呼吸法か声区融合か母音修正か

 

 

腹式呼吸や「横隔膜の支え」を重視し、

 

喉から無駄な力みを無くす手法が非常に多くの支持を得ており最も一般的です。

 

 

しかし、声区融合(胸声と仮声を融合させていくことを通して歌唱に理想的な声帯や

 

喉頭の状態を習得する技術)を基盤とする手法も議論の対象となっています。

 

 

発声法の研究に大きな影響を与えたフレデリック・フースラーは

 

著書「うたうこと」において呼吸と声区(とその融合)の双方について細かく論じています。

 

 

腹式呼吸派の意見の例としては、

 

「仮声を混ぜたら、声が弱々しくなる。そんな不自然な発声を続けていくと、

 

変な声になるだけであり、腹式呼吸を最大限に駆使して実声で歌うべきだ」

 

というものがあり、仮声を出すことは声の障害を生む危険を含んでいるとする見解もあります。

 

 

一方で声区融合派の意見の例としては、

 

「呼吸法の技術は確かに安定して息を送ることで声も安定しやすくなるので有用であるが、

 

声帯が正しく運動しないと、喉で声にうまく変換されず発声もうまくいかないため、

 

呼吸法よりも声区融合によってもたらされる発声の技術の比重の方が大きい」

 

というものもあります。

 

 

声区融合派の代表とも目されるコーネリウス・リード(Cornelius L. Reid)は

 

著書「ベルカント唱法 その原理と実践」において

 

「ある時期美しい声を持っていた歌手が、生涯それを持ち続けられなかった例は多いが、

 

彼らが一度習得した呼吸法を忘れてしまったとは考えられない」として、

 

呼吸法よりも声区融合によって習得される発声メカニズムの方が重要であるとしている。

 

 

しかし、この書で呼吸について一つの章を割き、

 

「横隔膜をへこまさないことが大切です。」と横隔膜の支えの重要性を説き、

 

呼吸法と声区融合は相反するものではなく相互を補完するものであり、

 

両方を研究することが重要であると考えられます。

今月のテーマ:ヴォイス・トレーニング

 

その4:ヴォイトレ・セラピーと心身医学療法

 

 

ヴォイス・トレーニングは身体と精神とに同時に働きかけます。

 

ヴォイス・トレーニングは音楽療法の一分野として

 

神経症やうつ病などの精神障害に有効であることは広く経験されています。

 

ただし、それだけではありません。

 

ヴォイス・トレーニング心身医学療法の一つとして活用されるべきなのです。

 

 

心身医学療法とは心身症の患者について、一定の治療計画に基づいて、

 

身体的傷病と心理・社会的要因との関連を明らかにするとともに、

 

その患者に対して心理的影響を与えることにより、

 

症状の改善または傷病からの回復を図る治療方法です。

 

そして心身症とは、身体疾患の中で心身相関の病態が認められる場合をいいます。

 

この心身相関とは、精神的葛藤や行動様式が体の状態に影響を与えて病気を作り、

 

逆に体の状態が心の働きに影響を及ぼすことを言います。

 

 

 私が聖楽院で行いたいことの一つは、新しいタイプのヴォイストレーナーを養成することです。

 

新しいタイプのヴォイストレーナーとは、レッスン生の身体面のトレーニングばかりでなく

 

精神面でのトレーニングを行うことができるヴォイストレーナーなのです。

 

 

聖楽院ではヴォイストレーニングを上質の芸術活動を通して

 

健康の維持・増進および病気の科学的治療をも併せて目的としているからなのです。

 

そのためには、心身医学に裏付けられた新しいタイプのヴォイトレ・セラピストの養成が必要だと考えています。

 

今月のテーマ:ヴォイス・トレーニング

 

 

その3:ヴォイストレーニングとヴォイトレ・セラピー

 

 

音声学や耳鼻咽喉学の専門家にも、歌手や舞台俳優として一定の能力を持ったアマチュアがいます。

 

しかし、残念ながら超一流の人物は少ないとの世評があります。

 

一方、優れたプロの歌手や舞台俳優には音声学や

 

耳鼻咽喉学についての知識が不十分であることが多いです。

 

そのため、学術研究者や臨床医は体系的で科学的な論理に基づいて

 

伝統的指導法や発声法を否定しがちであったようです。

 

また、逆に、芸術の現場の指導者は個人の感覚に頼った非科学的で

 

音声学的に間違った説明や指導を行うことも少なくありません。

 

 

