうかとは思われますが、シックハウス症候群や化学物質過敏症の診療を行っていた『環境医学センター・シックハウス外来は閉鎖』というアナウンスは注目すべき情報です。

 

すくなくとも、施設閉鎖前まで10年以上も診療を行っていたのであれば、『他施設をご紹介いたします。』という案内があってしかるべきかと思われます。ところが、『他施設への受診をお願いいたします。』とはどのようなことでしょうか。

 

国立病院としては非常に無責任であると思います。なぜ、閉鎖に至ったのかという背景を知りたいものですが、「診療の特殊性もあり」という表現が多くを物語っています。これはあくまでも推測にすぎませんが、「受診される患者様の人格傾向の特殊性もあり」ということの婉曲的な表現ではないかと考えます。

 

同様の事例が線維筋痛症でもあります。かつて、聖マリアンナ医科大学では、線維筋痛症の外来がありましたが、ほどなく閉鎖されました。

 

以下の聖マリアンナ医科大学のホームページを引用します。

 

メディカルサポートセンター難病相談

☎ 044-977-8111(代表)

E-mail:ims.soudan●marianna-u.ac.jp

スパムメール対策のため、お手数ですが●を@に変換の上でご利用下さい。

(メール対応受付は、土日祝日を除き常時行っております)

 

※線維筋痛症に関しては、神経精神科の受診のみの対応とさせていただいております。

(ご相談は専門医転出のため、お受けできなくなりました)

 

 

このように、聖マリアンナ医科大学での線維筋痛症外来閉鎖の理由としては専門医転出、対応先としては神経精神科の受診、と案内されているだけ親切ともいえるでしょう。

 

ただし、実際のところ、線維筋痛症は多くの場合、難病ではありません。なぜ、線維筋痛症の例を挙げたかというと、線維筋痛症だけではなく、シックハウス症候群や化学物質過敏症の患者さんにもメンタルケアが必要なケースが多いからです。

 

一時期、相模原方面や立川方面から、シックハウス症候群や化学物質過敏症の患者さんが多数来院されましたが、慢性疲労症候群や線維筋痛症との合併例のみならず、うつ病や双極性障害などを伴うケースが相当数に上りました。

 

しかし、残念ながら、彼らの多くは、メンタルケアを受けることに対して拒否的であり、頑なな姿勢を崩さない方が少なくありませんでした。ありとあらゆるアプローチを提案しても、ことごとく拒否するようなタイプの方、医療不信に陥っていたり、攻撃的な言動をとりがちだったり、など、診療継続困難な方も散見されました。

 

「身体過敏性は、すなわち精神過敏性、また逆も真なり」なのです。

しかし、根気強くお付き合いさせていただくことを通して、そうした気づきが自然に得られて、徐々に快方に向かった方も少なくありませんでした。

 

アレルギー専門医であり心身医学の専門医であることが、少なからず、こうした患者さんの診療に役立っていることは、紛れもない事実です。しかし、私のようなバックグランドをもつ医師の活躍を国立相模原病院や聖マリアンナ医科大学等のような大規模医療機関に期待することはとても難しいのが日本の先端医療の嘆かわしい現実なのだと思います。

第116回日本内科学会講演会は2019年4月26日(金)から28日(日)の3日間、名古屋で開催されました。未曽有の大型連休の前でもあるため、初日の26日(金)は出席せず、高円寺南診療所としての最終診療日としました。

 

しかし、4月26日(金)は、聞き逃したくない貴重な演題が目白押しでした。そこで、学会レジュメをもとに関節リウマチに関する重要なトピックを紹介します。

 

招請講演3.骨と関節の科学―関節リウマチの病態を中心に、免疫系が骨代謝系に及ぼす影響および免疫系の制御による治療のパラダイムシフトについてー(その2)

 

免疫系および代謝系の接点から関節破壊のメカニズム

 

関節リウマチにおける関節破壊は、関節滑膜組織で産生されるTNFやIL-6によるものです。TNFやIL-6は、関節滑膜からのマトリックスメタロプロテアーゼ等の産生および滑液中への放出を促し、滑液に浸っている軟骨表面の細胞間質を酵素分解してしまいます。

