侵襲性肺アスペルギルス症

 

60代女性。1カ月以上も前から食欲不振と歩行時のふらつき感が続いているとのことで近所の整形外科を受診しました。その後、起立困難となり他の整形外科を受診し、貧血を指摘されたため、漢方薬による治療を目的として当院の受診となりました。

 

身長158㎝、体重59㎏、BMI23.6、血圧98/52㎜Hg、体温38.4℃。眼瞼結膜は貧血著明。しかし、眼球結膜の黄染なし、表在リンパ節蝕知せず、心音・呼吸音に異常なし、肝脾腫なし、神経学的所見にも異常はありませんでした。

 

そこで、血液検査と胸部エックス線検査を実施しました。胸部エックス線写真では明かな異常を認めませんでした。

 

後日、血液検査の結果から、白血球数12,000/μL(芽球75%、好中球数600/μL)、血中ヘモグロビン6.1g/dL、血小板2.2×10⁴/μLでした。生化学所見ではAST289IU/L、ALT118IU/L、LDH3,450IU/Lと増加していました。CRPは陰性でした。

 

そこで急性白血病を疑い、漢方薬治療よりも精密検査が優先されるべきであり、そのため紹介状を書くことを提案したところ、急に憮然とした態度となり、診療費も支払わず、不機嫌な態度で出て行かれました。

 

この方は、約1か月後、緊急搬送先で即日入院となり、赤血球と血小板の輸血を受けました。担当医は、たまたま私の知り合いの医師でした。学会で顔を合わせた時に、その医師から相談と報告を受けました。

 

骨髄穿刺などによる検査により、診断は急性骨髄性白血病とのことでした。入院時の発熱に対する抗菌剤投与で解熱傾向がみられたため急性白血病に対する寛解導入療法を開始すると平熱になったが、好中球数が0になる一方で、抗菌剤を続けても38℃以上の発熱が続くなどのトラブル続きであったとのことでした。

 

急性白血病患者では、基礎疾患そのものに加えて強力な抗癌化学療法により顕著な好中球減少症をもたらされますが、0というのは驚きです。

 

抗菌薬によっていったん解熱した後に再び発熱する場合には、薬剤による副作用の可能性よりも、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの抗菌薬耐性の細菌感染症かアスペルギルス症かカンジダ症などの真菌感染症を疑います。

 

急性骨髄性白血病のこの患者さんは、好中球は減少したままで、依然として抗菌薬が効かないためパニック状態に陥っていました。しかし、再度の胸部エックス線で肺浸潤を認めました。そこで、喀痰培養検査が実施できれば良いのですが、好中球が0であるため、喀痰は採取できずに困ったそうです。

 

そこで、実施したのが血清診断です。真菌感染症を疑うことによって、血中β-D-グルカンや血中アスペルギルス・ガラクトマンナン抗原の測定により、アスペルギルス感染症であることが判明しました。同時に実施した胸部CT検査の結果からは、侵襲性肺アスペルギルス症の診断がつきました。

 

ようやく、ボリコナゾールという特効薬(抗真菌剤の一つ)を開始して解熱傾向が得られたが、血小板輸血不応のため脳出血を起こし、入院後1カ月足らずで死亡されたとのことでした。ご冥福をお祈り申し上げます。

感染性心内膜炎

20台女性。数日前から頭痛と呼吸困難感、悪寒・戦慄が生じたため初診となりました。

 

2週間前から38℃台の発熱(平熱36℃)があったため、近医内科を受診しキノロン系抗菌薬を処方され10日間服用したとのことでした。

 

解熱剤と良く効く抗生物質の処方を望んで来院されました。

 

 

 

意識清明。血圧88/52㎜Hg、脈拍124/分・整、呼吸数36/分、体温38.2℃、動脈血酸素分圧濃度SpO₂93%(診察室内空気)。

つまり、バイタルサインの異常は、低血圧、頻脈、頻呼吸、中等度発熱、准呼吸不全に及んでいました。

 

若い女性で、既往歴としては明らかな基礎疾患はないとのことでした。ただし、経過は1カ月以上に及び、複数の経口抗菌薬を投与しても効かないということ、歯科治療後に発熱を来したという情報を、ようやく聞き出すことができました。

