12月12日(木)厄介な感染症No4.

侵襲性肺アスペルギルス症

 

60代女性。1カ月以上も前から食欲不振と歩行時のふらつき感が続いているとのことで近所の整形外科を受診しました。その後、起立困難となり他の整形外科を受診し、貧血を指摘されたため、漢方薬による治療を目的として当院の受診となりました。

 

身長158㎝、体重59㎏、BMI23.6、血圧98/52㎜Hg、体温38.4℃。眼瞼結膜は貧血著明。しかし、眼球結膜の黄染なし、表在リンパ節蝕知せず、心音・呼吸音に異常なし、肝脾腫なし、神経学的所見にも異常はありませんでした。

 

そこで、血液検査と胸部エックス線検査を実施しました。胸部エックス線写真では明かな異常を認めませんでした。

 

後日、血液検査の結果から、白血球数12,000/μL(芽球75%、好中球数600/μL)、血中ヘモグロビン6.1g/dL、血小板2.2×10⁴/μLでした。生化学所見ではAST289IU/L、ALT118IU/L、LDH3,450IU/Lと増加していました。CRPは陰性でした。

 

そこで急性白血病を疑い、漢方薬治療よりも精密検査が優先されるべきであり、そのため紹介状を書くことを提案したところ、急に憮然とした態度となり、診療費も支払わず、不機嫌な態度で出て行かれました。

 

この方は、約1か月後、緊急搬送先で即日入院となり、赤血球と血小板の輸血を受けました。担当医は、たまたま私の知り合いの医師でした。学会で顔を合わせた時に、その医師から相談と報告を受けました。

 

骨髄穿刺などによる検査により、診断は急性骨髄性白血病とのことでした。入院時の発熱に対する抗菌剤投与で解熱傾向がみられたため急性白血病に対する寛解導入療法を開始すると平熱になったが、好中球数が0になる一方で、抗菌剤を続けても38℃以上の発熱が続くなどのトラブル続きであったとのことでした。

 

急性白血病患者では、基礎疾患そのものに加えて強力な抗癌化学療法により顕著な好中球減少症をもたらされますが、0というのは驚きです。

 

抗菌薬によっていったん解熱した後に再び発熱する場合には、薬剤による副作用の可能性よりも、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの抗菌薬耐性の細菌感染症かアスペルギルス症かカンジダ症などの真菌感染症を疑います。

 

急性骨髄性白血病のこの患者さんは、好中球は減少したままで、依然として抗菌薬が効かないためパニック状態に陥っていました。しかし、再度の胸部エックス線で肺浸潤を認めました。そこで、喀痰培養検査が実施できれば良いのですが、好中球が0であるため、喀痰は採取できずに困ったそうです。

 

そこで、実施したのが血清診断です。真菌感染症を疑うことによって、血中β-D-グルカンや血中アスペルギルス・ガラクトマンナン抗原の測定により、アスペルギルス感染症であることが判明しました。同時に実施した胸部CT検査の結果からは、侵襲性肺アスペルギルス症の診断がつきました。

 

ようやく、ボリコナゾールという特効薬(抗真菌剤の一つ)を開始して解熱傾向が得られたが、血小板輸血不応のため脳出血を起こし、入院後1カ月足らずで死亡されたとのことでした。ご冥福をお祈り申し上げます。