原題は「Novel coronavirus 2019-nCoV: early estimation of epidemiological parameters and epidemic predictions」

2月4日には武漢市の20万人が感染している?

 

 

概要はmedRxivのウェブサイトで閲覧できます。

 

2019-nCov感染症の流行予測。

 

感染確認患者は実際に感染している人の5%と推定。

 

新型コロナウイルスについての新情報は、日ごとに書き換えられていきます。

私がまとめた情報も掲載時にはすでに古くなってしまいます。

そこで、今回はデータ解析による予測モデルについての報告をご紹介します。

 

 

英国Lancaster大学のJonathan M. Read氏らは、20年1月24日にmedRxivに公開した2019-nCov感染症に関する予測をアップデートし、第2版として1月27日に公開しました。

 

medRxivは、健康科学領域の印刷前サーバーであるため、査読を受けてはいません。
 

新型コロナウイルス(2019-nCov)の感染は中国の武漢で最初の患者が見つかってから速やかに広がり、中国以外の国と地域でも発症者が報告されています。 

 

第1版(1月24日公開)では、1月21日までのデータに伝搬モデルを適用して分析し、基本再生産数(R0)は3.8(95%信頼区間3.6-4.0)で、人口1100万人の武漢市では、2019-nCov感染者の5.1%(4.8-5.5)しか同定されておらず、1月1日から21日までに、実際には1万1341人(予測区間9217-1万4245)が感染していたと予測しました。


流行が衰えることがなければ、2月4日までに武漢市の19万1529人(予測区間13万2751-27万3649人)が感染していると推定されました。

 

また、武漢市からの人の移動を制限し、実際に移動を99%減らせたとしても、2月4日までに武漢市以外の中国国内の感染者は24.9%しか減らせないと予想していました。 

 

第2版は、2020年1月22日のデータを分析対象に追加している。武漢市が封鎖されたのは翌23日からです。

第1版に比べ第2版では、尤度関数の精度を改善、パラメータの不確実性分析の精度を改善し、統計学的により厳密な方法を適用、家庭内感染では感染から発症までに最大で6日という報告を感度解析に反映させ、第1版で使用していたtravel restriction analysisではなく、より適切な別のアプローチを用いたとされますが、詳細については不明です。
 

著者らは、SARSコロナウイルス感染症での推定に基づいて、感染してから感染性を獲得するまでの期間(latent period)を4日と仮定しました。2019-nCov感染者を対象とする当初の分析でも4.4日と推定されています。

 

また、著者らは、latent periodと、感染してから発症するまでの期間(incubation period)はほぼ同様であるとの前提で考えをまとめています。
 

第2版での著者らの推定によると、中国国内における基本再生産数(R0)は3.11(95%信頼区間2.39-4.13)で、伝搬のうちの58~76%を阻止しなければ、感染者の増加はくい止められないことが示唆されました。
 

1月1日から22日までの武漢市での感染者の総数は2万1022人(1万1090~3万3490)だったと考えられますが、この間の感染確認患者は、実際に感染している人の5%(3.6-7.4)に過ぎなかったと推定されました。

これは、大多数の感染者は軽症で、治療を求めるほどの症状は出ないことを示唆します。

一方でこの状態は、致死率(その疾患に罹患した患者100人当たりの死亡者の数)の推定を困難にしています。無症候性の感染者が存在するという報告もあることから、致死率を正確に知ることは困難です。

 

著者らが自ら認めているとおり、この報告における推定は、情報が不足していることによって不確定な部分が多いという限界があります。

仮説についても問題が残されていますが、今後、改良されていけば、より精度の高いものになるのではないかと考えます。

1月27日付けのニューヨークタイムズ国際版の第一面、

中国で、繁忙を極めるウイルス研究室が再び動揺する<In China, thriving lab for viruses stirs again>という見出しの記事は、新たな(感染症の)発生により、外来動物を売る市場を制限することを要請する<After a new outbreak, calls to limit markets that sell exotic animals>という小見出しで始まっています。
 

その記事によると、中国および周辺諸国での新型コロナウイルスによる死者はすでに56人を超え、1,370以上がすでに感染しており、その発生源は武漢市の卸売市場であることが正確に特定されています。

武漢では生きたままの動物を合法的に売買することができます。

 

The novel coronavirus that has already killed at least 56 and sickened more than 1,370 in China and around the world is believed to have spread from exactly one of these places: a wholesale market in Wuhan, a city in central China, where vendors legally sold live animals from stalls in close quarters with hundred of others.
 

