第115回日本内科学会(京都)報告①:4月13日(金)

好天に恵まれました。桜も終わってしまったので、未練なく研修ができました。

 

医学の根本は内科学にありますが、凄まじい進歩に驚くばかりです。

 

最先端の医学を現場の医療に活かすことは、簡単なことではないのですが、今回は大きな収穫が得られました。

 

 

以下は、講義ノートのようなものですが、一般の皆様にも理解し易いように書き改めています。私の感想や思い付きは朱書きとしました。

 

 

今回は、シンポジウム1.サルコペニアの科学と臨床を中心に報告します。

 

その他のレクチャーについては、今後、逐次、各領域の「最新の臨床医学」で報告と解説を試みたいと思います。

 

 

第115回日本内科学会総会・講演会 第1日目

 

第1 日 ―平成30 年4 月13 日(金)―

 

講演会場(京都市勧業館(みやこめっせ)第3 展示場)

 

開会の辞…………………………………………………………………………会長 河野 修興

シンポジウム1.9 時00 分~11 時00 分(120 分)

 

サルコペニアの科学と臨床……………………………………司会 名古屋大学 葛谷 雅文

大阪市立大学 平 田 一 人

 

 

サルコペニアとは、「加齢に伴う筋肉量の減少ならびに筋力・身体機能の低下」(Rosenberg)を指します。サルコペニアの存在は、高齢者では「ふらつき」、『転倒』、さらには「フレイル」に密接に関連し、その先には要介護状態が待ち受けています。

 

このようなことが盛んに議論されていますが、薬物療法のみでは解決できないためか、内科学会は具体的な方法論を示せていません。水氣道®は、サルコペニア対策上優れたツールであり、全国的な普及を図る必要があります。

 

サルコペニアの診断は、骨格筋量の低下を必須とし、筋力または歩行速度等の身体機能の低下を合わせ持つことです。また、加齢以外に明らかな原因が無いものを原発性サルコペニア、廃用や疾病起因性(進行した悪性腫瘍や臓器不全等)、低栄養によるものを二次性サルコペニアと分類することが提唱されています。

 

 

1.サルコペニア診療ガイドライン… …………国立長寿医療研究センター 荒井 秀典

 

サルコペニアの新たな診療ガイドラインは、サルコペニアの診断・予防・介入に関する方針を明らかにしました。

 

サルコペニアの定義:「筋量と筋力の進行性かつ全身性の減少に特徴づけられる症候群。

 

身体機能障害、QOL低下、死のリスクを伴うもの」

 

診断手順は、筋量低下、筋力低下、身体機能低下から構成されます。

 

筋量『指輪っかテスト』、握力、歩行速度で診ます。

 

握力はすでに定期的フィットネス検査で実施しています。

 

『指輪っかテスト』は早速、実験してみようと思います。簡便だし、コストがかからないので、だれにでもできます

 

 

筋量を増やすもの:栄養と運動が重要

 

筋量を減らすもの:加齢と炎症

 

危険因子:1)加齢、2)疾病、3)低活動性、4)低栄養

 

70歳までに骨格筋面積は20歳を比較して25~30%、筋力は30~40%減少します。

 

50歳以降、筋肉量は毎年1~2%程度減少します。

 

ですから、高円寺南診療所では、定期的に骨密度と同時に筋肉量を測定しています。

実際にこれを行っている医療機関は全国的にも限られているようです。

 

サルコペニアがあると術後合併症の発症率が3倍、死亡リスクが高くなります。

 

 

腎機能障害・骨粗鬆症

 

予防:1日当たり体重1㎏あたり1g~1.2g以上の蛋白質を摂取、ビタミンDの補給

 

複合的運動:レジスタンス運動・有酸素運動・インターバル運動

 

ロコモ体操(日整会)片足立ち1分間ずつ、かかと挙げ30回/日、ハーフスクワット

 

一日歩行量:8,000歩/日以上

 

治療:運動療法 骨格筋量 最大歩行能力、膝進展能力

 

強度、頻度、期間:週2~3回、1回60~90分、準備体操をきちんと

 

結局、すべての要素が水氣道®に含まれていることを再確認できました。

 

 

 

2.認知症とサルコペニア・フレイル… ……………………………杏林大学 神㟢 恒一

 

フレイルとは、『身体的要因、精神・心理的要因、社会的要因に起因する、要介護状態に至る危険性が高い状態』

 

身体的要因:サルコペニア、精神・心理的要因:認知症とうつ、社会的要因:独居、閉じこもり

 

認知症は症状が重くなるにしたがい、問題が認知機能障害、行動心理症状から身体症状に移行していくことが多いです。認知機能が低下すると、身体的にもフレイルにもなります。

 