 

 

眼瞼結膜は軽度貧血および出血斑、心音は胸骨左縁第4肋間にレヴァイン3/6の収縮期雑音聴取、胸部両側下肺部に全吸気時副雑音を聴取。腹部においては肝脾腫なし、他に異常なし。すなわち、項部硬直なし、頸部リンパ節蝕知せず、下腿に浮腫なし。その他、右手指に爪下出血あり、皮疹・出血斑なし。

 

 

もっとも気がかりなのは、准呼吸不全の原因が肺炎なのか心不全なのか、それとも別のものなのかどうかということでした。そこで胸部エックス線検査を実施し、まず心不全を疑いました。

 

 

ここで現病歴を振り返ってみると、歯科治療後の発熱、発症は亜急性で、複数の経口抗菌薬に反応しないこと、これまで指摘されたことのない心雑音、微小血栓(出血斑、爪下出血)などから、感染性心内膜炎を疑いそれを告げたところ、近日中に心臓専門医(循環器)を受診したいとのご希望で、私の提案をことごとく拒否して帰宅されました。

 

その後、意識消失により緊急入院となったことを第三者から聞きました。

 

当初は肺炎と診断され肺炎の治療を受けていたとのことでしたが、意識が回復したのち、私から感染性心内膜炎の診断を受けたということを担当医に告げることができたそうです。

 

そこで直ちに血液培養を実施してもらったとのことでした。しかし、その時にはすでに抗菌薬が投与されていたためか、原因菌がなかなか判明せず、結局、培養陰性心内膜炎とされてしまいました。

 

幸い当院通院中の患者の家族を介して、抗菌剤をすべて中止して数日してから再検する方法があることを伝言したところ、後日、原因菌が判明し、効果的な治療に繋がったということを確認しました。

 

胸部エックス線写真の異常は肺炎ではなく、やはり、感染性心内膜炎による心不全だったのでした。

 

適切な治療の開始が遅れたため、この女性は僧帽弁逆流症が悪化し、抗菌薬療法を継続しながら、心臓の手術(僧帽弁形成術)を受けた後、幸い無事に退院されたとのことでした。

 

 

心内膜炎を診断する際には、血液培養検査の結果がでなくても、心臓超音波検査(心エコー)で確認しておくことが重要です。

 

この症例では、患者本人からの検査拒否のため実施できませんでしたが、心エコーは心内膜炎および、その合併症の診断に極めて有用です。

 

本症例は、歯科処置が誘因になっている可能性がありました。その場合、緑色もしくは黄色連鎖球菌による感染性心内膜炎を疑い、ペニシリン系、セファゾリン、アミノグリコシド系抗菌薬を併用するなどの治療方略を初期から考慮しなければなりません。

 

他科での受診歴がある場合、それを目の前の主治医にきちんと伝えることは患者の義務です。無関係だからと決め込んで本人の実しか知りえない情報を提供せず、また必要な検査や治療を拒むことによって招いた結果の責任まで医師は負うことはできません。

 

とりわけ、医師が慎重に問診しているにもかかわらず、なかなか協力しようとしないというのは、とても残念なことです。

敗血症性ショック

 

70台男性。発熱と排尿困難感の訴えで来院。歩行状況から左不全麻痺を認めました。解熱剤と利尿薬を所望されましたが、左不全麻痺については改善傾向にあるという理由で、詳しい問診には応じていただけませんでした。

 

患者自らが重要な医療情報の提供を拒否し、対症療法のみを求めてくるケースが多いのは困りものです。

 

杉並国際クリニックに組織改編してからは、初診は予約制にして慎重に対応できる体制とした背景には、いろいろないきさつがあります。

 

そこで体温38.3℃であるため、ただちに血液検査と尿の培養検査を実施しました。左背部の叩打痛を認め、血尿がみられ、また超音波検査で左の腎臓が腫大し、水腎症が疑われたため、排尿困難に関してはただちに泌尿器科にて精査および尿道カテーテルなどの対処をしていただくようにアドヴァイスしました。

 

それは、水腎症がある場合、上部尿路感染が発症すると敗血症性ショックがもたらされる危険性があるためです。

 