Lancet /Huang論文:41人の疫学情報で重症例の死亡率は15%

 

Huang C, Wang Y, Li X, Ren L, Zhao J, Hu Y, et al. Clinical features of patients infected with 2019 novel coronavirus in Wuhan, China. Lancet [Internet]. 2020 Jan 24 [cited 2020 Jan 26]; 0(0).
 

武漢に今年1月2日までに入院した41人の患者の疫学情報である。
 

73%が男性で、基礎疾患がある人が32%。糖尿病、高血圧、心疾患といった基礎疾患だった。

年齢の中央値は49歳で、この研究では小児患者はゼロ。喫煙歴は7%。海鮮市場とのコンタクトがあったのが66%。家族内クラスターも1件あった。筋肉痛が44%、咳嗽が76%、膿性痰は28%、頭痛が8%、呼吸困難感が55%に認められた。

 

発症から呼吸困難発生までの中央値は8日間。急性呼吸窮迫症候群(ARDS)発症29%、RNA血症が15%、急性心障害が12%、二次感染が10%に見られた。

 

32%が中中治療室(ICU)に入室し、15%(6人)が死亡した。次の報告にもあるが、本感染症の死亡率は3%程度と考えられるが、入院するくらい重症例の場合、死亡率は15%と高い。呼吸困難発症までの時間が割と長いのも特徴的だ。

 

武漢は、以前から鳥インフルエンザから発生する新型インフルエンザが監視されている地域であり、さらに02年に香港で流行したSARS(重症呼吸器症候群)も発生した地域です。

ですから、私は今後も警戒が必要であると考えています。

 

 <明日に続く>

今週は、昨年(2019年)暮れから流行している中国発の新型コロナウイルスについての話題を採りあげます。

 

2002~03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルス同定は早かったので、医学の進歩に驚きましたが、今回はさらに早い時期に同定されたことは幸いです。

 

病原体の同定、疫学調査、数理予測モデル、ワクチンや治療薬の開発、現場では専門病院の建設と、公衆衛生対策面、学術・臨床面での急ピッチの進展がみられます。
 

2020年の年明けとともに、一般向けにも中国の武漢市で原因不明の肺炎が多発しているとのニュースが飛び込んできました。1月9日の中国国内の報道では、今回の肺炎の原因は新型コロナウイルスであり、15人の患者からこのウイルスが分離されたとしていました。

その後、59人の患者が報告され、その数日後に死亡者が発生しました。
  

 

そして世界保健機構(WHO)は15日の記者会見で、ようやく新型コロナウイルスを確認したことを明らかにしました。

当初、感染の広がりと重症度などの詳細は不明でした。感染症の拡大が懸念されましたがヒト‐ヒト感染の可能性は低く見積もられたため、その後の発表ではその可能性は低いものと、一時的には考えられていました。

しかし、その後、中国の周辺諸国でも患者の発生が次々と報告され、危険性が低いとする推定が誤りであったことが判明しました。

 

 

Lancet /Chan論文:

ヒト・ヒト感染の成立がほぼ明確にされました

 

Chan JF-W, Yuan S, Kok K-H, To KK-W, Chu H, Yang J, et al. A familial cluster of pneumonia associated with the 2019 novel coronavirus indicating person-to-person transmission: a study of a family cluster. Lancet [Internet]. 2020 Jan 24 [cited 2020 Jan 26];0(0).
 

