慢性心不全における薬物治療と非薬物治療の進歩と限界… …九州大学 筒井 裕之

 

日本循環器学会と日本心不全学会は、心不全を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とする一般向けの定義を公表しました。

 

心不全リスク(ステージA,B)⇒症候性心不全(ステージC,D)

 

慢性心不全に対する薬物療法・非薬物療法は進歩が著しい反面、未だに厳然たる限界があります。

 

心不全については、近年は「左室駆出率が低下した心不全(heart failure with EF: HFrEF)LVEF《40%」主に収縮機能障害(心筋梗塞、拡張型心筋症などに対して

「左室駆出率が保持された心不全(heart failure with preserved EF: HFpEF)」主に拡張機能障害(高血圧性疾患を始め、多様な基礎疾患と多様な併発疾患)が話題になっています。

 

前者の治療が著しい発展を遂げているのに対して、後者は増加して現代型心不全であるにもかかわらず、未だ生命予後を改善する治療が確立していないからです。

 

治療の発展:神経体液性因子の上昇による心不全増悪という悪循環のメカニズム

 

非薬物療法:呼吸療法、運動療法、細胞治療

 

病態別治療:HFpEFは利尿剤を病態に応じて、ただしHFmrEFは個々の病態に応じて治療

 

入院死亡率8%、再入院率20%(アドヒアランス不良にいる症状増悪によることが多い)

 

画一的な治療では改善できず、個別的ケアの必要性

 

新たな心不全治療薬:2型糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬

 

心不全による入院を抑制する

 

ACE阻害薬〔エナラプリル:レニベース®〕を上回る成績の薬剤の開発

 

いずれにしても、心不全患者は高齢者が多いとはいえ、治療戦略の基本は変わりません。ただし、エビデンスが十分でないうえに副作用が生じやすく、合併症も多いため、患者特性に基づいた個別の対応が必要です。

 

非薬物療法である植込み型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator: ICD)と

心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy: CRT)の有効性は確立し、標準治療となっています。

 

ただし、画一的なプログラムには限界があり、行動変容に基づくセルフケアを支援するICT(information and communication technology)の活用も取り組まれています。

 

筒井先生のレクチャーのなかで、循環器内科医も心身医学とりわけ心療内科と無関係ではいられない時代に突入したことが行動変容に基づくセルフケアを支援するICTの活用という記述で紹介されました。

 

問題は、どこまで適切に活用できるかということです。高円寺南診療所でも心臓超音波検査によって左室駆出率を計測できるので、心不全の評価分類と重症度評価をこれまでより一層きめ細やかに行わなくてはならないと思います。

 

 

急性腎障害(AKI)慢性腎臓病(CKD): その移行メカニズム………京都大学 柳田 素子

 

急性腎障害(AKI)とは、数時間から数日の間に、急激に腎機能が低下する病態であり、入院患者の数%が罹患する頻度の高い疾患です。AKIは致死率が高いのみならず、末期腎不全や慢性腎臓病(CKD)に至る予後の悪い疾患であるということが、近年にわかに明らかになってきました。

 

AKIでは、腎臓の機能単位ネフロンの近医尿細管が主として障害されるのに対して、CKDでは線維化と広汎なネフロン障害が特徴になります。

 

特に高齢者ではAKIがCKDに移行し易く、高齢腎における三次リンパ組織形成は、AKIからCKDへの移行を防ぐ新たな治療標的として有望とされます。

 

近年、がんと腎臓病の関わりを捉えたオンコネフロロジーが注目されています。

 

抗癌薬使用時には高頻度にAKIを発症します。AKIがCKDに移行し、腎機能が十分に回復しなければ、抗がん薬投与の継続が困難になり、生命予後が悪化するため、AKIがCKDに移行するのを防ぐための方法の確立が望まれています。

 

柳田先生のレクチャーは、シンプルでわかりやすいものでした。腎臓の尿細管は薬物障害を受けやすいことは常に念頭におくべきでしょう。

 

急性腎障害は高い死亡率があり、20%は慢性腎臓病に移行すること、また、慢性腎臓病に急性腎障害が生じると予後が悪いことはよくわかりました。

 

ただ残念なことに治療法が未開拓です。それでは、来週から高円寺南診療所ではどのような取り組みをすべきか、もう少し詳しく勉強しようと思います。

喘息・COPDにおける気道炎症メカニズム………………高知大学 横山 彰仁

 

気管支喘息は成人の6~10%程度、慢性閉塞性肺疾患は40歳以上の8%以上に認められます。

 

気管支喘息では、基本的に、その発現のメカニズムは明確でないためか、一定の評価を獲得している既存薬を使用しても十分なコントロールが得られない患者が5~10%程度存在し、これらは重症喘息と呼ばれます。

 

このなかに喘息自体が重症である本来の重症喘息と、喘息以外の因子によって重症化している治療困難喘息があり、重症喘息のピットフォールになります。

 

Th2型T細胞…自然免疫との関係

 

好酸球性炎症、非好酸球性炎症

 

非好酸球性炎症に対してステロイドは無効

 

治療困難因子の改善

 

口演中の治療困難喘息の因子スライドには、心理的因子がリストされていませんでした。これこそが大いなるピットフォールです。

 

 

喘息増悪頻度およぶICS効果予告因子としての末梢血好酸球数(喀痰中好酸球数が望ましいのだが)

 

好酸球性炎症:COPDに対する抗IL-5(メポリズマブ)の増悪抑制効果は好酸球数が増加するほど大きくなる,他に抗IgE

 

COPDは、いつでも治療が有益な疾患、

 

薬物療法の基本は気管支拡張薬

 

横山先生は、以上のように解説していますが、重症喘息のピットフォールには、鼻炎合併喘息であるにもかかわらず鼻炎の治療がなされていないケースや心理社会的ストレスで増悪し発作を生じる呼吸器心身症としての喘息の見落としを具体的にあげておくべきではないかと思います。

 

喘息は呼吸器内科やアレルギー内科が最も得意としなければならない疾患であるにもかかわらず、必ずしも適切に治療がなされているとは限りません。

 

