今月のテーマ<循環器の特定内科診療>

 

「急性心筋梗塞」Vol.1

 

 

急性心筋梗塞は生命にかかわる病気なのですが、

 

多くの場合、すぐに受診してくれません。

 

医者の寿命も確実に縮まっています。

 

以下の症例は、平成元年以来、経験してきた症例で、

 

すべて中高年以上の男性です。

 

しかし、若い人や女性でも発症するのでご注意ください。

 

 

 

自覚症状の受け止め方が大切です。

 

ですから、5症例の自覚症状と最終診断をご紹介します。

 

とくに、安静でいても20分以上持続する激しい胸痛、

 

冷や汗、吐き気の他、呼吸困難が主体のこともあり、

 

心臓が原因であることに気づきにくいこともしばしばです。

 

特に糖尿病を合併している高齢者は自覚症状が表れにくいことがあります。

 

自宅入浴時に発症して亡くなった悲しい経験をしたことがあります。

今月のテーマ<腎臓の特定内科診療>

 

「急速進行性糸球体腎炎」②

 

 

症例:60台男性。「カゼ」との自己診断とともに、

 

「風邪薬が欲しい」とおっしゃった方<続き>

 

 

超音波検査では腎臓の萎縮などの異常は認めませんでした。

 

その旨をご本人に告げると

 

「異常がないのに、検査代を取るのか。納得がいかない。」

 

とおっしゃいました。

 

 

腎臓の萎縮は原発性糸球体腎炎による慢性腎不全で認めることが多いため、

 

この症例は急性腎不全であると判断し、

 

「紹介先の病院で精密検査が必要です。」

 

と申し上げたら、急にトーン・ダウンされて、

 

「ここで検査できないのか」とお尋ねになるので、

 

「残念ながら、できません。」とお答えしました。

 

 

以上より、この症例は、

 

たしかにカゼなどの先行感染症後に生じた腎障害であると推定しました。

 

臨床的には急速進行性腎炎症候群に一致します。

 

 

そこで、病理組織学検査が必要であるため、某大学の腎臓内科に紹介し、

 

精密検査を受けていただきました。

 

 

その結果、病理所見では、「半月体形成性糸球体腎炎および血管炎を認めます」

 

病理診断は「顕微鏡的多発血管炎」であり、

 

飯嶋先生のご指摘の通り、

 

急速進行性腎炎症候群の臨床診断に一致する所見でした、

 

とのお返事をいただきました。

 

 

 

患者さんからのご報告:

 

「大学病院の若い生意気な医者から、

 

『腎臓ばかりでなく、肺や胃腸の出血、

 

多発神経炎などの多臓器が障害を受けて危ない状況になるところでしたよ!』と脅かされた」

 

といってお怒りでした。

 

しかし、「カゼは万病の元。なるほどなあ」との独り言が印象的でした。

 

口は悪いが何となく憎めない方でした。

今月のテーマ<腎臓の特定内科診療>

 

「急速進行性糸球体腎炎」①

 

 

症例:60代男性。「カゼ」との自己診断とともに、

 

「風邪薬が欲しい」とおっしゃる方でした。

 

尿検査をするように指示したところ、「なぜ余計な検査をするんだ」

 

と不満をおっしゃりながらも、尿を提出してくれました。

 

 

尿所見:蛋白3+、潜血2+(⇒腎臓の病気が疑われます!)

 

 

後日、尿沈渣(赤血球10~20/1視野、白血球3~5/1視野)

 

の結果をご本人に報告しました。

 

 

「腎臓の糸球体という領域の病変が疑われます。

 

まず血液検査で確認し、次回、腎臓の超音波の検査をしましょう」

 

 

と提案すると、前回の非を詫び、血液検査に協力してくださいました。

 

 

血液所見:総蛋白6.4g/dL,アルブミン4.0 g/dL、尿素窒素32mg/dL、

 

クレアチニン4.0 mg/dL、尿酸8.0 mg/dL、総コレステロール200mg/dL.

 

 

尿素窒素、クレアチニンの値が異常高値であり、腎不全状態であることが判明しました。

 

 

<次回に続く>

 

今月のテーマ<腎臓の特定内科診療>

 

「難治性ネフローゼ症候群」②

 

症例:50代男性。「足がむくみをとってほしい」と来院された方

 

<続き>

 

腎生検所見:

 

     1)H-E染色標本<基本検査>:腎糸球体の基底膜肥厚

 

     2)二重蛍光抗体法:腎糸球体基底膜上皮側にIgGの顆粒状沈着

 

     3)電子顕微鏡:腎糸球体の基底膜上皮側に高電子密度沈着物

 

 

病理組織学的診断:膜性腎症によるネフローゼ症候群

 

「一般臨床で、ネフローゼ症候群の診断をすることは難しくありませんが、

 