これは武漢旅行から帰ってきた広東、深圳の5人の患者と旅行に行かなかったその家族の詳細で、ヒト・ヒト感染の存在を明示するものです。

2019年12月29日から翌年1月4日まで旅行していた6人のうち、5人から2019-nCoV(コロナウイルス)が検出されました。

5人とも武漢の海鮮市場との接触はありませんでした。残る1人がウイルスとの接触が疑われ、同様の臨床像があったため、同様の感染があったものと推測されています。

旅行者たちは武漢では親戚と頻繁にコンタクトがあったが、その親戚も発症し入院していました。

発熱、気道症状、下痢などが見られ、発症6〜10日で病院を受診しました。患者の多くが発熱+しました。白血球はほとんど正常で、炎症の程度の指標となる反応性蛋白(CRP)は多くが軽度上昇でした。

CTでは、すりガラス様陰影の多発する所見が認められました。下痢便からはウイルスは検出されませんでした。家族には無症状の10歳小児がいたが、レントゲンではすりガラス様陰影が認められました。

 

飯嶋註:

すりガラス様陰影の所見は、間質性肺炎などでみられる所見です。間質性肺炎は見落とされやすい肺炎であり、重症な割には症状が軽い場合が多いのが特徴です。
 

ヒト・ヒト感染がほぼ明確に示された本報告は、PCRの偽陰性の可能性や不顕性感染の可能性、そして5日前後の潜伏期間、下痢はあっても下痢便ではPCR陽性にはならないといった、日常臨床上にも有用な情報が掲載されていて優れた情報源でありました。


<明日に続く>

<線維筋痛症 JFIQの経過報告>

 (図1)

スクリーンショット 2020-01-28 15.33.41

 

JFIQは線維筋痛症の経過観察に欠かせない指標です。

 

 

最高点が100点で、20点未満が正常値になります。

 

 

 (図1)は左側が初期時の点数、右側が現在の点数でその2点を結んだものです。

 

 

 

 図2)

スクリーンショット 2020-01-28 15.33.32

 

(図2)は線維筋痛症の治療効果の割合を表したものです。

 

 

 50以上点数が下がると「著効」です。

 

 

 20以上50未満点数が下がると「改善」です。

 

 

 20未満の点数の低下は「無効」の判定となります。

 

 

 

 

 

<今回の考察>

 

 

正規性の検定で初期値、現在値共に正規性がありました。

 

 

その後、関連2群の検定と推定を行いました。

 

 

1)統計的にみて、JFIQスコアが有意に改善したことが証明されました。P(危険率)=0.001%でした(図1)

 

 

pが0.05以下であれば統計学的優位である。

 

 

pが0.01以下であれば統計学的に極めて優位である。

 

 

 

2)JFIQスコアの判定基準として、20点以上改善されると治療が有効、50点以上改善されると著効となります。

 

 

  今回、 14名の平均で   32.8点改善していたため、全体として鍼治療は  有効であったと言えます。

 

 

個別でみると、著効3名(21.4%)、有効6名(42.9%)、無効5名(35.7%)でした。(図2)

 

 

 

杉並国際クリニック 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

 

昨日、私にメールが届きました。新型コロナウイルスに対する日本の対応についてとても心配している様子です。2月3日から7日にかけて、関連記事を掲載しますので、併せてお読みいただければと存じます。

 

その1はこちら

 

 

友人の名前は匿名*****としたうえで、以下のように一部を編集しました。

 

質問事項は赤、質問関連の叙述は青、その他、必要に応じて下線を施しました。

 

今後、返事のために質問文の文頭にはQ1~Q5を施しました。

 

そのうえで、それぞれの訳を加えてみました。

 

それぞれA1~A5という形で回答していくことにしました。

 

 

本日は友人からの質問Q1に対して、私の回答A1を準備しました。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

以下が私からの回答です。

 

Dear *****,

 

I appreciate you that you remember me.

(僕のことを覚えていてくれてうれしいです。)

 

Your letter inspired me to greater efforts to speculate on the current global situation in various perspectives ; not only medically, but geopolitically as well as socioeconomically,legally etc.

(君のレターを読んで、現在の国際情勢を、いろいろな角度から、もっとしっかりと検討してみようという気になりました。医学面に限らず、地政学的な面や社会経済学的な面、法的側面などからです。)

 

Then can I beg you time to answer your questions one by one?

(そこでお願いがあるのですが、君の質問に一つずつ順を追って答えるための時間を私にくれませんか?)

 

Now I tried to answer your first question.

(さっそく、君の最初の質問に答えてみました。)

 

Q1. What do you think about this new corona virus?

