12月10日(火)厄介な感染症No2.

敗血症性ショック

 

70台男性。発熱と排尿困難感の訴えで来院。歩行状況から左不全麻痺を認めました。解熱剤と利尿薬を所望されましたが、左不全麻痺については改善傾向にあるという理由で、詳しい問診には応じていただけませんでした。

 

患者自らが重要な医療情報の提供を拒否し、対症療法のみを求めてくるケースが多いのは困りものです。

 

杉並国際クリニックに組織改編してからは、初診は予約制にして慎重に対応できる体制とした背景には、いろいろないきさつがあります。

 

そこで体温38.3℃であるため、ただちに血液検査と尿の培養検査を実施しました。左背部の叩打痛を認め、血尿がみられ、また超音波検査で左の腎臓が腫大し、水腎症が疑われたため、排尿困難に関してはただちに泌尿器科にて精査および尿道カテーテルなどの対処をしていただくようにアドヴァイスしました。

 

それは、水腎症がある場合、上部尿路感染が発症すると敗血症性ショックがもたらされる危険性があるためです。

 

脳梗塞のため通院中の病院にて腹部CT検査を実施したところ、左の水腎症が再確認され、さらにその原因とも考えられる左尿管結石が見つかりました。

 

尿管結石を超音波検査で発見することは困難であるため、腹部CT検査を早期に実施できて良かったです。その報告を受けて、血液培養検査を実施していただくようにとの要望を伝えておきました。

 

その病院では尿道バルーンカテーテルを留置され2種類の抗生物質を処方されました。その病院には、すでに前月に救急搬送され脳塞栓症の診断のもと入院加療(抗凝固療法および血栓溶解療法)後に退院して治療経過中に尿路感染から敗血症性ショックを起こしたことが判明しました。

 

 

初診時の血液検査結果は、白血球数12,200/μL、CRP8.2㎎/dLという明らかな炎症所見を認め、尿培養検査の結果、グラム陰性桿菌が同定され、抗菌剤の感受性検査報告では、先日の病院で処方された抗生物質は、いずれも抵抗性であることが判明したため、感受性のある新たな抗生物質を処方したうえ、慎重に経過を観察し、高熱が出たらためらわず救急車を要請するように本人と配偶者に伝えました。

 

 

その翌日から、自宅で悪寒・戦慄を伴う39℃を超える発熱があったため、救急車を要請し、病院に搬送されました。

 

収縮期血圧が80㎜Hg以下に低下しショック状態に陥ったとのことでした。

 

病院から処方されていた抗生物質が切らしていたが発熱がなかったため、私が処方した抗生物質も内服する必要がないと考えていたということが後日判明しました。

 

初回に病院に依頼しておいた血液培養検査の結果によると、耐性エンテロバクターというグラム陰性桿菌が起炎菌であったことがわかりました。

 

これは腸内細菌の一種で、重症敗血症であることが判明しました。病院で処方されていた抗生物質は抗菌スペクトラムが非常に広いものでしたが、耐性菌に対しては無効でした。私が処方したカルバペネム系抗菌剤の内服を開始すると3日間で著明に改善したとのことでした。その後の経緯は不明です。