呼吸器内科専門医や内科アレルギー専門医は鼻腔を診察しませんし、たいていは心身医学に対する研鑽を積んでいないからです。

 

現在、日本アレルギー学会は総合アレルギー専門医を養成しようとしているし、私もその方向に賛成、というか、とっくの昔に実践しているので、重症喘息とか難治性喘息の多くは、細分化専門医学や大量生産性医療によってもたらされたケースではないのかとさえ考えています。

 

慢性閉塞性肺疾患は基本的に難治であるために、治療しても仕方がないという認識そのものがピットフォールです。現在、いかなる患者であれ治療は可能であり、肺機能低下を抑制し症状を緩和すること、および初期からみられる併存症への対応が重要です。また、予防可能な疾患であり、禁煙が最重要です。

 

母体の喫煙暴露や栄養障害等、胎生期の問題が喘息および慢性閉塞性肺疾患、また、最大到達肺機能低下のリスク因子であることも知られています。

 

横山先生の後半部分の記述は、全くもってその通りだと思います。

 

 

慢性心不全における薬物治療と非薬物治療の進歩と限界… …九州大学 筒井 裕之

日本循環器学会と日本心不全学会は、心不全を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とする一般向けの定義を公表しました。

心不全リスク(ステージA,B)⇒症候性心不全(ステージC,D)

慢性心不全に対する薬物療法・非薬物療法は進歩が著しい反面、未だに厳然たる限界があります。心不全については、近年は「左室駆出率が低下した心不全(heart failure with EF: HFrEF)LVEF《40%」主に収縮機能障害(心筋梗塞、拡張型心筋症などに対して「左室駆出率が保持された心不全(heart failure with preserved EF: HFpEF)」主に拡張機能障害(高血圧性疾患を始め、多様な基礎疾患と多様な併発疾患)が話題になっています。前者の治療が著しい発展を遂げているのに対して、後者は増加して現代型心不全であるにもかかわらず、未だ生命予後を改善する治療が確立していないからです。

治療の発展:神経体液性因子の上昇による心不全増悪という悪循環のメカニズム

非薬物療法:呼吸療法、運動療法、細胞治療

病態別治療:HFpEFは利尿剤を病態に応じて、ただしHFmrEFは個々の病態に応じて治療

入院死亡率8%、再入院率20%(アドヒアランス不良にいる症状増悪によることが多い)

画一的な治療では改善できず、個別的ケアの必要性

新たな心不全治療薬:2型糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬

心不全による入院を抑制する

ACE阻害薬〔エナラプリル:レニベース®〕を上回る成績の薬剤の開発

いずれにしても、心不全患者は高齢者が多いとはいえ、治療戦略の基本は変わりません。ただし、エビデンスが十分でないうえに副作用が生じやすく、合併症も多いため、患者特性に基づいた個別の対応が必要です。

非薬物療法である植込み型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator: ICD)と

心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy: CRT)の有効性は確立し、標準治療となっています。ただし、画一的なプログラムには限界があり、行動変容に基づくセルフケアを支援するICT(information and communication technology)の活用も取り組まれています。

筒井先生のレクチャーのなかで、循環器内科医も心身医学とりわけ心療内科と無関係ではいられない時代に突入したことが行動変容に基づくセルフケアを支援するICTの活用という記述で紹介されました。問題は、どこまで適切に活用できるかということです。高円寺南診療所でも心臓超音波検査によって左室駆出率を計測できるので、心不全の評価分類と重症度評価をこれまでより一層きめ細やかに行わなくてはならないと思います。

パネルディスカッション 14 時40 分~16 時40 分(120 分)

 

日常診療における難治性疾患への対応とピットフォール ……司会 自治医科大学 永井良三  高知大学 横山彰仁

 

近年の著しい高齢化の進行は、患者の高齢化をも意味します。

 

高齢患者は非典型的な病像となるのみならず、同時に併存する疾患が増加し、疾病間あるいは治療薬剤間の相互作用を考慮する等、治療の個別化が必要となってきます。

 

多くの臓器・機能の障害を有する患者に対し、個々の障害をひとつひとつ全て治療するのではなく、1人の人間としてすべてに目配りしながらも、どの部分への重点的な助力がQOL(腎性の質、生活の質)の向上や安心に最も寄与するのかを判断する必要性も生じています。

 

このような状況に対応するためには、総合的な幅広い知識を持つことが必要不可欠となっています。

 

この司会者のことばを裏返してみると、かつての医療は、典型的な病像を軸として、単一疾患に対して、ワンパターンの大量生産的な治療をしてきたということになります。

 

こうした患者さんばかりだと、医学データを集計し易く、エビデンスを集めるには都合が良かったはずです。

 

つまり、大学病院や大病院での大量生産的な診療が一定の成果を収めると同時に、データをまとめやすく、医学論文もまとめやすかったであろうことは想像に難くありません。

 

しかし、反面、典型的でない病像や同時に併存する疾患を多数抱えた患者さんは、非典型例として適切な医学的対応を享受できなかったことが示唆されます。

 

そういう患者さんこそが難治例であり、現在でも大学病院から高円寺南診療所に紹介されてくる患者さんが少なくないのは、こうした理由によるのではないかと考えています。

 

つまり、大規模集計データをとり易い典型的で単一疾患の患者さんは大学病院等、データをとりにくい非典型的個性的かつ重複疾患をもつ厄介な(失礼!)な症例は高円寺南診療所、という具合の図式ができあがります。

 

 

これからは大学病院も大病院も高円寺南診療所と同様に、一人一人の患者さんの個性に応じた臨機応変の対応に切り替える覚悟ができたとすれば、それはとても素晴らしいことだと思います。

 

しかし、残念ながら、それは一朝一夕には実現できないのではないかと思います。

 

というより、大学病院の機能が完全にマヒしてしまうに他ならないからです。

 

肝心なポイントなので再掲しますが、失礼ながら、これを言う資格は専門の限られた大学教授には無いと思います。

 

自らが実践できていない理想を語るのは理論家ではあっても実務家ではないと思います。そして、単なる理論家は実務家を教育し訓練することなど不可能なはずです。

 