(新型コロナウイルスについてはどのように考えていますか。)

 

A1.I think we should redouble precautions against the 7th corona virus which was recently identified, because it could be one of the most harmful and hazardous subspecies among 7 types of corona virus. Then I can understand your worrying after reading  whole your message. There has been criticism of Japan’s decision to let returnees from Wuhan ‟self-quarantine”, including the two people on the first flight who decisively refused to be tested. Those two were asked to avoid public transport, and quarantine officers will follow up on their health, officials said. Indeed there is no treatment for a disease caused by a novel corona virus, but symptoms can be treated and supportive care for infected people has been shown to be highly effective, according to the World Health Organization (WHO). Then I think this suggestion might be approvable for the moment as far as I can judge with limited information. 

(最近になって同定された第7番目のコロナウイルスに対しては警戒を強めるべきだと考えています。その理由は、7種類のコロナウイルスの中でも最も危険で有害なタイプであるかもしれないからです。だから君が心配していることは君のメッセージの全文を読むと理解できます。武漢からの帰還者を「自主隔離」扱いとした日本の決定には批判が続いています。最初に帰航したうちの2名は検査を受けることを断固として拒否しました。当局によると、この2名は交通機関を避けるように要請され、検疫官による健康把握が続くことになります。新種のコロナウイルスによってもたらされる病気の治療法がないことは確かですが、世界保健機関(WHO)によれば、症状の手当ては可能であり、感染者に対する対症療法の効果は高いことが示されているとのことです。そこで私が限られた情報によってさしあたり判断できる限りでは、これが示唆していることは、おそらく是認できるのではないかと考えています。)

昨日、私にメールが届きました。新型コロナウイルスに対する日本の対応についてとても心配している様子です。2月3日から7日にかけて、関連記事を掲載しますので、併せてお読みいただければと存じます。

 

 

友人の名前は匿名*****としたうえで、以下のように一部を編集しました。

 

質問事項は赤、質問関連の叙述は青、その他、必要に応じて下線を施しました。

 

今後、返事のために質問文の文頭にはQ1~Q5を施しました。

 

そのうえで、それぞれの訳を加えてみました。

 

今後は、それぞれA1~A5という形で回答していくことにします。

 

・・・・・・・・・・・

How are you these days?

 

Sorry to suddenly email you out of the blue. You probably do not appreciate it, but I thought I would ask you as a friend.

 

 

 

Q1. What do you think about this new coronavirus?

(新型コロナウイルスについてはどのように考えていますか。)

 

 

If you are busy do not worry, I am sure you have too many requests for information from patients and working hard.

 

 I have also been very busy and tired recently. 

 

However, I am concerned and to be honest, quite angry at the Japanese response to this epidemic.

(私は心配だし、率直に言えばこの伝染病にたいする日本の対応にはまったく腹立たしいです。)

 

 I heard today they sent the Japanese evacuees from Wuhan back to their homes.

(今日聞いたところでは、日本は武漢から避難してきた邦人を帰宅させたとのことです。)

 

 

 

 Q2.Surely they took the train, and will infect other civilians or family members?

(きっと彼らは電車に乗ったはずで、そうだとすれば他の一般市民や家族が感染してしまうことにはなりませんか?)

 

 

Also I have read scientists do not know how infectious people are even when asymptomatic.

(そのうえ、感染者が無症状でいつもとかわらないままでいられる理由を科学者たちが把握していないという記事を読みました。)

 

This makes me worry.

 

I do not trust the Chinese authorities and information.

(私は中国当局やそれが流す情報に信頼を置いてはいません。)

 

 

 

Q3.The cases have increased by over a thousand the last few days, so I guess they have been hiding the numbers and are perhaps slow releasing the numbers each day?

(直近の数日間で感染者の数は千人を超えるまでに膨れ上がりました、そこから私が推測するには中国当局は感染者数を隠蔽し続けていて、おそらく日毎の感染者数の公表を遅らせているのではないでしょうか?)

 

 

China has also censored private internet user videos and now only state sanctioned information has been released for the last 2 or three days.

 

This also really worries me.  

 

 

Unlike Taiwan, Hong Kong, and even Kazakhstan.

(台湾、香港ばかりでなくカザフスタンでさえ実施しているのとは異なり、)

 

Japan has not stopped Chinese from travelling.

