心療内科についてのQ&Aをご紹介いたします。
それは日本心療内科学会のHPです。
心療内科Q&Aのコラムを読むことができます。
Q&Aは、想定した事例です。Q&Aや疾患についてのご質問、病院の紹介等は、受け付けておりませんのでご了承下さい。
※「質問」をクリックするとが表示されます。
と書かれています。
高円寺南診療所に通院中の皆様が、一般論であるこのQ&Aを読んでいただくためには、実際に即した具体的な解説が必要だと考えました。
そこで、「質問」「答え」の後に、
<高円寺南診療所の見解>でコメントを加えることにしました。
「質問5」
年度末で、仕事が多忙な日が続いたある日、いつものように電車に乗っていると急に不安に襲われ、電車を降りてしまいました。
その日は、会社を休みました。
それ以降、電車に乗るのが怖くて会社に行けません。
どうしたら良いでしょうか?
「答え」
お近くの心療内科のある医療機関への受診をお勧めします。
不安発作に伴って出現した広場恐怖症である可能性が高いからです。
電車に乗っているときに急に不安に襲われたことは、専門用語で「不安発作」と言います。
肉体的な疲労や精神的なストレスがたまっているときに出現しやすいと言われています。
一般的に一度でも不安発作が起きると、また不安発作が起きてしまうのではないかという不安(予期不安)が生じやすくなります。
特に過去に不安発作が起きたときと似た状況下では、予期不安が強くなり、似たような状況が怖くなったり、そういった状況を避けるようになったりします。
このような状態のことを専門用語で「広場恐怖症」と言います。
不安発作に関しては、抗不安薬などによる薬物療法により、起きてしまった発作の症状を改善することもできますし、発作自体の予防も可能です。
広場恐怖症に関しては、認知行動療法的なアプローチ(エクスポージャー法;薬物療法等により不安発作が十分に予防できている状態で、あえて段階的に苦手な状況にさらされることを練習していくという治療法)で治療が可能です。
また、甲状腺機能亢進症などの身体(からだ)の病気が隠れている場合や、うつ病などの別の心の病気が隠れている場合もあり、その場合は、それらの治療も必要になります。
心療内科では、血液検査などの検査を受けることで、身体の病気の有無を確認することができますし、問診などを通して、心の病気の合併の有無を確認することもできます。
不安発作自体が命にかかわることはありませんし、十分に休養がとれれば、それだけで不安発作は起きにくくなることが多いです。
しかし、このまま放置をして、不安発作を繰り返してしまうと、電車に乗ることだけではなく、家から外出すること自体も怖くなり、さらに日常生活に支障をきたしてしまうことにもなりかねません。
現時点で心療内科を受診してみてはいかがでしょうか?
(大谷 真)
<高円寺南診療所の見解>
広場恐怖をともなうパニック症?
大谷先生の最終的なお勧めは、現時点で心療内科を受診することです。
私の考えは、少しだけ違っています。
もし内科の主治医をもっているなら、まず、その先生と相談してみることをお勧めしたいからです。
そのうえで、必要があれば、心療内科ではなく、精神神経科の標榜がある医療機関を受診することが肝要だと思います。
なぜなら実際に心療内科を標榜している医療機関の99%以上は、精神科医であって、心療内科専門医は稀有の存在だからです。
そして、すべてではありませんが、ほとんどの精神科の先生方は身体疾患に余り関与しようとされませんが、それは専門性のゆえにある程度やむを得ない現実があります。
それでも複数の医師の併診ではなくて、あくまでも一人の医師に診てもらいたい方は、標榜だけでなく、実際に心療内科専門医の資格をもつ医師に診ていただくことをお勧めします。
大谷先生の解説の中から、キーワードを拾い上げてみます。
症状に関するもの:不安発作、広場恐怖、予期不安
原因に関するもの:肉体的疲労(身体的疲労)、精神的ストレス
診断名に関するもの:広場恐怖症
鑑別診断に関するもの:甲状腺機能亢進症、うつ病
検査に関するもの:問診、血液検査
治療に関するもの:予防、休養、抗不安薬、
認知行動療法的アプローチ(エクスポージャー法)
以上のように、大谷先生は要点を漏らさずコンパクトに解り易く解説されています。
また、診断基準に関する情報が不十分であるためか、一歩踏み込んだ言及は控え、慎重に解説されているのがうかがわれます。
というのは、パニック症あるいはパニック発作という用語を用いていないからです。
この用語は、精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM)第5版(DSM-5)では以下のように記載されています。
このDSM-5は、精神障害の分類のための共通言語と標準的な基準を提示するものであり、アメリカ精神医学会によって出版された書籍であって、世界的に認知されている疾患分類であり診断基準で、現時点において最新のものです。
【DSM-5によるパニック症の診断基準】
1繰り返される 予期しない パニック発作
2少なくとも1回の発作の後1ヶ月間(またはそれ以上)、以下のうち1つ(またはそれ以上)が続いている:
(1) さらなるパニック発作またはその結果について持続的な懸念または心配
(例:抑制力を失い、心臓発作が起こる、どうかなってしまう)
(2) 発作に関連した行動の意味のある不適応的変化(パニック発作を避けるような行動)
3その障害は、物質(薬物)または他の医学的疾患(例:甲状腺機能亢進症)によるものではない
4その障害は、以下のような精神疾患ではうまく説明されない。
社交不安症、心的外傷後ストレス障害、分離不安症
「質問5」で提示された症例は、概ね「広場恐怖を伴うパニック症」に近いケースであると思われます。
パニック症の症状としては、身体症状、精神症状、行動異常の3領域に及びます。
そして思考、感情、行動および身体症状の4側面から診断し治療することが必要です。
鑑別疾患として、甲状腺機能亢進症をはじめとする身体疾患の他に、社交不安症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、分離不安症は、うつ病とともに見落してはならない病気であり、パニック症に合併し易いことも知られています。
問診では、症状、経過の他に、物質(薬物)使用については確認しておかなければなりません。
診断では、MMPI(ミネソタ多面人格目録)、MINI(精神疾患簡易構造化面接法)を使用することで精神疾患の診断、鑑別および合併症に関して、しっかりした裏付けが得られます。
検査では、心電図、呼吸機能検査による確認は、血液検査と同様に、身体疾患の見落とし防止と、患者さんへの生命安全の保障のため、追加しておくべき最低限の検査だと思います。
治療に関しては、認知行動療法や薬物療法を、より有効なものとするために社会訓練(生活リズムの見直し)、生活習慣の改善、自律訓練法をはじめとするリラクゼーション法やストレス対処法の習得の他、その多くが養生法に属しますが、それだけでは再発を減らすには、不十分です。
有酸素運動によるスタミナの増強など適切な鍛錬が必要であり、場合によっては積極的音楽療法(音楽による身体・感情表現)を併用することも意義があると思います。
高円寺南診療所では、水氣道®や聖楽院を通じて広場恐怖症やパニック症の治療に役立てています。