 

そこで、関節破壊の引き金となるTNFやIL-6を標的とするバイオ抗リウマチ薬は、滑膜細胞からの分解酵素の産生を抑制することによって、関節破壊を最小限にすることができます。

 

なお、骨組織は骨基質および骨細胞等から構成されます。破骨細胞は骨細胞に発現するRANKLによる刺激を受けると活性化して骨を吸収し、名称通りに骨組織を破壊してしまいます。一方、抗RANKL抗体は、骨細胞や骨芽細胞上のRANKLによる破骨細胞の成熟および活性化を刺激する骨粗鬆症薬です。また抗RANKL抗体は、滑膜細胞やT細胞に発現するRANKLによる破骨細胞の成熟を抑制する作用をもつため、関節リウマチの骨びらんの進行を抑制することができます。

 

 

経口JAK阻害薬による関節リウマチ治療の新展開

 

関節リウマチでは、すべての患者で寛解を目指すことが治療目標となりましたが、実際にはバイオ抗リウマチ薬を使用しても寛解導入率は3~5割です。バイオ抗リウマチ薬の分子量は巨大であるため注射が必要ですが、内服可能な低分子化合物であるJAK阻害薬は、標的型合成抗リウマチ薬という新たな範疇の治療薬に分類されます。すでにJAK3阻害薬(トファシチニブ)、JAK1/2阻害薬(バリシチニブ)は関節リウマチの治療に用いられています。

 

JAK阻害薬は低分子量であるため生物学的製剤とは異なり、細胞内のシグナル伝達を阻害し、マルチターゲット効果を有します。しかし、こうした特性が長期安全性に関する懸念材料でもあります。JAK阻害薬は経口薬であるため使いやすいのは確かですが、使用前のリスク・スクリーニングおよび治療中のモニタリングを徹底すべきであることから、入院設備を備え、全身管理を行なえる環境下で使用すべきだと考えます。

高齢者糖尿病の血糖コントロール

 

高齢者には心身機能の低下がみられ、低血糖症状が典型的でないことがあり、重症低血糖を来しやすいという特徴があります。

 

こうした背景を受けて、2016年5月に日本糖尿病学会及び日本老年医学会より「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」が発表されました。

 

そこでは、患者の特徴と用いる薬剤から血糖コントロール目標(HbA1c)とその下限が設定されました。

 

患者の特徴とは、認知機能およびADLにより以下の3つのカテゴリーに分類しています。

 

 

カテゴリーⅠ:

①認知機能正常、かつ②ADL自立

 

カテゴリーⅡ:

①軽度認知障害~軽度認知症、または②手段的ADL低下、基本的ADL自立

 

カテゴリーⅢ:

①中等度以上の認知症、または②基本的ADL低下、または③多くの併存疾患や機能障害

さらに、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU類、グリニド類など)の使用の有無により二分類されます。

 

 

重症低血糖が危惧される薬剤を使用していない場合:

カテゴリーⅠ・ⅡではHbA1c<7.0%

カテゴリーⅢではHbA1c<8.0%

 

が目標とされました。

 

 

重症低血糖が危惧される薬剤を使用している場合:

カテゴリーⅠ

65歳以上75歳未満ではHbA1c<7.5%(下限6.5%)

75歳以上ではHbA1c<8.0%(下限7.0%)

 

カテゴリーⅡ

HbA1c<8.0%(下限7.0%)

 

カテゴリーⅢ

HbA1c<8.5%(下限7.5%)

 

とされました。

 

 

基本的な考え方として、

①血糖コントロール目標は、患者の年齢、認知機能、身体機能、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定

 

②重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定して、より安全な治療を行う

 

③目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性重視の治療を行う観点から目標値を上回る設定や下回る設定を柔軟に行う

 

とされています。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

高齢者糖尿病の血糖コントロールの目標値を設定するためには、いろいろな準備が必要です。まず患者の年齢によって目標値が異なりますが、個人差を無視してはならないと思います。

