前回はこちら

 


水氣道実践の五原理・・・統合性の原理(破論)

 

(心身統合・心技体の原則)

 

「心・技・体」という言葉は、もともと明治時代の柔道家の言葉が語源だといわれます。 しかし、実際にその使われ方となると、本質から離れて歪曲されていると感じることがあります。

 

「心・技・体」と表立って発言している人の中には、その実は根性論による「強いられた努力」による鍛錬法を強行するための大義名分にしている方がいます。日本のスポーツ界でも精神的にも肉体的にも厳しく追い込み、それに耐えることで力をつけていこうという「根性を叩きこむ」というやスパルタ主義でのしごきが長年もてはやされてきました。猛烈なしごきと絶対的な上下関係で運営されているチームは、いまだに少なくなさそうです。

 

日本で「精神論」や「根性論」が暴走し始めたのは、無謀で不利な戦いに突入することが回避できなくなり、さらに勝ち目のない戦を終わらせることができない空気の中で起こりました。

 

絶対的に不足している物資や情報(インテリジェンス)を前提とする作戦計画の遂行のために、体(体格)にも技(武器)にも劣った日本人が唯一自負できる心(武士道や大和魂)を軸として最大限に鍛え上げる精神論を奨励する気運が国民の美徳としてもてはやされました。

その結果、純粋で従順な精神を持つ、大勢の有為な若者の貴重な命が犠牲になってしまいました。

 

日本は戦争に敗れても、その敗因を理論的に徹底分析することなく、工夫や改良を加える余裕も見いだせないまま、ひたすらに、がむしゃらに戦後七十有余年を経てきました。

 

戦後復興期を経て命がけの精神状態と硬く結びついた精神論は目覚ましい経済復興を遂げる原動力として生き残ってきました。国民全体の栄養状態は改善して体格も向上(機能的な向上を伴わない体)し、学問や科学技術も大いに進歩(人間性の向上に結び付かない技)したため、国民文化については一向に進歩しないまま、一時は世界の経済戦争にまで優勝(「ジャパン・アズ・No1」)したかに見えました。

 

こうした表面的な成功体験を通して確信的に認識されることになった「精神論」は、日本においては、精神文化の一端として色濃く残っています。したがって、敗戦と共に吟味されるべきかつての精神論のままの形で激変した戦後社会を必死で生き抜いてきたということができるでしょう。

 

その結果、私たちには何が残されたでしょうか。そして何が失われつつあるのでしょうか。

 

今からであっても、一人一人がきちんと丹念に吟味していくことが望まれます。しかし、現代社会を生きる私たちの感性は、私たちを取り巻く目まぐるしい環境の劇的変化や、矢継ぎ早に届けられる表層的な、場合によっては操作された膨大な情報によって、混乱に陥っています。

 

私たちにもできることは、まず、私たちが混沌の世界に生きることを余儀なくされているという現実に気づけるようになることです。そして、私たちにとって真に価値のある財産は何かを、信頼関係によって構築された共同体の中での共通体験や基礎的訓練、そしてさらなる発展的修錬を通して全人的に知り、身に着けることです。

 

そこで、私たちは過去からどんな財産を遺贈されていて、私たちがそれをどのようにそれらを継承・発展させ、さらに、どのように次世代に繋げていくことが大切なのかを、各人が、そして家族やコミュニティ単位で真摯に取り組むことが不可欠だと、私は考えています。

 

水氣道は団体で実践する自己啓発活動であり、自己鍛錬や護身術のみならず互助的共同体形成や集団防災訓練に通じるものです。そのため「軍隊式」も「気合」も「根性」は、これらを単純に否定するのではなく、むしろ、それらの本質的存在価値を引き出すことが肝要です。

 

たとえば、水氣道は、段級制を採用しています。これは、たとえば救世軍(Salvation Army:救世陸軍=陸援隊)が陸軍の階級制をとっているのように水氣道は、海軍ならぬ水軍としての階級制を採用しています。これっは日本武道である剣道・柔道とは本質的に異なり、上級者が下級者を教え導き支援します。

 

また、それが不得手であるならば、さらに進級することはできない仕組みになっています。そのかわり、下級者に奉仕をする実績に応じて、新たな技が授けられる仕組みになっています。

 

そのために水氣道では、いつでもイキイキと工夫を凝らし、どこでものびのびと改良していくことに心がけ、稽古体系の中に採り入れています。そして団体稽古の推奨と同時に競技性の否定という水氣道固有の稽古方針に基く実践によって、正しい「心技体」の理解に基づく指導方法が前提としての正当性や妥当性が担保されることになります。

 

前回はこちら

 

水氣道実践の五原理・・・統合性の原理(序論)

