カテゴリー: 医療
今回は「人が助けを求めるまでのプロセス」について考えていこうと思います。
<第1段階>
まずは、「自分の身の上に問題が起こった」、「自分は問題を抱えている」、と気づくことです。
目の前で問題が起これば、あるいは「しんどいな」と感じれば、「問題」に気づくはずだと思うかもしれません。
しかし、実はそう簡単な話ではありません。
人は自分を守るために、「否認」という防衛機制を用いることがあります。
「防衛機制」とはフロイトの精神分析の用語です。
簡単に言うと、「強い不安や受け入れがたい衝動が生じた時に、
不安定にならないよう、自分(自我)を守るために、無意識的に行われる心理的な働き」です。
また「否認」とは防衛機制の一つで、
「不安や苦痛を生み出すような問題から目をそらし、認めないこと」です。
問題が起こった時に、自分にとってあまりにも不安や脅威だったりすると、
その感情から自分を守ろうと、無意識的に問題自体を「否認」してしまうことがあるのです。
心の中で、問題がそもそも無かったことのように処理されてしまうと、
問題自体に気づくことができなくなってしまいます。
自分(自我)を守るためには、まず問題を意識的に受け止めることが大切です。
なぜなら、問題は取り残されたまま、原因がわからぬまま、
心身に変調をきたしてしまうからです。
そこで臨床心理士は、まずどんなにしんどいのか、ご本人の心身の変調を受け止めます。
そして、クライアントさんの自我を守りつつ、問題(困難)に気づけるようにサポートしていきます。
* 参考文献: 太田仁,2005,「たすけを求める心と行動」,金子書房
ストレス対処 MIYAJI 心理相談室 (高円寺南診療所内)
主任 臨床心理士 宮仕 聖子
(18の続き)
臨床心理士といった心理の専門家は、
「苦しい、辛い」という訴えしか言えない状態、混乱した状態でも、
まず情緒的なサポートによって、クライアントさんの気持ちの下支えをいたします。
どんなことが辛いのか、お話ができるまで、待っています。
また、その人が話しやすいように気持ちを引き出すサポートもします。
そして、必要であればより専門的な、手段的・情報的サポートも提供します。
例えば、認知行動療法といった手法を使って、クライアントさんと問題の解決に向けて、
物事のより良い受け止め方や考え方、ふるまい方のトレーニングを提供します。
心理の専門家というと、ちょっと相談に躊躇するところがあるかもしれませんが、心配はいりません。
その人が今訴えたいことを、ありのまま受け止める姿勢でお話をお聞きします。
ただ、相談する人から「HELP!」が来ないと、
カウンセラーは十分なサポートをすることができません。
もし悩んで、周りの人に話しづらかったり、うまくいかなかったりするときは、
カウンセラーに一言、「HELP!」と伝えに来てくださいね。
ストレス対処 MIYAJI 心理相談室(高円寺南診療所内)
主任 臨床心理士 宮仕 聖子
(17の続き:サポートを得るための求め方や求めるタイミングについて)
次に、自分が今どんな状態かを相手に説明する必要があります。
前回の例で言うと、歯医者さんのところに行ったら、どこがどんなふうに痛むのか説明できると、
歯科医はどんな処置が必要なのかを判断することができます。
それから、どこまでなら自力でできそうか、どこからサポートが必要なのかを話せると、
相手にもわかりやすく、要点をおさえたサポートを得ることができます。
しかし、体の調子が悪いときには、健康なときとは違って精神的に余裕がないので、
なかなかそこまで要領よく話すことができないものですね。
一方、サポートを求めるタイミングも大事になってきます。
それは相手のことを考えて求めることです。
相手が忙しかったり、相手も深刻な悩みを抱えている状態だったりという状況では、
相手も良いサポートを提供できないでしょうし、相手まで苦しめてしまう結果になってしまいます。
素人である相手方に期待できることの限界を認識していないと、
互いに、失望もしくは怒りの感情が生まれ好ましくない結果をまねきかねません。
「心の専門家」が必要になるのは、こうした場合です。(次回へ続く)
ストレス対処 MIYAJI 心理相談室(高円寺南診療所内)
主任 臨床心理士 宮仕 聖子
消化器系の病気
テーマ:過敏性腸症候群
高円寺南診療所の新患は、比較的若い世代が多いという特徴があります。