 

そのための杉並国際クリニックの具体的な取り組みは、

 

①認知機能の評価:長谷川式・MMSEその他の自記式認知症スケール、ウィスコンシン・カード・ソーティング・テスト(WCST)

 

②身体機能の評価:杉並国際クリニックのオリジナルFitness Test

 

③併発疾患、重症低血糖のリスクの評価:日常診療の問診・諸検査

 

以上のような対応がすでに整備されています。

 

そのつぎに、今後の高齢者糖尿病患者の薬物療法においては、可能な限り低血糖を来さない薬物を選択していくことを検討しています。

 

とくに、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU類、グリニド類など)を使用している場合は、可能な限り、その他のより安全な薬剤に置き換えていくことが必要だと考えています。ただし、インスリン製剤の使用は中断できないことが多いため、その場合は、併用薬の選択に十分注意を払っていきたいと考えています。

かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準

 

慢性腎臓病(CKD)は、重症度分類をもとに「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」(日本腎臓病学会、日本医師会監修2018年3月発表)により、病診連携が進むことが期待されています。

 

 

CKDの概念と重症度分類

慢性腎臓病(CKD)は、末期腎不全(ESKD)のみならず心血管疾患(CVD)のハイリスク群です。そして、その危険の程度は糸球体ろ過率(GFR)と尿蛋白量の増加によって増大します。

 

すなわち、同じ尿蛋白量であっても糸球体ろ過率(GFR)が低下するほど慢性腎臓病(CKD)と末期腎不全(ESKD)の危険は大きくなります。

 

危険度尺度としての尿蛋白量は、他の疾患の場合とは異なり、糖尿病に関しては尿アルブミンを用いるようになっています。糸球体ろ過率(GFR)を用いた重症度段階にはG(GFR)、尿蛋白を用いた重症度段階にはA(アルブミン)を付けて表記されています。

 

 

慢性腎臓病(CKD)における治療原則

末期腎不全(ESKD)と心血管疾患(CVD)を抑制することが治療の目標です。

この目標を達成するためには集学的な治療が必要です。

 

すなわち、

①CKDの原因に対する治療

②生活習慣改善

③食事療法

④高血圧治療

⑤脂質異常症治療

⑥糖尿病・耐糖能異常治療

⑦貧血治療

⑧CKD-MBD(CKDにおける骨・ミネラル代謝異常)治療

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」は、実際に運用するうえでは、とても複雑かつ煩雑です。かかりつけ医に、この紹介基準を要求することは、ほぼナンセンスに近いです。このような非現実的な試みを各学会がガイドラインを作成して行っています。なぜ非現実的かというと、かかりつけ医の守備範囲のみが膨大になってしまうからです。

 

かかりつけ医は各専門医より高度な能力を要求されているといっても過言ではありません。

 

かかりつけ医は、今後、ますます担い手が必要とされますが、患者さんは専門医志向が強いのが現実なので、こうしたガイドラインがうまく機能するようには思えません。

 

そもそも、日本の保健医療の実際は、ガイドライン通りの医療を必ずしもカバーしていないという矛盾があります。

 

それでも、杉並国際クリニックは、ガイドラインに準拠して、継続実施可能な方策を立案しました。

 

それは、継続的定期受診者に対するケア・プランです。

1)月初の受診時に、試験紙法による尿検査を実施

2)糖尿病の方は、それに加えて、尿生化学検査(尿アルブミン/Cr比)を実施

3)3カ月に1回の血液検査で血清Cr濃度およびeGFRの算出を実施

 

これらを実施する根拠を示します。

そのためには腎臓専門医が慢性腎臓病(CKD)をどのように分類しているのかを知っておく必要があります。まずは、原疾患で、糖尿病とそれ以外の疾患を明確に区別しています。

 

糖尿病以外の原疾患としては、高血圧、腎炎、多発性嚢胞腎、その他、が挙げられています。

 

蛋白尿区分としては、A1、A2、A3の3区分です。

 