 

多くの臓器・機能の障害を有する患者に対し、個々の障害をひとつひとつ全て治療するのではなく、1人の人間としてすべてに目配りしながらも、どの部分への重点的な助力がQOL(腎性の質、生活の質)の向上や安心に最も寄与するのかを判断する必要性も生じています。

 

このような状況に対応するためには、総合的な幅広い知識を持つことが必要不可欠となっています。

 

これを本当に可能とする医師になりたければ、大学病院や大病院ではなく、高円寺南診療所のような現場で臨床実績を積むべきでしょう。

教育講演9.13 時00 分~13 時20 分(20 分) 座長 日本大学 橋本修

COPDの治療管理………東北大学 黒澤一

 

慢性閉塞性肺疾患(COPD)=肺気腫+慢性気管支炎

 

喫煙者の15%が罹患、約500万人 患者数が多く、認知度が低いのが問題

 

これは、心身症、心療内科も同じ悩みを抱えている。

 

認知度80%を目標に掲げているが…

 

主流煙流2μm、副流煙粒2μ

 

COPD診断と治療のためのガイドライン2018(第5版)

 

<炎症>というキーワードは消えたが、より広範な疾患概念に発展。

 

喫煙歴のある中高年者の場合、症状が無くても疑う

 

空気を出しにくく、空気が肺に溜まってしまう。

 

気管支拡張薬吸入後のスパイロメトリーでFEV₁/FVC<70%

 

治療は、禁煙(受動喫煙の防止を含む)、ワクチン接種、早期介入、疾患認知

 

非薬物療法が不可欠:身体活動の向上と維持(生命予後を決定する!)、呼吸リハビリテーション導入・維持

 

(教育・運動・栄養)

行動変容:生活習慣が望ましい方向に変わる

 

動機付け、強化など、SpO₂<90%で酸素療法

 

慢性閉塞性肺疾患の治療は、薬物療法のみでは限界があり、非薬物療法で補う必要があるということです。

 

非薬物療法としては、認知行動療法や運動療法が注目されています。推奨していますが、残念ながら積極的に実施しているところは限られています。

 

大学病院で大げさに運動療法を始めてどうしますか。入院期間も限られているので、呼吸器リハビリプログラムも中途半端だと聞き及んでいます。

 

やはり、内科の発想では薬物療法が主体であって、非薬物療法は付け足しという扱いだから、運動療法が出遅れるのではないかと思います。

 

やはり、ここは高円寺南診療所方式がスタンダードにならなければ、多くの患者さんは救えません。手遅れにならないうちに今から水氣道®、楽しく始めるなら聖楽院の聖楽療法です。

 

 

特別講演 13 時20 分~14 時00 分(40 分) 「がんプレシジョン医療」の現状と課題 ……座長 第115 回日本内科学会講演会会長 河野修興  シカゴ大学 中村祐輔

 

「プレシジョン医療」(オバマ大統領)=「オーダーメイド医療」

 

がんは早く見つけられるものほど治癒率が高い。

 

ただし、早期に発見しても治癒が困難な癌がある。

 

がんの検診率、簡便なスクリーニング法の開発

 

がんの超早期再発診断法の開発・超早期治療

 

新しい免疫療法:ネオアンチゲンワクチン、オンコアンチゲンワクチン(ニボルマブ)

 

がん特異的CTLのクローニング⇒TCR導入、T細胞療法

 

大きなデータベース⇒人工知能の活用

 

クラウドシステム(医療・DNA情報)

 

がんゲノム医療:遺伝的・後天的なゲノムの多様性

 

米国FDA承認:医療機関を介さずに、遺伝子検査を受けることができる

 

リキッドバイオプシー:その人の癌の個性を明らかにすることができる

 

検出率は、癌の種類によりほぼ100%から60%まで、疑陽性率は1%程度

 

画像診断より6~9か月早く、転移・再発を感知することができる

 

がん由来のDNAを検出することにより

 

抗がん剤の薬剤応答性による4分類

 

ヒトゲノム暗号全解析2001

 

遺伝子HLA-B*3101はカルバマゼピンによる薬疹の発症リスクと関連する

 

免疫チェックポイント抗体治療で腫瘍縮小がみられる割合、縮小率は25%以下

 

結局は、どんな抗ガン治療も、患者さん自身が持つ免疫力が前提となる

 

ネオアンチゲン予測

 

T細胞受容体導入T細胞療法

 

これはとても興味深いテーマですが、さすがに解説するのが難しいです。腰を落ち着けて、ゆっくりと機会を改めてご紹介したいと思います。

糖尿病診療の最前線………………………………………………………熊本大学 荒木 栄一 招

請講演4.11 時20 分~12 時00 分(40 分) 座長 大阪医科大学 樋口 和秀

 

日本から発信するIBD診療の新たなエビデンス……………東京医科歯科大学 渡辺  守

 

 

炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎クローン病のことです。

 

潰瘍性大腸炎は18万人強、クローン病は4万人強で合わせると22万人を超し、306ある難病の中でも一番患者数が多くなりました。IBDの診断に関する新しい展開として、

 

1)クローン病に対するMRE(MRエンテログラフィ)小腸内視鏡所見の比較論文

現在は日本でしか汎用されていない小腸内視鏡を最大限に活用した研究で、小腸バルーン内視鏡とMRIは、小腸の病変評価および予後評価において同等とするもの

 

2)潰瘍性大腸炎の病状把握には便ヒトヘモグロビン定量(FIT)が有用とする論文

FIT検査は簡便であり、しかも内視鏡による粘膜治癒と相関しているので、実臨床に意義がある検査であるとするもの

 

3)潰瘍性大腸炎に発生する大腸がんは見つけにくいばかりではなく、進行が速く、転移を来しやすい悪性形質を有するため、サーベイランスが不可欠とする調査結果

 