病理学的診断レベルである膜性腎症を疑って紹介されたのは飯嶋先生がはじめてです。」

 

とおっしゃってくださりました。しかし、これは褒めすぎです。

 

なぜなら、医師国家試験レベルの知識に過ぎない、と私は思っているからです。

 

 

ネフローゼ症候群では脂質異常症になり、

 

腎臓の糸球体から濾過される脂肪成分が増加します。

 

その結果、腎臓の尿細管上皮細胞が脂肪変性をきたし、

 

それが脱落して尿中に出現します。

 

この症例では、膜性腎症に特徴的な尿沈渣所見が得られていました。

 

 

この患者さんの脂質異常症の原因はネフローゼ症候群によるものであり、

 

食生活の乱れが原因なのではありません

 

循環器内科の先生は、「高血圧と脂質異常症が合併した生活習慣病」

 

との思い込みがあったのだと思います。

 

多忙な専門外来では有り得る話だと思いました。

 

 

ネフローゼ症候群の食事指導:腎臓に負担を掛けないように

 

低たんぱく食が推奨されています。

 

すると筋肉や血液などの体のタンパク質が分解されてしまう

 

「蛋白異化亢進」に傾きがちです。

 

そこで、十分なエネルギー補充(体重1㎏あたり、1日35kcal以上)が必要です。

 

この方は、入院後体重が63㎏となり、理想体重になりました。

 

ですから、63×35=2,200kcal以上を摂取していただく必要があります。

 

 

エネルギーは炭水化物と脂質から十分に補うべきなので、

 

この方が続けている低炭水化物食は軌道変更していただくことになりました。

 

その代わりに、頑張っていただかなくてはならないのが塩分制限です。

 

ネフローゼ症候群では、腎臓の血流が低下することによって、

 

アルドステロン症がもたらされます。

 

この病気では、体にナトリウムが蓄積して浮腫みを生じさせるからです。

 

 

循環器の先生には手紙を書いて、降圧薬の変更をお願いしました。

 

 

 

患者さんからのご報告:

 

「母親から、父親のように早死にしないよう厳しくしつけられてきました。

 

私自身もかなりの健康オタクで、体に良いといわれることは、

 

なるべく実行してきました。一生懸命に健康管理しているのに、

 

病院の専門医の先生に、『生活習慣の改善を!』

 

と言われ続ける自分が情けなくなり、意気消沈していました。

 

今回は、自分の病気のことが良くわかり、

 

納得のいく無理のない健康管理の大切さに気付くことができ、

 

とても気が楽になり、体調もすこぶる良好です。」

 

入院中は1日食塩摂取量が4gに制限されて、とても辛かったそうです。

 

ただ、真面目な方なので、それを順守したため、

 

現在では8gに緩和でき、それで十分食事を楽しめるようになったとのことでした。

 

 

痛々しさを感じさせるくらいとてもまじめで方でした。

 

しかし、他のドクターには苦手扱いをされてきたようで、

 

気の毒に思いました。

 

今月のテーマ<腎臓の特定内科診療>

 

「難治性ネフローゼ症候群」①

 

50代男性。「足がむくみをとってほしい」とのことで来院。

 

問診によると「高血圧のため3年前から循環器内科で降圧薬の処方を受けている」

 

とのことでしたので、「循環器の担当の先生にご相談されましたか」と尋ねました。

 

すると、「3か月ごとの通院のたび担当医から『変わりありませんね?』と

 

尋ねられますが、返事する間もなく『いつものお薬お出ししておきますね。

 

コレステロールも高いので食事に気を付けてください。

 

とやられてしまうので、相談できませんでした。」とおっしゃる。

 

 

詳しくお尋ねすると

 

「3ヶ月前から、尿の泡立ちに気づき、

 

1ヶ月前から膝から下が浮腫み、体重が4.5㎏増加し、

 

重だるいです。」とのことでした。

 

 

 

「父は高血圧なのに酒タバコで早死にしたので、煙草は吸いません。

 

お酒は人付き合い程度でしたが、最近は控えています。

 

それから、コレステロールの少ない食事を採っています。

 

糖尿病にならないよう、ローカーボ(低炭水化物)ダイエットを励行しています。

 

1日1,800kcalです。」と御自分から説明してくださいました。

 

(高円寺南診療所では、必ず喫煙のことや食事のことを尋ねられることを、

 

事前に奥様から聴いていらしたそうです。)

 

 

 

体重の急増と下肢の浮腫(⇒心不全、肝不全、腎不全、栄養失調?)

 

血圧156/94mmHg(⇒コントロール不良の高血圧)、脈拍74/分、脈不整なし。

 

身長169㎝、体重76㎏(BMI=26.6:肥満度1)、体温36.6℃

 

尿検査:蛋白4+、糖(-)、尿潜血1+

 

(⇒軽度な血尿と著明な蛋白尿で、ネフローゼ症候群を疑う!)