糖尿病以外の原疾患の場合は、試験紙法による尿検査のみでも判定可能です。

 

(-)尿蛋白/Cr比<0.15(g/gCr):正常がA1,

 

(±)0.15(g/gCr)≦尿蛋白/Cr比<0.49(g/gCr):軽度蛋白尿がA2、

 

(+~)尿蛋白/Cr比≧0.50(g/gCr):高度蛋白尿がA3

 

ただし、糖尿病が原疾患の場合は、尿生化学の検体提出が必要です。

 

(-)尿アルブミン/Cr比<30(mg/gCr):正常がA1,

 

(±)30(mg/gCr)≦尿アルブミン/Cr比<300(mg/gCr):微量アルブミン尿がA2、

 

(+~)尿アルブミン/Cr比≧300(mg/gCr):顕性アルブミン尿がA3

 

 

糸球体ろ過率(GFR)mL/分/1.73m² 区分は原疾患に関わらず6区分されます

 

G1:正常または高値≧90

 

G2:正常または軽度低下60~89

 

G3a:軽度~中等度低下45~59

 

G3b:中等度~高度低下30~44

 

G4:高度低下15~29

 

G5:末期腎不全(ESKD)<15

 

 

臨床実務上では、蛋白尿区分から分類していくことが有用だと思われます。

 

A3であれば、糸球体ろ過率が正常であってもすべて専門医に紹介することが推奨されています。

 

A2であって、G3a以上もしくはG1もしくはG2であっても血尿+であれば、すべて専門医に紹介することになります。

 

A1の場合は、G3b以上もしくはG3aで40歳未満は、すべて紹介です。

 

これは、ほとんどのケースで専門医を紹介することを意味するため、かかりつけ医としては、逆に、紹介せずに継続診療すべきケースを把握しておけば十分、ということになります。

 

専門医紹介を免れるケースは、以下の区分に限られます。

 

A1(尿蛋白正常)区分であれば、GFR区分でG1およびG2(GFR≧60)、

もしくはG3a(GFR≧45)で40歳以上は生活指導・診療継続

 

A2(微量アルブミン尿/軽度蛋白尿)区分であれば、G1およびG2(GFR≧60)で、血尿(+)を伴わないもの

 

ただし、A1区分でG3aの40歳以上では、3カ月以内に30%以上の腎機能の悪化を認める場合は速やかに紹介することになっています。

 

 

原因疾患を問わず腎臓専門医への紹介目的は、

 

1)血尿、蛋白尿、腎機能低下の原因精査

 

2)進展抑制目的の治療強化(治療抵抗性の蛋白尿・顕性アルブミン尿)、腎機能低下、高血圧に対する治療の見直し、二次性高血圧の鑑別など

 

3)保存期腎不全の管理、腎代替療法の導入

 

 

原疾患に糖尿病がある場合:

1)腎臓内科医の紹介基準に当てはまる場合で、原疾患に糖尿病がある場合には、さらに糖尿病専門医の紹介を考慮

 

2)それ以外でも以下の場合には糖尿病専門医への紹介を考慮

①糖尿病治療方針の決定に専門的知識(3カ月以上の治療でもHbA1cの目標値に達しない、薬剤選択、食事運動療法指導など)を要する場合

②糖尿病合併症(網膜症、神経障害、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患など)発症のハイリスク者(血糖・血圧・脂質・体重等の難治例)である場合

③上記糖尿病合併例を発症している場合

便秘症の非薬物療法

 

便秘症の薬物療法について解説する予定でしたが、基本となるのは非約物療法であるため、今回は便秘症の非薬物療法について解説します。

 

便秘症に対する治療は、便秘の原因と種類に基づいて行われます。

 

前回の繰り返しになりますが、まず便秘とは、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」(慢性便秘症診療ガイドライン2017)と定義されます。

 

ただし、便秘症は単なる便秘とは区別して慢性的な便秘として扱われることが多いです。

 

慢性便秘症には、常習性便秘、弛緩性便秘、直腸性便秘(排便困難)、痙攣性便秘があります。

 