脳梗塞のため通院中の病院にて腹部CT検査を実施したところ、左の水腎症が再確認され、さらにその原因とも考えられる左尿管結石が見つかりました。

 

尿管結石を超音波検査で発見することは困難であるため、腹部CT検査を早期に実施できて良かったです。その報告を受けて、血液培養検査を実施していただくようにとの要望を伝えておきました。

 

その病院では尿道バルーンカテーテルを留置され2種類の抗生物質を処方されました。その病院には、すでに前月に救急搬送され脳塞栓症の診断のもと入院加療(抗凝固療法および血栓溶解療法)後に退院して治療経過中に尿路感染から敗血症性ショックを起こしたことが判明しました。

 

 

初診時の血液検査結果は、白血球数12,200/μL、CRP8.2㎎/dLという明らかな炎症所見を認め、尿培養検査の結果、グラム陰性桿菌が同定され、抗菌剤の感受性検査報告では、先日の病院で処方された抗生物質は、いずれも抵抗性であることが判明したため、感受性のある新たな抗生物質を処方したうえ、慎重に経過を観察し、高熱が出たらためらわず救急車を要請するように本人と配偶者に伝えました。

 

 

その翌日から、自宅で悪寒・戦慄を伴う39℃を超える発熱があったため、救急車を要請し、病院に搬送されました。

 

収縮期血圧が80㎜Hg以下に低下しショック状態に陥ったとのことでした。

 

病院から処方されていた抗生物質が切らしていたが発熱がなかったため、私が処方した抗生物質も内服する必要がないと考えていたということが後日判明しました。

 

初回に病院に依頼しておいた血液培養検査の結果によると、耐性エンテロバクターというグラム陰性桿菌が起炎菌であったことがわかりました。

 

これは腸内細菌の一種で、重症敗血症であることが判明しました。病院で処方されていた抗生物質は抗菌スペクトラムが非常に広いものでしたが、耐性菌に対しては無効でした。私が処方したカルバペネム系抗菌剤の内服を開始すると3日間で著明に改善したとのことでした。その後の経緯は不明です。

今月のテーマ:厄介な感染症

 

12月9日(月)

厄介な感染症No1.

 

特発性細菌性腹膜炎

 

60台女性。感冒を治してほしいということで受診されました。

 

本人が感冒を疑った理由を尋ねると、数日前から嘔気および食欲不振を自覚し、徐々に腹部膨満感や全身倦怠感が強くなったので、一発で効く風邪薬が欲しいとのことでした。

 

患者自らが自己診断のもとに治療のみを求めてくるケースが多いのは困りものです。

 

杉並国際クリニックに組織改編してからは、初診は予約制にして慎重に対応できる体制とした背景には、いろいろないきさつがあります。

 

初診時は意識清明、体温37.2℃、脈拍104/分・整、血圧110/58㎜Hg、呼吸数24/分でした。

 

たしかに、感冒の初期症状に似てはいます。しかし、眼瞼結膜にほんの軽度の黄染を認め、腹部の膨隆と右側腹部の圧痛、腸管の蠕動音の低下を認めたので、単なる感冒ではないと考えましたが、他には特徴的な所見は得られませんでした。

 

すなわち、頸部リンパ節は蝕知せず、心音、呼吸音に異常なく、腹部の筋性防禦や反跳痛をはじめ神経学的所見にも明らかな異常を認めませんでした。

 

念のため胸部エックス線写真をとったところ、両側に少量の胸水を認めたため、腹部超音波検査を追加しましたが、腹水を認め、肝硬変を疑いました。

 

そこで、改めて問診してみると、10年前に原発性胆汁性肝硬変(PBC)と診断され、脳死肝移植待機中であるとの重要情報を得ました。

 

初診時と比べて翌月の再診時の診察で肝硬変患者で腹水が増加し、バイタルサインが変動し、白血球増加していましたが、感染症の一次臓器らしきものがみつかりませんでした。

 

細菌性腹膜炎の可能性があるため、血液培養検査と腹水の検査が必要であることを本人に伝えたところ、それまで定期的に受診していた病院で直ちに検査を受けたとのことでした。

 

後日、腹水の検査結果を持参されました。

 

外観は淡黄色で肉眼的混濁あり。

 

検査所見:

WBC(白血球数)3,500/μL、

TP(総蛋白)1.0g/dL、

Alb(アルブミン)0.5g/dL、

Glucose(ブドウ糖)175mg/dL

腹水グラム染色(-)

 

そこには腹水に菌体を検出できず、腹水中の総蛋白やアルブミン濃度が低いため、腹水は漏出性とされ、腹膜炎は否定的で、悪性腫瘍の腹膜播種の可能性があるとの所見がありました。

 

しかし、腹水中の白血球数が1,000/μLをはるかに超えていることから感染性腹水を否定することができないこと、腹水が漏出性所見を呈した背景として肝硬変による低アルブミン血症や門脈圧亢進があることで、見かけ上、滲出性ではなく漏出性所見を呈したのではないかという意見を病院側に示しました。

 

患者は入院となり、利尿剤の増量、アルブミンを含む点滴に加えて抗菌薬(広域ペニシリン約)治療が開始されたとのことでした。血液培養検査の結果、大腸菌が検出されたこと、悪性腫瘍の腹膜播種は認められなかった、との報告を受けました。

 

肝硬変患者の細菌性腹膜炎は予後不良な経過をたどる場合が少なくないとされるので、その後の経過を心配しておりましたが、その後、連絡が途絶え、残念ながら転帰不明となりました。

 

専門医志向が強い患者さんの中には、最初から開業医の判断を無視したり軽視したりして、必要な情報すらも提供してくださらない方が、残念ながら散見されます。

 

専門家として尊重してくださらない患者さんを診療することは、以上のケースのように大きなリスクになります。

 

この患者さんには「胸部エックス線検査も腹部超音波検査も不要であり、異常が見つからなければ、診療費を支払うつもりはない」とまで宣言されたのですが、必要性を説いて検査を実施しておいて良かったと思います。

 

「杉並令和音楽祭」では、大変お世話になりまして、誠にありがとうございました。

 

また、ご不便、ご迷惑をおかけしましたことを改めてお詫び申し上げます。

 

本番は皆様のご協力の元、成功に終えることができましたこと、非常に感謝致しております。

 

このようなプロとアマチュアの音楽的な交流は、日本の音楽界ではとても大切なことと実感しております。

 

杉並区の文化向上のために、これからも続けてまいりたいと思っております。

 

その際は、皆様のお力をお借りすることがあるかと思いますが、何卒よろしくお願い致します。

 

師走に入り慌ただしい日々を送られてことと思いますが、ご健康で新しい年を迎えられますようお祈り申し上げます。

 

令和元年12月4日

 

杉並プロ・アマ交流音楽会実行委員会 

実行委員長 木村英一

 (図1)

スクリーンショット 2019-12-03 時刻 14.55.59

 

 

JFIQは線維筋痛症の経過観察に欠かせない指標です。

 

 

最高点が100点で、20点未満が正常値になります。

 

 

 (図1)は左側が初期時の点数、右側が現在の点数でその2点を結んだものです。

 

 

 図2)

スクリーンショット 2019-12-03 時刻 14.55.40

 

 

(図2)は線維筋痛症の治療効果の割合を表したものです。

 

 

 50以上点数が下がると「著効」です。

 

 

 20以上50未満点数が下がると「改善」です。

 

 

 20未満の点数の低下は「無効」の判定となります。

 

 

<今回の考察>

 

 

正規性の検定で初期値、現在値共に正規性がありました。

 

 

その後、関連2群の検定と推定を行いました。

 

 

1)統計的にみて、JFIQスコアが有意に改善したことが証明されました。P(危険率)=0.001%でした(図1)

 

 

pが0.05以下であれば統計学的優位である。

 

 

pが0.01以下であれば統計学的に極めて優位である。

 

 

2)JFIQスコアの判定基準として、20点以上改善されると治療が有効、50点以上改善されると著効となります。

 

 

  今回、12の平均で   35.3点改善していたため、全体として鍼治療は   有効であったと言えます。

 

 

個別でみると、著効3名(25%)、有効6名(50%)、無効3名(25%)でした。(図2)

 

 

 

杉並国際クリニック 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

慢性呼吸不全患者で病態がさらに進行すると高二酸化炭素血症を伴うことが多くなります。

 

