今月のテーマ「糖尿病の最新医療」

 

 

血糖コントロールと合併症予防

 

 

糖尿病の治療効果の指標として1)血糖値と、2) HbA1c値は重要です。

 

 

1)血糖値…糖尿病の診断の指標の一つです。

 

食物摂取の影響を受けるので採決時間が空腹時か、食後かで基準が異なります

 

・空腹時血糖<126mg/dL…糖尿病の診断の際「糖尿病型」でない基準の一つ

 

・食後あるいは随時血糖<200 mg/dL…糖尿病診断で「糖尿病型」でない基準の一つ

 

 

2)HbA1c

 

・HbA1c<6.0%…血糖正常化を目指す指標

 

・HbA1c<7.0%…合併症予防のための指標

 

・HbA1c<8.0%…治療強化が困難な場合の指標

 

 

 日本糖尿病学会は2013年に、HbA1c値による血糖コントロール目標を

 

「熊本宣言2013」として公表しました。

 

一般の皆様に専門的な内容を解りやすく説明できることは、

 

医師にとっての重要な技術であることを日々、痛感していますが、容易なことではありません。

 

そのようなときに、参考になるのが、医学会の一般向け宣言文です。

 

ただし、医学会のこうした社会活動も良いことばかりではありません。

 

 

糖尿病の患者さんに限りませんが、患者さんは一般に、御自分が受け入れやすい情報を、

 

御自分に都合のよい解釈で理解したつもりになりがちです。

 

 

熊本宣言で示された数値は、

 

血糖コントロールの目標値であって、糖尿病の診断基準ではありません。

 

まさに熊本県出身の、とある糖尿病の患者さんが、この数値を誤解していた例がありました。

 

 

『HbA1cが6.9になったから、もう自分の糖尿病は治った。

 

それなのになぜ糖尿病の薬を処方するのか』といって、糖尿病専門医の受診を止め、

 

高円寺南診療所に来院された方が実際にいらっしゃいました。

 

 

元の医師の指示に従うように丁寧に説明しました。

 

 

その後、『水氣道』に参加され、ややあって減量にも成功され、糖尿病の専門医から、

 

生活リズムの維持、食事療法と『水氣道』の継続を勧められたそうです。

 

HbA1cが4.5付近になり、糖尿病治療薬も不要になったとのことでした。

 

原文を掲載しますので、皆様のご感想を教えてください。

 

 

日本糖尿病学会「熊本宣言2013」

 

 

日本糖尿病学会は、糖尿病の予防と治療の向上に取り組んでいます。

 

糖尿病は、放置すると、眼・腎臓・神経などに合併症を引き起こします。

 

また、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化症も進行させます。

 

糖尿病となった方が健康で幸福な寿命を全うするためには、

 

早期から良好な血糖値を維持することが重要です。

 

血糖の平均値を反映するHbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)を7%未満に保ちましょう。

 

あなたとあなたの大切な人のために Keep your A1c below 7%

 

 

2013年5月16日 熊本にて 第56回日本糖尿病学会年次学術集会 会長 荒木栄一

今月のテーマ「糖尿病の最新医療」

 

「2型糖尿病」インスリン抵抗性

 

 

インスリン抵抗性とは、肝臓や筋肉、脂肪細胞などで

 

インスリンが正常に働かなくなった状態のことをいいます。

 

 

インスリン抵抗性があると、食事で高くなった血糖値を感知して、

 

膵臓からインスリンが分泌されても、筋肉や肝臓が血液中のブドウ糖を取り込めません。

 

その結果、血糖値が下がらず、糖尿病の発病につながります。

 

近年、糖尿病治療薬の種類が増え、病態に応じた使い分けが求められています。

 

インスリン以外の糖尿病治療薬を分類すると、

 

1)糖の吸収や排泄を調節するもの…SGLT2阻害薬SGLT2阻害薬は、

 

腎臓のグルコーストランスポーター(SGLT2)を阻害し、

 