常習性便秘には、まず食事時間や内容の改善、運動療法(水氣道®などの有酸素運動)、排便習慣を是正することで排便リズムの回復が図られます。

 

弛緩性便秘には、食物繊維の多い食品(玄米などの精製されていない穀物や野菜、海藻、きのこ、豆類など)を摂取し、適度な運動(水氣道®などの有酸素運動)を勧めます。

 

 

直腸性便秘(排便困難)では、朝食後の排便習慣を励行し、腹式呼吸や毎日30分以上の歩行運動が効果的です。

とくに決まった曜日に決まった時間で周期的に実施する水氣道®は、意識せずとも腹式呼吸が身につく水中歩行であるため直腸性便秘解消に必要な要素を兼備しています。そして、食事療法としては、食物繊維を1日平均20~25g摂取することが望ましいとされます。腸内のビフィズス菌が重要な役割をもっているため、腸内のビフィズス菌の減少につながる脂肪を過剰に摂取は控えます。これに対して、乳酸菌発酵食品、ビタミンB₁・B₂、オリゴ糖、パントテン酸、ビオチンなどを摂取するとビフィズス菌の増殖を増やすことができます。

 

 

痙攣性便秘では、心理的ストレスが背景となっている場合が多く、規則正しい生活、朝食後の排便、運動などの習慣を身に着けることができるようにアドヴァイスします。そして、超粘膜を直接刺激することは避けるべきなので、カレー、からし、ワサビなど刺激物は制限します。

 

また、痙攣性便秘には過敏性腸症候群のうち便秘型や混合型も含まれますが、これらに関しては、日本消化器病学会のガイドラインで治療フローチャートが示されていますが、心身症としての特徴をもっているため、いずれ日曜日の心療内科のテーマの一つとして取り上げてみたいと思います。

 

前回、往診依頼の件でご意見を募集しました。

 

引き続き募集しておりますのでよろしくお願いします。

 

前回はこちら

 

 

今回は、もう一件の方についてご意見お願いします。

 

 

以下、概要です。

 

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半年ぶりに来院された方がいました。

 

「紹介状がほしい。」とのことでした。

 

お話を伺うと、

「半年前までこちらで診ていたものと関連する検査を受けたいから、紹介状が欲しい。」

 

「紹介状がないと大きな病院だとお金がかかるから。」

とのことでした。

 

調べてみると受けたい検査の病名はありましたが、治療していた病気との「関連がある」とはその方の思い込みのようでした。

 

半年間受診も無く、更に

「別件のため、初診になります。そのため直ちに紹介状は書けません。」

 

そのように伝えすると、

「診察受けるのを止めます。」

 

と去っていかれました。

 

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いかがでしょうか?

 

このような方が来られたら、どのように対応すればよいのでしょうか?

 

ぜひ下記のリンクからご意見を頂ければ幸いです。

 

メールはこちら

 

よろしくお願いいたします。

<はじめに>

 

 

前回は「肺経」ついてお話しました。

 

 

「尺沢」は 「鼻炎」で鼻汁が出る、鼻閉、「喉の痛み」に、

 

 

「孔最」は鼻炎の症状が更にひどいとき、「痔の痛み」よく使います。

 

 

今回は「大腸経」を見ていきましょう。

 

 

<大腸経>

 

2大腸経

 

「大腸経」は人差し指から鼻の横につながります。

 

 

20個の経穴があります。

20個の経穴は

 

1. 商陽(しょうよう)

 

2. 二間(じかん)

 

3. 三間(さんかん)

 

4. 合谷(ごうこく)

 

5. 陽溪(ようけい)

 

6. 偏歴(へんれき)

 

7. 温溜(おんる)

 

8. 下廉(げれん)    

 

9. 上廉(じょうれん)

 

10. 手三里(てさんり)

 

11. 曲池(きょくち)

 

12. 肘髎(ちゅうりょう)

 

13. 手五里(てごり)

 

14. 臂臑(ひじゅ)

 

15. 肩髃(けんぐう)

 

16. 巨骨(ここつ)

 