一方、優れたプロの歌手が耳鼻咽喉科医の監修を受ける例、

 

医学部での解剖学の指導を受けに行く例、

 

医師が歌手と共同しヴォイストレーニングを行う例があります。

 

私は歌手のみならずピアニストやその他の楽器演奏者と共同して

 

ヴォイストレーニングヴォイトレ・セラピーを始めつつあります。

 

 

聖楽院ではヴォイストレーニングを健康の維持・増進および

 

病気の治療をも併せて目的としています

 

 

ただし、目的が健康の維持・増進さらには病気の治療を目的とする場合は、

 

健康や医療の専門家であることが必要となります。

 

しかし、その場合の呼称は確立されていないのではないかと思います。

 

少し、俗っぽい表現ですがヴォイトレ・セラピストあるいは

 

ヴォイトレ・ドクターというのはいかがでしょうか。

 

私自身は、自分自身を実験台としてヴォイトレを10年以上続けてきた、

 

という意味においては,叩き上げのヴォイトレ・ドクターであると自負しています。

 

今月のテーマ:ヴォイス・トレーニング

 

その2:ヴォイストレーニングを受けている人たちと一般的方法

 

 

ヴォイストレーニングを受ける人は、プロ・アマを問わず、

 

圧倒的に歌手や役者・声優をしている人や、それを志している人が多いです。

 

また、近年は日常生活やビジネスの場において

 

「魅力的な声を出すことによりコミュニケーション能力を高め社会的に成功する」

 

ことを目的とするヴォイストレーニングも行われています。

 

その他、美容目的のヴォイスとレーニングの例としては、

 

腹式呼吸をすることで、引き締まり痩せやすい体になると考えているようです。

 

 

ヴォイストレーニングの方法については、クラシック・ポピュラー音楽や、

 

耳鼻咽喉科の関係者が、それぞれ情報交換や交流も行いながら研究を進めています。

 

また、民謡・長唄・能楽の謡など邦楽の一部の歌唱指導者の間でヴォイストレーニングが取り上げられています。

 

 

ヴォイストレーニングは、「声を出す」こと、

 

すなわち発声の全般を考えながら行われているようです。

 

声は生身の身体から発生することを鑑み、身体面のトレーニングが行われます。

 

 

喉・舌などの使い方を訓練する他、発音の訓練なども含まれます。

 

呼吸法、さらに、歌のヴォイストレーニングにおいては、声の響かせ方も重要視します。

 

また、場合によっては体全体に関することも含まれます。

 

 

しかし、声を出すという行為は、人間の意思に基づくものです。

 

つまり、精神作用です。

 

したがって、ヴォイストレーニングにおいては、少なくとも精神面のトレーニングも必要なはずです。

 

 

私が聖楽院で養成したい、新しいタイプのヴォイストレーナーとは、

 

レッスン生の身体面のトレーニングばかりでなく

 

精神面でのトレーニングを行うことができるヴォイストレーナーなのです。

 

 

 

ヴォイス・トレーニング

 

その1:ヴォイストレーニングとは?

 

ヴォイストレーニング(Voice training)とは、発声練習のことですが、

 

トレーニング内容は、人それぞれの目的に合った発声法を実現するために行います。

 

目的は、職業上の基礎訓練であったり、趣味の一環であったり、健康の維持・増進であったりしますが、

 

病気の治療を目的とすることも可能です

 

 

日本ではクラシック音楽関係者の間ではもっぱら『発声法』という言葉が用いられ、

 

ヴォイストレーニングという言葉は

 

「ポピュラー音楽のための発声法の訓練」を指すものとされる傾向があります。

 

発声法』というと、どうしても芸術表現技術に限定される印象が強いので、

 

私はクラシック声楽の場合でもヴォイストレーニングという言葉を積極的に使っていこうと考えています。

 

 

さて、ヴォイストレーニングを行う者をヴォイストレーナーといいます。

 

英語圏ではヴォーカルコーチ(Vocal coach)や、

 

音声教育者(Vocal pedagogists)もヴォイストレーナーに含めているようです。

 

 

私が聖楽院で行いたいことの一つは、新しいタイプのヴォイストレーナーを養成することです

 

ゲルノート・クランナーGernot Kranner 氏との出会い

 

それは3月25日(日曜日)ウィーン滞在最後の日の夜のオペラ観劇、

 

演目はアルフレード・カタラーニ作曲の歌劇<ラ・ワリー>でした。

 

 

フォルクス・オーパーで既に私の左隣の席に着いていた親切そうな紳士に、

 