慢性呼吸不全患者のうち、低酸素血症に加えて慢性的に二酸化炭素の蓄積を伴ったⅡ型呼吸不全には、継続的な補助換気(人工呼吸療法)が必要となる場合があります。

 

非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)は、気管切開することなくマスクを介して換気を行う治療法で、1998年に在宅における健康保険が適用になりました。患者さんにやさしい人工呼吸療法として、NPPV療法は注目されています。

 

 

その適応としては、COPDの急性増悪、心原性肺水腫、免疫不全患者における呼吸不全に関しては、最も推奨されています。日本において在宅NPPVを施行患者で最も多いのはCOPDで26%です。肺結核後遺症は23%、神経筋疾患が18%、睡眠時無呼吸症候群は14%です。

 

 

在宅NPPVの装用開始は、日中の30分間程度から徐々に始めていきます。
特に夜間のREM睡眠期に高二酸化炭素血症の高度上昇が認められることが多く、そのため夜間使用が基本になります。

 

以下は、拘束性胸郭疾患におけるNPPVの適応基準です。

 

1.自・他覚症状として、起床時の頭痛、昼間の眠気、疲労感、不眠、昼間のイライラ感、正確変化、知能の低下、夜間頻尿、労作時呼吸困難、および体重増加・経静脈の怒張・下肢の浮腫などの肺性心の徴候のいずれかがある場合以下の①、②の両方あるいは、どちらか一方を満たせば長期NPPVの適応になります。


① 昼間覚醒時低換気(動脈血中二酸化炭素濃度:PaCO₂≧45㎜Hg)

 

② 夜間睡眠時低換気(室内気吸入下の睡眠でSpO₂<90%が5分以上継続するか、あるいは全体の10%以上を占める。

 

 

2.上記の自・他覚症状のない場合でも、
著しい昼間覚醒時低換気(PaCO₂≧60㎜Hg)があれば、長期NPPVの適応となる。

 

 

3.高二酸化炭素血症を伴う呼吸器系増悪入院を繰り返す場合には、
長期NPPVの適応となる。

 

 

なお集中治療室への入院の適応は、以下の通りです。

 

初期治療に反応しない重症例
不安定な精神状態
生命を脅かす重症例
酸素投与やNPPVに反応しない
動脈血中酸素濃度(PaO₂)<40Torr
pH<7.25
侵襲的陽圧換気例
カテコラミンなどが必要な例

杉並国際クリニックでは、初診(再初診を含む)は予約制としているため、急性呼吸不全に遭遇することはほとんどないため慢性呼吸不全の話を続けてきました。しかし、このことは、まったく急性呼吸不全と無縁になったことを意味してはいません。

 

その理由は、慢性呼吸不全で最も割合の大きい慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんには、しばしば急性増悪が見られるからです。しかも、増悪により呼吸機能の低下、生命予後の悪化を招くため重要な病態です。

 

COPDの急性増悪とは、息切れや喀痰・咳嗽の増加、胸部不快感の増強などにより安定期の治療に変更あるいは追加が必要な状態です。

 

COPDの増悪は病態が進行している患者さんほど頻度が高くなります。その原因の多くは呼吸器感染症や大気汚染ですが、約30%は不明です。

 

治療のために入院が必要になることがあります。

 

入院の適応は、患者の病態のみならず背景も加味して判断します。

 

以下の通りです。

 

低酸素血症の悪化

呼吸性アシドーシス

安定期の気流閉塞の重症度(一秒率:%FEV₁.₀<50%)

初期治療に無反応

重篤な合併症

頻回の増悪

高齢者

不十分な社会的サポート

 

 

初期治療はABCアプローチが基本です。

すなわち、

A(antibiotics:抗菌薬

B(blonchodilators:気管支拡張剤)

C(corticosteroids:副腎皮質ステロイド剤

 

 

 抗菌薬は喀痰の膿性化や人工呼吸器管理例で特に考慮します。

 

ステロイドの至適投与期間は様々な見解があります。

 

症例によっては1週間以内の投与も考慮されます。

 

 

インフルエンザワクチンに関して、65歳以上で肺炎による入院や死亡率を減らすことが報告されているので、積極的に接種することが推奨されています。

 