(日本は中国人が旅行を続けることを停止させていません。)

 

 

Only yesterday I took a train to work that was full of Chinese tourists.

 

Many of them were not wearing masks.

 

This makes me actually very very angry.

 

The British government and American government are quarantining all evacuees from their respective.

(英国政府と米国政府はそれぞれの避難者全員の隔離を続けています。)

 

 

Q4. Is Japan not doing anything just because the business lobbyists in want the Chinese New Year tourist money and do not want to panic Tokyo?

(日本が何もしていないのは、単に中国の春節旅行者の落とす金をあてこんでいる業者の陳情工作のためや東京をパニックに陥らせたくないためのものなのでしょうか?)

 

I really wonder why the response is so different. 

(対応が<国によって>これほどまでに異なっているわけを私はとてもいぶかしく思います。

 

I just saw some graph projections and it seems there could be over one hundred million infected worldwide by the end of February, plus it has a higher (so far) infection rate and mortality rate than the common flu. 

 

Some of my friends have asthma, so I also worry it could be dangerous for them. 

 

I am trying to control my anger at the Japanese response now but feel really disgusted.

 

I hope people here start taking it more seriously. 

(この国の皆さんがこの問題にもっと真剣に取り組んでいただけることを望んでいます。)

 

 

Q5.Can you give me any thoughts?

(あなたの何らかのお考えをくださいませんか。)

 

 Will Tokyo be in "lockdown" in a month?

(東京は1カ月以内に「完全閉鎖」されることになるのでしょうか。)

 

I worry about people`s common sense, the hospitals here and panic buying.

(国民の常識、この国の病院やパニック買い占めについて憂慮しています。)

 

I am so sorry to email you at this bad time. 

 

God bless,

 

*****

―再発または難治性でCD19陽性の、B細胞性急性リンパ芽球性白血病―

 

キムリアによる治療は、CAR-T療法と呼ばれ、がん細胞への攻撃力を高めるように患者さん自身の免疫細胞に遺伝子改変を行う治療法で、「がん免疫遺伝子治療」にあたります。

 

まず、患者さんの血液から免疫細胞のひとつであるT細胞を取り出し、白血病のがん細胞を標的として攻撃するためにCARと呼ばれる分子を作り出すことができるように遺伝子を導入し、CARを発現したT細胞(CAR-T細胞)を作ります。これを患者さんの体内に戻せるように製造された製品がキムリアです。

 


CAR-T細胞は、白血病に出ているCD19という標識をみつけて捕まえる能力高くなっています。CD 19を目印に白血病を捕まえたCAR-T細胞が強い攻撃力で白血病をやっつけます。

キムリアを投与すると、体中にCAR-T細胞が拡散します。CAR-T細胞は、他の血球の協力がなくてもCARを使って白血病のがん細胞を見つけて結合し、がん細胞を攻撃し、死滅させます。

また、CAR-T細胞は体の中で増えることができるため、1度だけの投与で継続的に標的のがん細胞を攻撃します。

 


CAR-T細胞療法は細胞性免疫をつかさどるT細胞を利用した治療法です。しかも、CAR-T細胞療法は遺伝子を患者の細胞に導入した遺伝子治療です。

患者のT細胞をアフェレシスにより採取し、その細胞に遺伝子操作を行い、CD19に反応するような抗原受容体を持ったT細胞に改変して患者に戻します。

患者数は年間200人程度と見込まれています。このようにCAR-T療法は、がん免疫療法として有効性が期待される反面、重篤な副作用が起きる可能性もあります。

 

治療は、1患者当たり1回であり、薬価は約3,349万円です。これまでの治療薬よりはるかに高額な治療法であり、過去最高の薬価です。

わが国では高額医療の多くは公費での負担が重く、個人より国の負担が重くなります。2019年に、米国では脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療薬(zolgensma)が212.5万ドル(約3億円)で認可されました。それにしても驚天動地の高額医療です。

 

そもそも、特許切れの薬剤の薬価は低く抑えられてしまいます。

残念ながら日本の製薬会社はアカデミアやベンチャー発の画期的新薬を取り入れる競争で後れを取ってしまいました。

国家を挙げて重要な研究を積極的に支援することが望まれます。私は政策や経済の門外漢ながら、わが国の研究の遅れにより、これら高額な海外の新薬が増えてくるトレンドを冷静に考えると、早晩わが国の薬剤費、貿易赤字の両方に悪影響が及んでくることが懸念されます。