念のため私の席が隣で良いかどうか、私のチケットを見せて尋ねたところ、

 

彼は間違いないですよ、という感じで確認してくれました。

 

 

さて、オペラ開演の前、まだ舞台の幕の下りたままのオーケストラ・ピットでは

 

楽団員たちが音の調整に余念がありませんでした。

 

そこで、彼の紳士は「今日のオケの連中、とっても良い音を出している。絶好調だな!」

 

という内容のドイツ語で小さく独り言をつぶやきました。

 

シャレではありませんがドイツ語の独語を始めて聴きました。

 

すると、彼は響きの良い、とても純正なピッチで軽く鼻歌を始めるのでした。

 

「これは只者ではない。」と私は直感し、

 

反射的に「突然で恐縮ですが、貴殿は絶対音感をお持ちのようですが?」と英語で尋ねたところ、

 

「いえ、そこまでは持ち合わせていませんよ。あなたは、お持ちなのですか?」と優しく問い返されました。

 

そこで「私の音感は全く優れていません。突然おうかがいして、大変失礼しました。

 

貴殿が、音楽のマエストロの雰囲気をまとっておいでだったものですから、

 

ついお伺いしてしまった次第です。」などと言い訳をしていると、

 

「私がマエストロなんて飛んでもありませんが、明日と、明後日の夜、この舞台に立ちます。」

 

とおっしゃるのでした。

 

そこで、私は、「それは、あいにくとても残念です。私は、明日、東京へ帰ります。

 

しかし、もし可能であれば、このオペラが終了した後に、お名前をいただけませんか。

 

私は東京の医師で、毎年この季節、ウィーンに医学と音楽の修業に来ています。

 

次回、私にレッスンしていただけないでしょうか。」と畳みかけると、

 

「お引き受けいたしましょう。」といって彼は私に名刺をくださいました。

 

 

ホテルに戻って早速、ネット検索をすると、彼はフォルクス・オーパーに所属する

 

歌手(Sänger)・劇作家Schauspieler・演出家(Regisseur)・著述家(Autor)

 

・舞台芸術監督(Künstlicher leiter)を兼ねるゲルノート・クランナー氏でした。

 

http://www.gernotkranner.at/

 

 

フォルクス・オーパーの日本公演が上野の東京文化会館で

 

2008年5月31日(土)14:30開演、

 

ヨハン・シュトラウスⅡのオペレッタ「こうもり」で、

 

ブリント博士役で出演されていたことがわかりました。

 

http://www.nakash.jp/opera/review08/32volksoper/r.htm

 

旅先での出会いは不思議なものです。

翌日(3月29日)に届いたパブロ・カメセッレ氏からの返事

 

 

<スペイン語原文>

 

Estimado señor Masahiro,

 

Muchas gracias por su mail

Me alegro mucho que las clases le hayan gustado,

fue un gusto trabajar con usted ya que tiene una voz muy bonita!

 

Me alegro también que le guste mi Cuarteto Cameselle y si ve alguna posibilidad de recomendarnos con alguien en Japón le estaré eternamente agradecido!

 

Le envío un cordial saludo desde Viena 

Pablo Cameselle  Von meinem iPhone gesendet

 

 

<日本語訳>

 

正広様

 

メールどうもありがとうございます。

先日の連続レッスンはとても楽しく、

あなたはとても良い声なので嬉しかったです!

 

私の< カメセッレの四重奏曲>を気に入ってくれて嬉しいです。

そこで日本でどなたかに私たちを御推奨していただけるようでしたら、

これに勝る喜びはありません。

 

ウィーンから心よりの挨拶をあなたに送信します。

パブロ ・ カメセッレ

(私の iPhone から発信)

 

 

飯嶋による註:

 

カメセッレの四重奏曲>の一部はyoutubeで聴くことができます。

 

2015/08/09 に公開されたテレビ・インタビュー(ドイツ語:演奏あり)

 

https://www.youtube.com/watch?v=Yr9JJMUdk7s

女性演奏家グループ「リュミエール」のコンサートのご案内です。

 


今回の会場は、原宿駅より徒歩5分の hall 60 (ホールソワサント)になります。

 


リュミエール

エレガント・サロン・クラシックス


2017 年 5 月 28 日 (日)

 

18:00 開演  (17:30 開場)

 

会場: 原宿 Hall 60 (ホール・ソワサント)


東京都渋谷区神宮前6-34-14  原宿表参道ビル B2F

 