ただし、23価ワクチンに関しては、COPD患者の生命予後の改善は報告されていません。

 

インフルエンザに罹ったことを理由に、ワクチン接種を拒否する方が少なくありませんが、少なくとも65歳以上の方はインフルエンザワクチンのみは接種していただきたいと考えています。

 

さらに、COPDの急性増悪で集中治療室への入院の適応となる場合があります。これについては、明日解説します。

在宅酸素療法の社会保険適応基準に関しては、以下のように定義されています。

 

1) 高度慢性呼吸不全
動脈血酸素分圧が55Torr以下、および60Torr以下で睡眠時や運動時に著しい低酸素血症を認め、医師が在宅酸素療法が必要と認めた者。SpO₂の推測値を用いてもよい。

 

2) 肺高血圧症

 

3) 慢性心不全
ニューヨーク心臓協会(NYHA)Ⅲ度以上と認められ、睡眠時のチェーンストークス呼吸があり、無呼吸低呼吸指数が20以上と睡眠ポリソムノグラフィ―で確認されている症例


4) チアノーゼ性先天性心疾患
ファロー四徴症や大血管転位症などのうち、発作的に低酸素・無酸素となる症例

 

慢性呼吸不全の診断基準に該当するだけでは、社会保険で在宅酸素療法を受けることはできません。パルスオキシメータがあれば、高度慢性呼吸不全か否かの診断をすることができます。

 

高度慢性呼吸不全の定義が書かれていますが、動脈血酸素分圧が55Torr以下であるとすれば、パルスオキシメータでは88%に相当します。

 

在宅酸素療法の社会保険適応となる疾患は、高度慢性呼吸不全や肺高血圧症など呼吸器疾患ばかりでなく、慢性心不全や一部の先天性心疾患も含まれています。心臓と肺の機能は互いに補いあい助け合っているので心肺機能の評価はとても大切だと考えます。

 

もっとも、肺高血圧症は、呼吸器疾患として位置づけられることが多いですが、肺循環障害であるため循環器疾患としての側面をもっています。

 

杉並国際クリニックでは、水氣道会員であるか否かを問わず、定期通院されている皆様に3カ月ごとのフィットネスチェック(体組成・体力検査)を推奨しています。

 

これは、医学的検査にフィットネスチェックを加えることによって、より早い段階で体調・体力の変化や身体構造の変化を把握することができるため、先制医療のツールメソッドとして有益な役割を担っています。

 

呼吸不全や心不全に至る以前から、肺機能検査による肺年齢の評価や、運動負荷心電図検査による心電図異常が出現する前の未病(病気として自覚される前の不健康状態)を評価することができることは、とても大きな意味を持っていると思います。

 

先日は、慢性呼吸不全のガイダンスをしました。簡単に理解していただくためには、それでよいのですが、診療においては、もっと詳しいデータが必要になります。

 

慢性呼吸不全は、動脈血中の二酸化炭素(PaCO₂)の分圧によってⅠ型とⅡ型に分類します。

 

慢性呼吸不全Ⅰ型とは、PaCO₂≦45Torr

 

慢性呼吸不全Ⅱ型とは、PaCO₂>45Torr

 

 

我が国では、慢性呼吸不全の原疾患として、慢性閉塞性肺疾患(COPD)がおよそ半数近くを占めているといわれています。

 

少し古いデータではありますが、在宅呼吸ケア白書(2010)によると、
COPD45%、間質性肺炎18%、肺結核後遺症12%が主要な原疾患であることがわかります。

 

 

杉並国際クリニックでは、前身の高円寺南診療所の時代から、徹底して禁煙指導を続けてきた結果、喫煙者が少なく、そのためCOPDの割合も少ないです。

 

しかし、自らが喫煙者ではなくとも、家族、同僚に喫煙者が多いとCOPDに成り易いです。

 

とくに小規模の飲食店経営者には、この傾向が強いようです。店内禁煙をお勧めして、病状が軽快する方が少なくありません。

 

また、杉並国際クリニックは、リウマチ専門医療機関でもあるため、呼吸器科を除く一般的なクリニックよりも間質性肺炎の患者さんの頻度は若干高いです。

 

慢性呼吸不全の治療としては、在宅酸素療法がありますが、明日、解説することにします。