腎臓の糖閾値を下げることによって、血糖降下作用が発揮されます。

 

腎からの糖排泄を促進して血糖を低下させます。

 

 

2)インスリン分泌を促進するもの…インクレチン(GLP-1,GIP)関連薬、

 

GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬DPP-4阻害薬は、

 

腸管から分泌されるインクレチンの分解を阻害して、

 

血糖依存性インスリン分泌を促進します。

 

 

スルホニル尿素薬

 

スルホニル尿素薬(グリミクロン、オイグルコン、アマリール等)は

 

古くから用いられているインスリン分泌促進薬で作用は強力です。

 

 そのため低血糖発作リスクが高いため慎重に調節されています。

 

3)末梢組織のインスリン抵抗性を改善するもの…ビグアナイド(メトホルミンなど)、

 

チアゾリン誘導体(ピオグリタゾンなど)

 

 

メトホルミンは肝臓での糖新生を阻害することでインスリン抵抗性を軽減します。

 

ピオグリタゾンは脂肪細胞のPPARγに作用し、

 

糖を脂肪へ返還させてインスリン作用を促進します。

今月のテーマ「血液病の最新医療」

 

 

<輸血後鉄過剰症>

 

 

<再生不良性貧血>や<骨髄異形成症候群>などの骨髄不全症候群では、

 

長期に赤血球輸血を繰り返さざるを得ない場合が多いです。

 

 

生体では鉄の排泄ルートがないために、輸血で体内に入った

 

過剰の鉄は肝臓・心臓・内分泌器官などに沈着していきます。

 

 

肝臓では肝腫大・線維化・肝硬変、心臓ではうっ血性心不全や不整脈をきたします。

 

 

内分泌系では、膵β細胞が鉄沈着により糖尿病が出現し、

 

下垂体系機能も低下します。さらに、鉄過剰は造血系の障害も考えられています。

 

 

輸血後鉄過剰症の診断は、骨髄不全で赤血球輸血依存となった症例で、

 

1)総赤血球輸血量20単位以上

 

2)血清フェリチン値500ng/mL以上

 

鉄キレート療法開始基準:

 

1)総赤血球輸血量40単位以上

 

2)連続する2回の測定で(2ヵ月以上にわたって)血清フェリチン値>1,000ng/mL

 

維持基準:

 

鉄キレート剤により、血清フェリチン値500~1,000 ng/mL

 

 

輸血後鉄過剰症患者に、鉄の蓄積による進行性かつ不可逆的な臓器障害リスクを軽減し、

 

患者予後とQOLの改善を目指す目的で、

 

経口鉄キレート剤のメシル酸デフェロキサミン(デフェラシロクス)の連日投与を行うと、

 

血清フェリチン値の低下、 肝機能障害の軽快や心機能の改善がみられます。

 

 

さらに造血状態も改善し、輸血必要量が減少するケースもあります。

 

 

鉄キレート療法を十分行った場合は生存期間も延長します。

 

 

しかし、デスフェラール(注射製剤)を輸血の際に投与するだけでは効果がありません。

 

最近、経口鉄キレート剤のデフェラシロクス(エクジェイド)が開発され、

 

我が国でも漸く本格的な鉄キレート療法の実施が可能となりました。

 

 

ただし、鉄キレート療法は、余命1年以上が期待できない患者には推奨されません。

 

今月のテーマ「血液病の最新医療」 

 

 

<赤血球増加症>

 

 

真性赤血球増加症は特発性慢性骨髄増殖性疾患の1つです。

 

 

最も一般的にみられる骨髄増殖性疾患です。

 

 

赤血球量の増加(赤血球増加症)を特徴とし,

 

ヘマトクリットと血液粘稠度を上昇させ,血栓症を引き起こすことがあります。

 

 

また肝脾腫が生じることもあります。

 

 

診断には赤血球量の測定と,赤血球増加症のその他の原因の除外が必要です。

 

 

真性赤血球増多症は二次性赤血球増多症の除外鑑別が必要です。

 

 