渡辺先生の御発表は、実地臨床家による日常診療というよりは、この分野での研究の国際競争において主導的な地位にあった日本の研究が低迷するなか、若手研究家を大いに鼓舞しようというエネルギーに満ちたものでした。一点だけ確認しておきたいのは便ヒトヘモグロビン定量(FIT)とは、大腸がん検診で使われている便潜血検査との異動です。

 

私と同様に、日常診療に役立つ実務的な情報を期待している多くの参加者は、12時に配給される軽食を受け取るために、さっさと講堂を出て長蛇の列をなしていました。これこそ、まさに日本の内科医の知られざる実像、昼食からしてエコノミークラスです。おそらく、皆さんが乗る飛行機の座席もエコノミーでしょう。

 

 

 

一般演題プレナリーセッション 12 時00 分~13 時00 分(60 分) 座長 札幌医科大学 高橋 弘毅

 

1.長期化学療法時におけるdenovo B型肝炎の再活性化… (演題番号177)……………九州がんセンター 杉本 理恵

 

固形腫瘍の治療中のB型肝炎再出現率は約4%でした。

再活性化率は長期的には上昇 HBVDNA出現時期が早いものほど治療が必要になります。

再活性化時期は消化管がんで早いです。

 

癌患者のB型肝炎の自然史を長期に亘って観察する貴重な研究だと思いました。

 

 

2.2 型糖尿病に合併した骨折リスクの予測因子と治療による影響の検討: J-DOIT3 試験の有害事象データから(演題番号233)…………東京大学 笹子 敬洋

 

2型糖尿病の合併症の一つに骨折があります。ところが骨密度は2型糖尿病では必ずしも低下しません。骨折予測因子:女性のハザード比は男性の約2倍以上。女性においてはFRAXスコアが骨折リスクの予測因子となります。ピオグリダゾン誘導体は糖尿病女性の骨折リスクを上昇させます。1年時点でのピオグリダゾン投与、血糖降下薬の選択に有用。

 

糖尿病も骨折リスクも高円寺南診療所では毎日のテーマです。糖尿病の女性に処方する経口血糖降下剤も骨折リスクを考慮して選択しなければならない、という情報は貴重です。骨折予測のため、糖尿病の女性では骨密度測定は役に立たず、FRAXスコアを検討することは意味がありそうなので、勉強をはじめたいところです。いずれにしても、少々頭が混乱してきたので、この発表内容を再度検討してみる必要がありそうです。

 

 

3.本邦におけるErdheim-Chester病に関する疫学研究… (演題番号278)… …………………………………………………東京大学 小倉 瑞生

 

すでに診断基準が提唱されている。指定難病になっていない。

 

ECD LCHの類縁疾患、組織球が全身の諸臓器に浸潤

 

画像:骨シンチ、CD

 

治療:ステロイド、放射線療法

 

5年生存率71%、骨病変は85%

 

飯嶋博士も初耳の病名!?聴いたことのない病名。それもそのはず。非常に稀な病気で報告例は世界で81例。高円寺南診療所で100年臨床を続けたとしても遭遇することは、まずないでしょう。

 

さすがは東大のアカデミズム。稀少疾患に苦しむ患者を見捨てずにきちんと研究しています。

 

そういえば、私の東大での博士論文も先天性無痛無汗症という希少疾患でした。

 

希少疾患を徹底的に勉強すると、大多数の意味が見えてきます。例外を見つめると原則が見えてくるのです。

 

たとえば痛みを感じないということはどういうことなのかを、そうした患者さんに直に接することによって、初めて痛みの意味や役割がわかってきたように思われました。

 

そういえば医師ではない研究者(痛みの計測器の開発者)が私に向かって

「痛みが無い病気なんか、痛みで苦しむ患者に比べれば、大した問題ではない。」

という発言をしたことは今でも忘れられません。

 

実臨床を知らない人間の愚かな発言ですが、この方の臨床的センスは素人以下だと思いました。僭越なる愚人です。

 

 

4.超音波検査での線維束性収縮の頻度観察による筋萎縮性側索硬化症(ALS)の 進行速度予測(演題番号284)………………国立病院機構兵庫中央病院 藤堂 紘行

 

確立した根治療法なし。進行予測は重要だが困難

 

線維束性収縮は下位運動ニューロン障害の特徴、頻度

 

17MHzプローブBモード、上腕二頭筋、前脛骨筋で観察。超音波動画。これは表在エコー

 

線維束性収縮の頻度は、予後予測に有用だが、不可欠ではないが、高頻度ほど進行が早く予後が不良。

 

 

5.関節リウマチ患者において喫煙はTNF阻害剤の効果を減弱させる: TNFαと喫煙(AhR)シグナルのクロストーク(演題番号304)……………大阪南医療センター 葛谷 憲太郎

 

生物学的製剤の課題:中断理湯20%が効果不十分・無効

 

その理由の一つが喫煙、喫煙習慣はTNF阻害薬の効果を低下させる

 

喫煙物質によるNF-kBの活性化と炎症性サイトカイン(IL-6)濃度の上昇

 

TNFαと喫煙(AhR)シグナルのクロストークがみられた。

医学の根本は内科学にありますが、凄まじい進歩に、本日も驚くばかりでした。

 

これに対して外科も不滅であるとは思いますが、かつて外科医が担当していた領域を、内科医がどんどん開拓して素晴らしい成果を挙げています。

 

その代表がカテーテルや腹腔鏡による手術です。

 

内科の守備範囲は、とどまることなく拡張し、膨張を続けています。

 

 

それだけに最先端の医学を現場の医療に活かすことは、やはり簡単なことではないです。

 

しかし、本日も来週からの診療に直接役立つ大きな収穫が得られました。

 

 

先月、例年通り2週間の中欧研修を貫徹しましたが、そこで大いに集中力が鍛えられた模様です。

 

日本内科学会は、すべて日本語によるレクチャーと発表なので、連動しないと考えていましたが、そうではないようです。

 

もっとも、医学の世界、とりわけもっとも理屈っぽい内科理論は、日常の日本語とは言い難く、一種の外国語であるといっても良いかもしれません。日本語で議論する方がややこしく感じることがあるくらいです。

 

 