(心身統合・心技体の原則)

 


統合とは、一般的には、社会の成員の間に高い相互作用があり、その成員が共通の社会規範や価値を抱き、共通の権威に対し忠誠を有している状態を意味します。

 

組織の世界では、統合がとりわけ重要な意味をもつことになります。対立する意見や利益を調整し、協力せしめて、一つの社会としてまとめ、社会に安定や秩序をつくりだすことは、組織の維持や発展のために必須となる重要な機能だからです。

 

水氣道の組織と団体活動における統合は、(1)全人的健康の維持、(2)広範な多目的能力の獲得、(3)特定の目的の達成、(4)新たなイメージや役割の獲得、をねらいとして形成されます。

 

またその際には、(1)会員間に相互関係性があること、(2)相互反応性があること、(3)共通の価値と利得がもたらされること、(4)共通の一体感や奉仕の心が育まれていること、などの条件が必要になります。
 

組織内の統合は、団体的価値を共有している領域が少なくなったり、組織規範や規則を守っていただくためのルールが過度に必要になったり、我流に走るメンバーが出現したり、孤立・分離・独立の風潮や機運が高まったりする場合、失敗といわれます。

 

失敗をもたらす原因としては、革命などの社会変動、組織外の一般社会からの威圧・介入、社会成員の要求充足の失敗、理論や技法を巡る対立などが考えられます。
 

幸いなことに、平成12年(2000年)末に組織の基礎が定まり、公に対する団体登録が整い、平成28年(2016年)に登録商標を獲得し、団体運営が安定し、財政的にも収支の均衡がとれるようになってきました。
 

ただし、上記のことは、水氣道においては団体性の原理に係る事項になります。水氣道の統合性の原理とは、こうした組織団体の進歩と調和を支える原理ではなく、<自己超越と自然回帰>という水氣道の三徳を支える本質的な考え方なのです。

 

これについては、いずれ改めてご紹介いたします。

以下に、水氣道の理念についての一覧を掲示します。

 

 

<融通無碍(ゆうずうむげ)の人類愛>

水氣道の三徳

 

分析と企画(特異性の原理) 

 

進歩と調和(過負荷・集団性の原理)

 

自己超越と自然回帰(統合性・可逆性の原理)

 

 

 

水氣道実践の五原理

〇 統合性の原理(心身統合・心技体の原則)

 

〇 集団性の原理(教学不岐・環境創造の原則)

 

〇 過負荷の原理(漸進性・全面性・反復性の原則)

 

〇 可逆性の原理(周期性の原則)

 

〇 特異性の原理(意識性・個別性・弱点優先・専門性の原則)

 

 

 

水氣道稽古の12原則

 

心身統合の原則/ 心技体の原則/ 教修不岐の原則

 

環境創造の原則/ 漸進性の原則/ 全面性の原則

 

反復性の原則/ 周期性の原則/ 意識性の原則

 

個別性の原則/ 弱点優先の原則/ 専門性の原則

 

 

超高齢社会を迎えて、自分が健常者あるいは健康だと信じている人たちは多いです。

しかし、そうした方々の多くは、実際に健康なのではなく、そのように思い込んでいるだけであるとか、そのように信じていたいだけなのかもしれません。

というのは心と身体のアンバランスに悩ませられている方が多いのが現実だからです。

 

つまり、それだけ、自力では心身の不統合は気づかれにくい、気づきにくい課題だということです。このアンバランスは日常生活の中では十分に意識化されにくいようです。そのために、有効なケアや予防的な訓練が行われないまま放置されてしまいがちです。

 

水氣道®で実践している心身統合アプローチは、心理学的理論と運動生理学的理論を行動実践で統合します。これは、水氣道の心・技・体の原則と共に水氣道実践の五原則の一つである、「統合性の原理」を構成します。
 

とは言え、水氣道の会員にとって馴染みにくいのは、どちらかといえば水氣道の稽古体系に自然に取り入れられているメンタルトレーニングとしての要素ではないかと思われます。


2022年1月1日進級、各種認定合格者発表

 

Ⅰ 進級検定合格者

 

令和3年12月に実施された進級検定(中審査・小審査)において、中審査の対象者はありませんでした。以下に小審査の合格者を発表します。なお、次回の小審査は令和4年3月、中審査・大審査は同年6月に予定しています。

 

 

・准3級(特別訓練生)

植田栄喜

 

・4級(高等訓練生)

大場康弘

小池享子

福丸慎哉

 

 

・5級(中等訓練生)

大野道子

西川みつ子

深瀬淳子

 

 

・6級(初等訓練生)

近藤正子

漆弘雄

漆正子

 

 

・7級(特別体験生)