まず、循環赤血球量が増加しないストレスなどでの相対的赤血球増加症は除外されます。

 

次に、循環赤血球量が増加する絶対的赤血球増加症のうち、

 

低酸素状態、エリスロポイエチン産性腫瘍などにより、

 

血清エリスロポイエチンが増加するものは二次性赤血球増多症です。

 

 

真性赤血球増加症では、血清エリスロポイエチンは低下します。

 

 

真性赤血球増多症の診断基準の大項目の一つに、

 

JAK2V617FもしくはJAK2exon12変異が挙げられています。

 

 

我が国ではJAK2阻害薬(ルキソリチニブ)が保険適応になっています。

 

 

慢性骨髄性白血病(CML)以外の骨髄増殖性腫瘍に共通してJAK2遺伝子変異が認められます。

今月のテーマ「血液病の最新医療」 

 

 

<急性骨髄性白血病(AML)> 

 

 

急性骨髄性白血病(AML)の診断は通常、症状の確認、血液検査、

 

および骨髄検査(骨髄生検、骨髄穿刺)の結果を組み合わせて行われます。

 

 

ただし、症状からだけでは診断できず、血液・骨髄検査を行い、

 

白血球数の異常と赤血球数や血小板数の減少が見つかれば、

 

急性骨髄性白血病(AML)を強く疑います。

 

確定診断のためには、骨髄液を吸引する「骨髄穿刺」や、

 

骨組織を含む造血組織を採取する「骨髄生検」が必要となります。

 

これらの検査は外来でもできます。

 

 

WHO分類では、染色体異常に伴って形成される融合遺伝子を有する

 

7つの急性骨髄性白血病の病型を規定しています。

 

 

このうち、以下の遺伝子を検出した場合は急性骨髄性白血病の診断基準の一つ、

 

(骨髄中の芽球≧20%)を満たさなくても、

 

骨髄異形成症候群ではなく、急性骨髄性白血病と診断されます。

 

1)t(8;21)(q22;q22)に伴う

 

RUNX1- RUNX1T1(AML1-ETO)融合遺伝子

 

・・・FAB分類のM2:骨髄系細胞の成熟分化傾向あり

 

 

2)t(15;17)(q22;q12)に伴うPML-RARA融合遺伝子

 

・・・FAB分類のM3:急性前骨髄性白血病(APL)

 

 

3)Inv(16)(p13.1q22)あるいはt(16;16)(p13.1;q22)に伴う

 

CBFB-MYH11融合遺伝子

 

・・・FAB分類のM4E₀:異常好酸球増多を伴う急性骨髄性単球性白血病

今月のテーマ「血液病の最新医療」 

 

 

<骨髄異型性症候群(MDS)>

 

 

骨髄異型性症候群とは、骨髄中の造血幹細胞に異常が起き、

 

正常な血液細胞が造られなくなる病気です。

 

正常な血液細胞が減少することで、貧血、出血傾向、感染に伴う発熱などの症状が現れます。

 

 

成熟した細胞になる途中で血液細胞が壊れてしまう「無効造血」や、

 

造られた血液細胞の形が異常になる「異形成」といった特徴が認められます。

 

また、一部では、MDSが進行し「芽球」と呼ばれる

 

未熟で異常な細胞が増える「急性白血病」に移行することがあります。

 

 

MDSの中で、「芽球」増加が無く、

 

5番染色体長腕欠損<del(5q)>を有する病型があり、5q-症候群として知られています。

 

 

このタイプの特徴は中年女性に多く、骨髄中の芽球は5%未満で白血病転化しにくいことです。

 

 

5q-症候群の約3分の2の患者は、レナリドミドの投与にて輸血不要となり、

 

異常核型も減少・消失します。

 

 

MDSは染色体異常を調べないと<急性骨髄性白血病(AML)>との鑑別が難しい場合があります。

今月のテーマ「血液病の最新医療」

 

 

<再生不良性貧血>

 

 

再生不良性貧血は、血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する疾患です。

 

