最新の臨床医学 6月11日(火)内科Ⅱ(循環器・腎臓・老年医学)

かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準

 

慢性腎臓病(CKD)は、重症度分類をもとに「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」(日本腎臓病学会、日本医師会監修2018年3月発表)により、病診連携が進むことが期待されています。

 

 

CKDの概念と重症度分類

慢性腎臓病(CKD)は、末期腎不全(ESKD)のみならず心血管疾患(CVD)のハイリスク群です。そして、その危険の程度は糸球体ろ過率(GFR)と尿蛋白量の増加によって増大します。

 

すなわち、同じ尿蛋白量であっても糸球体ろ過率(GFR)が低下するほど慢性腎臓病(CKD)と末期腎不全(ESKD)の危険は大きくなります。

 

危険度尺度としての尿蛋白量は、他の疾患の場合とは異なり、糖尿病に関しては尿アルブミンを用いるようになっています。糸球体ろ過率(GFR)を用いた重症度段階にはG(GFR)、尿蛋白を用いた重症度段階にはA(アルブミン)を付けて表記されています。

 

 

慢性腎臓病(CKD)における治療原則

末期腎不全(ESKD)と心血管疾患(CVD)を抑制することが治療の目標です。

この目標を達成するためには集学的な治療が必要です。

 

すなわち、

①CKDの原因に対する治療

②生活習慣改善

③食事療法

④高血圧治療

⑤脂質異常症治療

⑥糖尿病・耐糖能異常治療

⑦貧血治療

⑧CKD-MBD(CKDにおける骨・ミネラル代謝異常)治療

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

「かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準」は、実際に運用するうえでは、とても複雑かつ煩雑です。かかりつけ医に、この紹介基準を要求することは、ほぼナンセンスに近いです。このような非現実的な試みを各学会がガイドラインを作成して行っています。なぜ非現実的かというと、かかりつけ医の守備範囲のみが膨大になってしまうからです。

 

かかりつけ医は各専門医より高度な能力を要求されているといっても過言ではありません。

 

かかりつけ医は、今後、ますます担い手が必要とされますが、患者さんは専門医志向が強いのが現実なので、こうしたガイドラインがうまく機能するようには思えません。

 

そもそも、日本の保健医療の実際は、ガイドライン通りの医療を必ずしもカバーしていないという矛盾があります。

 

それでも、杉並国際クリニックは、ガイドラインに準拠して、継続実施可能な方策を立案しました。

 

それは、継続的定期受診者に対するケア・プランです。

1)月初の受診時に、試験紙法による尿検査を実施

2)糖尿病の方は、それに加えて、尿生化学検査(尿アルブミン/Cr比)を実施

3)3カ月に1回の血液検査で血清Cr濃度およびeGFRの算出を実施

 

これらを実施する根拠を示します。

そのためには腎臓専門医が慢性腎臓病(CKD)をどのように分類しているのかを知っておく必要があります。まずは、原疾患で、糖尿病とそれ以外の疾患を明確に区別しています。

 

糖尿病以外の原疾患としては、高血圧、腎炎、多発性嚢胞腎、その他、が挙げられています。

 

蛋白尿区分としては、A1、A2、A3の3区分です。

 

糖尿病以外の原疾患の場合は、試験紙法による尿検査のみでも判定可能です。

 

(-)尿蛋白/Cr比<0.15(g/gCr):正常がA1,

 

(±)0.15(g/gCr)≦尿蛋白/Cr比<0.49(g/gCr):軽度蛋白尿がA2、

 

(+~)尿蛋白/Cr比≧0.50(g/gCr):高度蛋白尿がA3

 

ただし、糖尿病が原疾患の場合は、尿生化学の検体提出が必要です。

 

(-)尿アルブミン/Cr比<30(mg/gCr):正常がA1,

 

(±)30(mg/gCr)≦尿アルブミン/Cr比<300(mg/gCr):微量アルブミン尿がA2、

 

(+~)尿アルブミン/Cr比≧300(mg/gCr):顕性アルブミン尿がA3

 

 

糸球体ろ過率(GFR)mL/分/1.73m² 区分は原疾患に関わらず6区分されます

 

G1:正常または高値≧90

 

G2:正常または軽度低下60~89

 

G3a:軽度~中等度低下45~59

 

G3b:中等度~高度低下30~44

 

G4:高度低下15~29

 

G5:末期腎不全(ESKD)<15

 

 

臨床実務上では、蛋白尿区分から分類していくことが有用だと思われます。

 

A3であれば、糸球体ろ過率が正常であってもすべて専門医に紹介することが推奨されています。

 

A2であって、G3a以上もしくはG1もしくはG2であっても血尿+であれば、すべて専門医に紹介することになります。

 

A1の場合は、G3b以上もしくはG3aで40歳未満は、すべて紹介です。

 

これは、ほとんどのケースで専門医を紹介することを意味するため、かかりつけ医としては、逆に、紹介せずに継続診療すべきケースを把握しておけば十分、ということになります。

 

専門医紹介を免れるケースは、以下の区分に限られます。

 

A1(尿蛋白正常)区分であれば、GFR区分でG1およびG2(GFR≧60)、

もしくはG3a(GFR≧45)で40歳以上は生活指導・診療継続

 

A2(微量アルブミン尿/軽度蛋白尿)区分であれば、G1およびG2(GFR≧60)で、血尿(+)を伴わないもの

 

ただし、A1区分でG3aの40歳以上では、3カ月以内に30%以上の腎機能の悪化を認める場合は速やかに紹介することになっています。

 

 

原因疾患を問わず腎臓専門医への紹介目的は、

 

1)血尿、蛋白尿、腎機能低下の原因精査

 

2)進展抑制目的の治療強化(治療抵抗性の蛋白尿・顕性アルブミン尿)、腎機能低下、高血圧に対する治療の見直し、二次性高血圧の鑑別など

 

3)保存期腎不全の管理、腎代替療法の導入

 

 

原疾患に糖尿病がある場合:

1)腎臓内科医の紹介基準に当てはまる場合で、原疾患に糖尿病がある場合には、さらに糖尿病専門医の紹介を考慮

 

2)それ以外でも以下の場合には糖尿病専門医への紹介を考慮

①糖尿病治療方針の決定に専門的知識(3カ月以上の治療でもHbA1cの目標値に達しない、薬剤選択、食事運動療法指導など)を要する場合

②糖尿病合併症(網膜症、神経障害、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患など)発症のハイリスク者(血糖・血圧・脂質・体重等の難治例)である場合

③上記糖尿病合併例を発症している場合