以下は、講義ノートのようなものですが、一般の皆様にも理解し易いように書き改めています。私の感想や思い付きは朱書きとしました

 

今回は、最後の教育講演11~13を除いて、一通り復習してコメントを加えました。

 

教育講演11~13を含め、記録が不十分なレクチャーは、今後、逐次、各領域の「最新の臨床医学」で報告と解説を試みたいと思います。

 

 

第2 日 ―平成30 年4 月14 日(

講演会場(京都市勧業館(みやこめっせ)第3 展示場)

 

シンポジウム2.9 時00 分~11 時00 分(120 分) 循環器領域におけるCatheter based therapyの現状 ………司会 榊原記念病院 住吉 徹哉・大阪府済生会富田林病院/近畿大学 宮崎 俊一

 

1.冠動脈疾患に対するカテーテル治療の現状と今後… …………東邦大学 中村 正人

 

冠動脈疾患に対して、心臓外科的な血行再建ありきの時代が終焉し、個別化時代へと突入しました。

 

循環器内科では経皮的冠動脈形成術(PTCA)、なかでも薬剤溶出性ステント(DES)の登場により、冠動脈インターベンション(PCI)のアキレス腱とも称された再狭窄の問題解決に向けて大きく前進しました。

 

 

学会2日目の最初のレクチャーは、中村先生の動画のインパクトで、私の脳は完全に覚醒状態になりました。

 

しかし、新しい技術の弱点は短期的な成績を向上させても、それが必ずしも長期成績を約束するものではないことです。

 

医療コストも問題です。つまり、長期予後や患者の幸福度についてどれだけ貢献できるか、ということの検討が必要だと思います

 

 

2.大動脈弁狭窄症に対するTAVIの現状と課題… …………榊原記念病院 桃原 哲也

 

経カテーテル大動脈弁植込術(TAVI)は、術後30日死亡率が約1.5%であり、日本での成績は世界のトップクラスです。2013年から保険償還されています。

 

しかし、これは完璧な治療ではなく、植込み特有の合併症やアクセスサイトの血管損傷等が課題です。

 

低侵襲であり、数日で退院できるというメリットがあるが、超高齢社会にあって認知症やフレイルが進行しているケースでの対応など、適切な適応とコスト面についてどのように考えるか等の課題が残っています。

 

 

桃原先生は、最新技術に対してメリットとデメリットや限界、課題についても考察されていました。

 

最新医療技術に対して望ましい公平な態度だと思いました。

 

 

高円寺南診療所の役割は、最先端の医療技術の進歩を見守りつつ、可能な限り、そのような技術の恩恵に頼らなくてよいような日常の健康維持増進を図るための工夫と努力を継続することだと考えました。

 

「医療が進歩しているのだから、予防にこだわらずに、好き勝手な生活を送っていても何とかなる」と考える人が増えていくとしたら、間違いなく日本の医療は崩壊するでしょう。

 

 

3.僧帽弁閉鎖不全症に対するカテーテル治療… … 国立循環器病研究センター 安田  聡

 

僧房弁閉鎖不全(MR)は、心臓弁膜症で最も頻度の高い疾患で、日本での患者数は80~100万人と推定されます。

 

症候性重症MRには手術が推奨されますが、手術リスクが高い等の理由では手術は行われていません。近年では、クリップによる経皮的カテーテル修復術(TMVRe)が開発され、より多くの患者で治療が可能となり、心不全の新たな治療選択として注目されています。

 

一方、クリップによるTMVRe治療では、弁輪形成術を行えないため、MR再発の要因ともされています。僧房弁の弁輪拡大、弁尖を牽引する腱索や左心室乳頭筋などの損傷がある場合など、適応とはならないケースもあります。

 

僧房弁閉鎖不全(MR)が最も頻度の高い弁膜症であることから、改めて心臓超音波検査の活用の重要性を考えました。

 

高円寺南診療所の超音波診断装置カラードプラー法が使えるので、僧房弁輪の計測のみならず、僧房弁閉鎖不全に特有の逆流の評価など、これまで以上に丁寧に観察することができます。

 

それによって、より早い段階で、僧房弁機能や無症候性心不全(ステージA・B)の診断をすることにより、これまで以上に早期介入をはかりたいと思います。

 

 

4.New Deviceによる心房細動治療の進歩………………………京都大学 静田  聡 教育講演8.11 時00 分~11 時20 分(20 分) 座長 富山大学 戸邉 一之

 

肺静脈を標的とした心房細動に対する最初のカテーテル・アブレーション(フランス、1998)以来、心房細動発生の原因のほとんどが肺静脈内の袖状心筋からの異所性興奮であることが明らかになってきました。

 

その後、肺静脈と左心房の接合部を全周性に焼却することによる肺静脈隔離術が心房細動根治のための標準術式になりました。

 

静田先生は、最近の技術革新について興味深いレクチャーをしてくれました。

 

心房細動に対して、高円寺南診療所としても新たな取り組みが必要となってきました。

 

より安全で確実な心房細動根治術を実施できる高度医療機関を都内に複数見出し、必要に応じて適切な時期に紹介できるシステムを構築する準備に取り掛かりたいと思います。

もう少しツボの世界を見ていきましょう。

 

 

今回は「帯脈(たいみゃく)」です。

 

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場所は側腹部で肋骨と腰骨の中央で臍と同じ高さです。

 

 

「月経不順」「子宮内膜症」「膀胱炎」「睾丸炎」「腰痛」「腹痛」等に効果があります。

 

 

このツボで頚部の痛みが取れたことがありました。

 

 

<参考文献>

 

 

このツボが効く 先人に学ぶ75名穴       谷田伸治 

 

 

経穴マップ イラストで学ぶ十四経穴・奇穴・耳穴・頭鍼      監修  森 和

                                      著者  王 暁明・金原正幸・中澤寛元 

 

 

高円寺南診療所 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

全国の人間ドックの受診者の33%、すなわち3人に1人に肝障害があります。

 

その大部分が脂肪肝です。

 

脂肪肝は肥満や糖尿病に伴う過栄養性とアルコール性があります。

 