JR原宿駅 表参道口より徒歩 5分
明治神宮前<原宿>  徒歩 1分


全席自由 3,500 円 (1ドリンク付)

 


私は、リストのバッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」と

 

ロ短調ミサ曲「十字架に付けられ」の通奏低音による変奏曲を演奏させて頂きます。

 

詳細のお問い合わせ、チケットのお申し込みは寺根までお願い致します。

 

 


2017年 6月 4日(日)のソロリサイタルのご案内です。

寺根佳那 ピアノ・リサイタル

~闇と灯~


日時

2017年6月4日(日)  13時30分開演

 

会場:

日暮里サニーホールコンサートサロン

 

チケット:

2,500円  


https://www.tiaa-jp.com/shop/products/detail/108

※チケットの購入はこちらからお願い致します。

 

プログラム:

バッハ: 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第18番 嬰ト短調 BWV863 

 

バッハ: トッカータ ハ短調 BWV911

 

ショパン:エチュード 第12番 ハ短調 Op.10-12 「革命」

 

ショパン:ノクターン 第13番 ハ短調 Op.48-1

 

スクリャービン:ピアノソナタ 第9番 Op.68「黒ミサ」

 

リスト : バッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」とロ短調ミサ曲「十字架に付けられ」の通奏低音による変奏曲

 


2017年6月4日(日)寺根佳那ピアノ・リサイタル【インタビュー】

 

http://www.tiaa-pro.com/blog/2017/04/04/10779

こちらの記事も参考にご覧頂けましたら幸いです。

 

最近、演奏・指導共にオファーを頂くことが多く、充実した日々を過ごさせて頂いています。


来週も、ピアノ独奏でオファーを頂いたクローズドの演奏会があるので、練習に励みます。

 


皆さまも素敵な日曜日をお過ごし下さい。

 

帰国の翌日(3月28日)に、パブロ・カメセッレ氏に送ったメール。

 

<スペイン語原文>

 

Estimado Señor Pablo Cameselle,

Sin novedad llegué a Tokio muy contento de las valiosas experiencias

y el excelente recuerdo que usted me dio.

Muchas gracias por sus lecciones  magistrales y prácticas.

Ahora estoy escuchando un disguente en mi consultorio;

Cameselle Cuartetto – Piantaos del Tango.

Es realmente increíble, fantástico y fascinante.

Tengo ganas de cantar tangos también.

He decidido enviarle un correo electrónico en español.

No olvide que lo visitaré en el próximo marzo.

Saludos,

Masahiro Iijima 

 

 

<日本語訳>

 

パブロ・カメセッレ様へ

 

私はあなたにいただいた貴重な経験と素晴らしい記念の思い出に

 

とても満足しつつ無事に東京に到着しました。

 

実践的なレッスンをしていただきとても感謝しています。

 

いま、私の診察室の机でCDを聴いています。

 

カメゼッレのカルテット-タンゴのピアントス

 

本当に想像していた以上に幻想的で魅惑的です。

 

私もタンゴを歌ってみたくなりました。

 

そこで私はスペイン語でEメールを送ることにしました。

 

来年の3月もあなたのところへ行くことを覚えておいてください。

 

それでは

 

飯嶋正広

 

 

翌日(3月29日)に届いたパブロ・カメセッレ氏からの返事

 

<スペイン語原文>

 

Estimado señor Masahiro,

 

Muchas gracias por su mail

Me alegro mucho que las clases le hayan gustado,

fue un gusto trabajar con usted ya que tiene una voz muy bonita!

 

Me alegro también que le guste mi Cuarteto Cameselle y si ve alguna posibilidad de recomendarnos con alguien en Japón le estaré eternamente agradecido!

 

Le envío un cordial saludo desde Viena 

Pablo Cameselle  Von meinem iPhone gesendet

 

 

<日本語訳>

 

正広様

 

メールどうもありがとうございます。

 

先日の連続レッスンはとても楽しく、

 

あなたはとても良い声なので嬉しかったです!

 

 

私の< カメセッレの四重奏曲>を気に入ってくれて嬉しいです。

 

そこで日本でどなたかに私たちを御推奨していただけるようでしたら、

 

これに勝る喜びはありません。

 

 

ウィーンから心よりの挨拶をあなたに送信します。

 

パブロ ・ カメセッレ

 

 

 

飯嶋による註:

カメセッレの四重奏曲>の一部はyoutubeで聴くことができます。

2015/08/09 に公開されたテレビ・インタビュー(ドイツ語:演奏あり)

https://www.youtube.com/watch?v=Yr9JJM

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