フレイルについて、内科学会は盛んに議論し、データを収集し始めています。しかし、フレイル対策の実践については、具体例を示すことに成功していないようです。

 

今後も限りない議論が続き、論文も増えることでしょうが、現場に還元される前に現在の多くの患者さんは寿命が尽きてしまうことでしょう。

 

なぜなら、

①身体的要因であるサルコペニア対策の具体的実践ビジョンが見えてこないこと、

 

②精神・心理的要因について必要性を説きながら、自ら関与しようという内科医は少ないこと、心身医学の専門医、とりわけ心療内科指導医や専門医は、内科学会に出席していても十分貢献できていないこと、

 

③社会的要因に至っては、指摘するにとどまり、社会の役割であって内科医の役割ではないかの如くの認識でしかないこと、

 

私は、議論のための議論、論文業績を増やすために内科学会に出席しているわけではないので、とても歯痒い想いです。具体的な行動こそが肝要なのではないでしょうか。

 

 

水氣道®や聖楽院での『聖楽療法』は、サルコペニア・フレイルに対して具体的な方法を示し、実践を続けています。

 

これを内科学会に認知させるためには、まずは地道なデータを集めるほかありません。

 

そして、心療内科の分科会を内科学会の中に確立することを急がねばならないと思いました。

 

 

 

老年症候群

 

高齢者のQOL,ADLを阻害する大きな要因:

活動性低下⇒閉じこもり・廃用、歩行機能障害⇒転倒・骨折、摂食・嚥下障害⇒低栄養

 

フレイルの評価:Friedの基準(筋量、筋力、歩行機能)

フレイルは老年症候群保有数の増加、転倒発生の増加等とも関連し、認知機能が低下すると、身体的にもフレイルになり、さまざまな点で機能が低下することが判明しました。

 

現在注目されている新しい概念に、コグニティブ・フレイルがあります。

 

これは、『認知症に至らない程度の軽度の認知障害と身体的フレイルが合併した状態』です。

 

単独のフレイルの状態に比べ、より認知症や要介護になりやすい可能性が指摘されています。

 

 

診療所の外来で、水氣道®をお勧めすると、断りの理由として多いのは、

 

1)水が苦手である、2)自宅でストレッチをしている、3)ヨガ(ホットヨガ)をしている、4)まずはウォ―キングから始めたい、5)スポーツジムに通っている、などの回答が多いです。

 

何もしないより、何か体に良いことを始めていただくきっかけとして、水氣道のすすめは、ライフスタイルの改善のための良い機会を提供していると考えています。

 

運動習慣の形成は、具体的で意識的な検討なしには成功しないからです。

 

概ね、3か月に1回実施することを推進しているフィットネス・チェック(体組成・体力テスト)で、成績が向上しているのであれば、どれを選択しても良いと思います。

 

しかし、コグニティブ・フレイルという誰でも陥りやすい状態になることを予防するためには、どれが最も優れているかを、もう一度吟味していただけたらと思います。

 

 

3.呼吸器疾患とサルコペニア・フレイル… ………………………東邦大学 海老原  覚

 

演者の海老原先生は「慢性呼吸器疾患のフレイルは、身体的側面のみならず、精神的・社会的事象が多面的のみならず、精神的・社会的事象が多面的に負のスパイラルを形成しているのが特徴であり、そのようなフレイルには医療・看護・介護が連携したアプローチである包括的呼吸リハビリテーションが有効である」と述べています。

 

また、海老原先生は、呼吸リハビリテーション介入時期について、日本呼吸器学会の「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診療と治療のためのガイドライン」の第2版までは、Ⅲ期以降としていたものが、第3版以降はⅠ期からの介入に改められたことを紹介しました。

 

呼吸器疾患では筋量減少が報告されており、身体的フレイルはサルコペニアと密接な関係があります。

 

このサルコペニアに対して、栄養療法と運動療法を組み合わせることが重要です。

 

なお、呼吸器疾患においては、呼吸促迫により、呼吸・嚥下の協調不全が生じ、嚥下障害等の口腔フレイルも問題になっており、低下した呼吸機能に誤嚥が起こると重症化し易く早期に介入することが必要です。

 

そして、海老原先生は、この口腔フレイルでも包括的チームアプローチが重要かつ必須と思われる、と結論付けました。

 

海老原先生の現状分析は概ね了解可能ですが、その方法としての包括的チームアプローチと早期介入は非現実的であると思います。

 

少し考えていただければわかることですが、早期の呼吸器疾患に対する治療アプローチとして、大掛かりな包括的チームアプローチを望む患者さんが存在するでしょうか。

 

そして、保険医療の限界に毎日直面している私としては、そもそも保険医療でこの治療アプローチにかかるコストを賄うことができるとは到底思えません。 

 