脂肪肝である場合1日平均アルコール摂取量が男性30g以下、女性20g以下であれば、非アルコール性と診断します。

 

エタノール20g/日以下の飲酒でもアルコール性肝炎と類似した病理組織像を呈し、肝硬変から肝癌へと進行する脂肪肝を非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)と呼びます。

 

肝硬変の成因は、約8割が肝炎ウイルス(B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス)感染ですが、アルコールや非アルコール性脂肪肝炎(NASH)も原因となることは注意すべきです。

 

しかし、NASHの診断は肝生検が必須なために、日常診療でNASHの診断をする機会は限られています。

 

近年、NASHが増加傾向にあります。厚生労働省研究班による全国集計によると、NASH症例は、約100万人いると推計されています。

 

 

脂肪肝は、肝臓が発する生活習慣に対するイエローカードであるため、動機づけ面接法などを取り入れて患者教育と生活指導を十分に行うことが基本です。

 

NASHの治療では、食事と運動による体重の減量が必要です。

 

ビタミンEウルソデオキシコール酸、インスリン抵抗性改善薬などの有効性が報告されています。

 

アルコール性脂肪肝の治療法は断酒または節酒に尽きます。

 

 

組織による確診が無い場合には非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼びます。

 

妊娠末期には妊娠性急性脂肪肝を発症することがあり、この場合が分娩の促進や人工流産を行い、劇症肝炎に準じた治療が行われます。

 

 

脂肪肝予防のための高円寺南診療所からのガイダンス

 

お酒の1単位=エタノール(純アルコール)20g

お酒の1単位を超えて飲酒すると、脂肪肝のリスクが発生するため、1日の飲酒量が

1単位を超えないようにしましょう。

 

アルコール摂取量の基準とされるお酒の1単位とは、純アルコールに換算して20gです。

 

この1単位を各種アルコール飲料に換算すると、

ビールは中びん1本(500ml)、

日本酒は1合(180ml)、

ウイスキーはダブル1杯(60ml)、

焼酎0.6合(110ml)が目安となります。

 

複数種類のお酒を呑んでいる人は、単位数が加算されますので要注意です。

 

酒単位

 

 

参照:NASH・NAFLDの診療ガイド2015(日本肝臓学会)

好天に恵まれました。桜も終わってしまったので、未練なく研修ができました。

 

医学の根本は内科学にありますが、凄まじい進歩に驚くばかりです。

 

最先端の医学を現場の医療に活かすことは、簡単なことではないのですが、今回は大きな収穫が得られました。

 

 

以下は、講義ノートのようなものですが、一般の皆様にも理解し易いように書き改めています。私の感想や思い付きは朱書きとしました。

 

 

今回は、シンポジウム1.サルコペニアの科学と臨床を中心に報告します。

 

その他のレクチャーについては、今後、逐次、各領域の「最新の臨床医学」で報告と解説を試みたいと思います。

 

 

第115回日本内科学会総会・講演会 第1日目

 

第1 日 ―平成30 年4 月13 日(金)―

 

講演会場(京都市勧業館(みやこめっせ)第3 展示場)

 

開会の辞…………………………………………………………………………会長 河野 修興

シンポジウム1.9 時00 分~11 時00 分(120 分)

 

サルコペニアの科学と臨床……………………………………司会 名古屋大学 葛谷 雅文

大阪市立大学 平 田 一 人

 

 

サルコペニアとは、「加齢に伴う筋肉量の減少ならびに筋力・身体機能の低下」(Rosenberg)を指します。サルコペニアの存在は、高齢者では「ふらつき」、『転倒』、さらには「フレイル」に密接に関連し、その先には要介護状態が待ち受けています。

 

このようなことが盛んに議論されていますが、薬物療法のみでは解決できないためか、内科学会は具体的な方法論を示せていません。水氣道®は、サルコペニア対策上優れたツールであり、全国的な普及を図る必要があります。

 

サルコペニアの診断は、骨格筋量の低下を必須とし、筋力または歩行速度等の身体機能の低下を合わせ持つことです。また、加齢以外に明らかな原因が無いものを原発性サルコペニア、廃用や疾病起因性(進行した悪性腫瘍や臓器不全等)、低栄養によるものを二次性サルコペニアと分類することが提唱されています。

 

 

1.サルコペニア診療ガイドライン… …………国立長寿医療研究センター 荒井 秀典

 

サルコペニアの新たな診療ガイドラインは、サルコペニアの診断・予防・介入に関する方針を明らかにしました。

 

サルコペニアの定義:「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群。

 

身体機能障害、QOL低下、死のリスクを伴うもの」

 

診断手順は、筋量低下、筋力低下、身体機能低下から構成されます。

 

筋量『指輪っかテスト』、握力、歩行速度で診ます。

 

握力はすでに定期的フィットネス検査で実施しています。

 

『指輪っかテスト』は早速、実験してみようと思います。簡便だし、コストがかからないので、だれにでもできます

 

 

筋量を増やすもの:栄養と運動が重要

 

筋量を減らすもの:加齢と炎症

 

危険因子:1)加齢、2)疾病、3)低活動性、4)低栄養

 

70歳までに骨格筋面積は20歳を比較して25~30%、筋力は30~40%減少します。

 

50歳以降、筋肉量は毎年1~2%程度減少します。

 

ですから、高円寺南診療所では、定期的に骨密度と同時に筋肉量を測定しています。

実際にこれを行っている医療機関は全国的にも限られているようです。

 

サルコペニアがあると術後合併症の発症率が3倍、死亡リスクが高くなります。

 

 

腎機能障害・骨粗鬆症

 

予防:1日当たり体重1㎏あたり1g~1.2g以上の蛋白質を摂取、ビタミンDの補給

 

複合的運動:レジスタンス運動・有酸素運動・インターバル運動

 

ロコモ体操(日整会)片足立ち1分間ずつ、かかと挙げ30回/日、ハーフスクワット

 

一日歩行量:8,000歩/日以上

 

治療:運動療法 骨格筋量 最大歩行能力、膝進展能力

 

強度、頻度、期間:週2~3回、1回60~90分、準備体操をきちんと

 