若い方たちの中には、体調不良が生じてもすぐに来院せず、
3ヶ月以上も経過して、やっと来られる方も少なくありません。
症状で多いものの代表は腹痛です。
腹痛が3ヶ月間続いている場合に、まず確認するのは腹痛の頻度です。
過去3カ月間、平均して少なくとも週に1回以上起こしている場合には、
その段階で過敏性腸症候群(IBS)を疑います。
次に、①腹痛と排便が関係するか、②腹痛により排便頻度に変化があったか、
③腹痛により便形状(外観)に変化を伴ったかどうかを尋ねます。
この3項目のうち2項目以上が認められれば、過敏性腸症候群(IBS)と診断します。
以上は、Rome Ⅳ基準(2016)という過敏性腸症候群の診断基準の骨子です。
腹痛の他、下痢、便秘、腹鳴などの機能的障害がみられることがあります。
治療は第1段階から第3段階まであります。
第1段階は、過敏性腸症候群(IBS)の患者さんを日常的に診療する
一般医や消化器内科専門医が担当しています。
このIBSを便の形状(硬便・兎糞状便~軟便・水様便)の割合から
下痢型、便秘型、混合型/分類不能型に分類します。
もし、便の形状について問診を受けなかったとしたら、そのドクターはIBSに関して、
余り専門的な知識を持っていないのではないかと思います。
この分類がIBS診療で重要なのは、便性状が、排便回数より、大腸通過時間を良く反映するからです。
第2段階は、消化器内科専門医等による消化管主体の治療が無効だったことを踏まえて、
中枢機能の調整を含む治療経験のある総合病院の消化器科、心療内科、総合内科での治療とされます。
ここでは、第1段階の薬物治療との併用も可能です。
第3段階では、薬物治療が無効であることを踏まえ、心理療法を行います。
消化管機能あるいは心身医学の専門医がいる施設での治療戦略です。
心理療法には弛緩法、催眠療法、認知行動療法などがあります。
高円寺南診療所では、第1段階から第3段階に至るまでの一切を担当しています。
心身医学や心療内科の最大の欠点は、薬物療法で治療効果を発揮できない場合に、
ただちに心理療法を検討することにあります。
これは、心身医療や心療内科の発祥であるドイツでも同じです。
<神経症や精神病でない心身症の患者に、心理療法を施すのは誤り>であると、
心身医学専門医であり心療内科専門医である医学博士が指摘することは、問題があるでしょうか。
私はそうではないと考えています。非薬物療法すなわち心理療法ではないからです。
心身症の患者さんには心身医学療法こそが進められるべきです。
真の心身医学療法とは、身体活動や運動訓練を伴うものであると考えているからです。
しかし、実際に心理療法もどきの技法を心身医学療法にすり替えていることこそが、
心身医学の矛盾であり弱点であると考えています。
心身医学療法は心身医学の専門医みずから新たにデザインすべきではないかと考えます。
その考えを実践したのが水氣道®であり臨床声楽法(聖楽院)なのです。
第114回日本内科学会総会に参加して(その3)
内科は基本領域です。
この基本領域をSpecialty(専門)として、
そこから13のSubspecialty(特殊専門領域)が構成されます。
しかし、世間様の相場とは異なり、内科が専門領域であると主張しているのが
日本内科学会だけだとすれば、実に滑稽な話です。
日本内科学会の13におよぶSubspecialty領域を列記してみましょう。
・消化器・循環器・呼吸器・血液・神経内科・老年病・腎臓病・肝臓病・糖尿病
・内分泌代謝・リウマチ・アレルギー・感染症
日本内科学会が認定した内科医は、このすべての領域を担当できることが保障されていますが、
もっぱらSubspecialty領域のみを担当する医師も多数存在します。
これらのSubspecialty領域の内科専門医となるためには、
基本領域である内科医としての認定された資格を有することが必須の条件となります。
私の場合は、上記のうち、リウマチとアレルギーの2領域の専門医ですが、
これらの領域はとくにすべてのSubspecialty領域にかかわっています。
また、この13領域以外でも基本領域の資格を必須とする専門医資格があります。
広告可能な専門医資格として厚生労働省が認可しているものの中で、
私が保持している資格は、心療内科専門医、漢方専門医があります。
