第115回日本内科学会(京都)報告②:4月14日(土)その2

糖尿病診療の最前線………………………………………………………熊本大学 荒木 栄一 招

請講演4.11 時20 分~12 時00 分(40 分) 座長 大阪医科大学 樋口 和秀

 

日本から発信するIBD診療の新たなエビデンス……………東京医科歯科大学 渡辺  守

 

 

炎症性腸疾患(IBD)は、潰瘍性大腸炎クローン病のことです。

 

潰瘍性大腸炎は18万人強、クローン病は4万人強で合わせると22万人を超し、306ある難病の中でも一番患者数が多くなりました。IBDの診断に関する新しい展開として、

 

1)クローン病に対するMRE(MRエンテログラフィ)小腸内視鏡所見の比較論文

現在は日本でしか汎用されていない小腸内視鏡を最大限に活用した研究で、小腸バルーン内視鏡とMRIは、小腸の病変評価および予後評価において同等とするもの

 

2)潰瘍性大腸炎の病状把握には便ヒトヘモグロビン定量(FIT)が有用とする論文

FIT検査は簡便であり、しかも内視鏡による粘膜治癒と相関しているので、実臨床に意義がある検査であるとするもの

 

3)潰瘍性大腸炎に発生する大腸がんは見つけにくいばかりではなく、進行が速く、転移を来しやすい悪性形質を有するため、サーベイランスが不可欠とする調査結果

 

渡辺先生の御発表は、実地臨床家による日常診療というよりは、この分野での研究の国際競争において主導的な地位にあった日本の研究が低迷するなか、若手研究家を大いに鼓舞しようというエネルギーに満ちたものでした。一点だけ確認しておきたいのは便ヒトヘモグロビン定量(FIT)とは、大腸がん検診で使われている便潜血検査との異動です。

 

私と同様に、日常診療に役立つ実務的な情報を期待している多くの参加者は、12時に配給される軽食を受け取るために、さっさと講堂を出て長蛇の列をなしていました。これこそ、まさに日本の内科医の知られざる実像、昼食からしてエコノミークラスです。おそらく、皆さんが乗る飛行機の座席もエコノミーでしょう。

 

 

 

一般演題プレナリーセッション 12 時00 分~13 時00 分(60 分) 座長 札幌医科大学 高橋 弘毅

 

1.長期化学療法時におけるdenovo B型肝炎の再活性化… (演題番号177)……………九州がんセンター 杉本 理恵

 

固形腫瘍の治療中のB型肝炎再出現率は約4%でした。

再活性化率は長期的には上昇 HBVDNA出現時期が早いものほど治療が必要になります。

再活性化時期は消化管がんで早いです。

 

癌患者のB型肝炎の自然史を長期に亘って観察する貴重な研究だと思いました。

 

 

2.2 型糖尿病に合併した骨折リスクの予測因子と治療による影響の検討: J-DOIT3 試験の有害事象データから(演題番号233)…………東京大学 笹子 敬洋

 

2型糖尿病の合併症の一つに骨折があります。ところが骨密度は2型糖尿病では必ずしも低下しません。骨折予測因子:女性のハザード比は男性の約2倍以上。女性においてはFRAXスコアが骨折リスクの予測因子となります。ピオグリダゾン誘導体は糖尿病女性の骨折リスクを上昇させます。1年時点でのピオグリダゾン投与、血糖降下薬の選択に有用。

 

糖尿病も骨折リスクも高円寺南診療所では毎日のテーマです。糖尿病の女性に処方する経口血糖降下剤も骨折リスクを考慮して選択しなければならない、という情報は貴重です。骨折予測のため、糖尿病の女性では骨密度測定は役に立たず、FRAXスコアを検討することは意味がありそうなので、勉強をはじめたいところです。いずれにしても、少々頭が混乱してきたので、この発表内容を再度検討してみる必要がありそうです。

 

 

3.本邦におけるErdheim-Chester病に関する疫学研究… (演題番号278)… …………………………………………………東京大学 小倉 瑞生

 

すでに診断基準が提唱されている。指定難病になっていない。

 

ECD LCHの類縁疾患、組織球が全身の諸臓器に浸潤

 

画像:骨シンチ、CD

 

治療:ステロイド、放射線療法

 

5年生存率71%、骨病変は85%

 

飯嶋博士も初耳の病名!?聴いたことのない病名。それもそのはず。非常に稀な病気で報告例は世界で81例。高円寺南診療所で100年臨床を続けたとしても遭遇することは、まずないでしょう。

 

さすがは東大のアカデミズム。稀少疾患に苦しむ患者を見捨てずにきちんと研究しています。

 

そういえば、私の東大での博士論文も先天性無痛無汗症という希少疾患でした。

 

希少疾患を徹底的に勉強すると、大多数の意味が見えてきます。例外を見つめると原則が見えてくるのです。

 

たとえば痛みを感じないということはどういうことなのかを、そうした患者さんに直に接することによって、初めて痛みの意味や役割がわかってきたように思われました。

 

そういえば医師ではない研究者(痛みの計測器の開発者)が私に向かって

「痛みが無い病気なんか、痛みで苦しむ患者に比べれば、大した問題ではない。」

という発言をしたことは今でも忘れられません。

 

実臨床を知らない人間の愚かな発言ですが、この方の臨床的センスは素人以下だと思いました。僭越なる愚人です。

 

 

4.超音波検査での線維束性収縮の頻度観察による筋萎縮性側索硬化症(ALS)の 進行速度予測(演題番号284)………………国立病院機構兵庫中央病院 藤堂 紘行

 

確立した根治療法なし。進行予測は重要だが困難

 

線維束性収縮は下位運動ニューロン障害の特徴、頻度

 

17MHzプローブBモード、上腕二頭筋、前脛骨筋で観察。超音波動画。これは表在エコー

 

線維束性収縮の頻度は、予後予測に有用だが、不可欠ではないが、高頻度ほど進行が早く予後が不良。

 

 

5.関節リウマチ患者において喫煙はTNF阻害剤の効果を減弱させる: TNFαと喫煙(AhR)シグナルのクロストーク(演題番号304)……………大阪南医療センター 葛谷 憲太郎

 

生物学的製剤の課題:中断理湯20%が効果不十分・無効

 

その理由の一つが喫煙、喫煙習慣はTNF阻害薬の効果を低下させる

 

喫煙物質によるNF-kBの活性化と炎症性サイトカイン(IL-6)濃度の上昇

 

TNFαと喫煙(AhR)シグナルのクロストークがみられた。