 

 

診察所見:心音・呼吸音ともに異常なし。

 

腹部は平坦で柔らかい。肝・脾・腎を蝕知しない。

 

前脛骨部に浮腫(指圧すると凹んだまま)。

 

 

尿沈渣:尿赤血球5~10/1強視野、卵円形脂肪体、脂肪円柱、脂肪滴

 

血液生化学所見:総蛋白5.0g/dL、アルブミン2.4 g/dL、尿素窒素20mg/dL,

 

クレアチニン1.1mg/dL,尿酸6.8 mg/dL、総コレステロール330 mg/dL,

 

ナトリウム142 mg/dL、カリウム3.5 mg/dL、カルシウム8.3mg/dL、

 

リン2.9 mg/dL

 

 

臨床診断:高血圧症に合併したネフローゼ症候群

 

尿沈渣所見より、膜性腎症(疑い)とのことで

 

某大学病院腎臓内科に紹介し、腎生検を依頼しました。

 

 

<次回に続く>

今月のテーマ<腎臓の特定内科診療>

 

「難治性腎疾患」グッドパスチャー症候群(肺⁻腎症候群)

 

 

還暦目前の男性。「血を吐いたので肺がんや結核や腎臓のがんではないか」

 

と心配する家族とともに来院。1日60本というヘビースモーカで大の医者嫌い。

 

問診によると「今朝起きてトイレに行ったら尿が真っ赤で、血痰が出るようになった。

 

2日前から尿の出が悪くなり、膝から下が浮腫んできたので、気にはなっていた。

 

全身がだるくて食欲がない状態が1ヶ月半くらい続いている。」とのことでした。

 

 

 

血圧198/112mmHg(⇒コントロール不良の高血圧)、

 

脈拍114/分、脈不整なし、

 

体温37.7℃。

 

身長165㎝、体重56㎏(BMI=20.6)、体温36.6℃

 

尿検査:蛋白3+、糖(-)、尿潜血4+(⇒進行性の腎炎を疑う!)

 

 

診察所見:下腿の浮腫あり。

 

両側の肺に水泡音(プツプツいう雑音⇒肺胞腔の液体貯留所見)を聴取。

 

胸部レントゲン検査:肺浸潤像のみ

 

臨床判断:吐いた血液は消化管からではなく痰交じりなので肺胞出血を疑いました。

 

また、急速に進行する腎炎(急速進行性糸球体腎炎の疑い)

 

が発症していていることから、顕微鏡的多発血管炎、多発血管性肉芽腫、

 

グッドパスチャー病あるいは全身性エリテマトーデスなどの膠原病を疑い、

 

血液検査を済ませて、

 

即日、某大学のアレルギー・リウマチ内科を紹介するための準備をしました。

 

 

血液検査データが届いたため、紹介先のドクターに報告しました。

 

血液所見:赤血球245万、ヘモグロビン7.6g/dL,ヘマトクリット21%、

 

白血球8,800、血小板19万。

 

 

血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL、アルブミン4.4 g/dL、尿素窒素78mg/dL,

 

クレアチニン5.8mg/dL,尿酸10.8 mg/dLナトリウム142 mg/dL、

 

カリウム5.8 mg/dL、クロール103 mg/dL。

 

 

免疫学的所見:C反応性蛋白3.8mg/dL, 抗基底膜抗体(+)

 

肺胞出血、急速進行性腎炎の疑い、抗基底膜抗体陽性の所見が揃ったため、

 

グッドパスチャー病を強く疑い、確定診断のため、腎生検を依頼しました。

 

 

この病気は、結核などの感染症やがんではありません。

 

一言でいえばアレルギー性の病気です。

 

細胞傷害型あるいはⅡ型アレルギー群の一つです。

 

体内で形成された自己抗体が直に自己の正常組織を障害するものです。

 

慢性甲状腺炎(橋本病)、バセドウ病、自己免疫性溶血性貧血、

 

特発性血小板減少性紫斑病などと同じグループです。

 

 

 

グッドパスチャー症候群はしばしば急速に進行し,

 

早期発見と早期治療が遅れた場合,死に至ることもあります。

 

この方は、幸いなことに呼吸不全または腎不全の発症前に治療が開始され、

 

即日禁煙を開始してくださったため、現在もお元気です。

 

 

 

教訓:臓器別専門医療で陥りやすい大問題の一つは、

 

複数の臓器が同時に侵される病気についての見落としです。

 

患者さんの全身を診察しなければ診断がつかない専門医である、

 

アレルギー専門医やリウマチ専門医は、その点が強みである、

 

と言えるかもしれません。