結局、すべての要素が水氣道®に含まれていることを再確認できました。

 

 

 

2.認知症とサルコペニア・フレイル… ……………………………杏林大学 神㟢 恒一

 

フレイルとは、『身体的要因、精神・心理的要因、社会的要因に起因する、要介護状態に至る危険性が高い状態』

 

身体的要因:サルコペニア、精神・心理的要因:認知症とうつ、社会的要因:独居、閉じこもり

 

認知症は症状が重くなるにしたがい、問題が認知機能障害、行動心理症状から身体症状に移行していくことが多いです。認知機能が低下すると、身体的にもフレイルにもなります。

 

フレイルについて、内科学会は盛んに議論し、データを収集し始めています。しかし、フレイル対策の実践については、具体例を示すことに成功していないようです。

 

今後も限りない議論が続き、論文も増えることでしょうが、現場に還元される前に現在の多くの患者さんは寿命が尽きてしまうことでしょう。

 

なぜなら、

①身体的要因であるサルコペニア対策の具体的実践ビジョンが見えてこないこと、

 

②精神・心理的要因について必要性を説きながら、自ら関与しようという内科医は少ないこと、心身医学の専門医、とりわけ心療内科指導医や専門医は、内科学会に出席していても十分貢献できていないこと、

 

③社会的要因に至っては、指摘するにとどまり、社会の役割であって内科医の役割ではないかの如くの認識でしかないこと、

 

私は、議論のための議論、論文業績を増やすために内科学会に出席しているわけではないので、とても歯痒い想いです。具体的な行動こそが肝要なのではないでしょうか。

 

 

水氣道®や聖楽院での『聖楽療法』は、サルコペニア・フレイルに対して具体的な方法を示し、実践を続けています。

 

これを内科学会に認知させるためには、まずは地道なデータを集めるほかありません。

 

そして、心療内科の分科会を内科学会の中に確立することを急がねばならないと思いました。

 

 

 

老年症候群

 

高齢者のQOL,ADLを阻害する大きな要因:

活動性低下⇒閉じこもり・廃用、歩行機能障害⇒転倒・骨折、摂食・嚥下障害⇒低栄養

 

フレイルの評価:Friedの基準(筋量、筋力、歩行機能)

フレイルは老年症候群保有数の増加、転倒発生の増加等とも関連し、認知機能が低下すると、身体的にもフレイルになり、さまざまな点で機能が低下することが判明しました。

 

現在注目されている新しい概念に、コグニティブ・フレイルがあります。

 

これは、『認知症に至らない程度の軽度の認知障害と身体的フレイルが合併した状態』です。

 

単独のフレイルの状態に比べ、より認知症や要介護になりやすい可能性が指摘されています。

 

 

診療所の外来で、水氣道®をお勧めすると、断りの理由として多いのは、

 

1)水が苦手である、2)自宅でストレッチをしている、3)ヨガ(ホットヨガ)をしている、4)まずはウォ―キングから始めたい、5)スポーツジムに通っている、などの回答が多いです。

 

何もしないより、何か体に良いことを始めていただくきっかけとして、水氣道のすすめは、ライフスタイルの改善のための良い機会を提供していると考えています。

 

運動習慣の形成は、具体的で意識的な検討なしには成功しないからです。

 

概ね、3か月に1回実施することを推進しているフィットネス・チェック(体組成・体力テスト)で、成績が向上しているのであれば、どれを選択しても良いと思います。

 

しかし、コグニティブ・フレイルという誰でも陥りやすい状態になることを予防するためには、どれが最も優れているかを、もう一度吟味していただけたらと思います。

 

 

3.呼吸器疾患とサルコペニア・フレイル… ………………………東邦大学 海老原  覚

 

演者の海老原先生は「慢性呼吸器疾患のフレイルは、身体的側面のみならず、精神的・社会的事象が多面的のみならず、精神的・社会的事象が多面的に負のスパイラルを形成しているのが特徴であり、そのようなフレイルには医療・看護・介護が連携したアプローチである包括的呼吸リハビリテーションが有効である」と述べています。

 

また、海老原先生は、呼吸リハビリテーション介入時期について、日本呼吸器学会の「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診療と治療のためのガイドライン」の第2版までは、Ⅲ期以降としていたものが、第3版以降はⅠ期からの介入に改められたことを紹介しました。

 

呼吸器疾患では筋量減少が報告されており、身体的フレイルはサルコペニアと密接な関係があります。

 

このサルコペニアに対して、栄養療法と運動療法を組み合わせることが重要です。

 

なお、呼吸器疾患においては、呼吸促迫により、呼吸・嚥下の協調不全が生じ、嚥下障害等の口腔フレイルも問題になっており、低下した呼吸機能に誤嚥が起こると重症化し易く早期に介入することが必要です。

 

そして、海老原先生は、この口腔フレイルでも包括的チームアプローチが重要かつ必須と思われる、と結論付けました。

 

海老原先生の現状分析は概ね了解可能ですが、その方法としての包括的チームアプローチと早期介入は非現実的であると思います。

 

少し考えていただければわかることですが、早期の呼吸器疾患に対する治療アプローチとして、大掛かりな包括的チームアプローチを望む患者さんが存在するでしょうか。

 

そして、保険医療の限界に毎日直面している私としては、そもそも保険医療でこの治療アプローチにかかるコストを賄うことができるとは到底思えません。 

 

さらにいえば、最も重要な前提となる禁煙指導ですら十分に達成できていない包括的チームの存在意義は、残念ながら大きいとは言えません。

 

総論には賛成ですが、各論としてのアプローチの方法が非現実的であると指摘せざるをえません。

 

海老原先生の総論に沿いつつ、実効性と有効性とを兼ね備えているアプローチは水氣道®に他なりません。

 

また、聖楽院の聖楽療法は口腔フレイル対策になります。

 

この問題は、抽象的理論至上主義で具体的実践活動に乏しい内科学会や、施設基準至上主義の総花的リハビリテーション学会の発想では解決できないのではないでしょうか。

 

 

