慢性心不全における薬物治療と非薬物治療の進歩と限界… …九州大学 筒井 裕之
日本循環器学会と日本心不全学会は、心不全を「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」とする一般向けの定義を公表しました。
心不全リスク(ステージA,B)⇒症候性心不全(ステージC,D)
慢性心不全に対する薬物療法・非薬物療法は進歩が著しい反面、未だに厳然たる限界があります。
心不全については、近年は「左室駆出率が低下した心不全(heart failure with EF: HFrEF)LVEF《40%」主に収縮機能障害(心筋梗塞、拡張型心筋症などに対して
「左室駆出率が保持された心不全(heart failure with preserved EF: HFpEF)」主に拡張機能障害(高血圧性疾患を始め、多様な基礎疾患と多様な併発疾患)が話題になっています。
前者の治療が著しい発展を遂げているのに対して、後者は増加して現代型心不全であるにもかかわらず、未だ生命予後を改善する治療が確立していないからです。
治療の発展:神経体液性因子の上昇による心不全増悪という悪循環のメカニズム
非薬物療法:呼吸療法、運動療法、細胞治療
病態別治療:HFpEFは利尿剤を病態に応じて、ただしHFmrEFは個々の病態に応じて治療
入院死亡率8%、再入院率20%(アドヒアランス不良にいる症状増悪によることが多い)
画一的な治療では改善できず、個別的ケアの必要性
新たな心不全治療薬:2型糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬
心不全による入院を抑制する
ACE阻害薬〔エナラプリル:レニベース®〕を上回る成績の薬剤の開発
いずれにしても、心不全患者は高齢者が多いとはいえ、治療戦略の基本は変わりません。ただし、エビデンスが十分でないうえに副作用が生じやすく、合併症も多いため、患者特性に基づいた個別の対応が必要です。
非薬物療法である植込み型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator: ICD)と
心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy: CRT)の有効性は確立し、標準治療となっています。
ただし、画一的なプログラムには限界があり、行動変容に基づくセルフケアを支援するICT(information and communication technology)の活用も取り組まれています。
筒井先生のレクチャーのなかで、循環器内科医も心身医学とりわけ心療内科と無関係ではいられない時代に突入したことが行動変容に基づくセルフケアを支援するICTの活用という記述で紹介されました。
問題は、どこまで適切に活用できるかということです。高円寺南診療所でも心臓超音波検査によって左室駆出率を計測できるので、心不全の評価分類と重症度評価をこれまでより一層きめ細やかに行わなくてはならないと思います。
急性腎障害(AKI)と慢性腎臓病(CKD): その移行メカニズム………京都大学 柳田 素子
急性腎障害(AKI)とは、数時間から数日の間に、急激に腎機能が低下する病態であり、入院患者の数%が罹患する頻度の高い疾患です。AKIは致死率が高いのみならず、末期腎不全や慢性腎臓病(CKD)に至る予後の悪い疾患であるということが、近年にわかに明らかになってきました。
AKIでは、腎臓の機能単位ネフロンの近医尿細管が主として障害されるのに対して、CKDでは線維化と広汎なネフロン障害が特徴になります。
特に高齢者ではAKIがCKDに移行し易く、高齢腎における三次リンパ組織形成は、AKIからCKDへの移行を防ぐ新たな治療標的として有望とされます。
近年、がんと腎臓病の関わりを捉えたオンコネフロロジーが注目されています。
抗癌薬使用時には高頻度にAKIを発症します。AKIがCKDに移行し、腎機能が十分に回復しなければ、抗がん薬投与の継続が困難になり、生命予後が悪化するため、AKIがCKDに移行するのを防ぐための方法の確立が望まれています。
柳田先生のレクチャーは、シンプルでわかりやすいものでした。腎臓の尿細管は薬物障害を受けやすいことは常に念頭におくべきでしょう。
急性腎障害は高い死亡率があり、20%は慢性腎臓病に移行すること、また、慢性腎臓病に急性腎障害が生じると予後が悪いことはよくわかりました。
ただ残念なことに治療法が未開拓です。それでは、来週から高円寺南診療所ではどのような取り組みをすべきか、もう少し詳しく勉強しようと思います。
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