さらにいえば、最も重要な前提となる禁煙指導ですら十分に達成できていない包括的チームの存在意義は、残念ながら大きいとは言えません。

 

総論には賛成ですが、各論としてのアプローチの方法が非現実的であると指摘せざるをえません。

 

海老原先生の総論に沿いつつ、実効性と有効性とを兼ね備えているアプローチは水氣道®に他なりません。

 

また、聖楽院の聖楽療法は口腔フレイル対策になります。

 

この問題は、抽象的理論至上主義で具体的実践活動に乏しい内科学会や、施設基準至上主義の総花的リハビリテーション学会の発想では解決できないのではないでしょうか。

 

 

包括的とは技術者の寄せ集めだけでは完成できず、指導力と調整力に優れたリーダーの存在が不可欠だと考えています。

 

 

4.肝疾患とサルコペニア… ……………………………………兵庫医科大学 西口 修平

 

肝臓は分枝鎖アミノ酸を合成し、アンモニアを分解します。したがって、肝疾患では分枝鎖アミノ酸の低下をはじめとする低栄養状態やアンモニア高値をもたらします。

 

アミノ酸は筋肉の蛋白質の構成要素であるため、肝疾患では直接筋肉の減少を誘発します。そこで、肝疾患は二次性サルコペニアの代表とされます。二次性サルコペニアであるため、65歳未満の若年者においても一定の割合でサルコペニアが存在し、これは一次性サルコペアの基準を直接適応することができません。

 

そこで日本肝臓病学会では、「肝疾患におけるサルコペニア判定基準」を作成しました。

 

肝疾患のサルコペイニアの発症機序として、肝硬変特有の病態であるアンモニア高値とL-ロイシン低値が重要であるとします。それらは、ともに筋蛋白の合成を直接的に阻害します。肝疾患に伴うサルコペイニアも、一次性サルコペイニアと同様に食事・運動療法を基本としたうえで、たとえば、アンモニア高値例に対する治療を行います。

 

 

5.高齢者薬物療法とサルコペニア… ………………………………東京大学 秋下 雅弘

 

東大の秋下先生は、「サルコペイニアの管理には、老年医学的視点が必須」と説いていました。

 

老年医学的視点とは、

1)サルコペイニアの多くは生活習慣病等の慢性疾患を背景とすること、

2)合併疾患をどのように管理するかが問題になること、

3) 薬物有害事象と服薬管理への配慮が不可欠であること、

 

これらは、高齢者ではサルコペイニアの問題のみならず多剤併用(ポリファーマシー)となり、有害事象や服薬アドヒランス(きちんと薬を使うこと)低下等の問題を起こしやすいです。多くの薬物がサルコペイニアの原因となります。

 

高齢者の薬物有害事象は、アレルギー症状や薬剤性腎障害・肝障害としてよりも、老年症候群として現れ易いため、薬剤起因性老年症候群と呼ばれています。

 

薬剤起因性老年症候群では、ふらつき・転倒、抑うつ、記憶障害、せん妄、食欲低下、便秘、排尿障害・尿失禁が代表的です。これらの症状は高齢者によくみられる症状であるため、薬剤性とは気付きにくく、発見が遅れることが特徴です。

 

これらのうち、ふらつき・転倒はサルコペイニアの代表的表現型です。

 

その他、抑うつ⇒廃用性萎縮、食欲低下⇒栄養摂取不足⇒サルコペイニア

 

便秘⇒食欲低下⇒サルコペイニア

 

多くの薬物がサルコペイニアの原因となるが、ベンゾジアゼピン系薬物(抗不安薬、睡眠薬)をはじめとする向精神薬、抗コリン系薬物に対する注意が最も重要です。

 

高齢になるにつれて、病気が増えるので、どうしても多剤併用になりがちです。

 

秋下先生が言及していないことで、大切なことがあります。それは多剤併用の背景には、高齢者に限らず、日本では患者さんが窓口となる主治医をもっていない人が多いこともその原因であると考えています。

 

極端にいえば、病気の数ではなく、多彩な症状ごとに個別の医師に診てもらいたがる傾向があるからだと思います。

 

その理由は、極端なブランド志向、専門医志向にあるとも感じています。

 

その結果、多科受診となり、それは多医受診に通じます。また、極端な場合は、誤ったセカンドオピニョンを求める方が少なくありません。

 

お薬についての質問は、そのお薬を処方している医師に直接尋ねて納得することが必要であって、聴きやすいというだけの理由で、別の医師に説明を求めるのは誤りだと思います。

 

それ以上に問題なのは、本来一つの病気であるにもかかわらず、気になる症状ごとに、複数の医師から重複して薬剤を処方して貰っていることを何とも思わないことだと思います。