須田和江

村松忠夫

佐々木明彦

 

 


Ⅱ 各種技法認定試験合格者

 

令和3年12月に実施された各種技法認定試験は、水氣道4級(高等訓練生)および5級(中等訓練生)を対象とするファシリテーター検定のみを実施しました。次回の検定は令和4年3月に予定しています。なお、水氣道3級(初等修錬生)以上の修錬生を対象とするインストラクター検定、水氣道弐段以上の支援員を対象とするトレーナー検定は令和4年6月を予定しています。

 

 

・F5、交差航法ファシリテーター認定

濱屋幸一(現4級、高等訓練生)

鈴木けい子(現4級、高等訓練生)

 

 

・F3、基本航法ファシリテーター認定

林知子(現4級、高等訓練生)

 

 

・F2、いきいき体操ファシリテーター認定

4級足立博史(現4級、高等訓練生)

5級松田要(現5級、中等訓練生)

5級平田範子(現5級、中等訓練生)

 


来週の水曜日は、昨年のシリーズ水氣道稽古の12の原則に引き続き、
新たなシリーズとして水氣道実践の五原理の解説から始める予定です。

 

前回はこちら



専門性の原則に関連して、今回は、トレーニング手段を構成する<体力>と<技術>について述べてみたいと思います。

 

一般的なスポーツ理論によると、パフォーマンスの向上には<動き>の変容が必要であり、この<動き>の変容には<体力>と<技術>という2つの要因が影響するとされます。しかし、この2つの要因が変化していく過程には大きな相違があります。
一方、ヒトの心身の構造や機能には、ハードウェア的要素とソフトウェア的要素があります。

 

ハードウェア的要素とは、筋や腱・靭帯、心臓循環器系、呼吸器系、免疫系などです。またソフトウェア的要素とは、神経系です。

 

ハードウェア的要素である筋や腱・靭帯を強化して発揮できる力やスピードを高めるとともに、心臓循環器系、呼吸器系、免疫系などを改善し、疲労現象に耐え、長時間にわたって出力し続けるための要因は身体のハードウェア的要因となります。

 

身体をハードウェアとして捉えた場合に基礎となるのが「過負荷の原則」に基づいたトレーニングなのですが、これは体力トレーニングとして認識されています。

 

体力向上のためには身体構造の改善という時間を要するプロセスを要するため、遅延効果として現れます。

(なお、「過負荷の原則」についてはすでに触れていますが、いずれ改めて解説する機会があると思います。)

 

 

ソフトウェア的要素である神経系、すなわち運動神経系や感覚神経系や自律神経系など大脳中枢から末梢神経に至るすべての神経系によって支えられている運動制御機構と運動プログラムを改善するとともに、<動き>の感じやコツを体得させて運動習熟を導くのがソフトウェア的要因です。

 

こうした神経系の運動プログラムは意識的制御系と無意識的制御系によって構築されています。

このためには、特異性の原則や専門性の原則に基づきながら、<動き>の感じや主観的なコツを体得するための諸々の運動(身振り運動、模倣運動、繰り返し行うドリル系の運動)をトレーニング手段として用います。これが技術トレーニングとしての練習に相当します。

(特異性の原則については、別の機会に改めて説明する機会があると思います。)

 

 

水氣道においては、<動き>の感じや主観的なコツを大切にしながら稽古を継続すると、試行錯誤や思考錯誤が連続する混沌世界から突然に<動き>が変わり、稽古効果が即時的に出現することを体感することができるようになります。

 

このように、<動き>の変容の原因をソフトウェア的要素およびソフトウェア的要因として捉え、専門性の原則に基づいたトレーニングによる技術・技能の向上では即時効果が期待され、こうした効果をもたらすトレーニングは理想的な技術トレーニングとして認識されています。

 

 

以上のように、トレーニング手段としての運動には、体力と技術という相互に分断できない二つの側面が内在しています。それは水氣道の稽古の手段においても基本的には同じであるといえます。水氣道の稽古を継続していくことによって、体力と技術が一体的に養成されていくことを感じ取ることができるようになるでしょう。

 


前回はこちら
 

 

今回も、実践的なトレーニングにおいて専門性の原則がどのように活かされているのかについて解説を続けます。そこで改めて、そもそもトレーニングとはどのようなことを指しているのかについて振り返ってみたいと思います。
 

一般的にトレーニングとは、スポーツパフォーマンス向上のために行う思考や行為、作業の総称であるとされます。そして、トレーニングの概念は体力要素のみに限定したものではないとされます。そして、トレーニングについてのこのような理解は水氣道においても共通しています。

 