17. 天鼎(てんてい)

 

18. 扶突(ふとつ)

 

19. 禾髎(かりょう)

 

20. 迎香(げいこう)

 

 

となります。

 

 

この中から「合谷」「手三里」「曲池」を紹介しましょう。

 

 

「合谷」は人差し指と親指の間の窪みにあります。

 

2019-06-06 00-15

 

 

「頭痛」「歯痛」「肩こり」「便秘・下痢」「目の疲れ」に効果がありツボの中でもエースと言える存在です。

 

 

 

「曲池」肘を曲げた時にできる外側の横じわの端にあります。

 

 

「手三里」は「曲池」から指3本分手の方向にあります。

2019-06-06 00-14

 

 

 

「肩こり」に効果があります。

 

 

暇な時に刺激してみてください。

 

 

楽になりますよ!

 

 

杉並国際クリニック 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

 

第2回からだとこころのリラックス薬

 

「芍薬甘草湯」

杉並国際クリニックで行っている漢方診療に共通する考え方を簡単に説明している記事を発見したので、引き続き紹介いたします。

 

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 

今回は、からだとこころの緊張をほぐす芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)のお話です。芍薬甘草湯は芍薬(しゃくやく)と甘草(かんぞう)の2種類の生薬※1から構成される非常にシンプルな漢方薬です。

 

芍薬甘草湯は昔からこむら返りの薬として有名です。他にも胃痛、胆石や尿路結石の疝痛、月経困難症の月経痛、ぎっくり腰など筋肉の急激な痙攣を伴う痛みに用います。

 

※1 植物や動物、鉱物などの自然界にある原料を、乾燥させる、破砕するなどの簡単な加工により薬剤に用いるもの。

 

 

芍薬は生薬の女王

例えばツムラの漢方薬(エキス剤)128種類※2を構成する生薬は全部で約130種類ありますが、薬と名の付く生薬は、山薬(さんやく)と芍薬(しゃくやく)の2つだけです。山薬と芍薬はその優れた薬効のため、生薬の王様として「薬」という名前が与えられています。

※2ツムラの漢方エキス剤は、「死」や「苦」にまつわる数字は縁起が悪いということから、4番、13番、42番、44番、49番、94番の6つが欠番となっています。1~128番から欠番を引いた122種類と、133~138番の6種類で合計128種類となります。

 

(関連記事:漢方製剤番号のナゾ、解決しました!)

 

山薬とは山にできる薬という意味で、ヤマイモのことです。古くから「山のうなぎ」といわれるほど精力が付くことで知られています。腎虚(じんきょ:加齢現象)に対する長生きの薬である補腎剤(六味丸[ろくみがん]、八味地黄丸[はちみじおうがん]、牛車腎氣丸[ごしゃじんきがん])を構成する生薬です。

 

芍薬は、女性の美しさを表す「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉とともに、美人の代名詞とされてきました。花屋さんの店先で、すらっと背が高くゴージャスな大輪の花が咲いていたら、それが芍薬です。漢方では芍薬の根を生薬として用います。芍薬はからだとこころの弛緩作用とともに、止血作用も併せ持ちます。芍薬は血虚(けっきょ:貧血や栄養失調状態)に対する栄養剤である補血剤 (四物湯[しもつとう]、十全大補湯[じゅうぜんだいほとう]、人参養栄湯[にんじんようえいとう])を構成する生薬でもあります。

 

 

芍薬でからだとこころをリラックス 

芍薬にはからだとこころをリラックスさせる3つの作用があり、これらの作用を西洋薬に例えると

  1. 横紋筋をリラックス=エペリゾン(ミオナール他)
  2. 平滑筋をリラックス=スコポラミン(ブスコパン他)
  3. こころをリラックス=エチゾラム(デパス他)

となります。芍薬はエペリゾン+スコポラミン+エチゾラムの合剤のように働き、からだとこころをリラックスさせます。

 

芍薬に甘草を合わせると、横紋筋をリラックスさせる作用が強くなります。芍薬甘草湯がこむら返りに処方されることが多いゆえんです。

 

