最新の臨床医学 6月12日(水)内科Ⅲ(糖尿病・内分泌・血液・神経)

高齢者糖尿病の血糖コントロール

 

高齢者には心身機能の低下がみられ、低血糖症状が典型的でないことがあり、重症低血糖を来しやすいという特徴があります。

 

こうした背景を受けて、2016年5月に日本糖尿病学会及び日本老年医学会より「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標について」が発表されました。

 

そこでは、患者の特徴と用いる薬剤から血糖コントロール目標(HbA1c)とその下限が設定されました。

 

患者の特徴とは、認知機能およびADLにより以下の3つのカテゴリーに分類しています。

 

 

カテゴリーⅠ:

①認知機能正常、かつ②ADL自立

 

カテゴリーⅡ:

①軽度認知障害~軽度認知症、または②手段的ADL低下、基本的ADL自立

 

カテゴリーⅢ:

①中等度以上の認知症、または②基本的ADL低下、または③多くの併存疾患や機能障害

さらに、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU類、グリニド類など)の使用の有無により二分類されます。

 

 

重症低血糖が危惧される薬剤を使用していない場合:

カテゴリーⅠ・ⅡではHbA1c<7.0%

カテゴリーⅢではHbA1c<8.0%

 

が目標とされました。

 

 

重症低血糖が危惧される薬剤を使用している場合:

カテゴリーⅠ

65歳以上75歳未満ではHbA1c<7.5%(下限6.5%)

75歳以上ではHbA1c<8.0%(下限7.0%)

 

カテゴリーⅡ

HbA1c<8.0%(下限7.0%)

 

カテゴリーⅢ

HbA1c<8.5%(下限7.5%)

 

とされました。

 

 

基本的な考え方として、

①血糖コントロール目標は、患者の年齢、認知機能、身体機能、併発疾患、重症低血糖のリスク、余命などを考慮して個別に設定

 

②重症低血糖が危惧される場合は、目標下限値を設定して、より安全な治療を行う

 

③目標値や目標下限値を参考にしながらも、患者中心の個別性重視の治療を行う観点から目標値を上回る設定や下回る設定を柔軟に行う

 

とされています。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

高齢者糖尿病の血糖コントロールの目標値を設定するためには、いろいろな準備が必要です。まず患者の年齢によって目標値が異なりますが、個人差を無視してはならないと思います。

 

そのための杉並国際クリニックの具体的な取り組みは、

 

①認知機能の評価:長谷川式・MMSEその他の自記式認知症スケール、ウィスコンシン・カード・ソーティング・テスト(WCST)

 

②身体機能の評価:杉並国際クリニックのオリジナルFitness Test

 

③併発疾患、重症低血糖のリスクの評価:日常診療の問診・諸検査

 

以上のような対応がすでに整備されています。

 

そのつぎに、今後の高齢者糖尿病患者の薬物療法においては、可能な限り低血糖を来さない薬物を選択していくことを検討しています。

 

とくに、重症低血糖が危惧される薬剤(インスリン製剤、SU類、グリニド類など)を使用している場合は、可能な限り、その他のより安全な薬剤に置き換えていくことが必要だと考えています。ただし、インスリン製剤の使用は中断できないことが多いため、その場合は、併用薬の選択に十分注意を払っていきたいと考えています。