もっともスポーツの種目は多様性に富んでいます。特にパフォーマンスが数値記録として現れる競技スポーツ(陸上競技、競泳競技、水上のカヌーやボート、氷上のスピードスケートなど)の場合は、種目ごとに異なる競技特性に専門的な配慮をしながらも、跳躍種目やスプリントの場合と同様に、技術、体力の各段階における階層構造関係を保持しつつ専門性と一般性に配慮しながらトレーニングの設計をすることができます。

 

これに対して、球技スポーツや対人スポーツの場合には、個々のアスリートだけではなく、対戦相手との関係、同じチームのアスリート間の関係、異なるチーム間などの関係などをも考慮する必要があります。

ですから、球技スポーツのパフォーマンスの設計に当っては、戦術の要素が加わってきます。つまり、戦術、技術、体力の各段階における階層構造関係を保持しつつ専門性と一般性に配慮しながら行うことが大切になります。

 

そこで、トレーニングの手段化も、以下のように、いくつかの種類に分類されています。

 

① 試合そのものの手段化(国内外の重要な試合など)

 

② 限定的な試合の手段化(練習試合やテスト試合など)

 

③ 専門的な運動の手段化(パフォーマンス構造に直結した要素を抽出した運動)

 

④ 一般的な運動の手段化(基礎運動技能を高めるための各種運動や体力要因を高めるための各種運動)
 

 

 

将来に向けて発展を続けている水氣道においての現在の段階では、試合や競技の要素は意図的に排除しています。

 

ですから、トレーニングの手段化としては、上記のうち③および④を中心として実践を続けています。①および②のような試合や競技の要素が乏しいということは、競技専門性(競技専門的手段)には乏しく、戦術を習熟することを目的とするトレーニングではないということになります。

 

一方、③および④に比重を置くことによって、日常生活の動作に直結するような一般的手段としての特性が顕著となり、体力強化を主たる目的とするトレーニングになっています。

 

これらの各種のトレーニングの手段化の間にも相互関係があります。たとえば、④一般的な運動の手段化は③専門的な運動の手段化の基礎を成します。また、異なるスポーツの種目間においては、その特性や目的の違いによって、同一のトレーニング内容であっても、一方のスポーツにとっては専門的トレーニングの手段になり、他方にとっては一般的トレーニング手段として位置づけられることがあります。


さらに③専門的な運動の手段化には、②限定的な試合の手段化、および①試合そのものの手段化の部分的要素を形成しているため、これら4つの手段化はすべて相互に関連し合った構造体を形成しています。これらのいずれかが欠如すると世界水準での高いレベルでのパフォーマンスを継続的に向上させることはできません。


しかし、トレーニングの概念の中核をなす体力要素に焦点を当てている現時点での水氣道では、当面の間は、4つの手段化の中でももっとも基礎をなす④一般的な運動の手段化によって③専門的な運動の手段化の充実を図ることに意を注ぐことになるため、とても手堅い稽古プログラムを提供することができるのです。

しかも、将来的には、個人の形(航法)試合や団体競技としての要素を取り込んでいくことで、②限定的な試合の手段化、さらに①試合そのものの手段化までを取り込んでいくことを計画しています。

 

専門性の原則を、トレーニングの手段化の中で理解していただくうえで、混同しがちだと思われることがあります。それは、③の<専門的な運動の手段化>における専門性と、<競技専門性>における専門性とは、異なる内容であるということです。

 

水氣道における「専門性の原則」は、これらのいずれのケースにおいても用いることになるため、その場合は、どのような文脈の中で用いているのかを予め了解可能となるように配慮して用いていきたいと考えます。

 

 

前回はこちら

 


トレーニング理論における専門性の原則をより深く理解するためには、専門性の原則がトレーニングの理論と実践の体系の文脈の中で、他の原則とどのような相互関係にあるかを知っておくことが役に立ちます。

 

まずトレーニングは、適切な目標を設定することから始めます。

 

トレーニング目標を設定するには、現状を正確に把握するとともに、その後の未来を予測することが前提tなります。その際に考慮しなければならないのが、

①実現可能性、②時間資源、③個別性と専門性、④アスリート(水氣道においては稽古参加者)の発達段階です。

 

ここで示したように、専門性の原則は個別性の原則との相互関係、すなわち兼ね合いの中で位置づけなければならない相対的な原則であって、独立した絶対的な原則ではないということがいえます。
 

トレーニングにおける設定目標と現状との間には、必然的にギャップが生じることになります。

このギャップを総合的な課題として形成し、その原因をあらゆる視点から専門的に分析究明することがスポーツ界では試みられています。そのうえで、個々の原因を解決するための個別の課題を考慮しながら、それらの中での優先順位を決定して配列していくことになります。
 