 

<完>

―B細胞性急性リンパ芽球性白血病―

B細胞性急性リンパ芽球性白血病の特徴とその治療法

 

急性リンパ芽球性白血病(ALL)は、小児と成人で発症し、白血病細胞の種類によりB細胞性(B-ALL)とT細胞性 (T-ALL)に分けられます。

ALLの治療は、これまでの治療法に加えて、抗体(特定の標的に結合するたんぱく質)を利用する治療法があります。

 

また2019年5月、再発または難治性でCD19陽性の、B細胞性急性リンパ芽球性白血病、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するCAR-T細胞療法チサゲンレクルユーセル(商品名キムリア)が日本で承認されました。

 

CAR-T細胞(chimeric antigen receptor-T-cell)とは
キムリアを用いた CAR-T療法は、再発・難治性のB-ALL の患者さんに使えるようになりました。

キムリアは、患者さんの免疫細胞(T細胞)を取り出し、がん細胞に対して攻撃力を高めるように改変した製剤で、これを患者さんに投与してがん細胞を死滅させます。キムリア による治療は、カーティ(CAR-T)療法と呼ばれ、再発または難治性のB細胞性急性リンパ芽球性白血病の治療に使われます。

 

すべての白血病がキムリアの治療対象となるのではありません。

急性白血病であり、さらにリンパ芽球性であって、しかもB細胞性であるという前提条件が求められます。

また、CD19 抗原が陽性であることが確かめられてB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)と診断され、治療を受けるときに25歳以下であることの他に、以下のいずれかに該当する患者さんです。

 

● 初発の場合、標準的な化学療法を2回以上受けたものの、寛解が得られなかった

 

● 再発の場合、化学療法を1回以上受けたものの、寛解が得られなかった

 

● 同種造血幹細胞移植を受けることができない、または同種造血幹細胞移植後に再発した

 

 

池江璃花子選手の誕生日は2000年7月4日とのことですので、2020年1月30日現在で19歳のはずです。彼女は化学療法を受け、同種造血幹細胞移植後に寛解を維持して退院したとの限られた情報ではありますが、彼女が25歳までに仮に再発した場合には、キムリアによる治療選択の余地がでてくるかもしれません。

 

<明日につづく>

―B細胞性急性リンパ性白血病-

 

急性リンパ性白血病(ALL)は、小児と成人で発症します。骨髄にリンパ性白血病細胞が25%以上認められれば診断できます。


ALLも一様ではないため従来から白血病細胞の形態による分類(FAB分類)が行われていましたが、WHO分類では、造血器腫瘍をその起源で4つのカテゴリーに分類し、その一つであるリンパ系腫瘍はさらにB細胞腫瘍、TおよびNK細胞腫瘍、ホジキンリンパ腫に再分類されます。

 

ALLは、その起源によりB細胞腫瘍あるいはTおよびNK細胞腫瘍に属し、リンパ芽球性リンパ腫瘍と同じカテゴリーに分類されています。

また最近では表面形質による分類が主体となりました。これは白血病細胞の表面形質によりB細胞性(B-ALL)とT細胞性 (T-ALL)に分けます。 T-ALLのほうがB-ALLより予後がよいとの報告が多いようです。

 

ALLの治療は、まず完全寛解に導入し、その後、地固め療法、さらに維持強化療法を行なって白血病細胞の根絶を目指すのが原則ですが、標準的な治療は存在しません。

こうした、従来の治療法に加えて、抗体(特定の標的に結合するたんぱく質)を利用する治療法があります。この治療法は既に抗体療法は関節リウマチやがんをはじめ、さまざまな疾患の治療薬として用いられています。抗体療法が液性免疫をつかさどる特異的免疫グロブリンという蛋白質を用います。

 

予後不良因子は、完全寛解までの期間の長いこと、白血球数が多い(3万ないし5万/μL以上)こと、高年齢(30歳ないし35歳以上)、ないし、特定の核型をもつ染色体異常などが参考にされています。

 

<明日につづく>