甘草=スイーツ+抗炎症作用+保水作用

 

甘草の主成分であるグリチルリチンは、砂糖の50倍とも100倍ともいわれる甘さを有します。甘草の多くは食用となり、しょうゆやあめの原料に用いられます。イタリアでは甘草はリクイリツィア(liquirizia:甘い根、英語ではリコリス[licorice])と呼ばれ、甘さの中に苦味が残るリクイリツィア味のキャラメルやジェラートが食されています。

 

グリチルリチン製剤の強力ネオミノファーゲンシーは、蕁麻疹などに対する抗アレルギー薬や慢性肝炎の治療薬として用いられます。グリチルリチンは腸内細菌によりグリチルレチン酸に変換され、副腎皮質ホルモンの1つであるコルチゾールを不活化する酵素の働きを抑制します。これによりコルチゾールによる抗炎症作用が効果的に発揮されます。

 

また、コルチゾールには、水分や電解質の代謝に関係するミネラルコルチコイド受容体と強力に結合して保水作用を示すという性質もあります。

 

 

甘草は1日6gまで 

ただし、甘草の取り過ぎには要注意です。甘草を漫然と長期投与すると、グリチルレチン酸によってコルチゾールの働きが長続きする分、水分貯留のために浮腫、血圧上昇、低カリウム血症、尿量減少といった症状を示す偽性アルドステロン症が起こる場合があるからです。

 

甘草はツムラの漢方薬(エキス剤)128種類の73%に当たる93種類に含まれています。甘草はからだとこころを温め過ぎず冷やし過ぎず(寒熱中間)、全身に効き(表も裏も※3)、漢方薬を構成する生薬のバランスを整えるため、多くの漢方薬に用いられています。そのため、漢方薬による最も頻度の高い副作用がこの偽性アルドステロン症です。

 

偽性アルドステロン症を予防するため、甘草の投与量は1日6gまでとするのがよいでしょう。

 

※3 皮膚や筋肉などの体表部を「表」、消化器をはじめとする臓器など身体の深部を「裏」と呼びます。

 

 

芍薬甘草湯は1日3回ではなく、頓服で

芍薬甘草湯を1日3回処方すると、それだけで甘草が6gに達してしまいます。芍薬甘草湯は漫然と1日3回処方するのではなく、痛むときに頓服で用いるようにします。

 

漢方の勉強が進んでくると、2剤、3剤と漢方薬の処方が増えて甘草の投与量が多くなりがちですが、

1.「芍薬甘草湯は頓服で」

2.「甘草は1日6gまで」

 この2点だけは忘れないでください。

 

 

からだとこころをリラックスさせる芍薬甘草湯の子どもたち

ツムラの漢方薬(エキス剤)128種類の中で、芍薬を含む処方は44種類(34%)あります。芍薬と甘草の両方を含む処方は30種類(23%)です。芍薬甘草湯から生まれた30種類の中で、からだとこころをリラックスさせる効果の高いオススメの漢方薬を最後にご紹介します。

 

桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

芍薬甘草湯の効果をそのまま発揮できる、コピペしたような処方です。周囲に氣を遣い過ぎて緊張が取れず、寝ているときに足がつって目が覚めてしまうような人(緊張型氣虚と言います)に用います。1日3回処方しても含まれる甘草は2gですので、安心して処方できます。

 

 

四逆散(しぎゃくさん)

とても礼儀正しく、パッと見「いい人」なのですが、実は悩みを抱えていてイライラを表に出さない人(イライラ型氣うつと言います)に用います。手汗をビッショリかいていたり、胸脇苦満(きょうきょうくまん:肋骨弓部の重苦しさ)があったりすれば適応になります。1日3回処方しても含まれる甘草は1.5gですので、こちらも安心して処方できます。

 

慢性疼痛の患者さんの場合、甘草の過量投与を避けるため、桂枝加芍薬湯や四逆散をベースに処方し、抑えきれない痛みが襲ってきたら芍薬甘草湯を頓服で使うのがよいでしょう。