スポーツパフォーマンスを向上させるためには、トレーニング手段や測定評価のためのテストにどのような運動を選択するかは大切なポイントです。その場合には、スポーツパフォーマンスの構造モデルに基づく専門的な考え方が必要になります。ただし、高度な医科学テストや、その他の各指標が先行し、この種の科学的な諸要素からトレーニングを組み立てる方法は誤りであるとの意見が主流です。

 

その理由の一つは、実際にそのような方法を採用することが失敗を引き起こす原因となる場合が多かったこと、もう一つは、あるスポーツに必要不可欠なトレーニング手段や方法が、他のスポーツにはマイナスに働くことが頻繁に観察されたことです。スポーツにおける専門性の原則は、スポーツの種目によって、それぞれに求められる必要不可欠なトレーニング手段や方法が異なることを前提として、それぞれの種目に最適なトレーニング手段や方法を選択するための理論的な根拠にもなるものと考えられます。
 

そこで、理想的なトレーニングのモデルの設計のためには、具体的にはどのようにすれば良いのかということが重要な論点になってきます。これに関して、すべてのトレーニングの基礎となる指針として“初めに運動ありき”という標語が知られています。これは、トレーニングを効果的に推進するためには、目指すスポーツパフォーマンスの構造モデルに立ち戻ってトレーニングを開始することを意味しています。

 

ただし、これを実践して行くためには、自らが行うスポーツに関する高度な理解と知識だけではなく、スポーツ実践を通して体得した豊富な経験則と実践的な知恵が要求されます。ですから、初心者や若手で経験の少ないアスリートにとっては、高い成果を獲得している経験豊富な専門性の高いコーチによる指導が必要になってくるのです。
 

ここで、確認しておきたいことは、「高度な医科学テストや、その他の各指標が先行し、この種の科学的な諸要素からトレーニングを組み立てる方法は誤りである」との意見にもう一度注目しておきたいと思います。

 

一般に、高度な戦術や複雑な技術を要求されるような種目については、このような意見は妥当であるように思われます。しかし、体力の維持増進あるいは比較的シンプルな技術の組み合わせによってデザインされている水氣道のようなエクササイズに関してはこの限りではないと考えています。

 

季節ごとに実施されているフィットネス・チェックやメディカル・チェックなしに水氣道の発展は実現できなかったからです。ただし、“初めに運動ありき”という標語は水氣道においても高く評価できます。水氣道では、まず“水に委ねよ”という教訓が“初めに運動ありき”という標語の前提になっているということは、水氣道における専門性の原則の重要な柱であるといえます。
 

水氣道を実践して行くためには、参加者自らが行う水氣道の稽古に関して、徐々に高度な理解と知識を深めていくだけではなく、水氣道ならではの組織的な集団稽古の継続的な実践を通して体得した豊富な経験則と実践的な知恵が要求されます。

 

ですから、初心者(体験生)やまだ経験の少ない参加者(訓練生や修錬生)にとっては、高い成果を獲得していて、自らも長年の稽古を実践してきた経験豊富な専門性の高いコーチ(支援員、指導員、監督指導者)による指導が必要になってくるのです。

 

 

前回はこちら



専門性の原則とは、スポーツトレーニングにおける理論上の概念です。

簡単に言えば、現代において高度の競技成績を達成するためには、スポーツトレーニングを専門化する必要があるという原則です。

 

専門化とは何かということについては、ひとまず脇に置いておいて、そもそも専門性の原則にのっとって専門化したトレーニングをすることの目的や期待できる効果とは、どのようなものかについて先に紹介します。

 

専門化したトレーニングによって個々のスポーツの種目の特異性に関連した形態的および機能的変化が引き出し易くなります。つまり、種目に固有の技術、戦術、心理的特徴を獲得し易くなるということです。

 

なお、競技レベルの向上に伴いトレーニングの全体量が増える傾向にあるばかりでなく、増加した全体量に占める専門的トレーニング自体の割合も増加していきます。これは水氣道においても同様のことが言えます。なぜならば、水氣道の稽古を継続し、技術が向上するにつれて、稽古全体において専門的稽古の比率は加速度的に増加することになるからです。


さて、人類の普遍的な営みとして、世界各地で様々なスポーツ活動や競技活動がありますが、それぞれの運動様式や評価尺度や目的は多様性に富んでいます。

 

そのため、個々のスポーツなり競技には、それぞれに固有な特徴があります。他とは異なる特徴のある運動ほど、身体的あるいは精神的な負荷も固有な性質を帯びてきます。

 

つまり、トレーニングの内容もそれにともなって、より専門的になっていくのです。このことが、専門性の原則を理解する上で大切な事実的背景となるのです。

 