包括的とは技術者の寄せ集めだけでは完成できず、指導力と調整力に優れたリーダーの存在が不可欠だと考えています。

 

 

4.肝疾患とサルコペニア… ……………………………………兵庫医科大学 西口 修平

 

肝臓は分枝鎖アミノ酸を合成し、アンモニアを分解します。したがって、肝疾患では分枝鎖アミノ酸の低下をはじめとする低栄養状態やアンモニア高値をもたらします。

 

アミノ酸は筋肉の蛋白質の構成要素であるため、肝疾患では直接筋肉の減少を誘発します。そこで、肝疾患は二次性サルコペニアの代表とされます。二次性サルコペニアであるため、65歳未満の若年者においても一定の割合でサルコペニアが存在し、これは一次性サルコペアの基準を直接適応することができません。

 

そこで日本肝臓病学会では、「肝疾患におけるサルコペニア判定基準」を作成しました。

 

肝疾患のサルコペイニアの発症機序として、肝硬変特有の病態であるアンモニア高値とL-ロイシン低値が重要であるとします。それらは、ともに筋蛋白の合成を直接的に阻害します。肝疾患に伴うサルコペイニアも、一次性サルコペイニアと同様に食事・運動療法を基本としたうえで、たとえば、アンモニア高値例に対する治療を行います。

 

 

5.高齢者薬物療法とサルコペニア… ………………………………東京大学 秋下 雅弘

 

東大の秋下先生は、「サルコペイニアの管理には、老年医学的視点が必須」と説いていました。

 

老年医学的視点とは、

1)サルコペイニアの多くは生活習慣病等の慢性疾患を背景とすること、

2)合併疾患をどのように管理するかが問題になること、

3) 薬物有害事象と服薬管理への配慮が不可欠であること、

 

これらは、高齢者ではサルコペイニアの問題のみならず多剤併用(ポリファーマシー)となり、有害事象や服薬アドヒランス(きちんと薬を使うこと)低下等の問題を起こしやすいです。多くの薬物がサルコペイニアの原因となります。

 

高齢者の薬物有害事象は、アレルギー症状や薬剤性腎障害・肝障害としてよりも、老年症候群として現れ易いため、薬剤起因性老年症候群と呼ばれています。

 

薬剤起因性老年症候群では、ふらつき・転倒、抑うつ、記憶障害、せん妄、食欲低下、便秘、排尿障害・尿失禁が代表的です。これらの症状は高齢者によくみられる症状であるため、薬剤性とは気付きにくく、発見が遅れることが特徴です。

 

これらのうち、ふらつき・転倒はサルコペイニアの代表的表現型です。

 

その他、抑うつ⇒廃用性萎縮、食欲低下⇒栄養摂取不足⇒サルコペイニア

 

便秘⇒食欲低下⇒サルコペイニア

 

多くの薬物がサルコペイニアの原因となるが、ベンゾジアゼピン系薬物(抗不安薬、睡眠薬)をはじめとする向精神薬、抗コリン系薬物に対する注意が最も重要です。

 

高齢になるにつれて、病気が増えるので、どうしても多剤併用になりがちです。

 

秋下先生が言及していないことで、大切なことがあります。それは多剤併用の背景には、高齢者に限らず、日本では患者さんが窓口となる主治医をもっていない人が多いこともその原因であると考えています。

 

極端にいえば、病気の数ではなく、多彩な症状ごとに個別の医師に診てもらいたがる傾向があるからだと思います。

 

その理由は、極端なブランド志向、専門医志向にあるとも感じています。

 

その結果、多科受診となり、それは多医受診に通じます。また、極端な場合は、誤ったセカンドオピニョンを求める方が少なくありません。

 

お薬についての質問は、そのお薬を処方している医師に直接尋ねて納得することが必要であって、聴きやすいというだけの理由で、別の医師に説明を求めるのは誤りだと思います。

 

それ以上に問題なのは、本来一つの病気であるにもかかわらず、気になる症状ごとに、複数の医師から重複して薬剤を処方して貰っていることを何とも思わないことだと思います。

 

 

シェーグレン症候群(SS)は涙腺、唾液腺などの外分泌腺に対するリンパ球浸潤と自己抗体産生を特徴とする自己免疫疾患です。

 

わが国では2015年7月よりSSが指定難病になりました。

 

専門医には診療ガイドラインに基づいた正確な診断・重症度判定が求められます。

 

2017年に厚生労働省「自己免疫疾患に関する調査研究班」拡大SS分科会による診療ガイドラインが公開されました。

 

 

一次性SS(他の膠原病を合併しない)が60%、二次性SS(関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病を合併する)が40%を占めます。

 

したがって、何らかの膠原病を診断した際にはSSの合併を考慮してスクリーニングを行うべきである。

 

臨床症状は、腺病変(乾燥症状を主体)と、腺外病変(その他の臓器病変)に分けます。

 

 

シェーグレン症候群の口腔乾燥症に対して、コリン類似薬セビメリン(エボザック®、サリグレン®)が用いられます。

 

これは末梢性副交感神経系の刺激薬であり、唾液腺に存在するM受容体を刺激することによって、唾液分泌を促します。

 

一般に副交感神経刺激薬(コリン作用薬)とは、副交感神経を刺激したときの効果と同様の作用を発現する薬物です。

 

直接型と間接型作用薬があります。前者はムスカリン(M)受容体に直接作用するものでコリンエステル類とアルカロイド類があります。

 

 

シェーグレン症候群(SS)に対する高円寺南診療所の対応

 

①一次性SSは基本的には予後良好です。

 

②しかし、経過中は腺病変の悪化と、新たな腺外病変の出現に注意します。

 

③予後に影響する合併症として、悪性リンパ腫や、頻度は低いけれども肺高血圧症があります。

 

④高リスク群では特に慎重に経過観察をさせていただきます。

 

 

悪性リンパ腫の発生予測因子として、耳下腺腫脹、リンパ節腫脹、紫斑、ESSDAI高値、M蛋白血症、低補体血症、クリオグロブリン血症、リウマトイド因子、小唾液腺生検における胚中心様構造などが知られています。