この2つの専門領域は、内科の13のSubspecialty領域のすべてはもちろんのこと、
医療全般に貢献していると思います。
心療内科は、いずれ内科の14番目のSubspecialty領域となるべき準備が進みつつあるようです。
一方、漢方専門医は内科以外の基本領域、
たとえば小児科、産婦人科等の専門医など、複数の基本領域の専門医が取得しているタイトルです。
テーマ:出血傾向、とくに血液凝固因子の異常
出血しやすい患者さんを診たら、まず出血部位を確認することから始まります。
出血が直接的に観察できない部位もあります。
たとえば関節内や筋肉での出血です。
次に血小板、凝固系、線溶系、血管壁のうち、どこに異常があるかを鑑別するための検査を行います。
見落とされがちな関節内・筋肉での出血であれば凝固因子の異常を疑います。
このうち、凝固系の異常が原因である場合は、先天性のものか後天性のものかで分類します。
小児科では先天性である血友病などが重要ですが、内科では後天性の病気が重要になってきます。
それでは、後天的に凝固系の異常を来たし、
出血傾向を生じるものにはどのような原因があるかを列記してみることにします。
①肝臓病、②ビタミンK不足、③循環抗凝固抗体(後天性血友病など)、④抗凝固薬使用
①肝臓病によって出血傾向を来す理由は、肝臓が凝固因子を合成しているからです。
②ビタミンK欠乏症は、ビタミンK欠乏によってビタミンK依存性凝固因子
(第Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ、Ⅱ因子)の働きが低下するので、出血傾向が生じます。
③特定の凝固因子の働きを妨げる因子が後天的に形成されることによって出血傾向が生じます。
神経・精神・運動器
テーマ:ミトコンドリア脳筋症
骨格筋障害のうち、その原因が筋肉自体にあり、
神経によるものではないものをミオパチーといいます。
骨格筋障害というと、整形外科を考える方が多いと思いますが、
このミオパチーを専門領域とするのは、まずは神経内科医です。
(ただし、神経内科は心療内科とは異なるので区別してください。)
筋肉の細胞の異常には
①筋細胞の構成蛋白の異常、
②エネルギー代謝の異常、
③炎症
があります。①は筋ジストロフィーなど、②はミトコンドリア病や各種のミオパチーなど、
③は多発性筋炎/皮膚筋炎などの膠原病です。
この③のみは、神経内科医ではなく、リウマチ内科の領域です。
②エネルギ代謝異常によるミオパチーにはミトコンドリア病があります。
これは先天性代謝性ミオパチーで、ミトコンドリア脳筋症とも呼ばれています。
ミトコンドリアはヒトを含め真核生物の細胞小器官です。
二重の生体膜からなり、独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を持ち、分裂、増殖します。
それはATP合成や酸素呼吸(好気呼吸)の場として重要な役割を担っています。
このDNAは母系遺伝します。
ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能異常によって、
エネルギー産生障害(ATP酸性の低下)のため、
体内の乳酸が増加して体液が酸性化するアシドーシスを生じます。
体の中で最もエネルギーを必要とする臓器である脳や骨格筋をはじめ、種々の臓器が障害される病態です。
共通の症状は、四肢の筋力低下、低身長、感音性難聴、痙攣、脳卒中様発作、糖尿病などです。
先天性であるこの病気とは異なり、線維筋痛症は後天的な病気ですから、病的な低身長は特徴的ではありません。
しかし、エネルギー不足や有酸素呼吸機能低下傾向を認めるため、
筋肉や脳の機能異常をきたしているという現象は共通しています。
線維筋痛症の患者さんが有酸素運動である水氣道®を継続することによって治療効果が得られますが、その場合は、骨格筋機能と同時に脳の機能にも改善がみられています。
このように、発症頻度の少ない難病を経験することは、発症頻度の多い病気の理解や治療法の開発の上でも役に立つ場合があります。これは、逆のこともいえそうです。日常的に遭遇する病気を丁寧に観察することによって、難病の患者さんに対して新たなアプローチが可能になるのではないかと思います。
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