専門的なトレーニングと対比できるのが一般的トレーニングです。多くのスポーツ種目の間で共通して要求される基礎的な訓練であるほど、より一般的なトレーニングになります。

 

専門的トレーニングの実際も、スポーツにおける筋力トレーニングの理論にしたがって対象とする運動群に着目して説明することが可能です。

 

これには大きく分けて3段階があります。

 

 

 第1段階(関節可動性レベル):
  

身体のあらゆる動きは骨格筋が原動力となり、運動力学的には筋肉が関節を跨いで骨と付着する起始と停止という2カ所の間の距離の変化によって起こります。身体の目的とする各関節に着目して、関節可動域を確保するための運動群をプログラムする
  

(これは水氣道に特有の専門的なトレーニングであって、各種の航法がデザインされています。イキイキ体操、五航法など)

 

 

 第2段階(動きの全体レベル):

 

動き全体がそのスポーツに類似した運動群をプログラムする
(ボート競技のためのローイング用のエルゴメーター、親水航法、のびのび体操、ヨガの動作になぞらえた理気航法・太極航法、クラシックバレーの動作になぞらえた舞踊航法、空手や弓道の動作になぞらえた水拳航法など)。

 

 

 第3段階(動きの要素レベル):

 

1つのまとまりを持ったそのスポーツの動きの中から一部分だけを取り出した運動群をプログラムする

(単独あるいは複数の筋群を活性化させる筋力トレーニング、調血航法、 活水航法、経絡航法など)

 

前回はこちら

 

健診や人間ドックなどの医学的評価(メディカル・チェック)ばかりでなく、それ以前に、基礎健康評価(フィットネス・チェック)が必要です。

 

なぜならば、人間ドックで異常がみつからないからといっても、ただちに健康が保証されるわけではないからです。

 

健診や人間ドックの検査項目は、既製服のようなものであって、必ずしも個性豊かな一人一人のために仕立てられてはいないからです。

 

たとえば、ビタミンDなどは、フレイルやロコモの予防のためにも免疫力の保全のためにも重要であることが知られています。そして、これが充足している人は20%に満たないにもかかわらず、高額な人間ドックでも測定されていません。

 

つまり、一般的な医学的評価において正常範囲とされたとしても、基礎健康評価が至適状態でない限り、確かな健康は保証されないことになります。逆に言えば、基礎健康評価が至適状態に向かって改善されていけば、医学的評価において改善されにくい項目も改善し易くなるといえます。

 

さらに言うならば、医学的評価において異常が出現しないうちに、基礎健 康評価において見出された問題点や課題を克服しておくことが極めて効果的な健康法になることでしょう。

 

病気になってから治すのではなく、半健康の状態(医学的評価では正常、基礎健康評価では課題あり、の状態)のうちから、健康の質を向上させておくことが賢明な方法です。「未病を治す」という言葉をご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、まさに、こうした半健康の状態が「未病」に相当するのです。

 

杉並国際クリニックで実施しているフィットネス・チェックは「体組成・体力評価」票に則って、季節ごと(年4回、3カ月ごと)に実施しています。

 

ただし、通常の医療機関でこれを実践するのは容易ではないので、たとえば日本医師会で認定している「健康スポーツ医」や日本体育協会で認定している「公認スポーチドクター」などの資格を持っているだけではなく、熱心に実践指導の経験をもつドクターに巡り合うことができた方は幸運だといえるでしょう。そうした指導をする上でたいせつなポイントを3つ紹介させていただきたいと思います。
 

 

1つめ。

これが今回のテーマなのですが、自分の弱点を認識すること。多くの人たちは、自分の得意なこと、自信のある分野を更に伸ばしていきたいと思っています。それは、とても楽しみでもあり、運動を続けていくうえでの動機付けにもなるので意味のある事です。

 

しかし、競技や特定の領域の記録の向上を目指すだけでは真の健康は得られません。活動寿命を無理なく自然に延ばすための生涯エクササイズとしては、自分の苦手なところ、弱点を見落とさないように定期的にチェックして、それらの弱点を克服できるような意識で稽古プログラムに参加するのが良いでしょう。

 

はじめのうちは、なかなか弱点を改善できないかもしれませんが、「継続は力」です。焦る必要はないので、根気強く希望をもって意欲的に取り組んでいけば、いつの間にかに成果が見られるようになります。また、各自の弱点克服のために有効なプログラムとなるように、継続的な工夫がなされ、改良を加えながら発展してきたのが水氣道であるともいえるのです。このような実証的な方法で発展を続けているのは世界広しと言えども「水氣道」をおいて他に類例をみることはありません。

 

2つめ。

正しい健康法を『継続』させること。これはとても大切です。いくら正しいやり方だとしても継続できそうもない健康法では全く役に立ちません。

 

だから単なる「ブーム」のような健康法はお勧めできません。そして、医学的根拠があるとしても、ひとの心理や行動パターンに関する知見が欠如していたり、断片的で単純すぎる展開の無い動作の繰り返しであったり、一時的に流行っていたりするような健康法には信用に足るものは少ないです。

 

逆に、一見、地味なエクササイズに見えたり、簡単過ぎるように見えたりしても、実際に試してみると、予想していたほど簡単なのものでも味気ないものでもなく、次第に高度で複雑な動作を身に着けるために必要なスキルであることに気づけるエクササイズこそが有意義なエクササイズであることに気づくことが多いのではないでしょうか。

 

ですから、シンプルで基本的なことからキチンと続けられ、無理を伴わない、体系的にプログラムされ,全体としての稽古の流れを体感できるような健康法をお勧めしたいです。無理がないプログラムであるからこそ、苦手であり弱点でもあるポイントを安全に安心して、しかも楽しく克服していくことができるのです。
 

 

最後に3つめ。

その時々の体調に応じてプログラム路線を変更できる「柔軟な健康法」であること。かたくなに信じこんで修正のきかない強制的な健康法はしばしば身心を壊すことがあります。別の言い方をするならば、稽古プログラム自体が各人の体と心の状態との相互コミュニケーションが可能なエクササイズであることが「柔軟な健康法」であるということです。

 

前回はこちら

 



今回は、「水氣道における弱点優先の原則」についてです。この原則は『理想の健康法』としての水氣道の本質にかかわる大切な考え方です。

 

世間で流布している「健康法」は数限りなくあります。そのすべてを実行することは不可能であるし、また、<過ぎたるは及ばざるがごとし>といって、やりすぎ、欲張り過ぎはかえって健康を損ねてしまします。そこで、「健康法」を選択する必要がでてきます。

 

「健康法」の選択に当たってとても大切なことは、自分の心身の弱点を補ってくれるような「健康法」に巡り合うことです。そのためには、いろいろな「健康法」を試してみるのではなく、まずはしっかりと自分自身の身体の弱点を認識することが不可欠になってきます。

 

そして、身体の弱点を補強するための「健康法」は心身のトータルな健康の維持・増進のためには真に理に適っています。そして真に理に適っている「健康法」には、文字通り真理が宿っているはずです。水氣道の真理は、水氣道の神髄をはじめ水氣道実践の三徳、五原理および十二原則に宿っています。

 

そして「健康法」の真理に適うということと、自分の健康に適う、ということが表裏一体になるような選択ができたときに、理想の「健康法」と出会ったことになります。

 

ですから漠然と「健康になりたい」ということで「健康法」を探してみても、そのような理想的な「健康法」に巡り合うことができる可能性はほとんどありません。要は場当り的な健康法ははずれが多いということです。

 

同じようなことが栄養補給法でもしばしば観察されます。とくにサプリメント接種による弊害も散見されます。サプリメントとは本来「欠乏もしくは不足した栄養素を補充すること、あるいはそのための補充栄養剤」を意味します。

したがって、予め、「欠乏もしくは不足した栄養素」を調べておくべきなのです。

 

しかし、実際にはこうした必要な手続きは省略して個人の思い付きや思い込みだけで摂取をはじめてしまいがちです。するとどのような結果が発生するでしょう。

その方にとって真に必要な栄養素は欠乏したままで、すでに充足あるいは過剰になっている栄養素が補給されてしまいかねません。栄養プロフィールのアンバランスの是正どころか、不均衡を増大させてしまうことにならないでしょうか。

 

スポーツについても同じことが言えそうです。元来優れていることや他に秀でて得意なことを続けることは楽しいことであり、そうした技術を伸ばすことで競技スポーツの成績の向上も期待できることでしょう。

 

しかし、その人の劣っていることや苦手なことはなおざりにされてしまいがちになるのではないでしょうか。そのような方向性でスポーツを続けていたとすれば、中高年以降に健康を損ねてしまうことは何ら不思議ではないでしょう。

 

それでは、どうしたら良いのでしょうか。上に挙げた残念な結果をもたらさないためには、『弱点補強の目的意識をもって行なう』意識をもって、それに適った「健康法」を探求することが理に適う選択に繋がります。

そのためには、まず「弱点」を発見することが決め手になります。ですから、病気の治療ではなく健康のための手段として「健康法」を選ぶ段階で、かかりつけの医師に相談することは、とても賢明なことです。どのような主治医を選ぶかも寿命のうちかもしれません。

 

水氣道の理論と技法の体系は、実に、この目立たない、あるいは気づきにくい、さらには避けて通りたくなるような各人の健康上の「弱点」を克服することを目標としてきたと言っても過言ではありません。

健康上の「弱点」を克服するためには、どのような運動を実施すれば克服できるかについて、20年以上に及び、信頼に足る理論仮説をもとに試行錯誤を繰り返して、実証的に検証し続けることで日々完成度を高めているのが水氣道なのです。

 

そこで、次回は、「水氣道における弱点優先の原則」について、どのようにして、個々人の「弱点」を検出し、しかも、集団のエクササイズの中に取り込んでいくのか、についてより具体的にごしょうかいしたいと思います。

 

前回はこちら

 


 自分の強みを伸ばすことを考えるときに役立つツールとして「SWOT分析」が知られています。SWOT分析は事業の戦略立案などに用いられるフレームワークであり、「Strength:強み」「Weakness:弱み」「Opportunity:機会」「Threat:脅威」の頭文字をとったものです。

 

水氣道における「弱点優先の原則」を説明する上で、この分析法が役に立つので簡単に紹介いたします。

 

 SWOTを構成する4つの要因は、まず、内部要因と外部要因とに2大別することができます。内部要因(自分でコントロール可能な要因)として「強み」と「弱み」は、外部要因(自分の努力では変えられない)として「機会」と「脅威」に分けられます。

 

 次いで、目標達成にプラスになりかマイナスになるかによっても2大別することができます。

 

 内部要因の「強み」とは目標達成にプラスになると思う自分の資質、これにたいして「弱み」とは目標達成にマイナスになると思う自分の資質です。

 

 外部要因の「機会」とは、うまく活用すれば目標達成にプラスになる外部要因、これにたいして「脅威」とは、そのまま放置すれば目標達成にマイナスになる外部要因です。

 

 事業の経営戦略では、「強み×機会」に注目し、「強み」によって「機会」を最大限に活用するためにできることを考える、あるいは「強み×脅威」に注目し、「強み」によって「脅威」の悪影響を回避するためにできることを考えると良いとされています。

 

それでは、水氣道も「SWOT分析」を用いて、事業の経営戦略と同様の考え方に基づいた稽古をしているのか、ということを解説しておきたいと思います。

 

答えから先に申し上げるならば、水氣道でも「SWOT分析」と同様の分析を定期的に行なっていますが、運用の仕方は、先に挙げた事業の経営戦略とは異なります。
 

 

まず「SWOT分析」自体の課題があります。

第一に、内部要因を個人の「資質」に帰着させ、しかも自分でコントロール可能な要因と操作的に定義されている点です。しかし、一般的に考えられている「資質」は必ずしもセルフ・コントロールが可能というわけではありません。当然ながら、誰にでもセルフ・コントロールが難しい「資質」要素があります。

 

第二に、自分の「資質」が目標達成にプラスになるかマイナスになるかの評価主体を自分自身においている点です。自主的に、主体的に自己分析を試みて、自己評価することには意味がありますが、用意周到になされたものでなければ往々にして誤った判断をしてしまうことになってしまうのではないでしょうか。それを避けるためには、客観的に、可能であれば数値化したデータによって評価可能なツールを用いて判断することが前提になります。

 

第三に、自分の努力では変えられないと定義する外部要因についての考え方には疑問が残ります。「機会」にしろ「脅威」にしろ、その原因が自然発生的な場合には限定されず、人為的に引き起こされるケースも少なくないのが実際の社会だと思えるからです。つまり、表面上は外部要因とみなされる要因の中にも、その原因において自分たちが関与して発生するケースがあるということです。自分たちが関与した結果として生じた現象であれば、自分たちの努力で変えられないことばかりではないはずです。

 

第四に、外部要因とされる「機会」と「脅威」の鑑別の仕方についての疑問です。これらはいずれも自分の努力では変えられない要素と定義されていますが、目標達成にプラスになると思えるのが「機会」であるとしても、その機会が与えられたのは偶然であるとばかりはいえません。日々の努力の積み重ねによって「機会」が与えられることも少なくありません。このことは、「脅威」についても当てはまるのではないかと思います。

 

水氣道の考え方は、「弱み」を「強み」に、そして「脅威」を「機会」に転換していくことにあります。そのためには、自分たちにとって何が本当の「弱み」なのか、また「脅威」なのかを正しく理解できるようになることが前提になります。つまり、「弱点の発見と補強により脅威を克服できるようになる」ことが水氣道の稽古戦略なのです。これを「弱点優先の原則」と呼ぶことにしています。

 

そこで、次回は、「水氣道における弱点優先の原則」について、より具体的に考えてみたいと思います。