 

この状態を「汎血球減少症」と呼びます。

 

 

重症度が低い場合には、貧血と血小板減少だけが異常であることもあります。

 

 

また白血球には好中球、リンパ球、単球などがあり、

 

再生不良性貧血で減少するのは主に好中球です。

 

 

そもそも好中球は私達の体を細菌感染から守る重要な働きをしています。

 

これらの血球は骨髄で作られます。

 

 

そこで本症の骨髄を調べると骨髄組織は多くの場合脂肪に置き換わっており、

 

血球が作られていません。

 

 

そのために貧血症状、感染による発熱、出血などが起こります。

 

 

再生不良性貧血のうち免疫病態が関与した非重症再生不良性貧血は、

 

血小板減少期が先行し、それを代償しようと

 

血漿トロンボポイエチンが高値(≧320ng/mL)となります。

 

 

汎血球減少症に至らず血小板が5万/μL以下の場合は、

 

まだ輸血依存性に至らず輸血を必要としない場合であっても、

 

免疫病態を疑わせる所見があれば、

 

造血回復を図るために早期に免疫抑制療法(シクロスポリンなど)を始めます。

 

 

発症後間もない再生不良性貧血の一部では、

 

特発性夜間血色素尿症(PNH)形質血球を平均0.1~0.2%程度認めます。

 

 

PNH形質血球は、CD55やCD59などのGPIアンカー蛋白を欠いています。

 

 

PNH形質血球陽性例では、免疫抑制療法が奏功しやすいです。

 

 

免疫抑制療法を開始する場合は、7番染色体の異常クローンの有無を調べます。

 

 

この異常がある場合、<骨髄異形成症候群(MDS)>や

 

<急性骨髄性白血病(AML)>に移行しやすいことが知られています。

今月のテーマ「循環器疾患」

 

 

<慢性心不全>

 

 

慢性心不全への検査方法は、主に4つの方法があります。

 

 

高円寺南診療所で実施できるのは、最初の3つです。

 

〇胸部X線検査・・・心臓の大きさや肺のうっ血を確認できます。

 

〇心エコー検査・・・心臓の動きを確認できます。

 

〇血液検査・・・血液検査では、BNPANPと呼ばれる

 

心臓が分泌するホルモン量を測定することで

 

心不全の重症度判定や治療効果の確認を行います。

 

〇カテーテル検査・・・心臓内部の血圧や肺の血圧、また心拍出量を確認できます。

 

 

最近、心不全では、①収縮機能が保たれた左心不全や 

 

②睡眠呼吸障害の合併の割合が多いことがわかってきました。

 

特に、心エコ―検査で左心室機能を評価して

 

収縮機能が保持されている心不全症例は全体の半数近くに上ります。

 

また慢性心不全患者ではほぼ半数以上に睡眠時無呼吸症候群の合併が認められます。

 

また陽圧呼吸治療(CPAP、ASVなど)などの非薬物療法により左心機能の改善がみられています。

 

 

慢性心不全の診断やリスク評価では、

 

画像検査のみでは不十分であるため、血液のバイオマーカーを用います。

 

BNP、NT-proBNPの他、トロポニンT、Iも心不全の重要なマーカーです。

 

ただし、BNP、NT-proBNPのスコアは肥満で低下し、高齢、女性、腎機能低下で上昇します

 

(NT-proBNPは特に腎排泄性が高いためBNPより腎機能の影響を受けやすいようです)。

 

高円寺南診療所では、肥満者では心不全診断の感度が落ちることに注意しています。

 

 

慢性心不全の治療に関して、

 

利尿薬を用いる場合はループ利尿薬をはじめさまざまな利尿薬が用いられています。

 

体液貯留があり他の利尿薬で効果不十分な場合には

 

バゾプレシンV₂受容体拮抗薬トルバプタンが用いられます。

 

この利尿薬は、ループ利尿薬と比較して腎機能を悪化させにくい利点があります。

 

反面、水の再吸収抑制により水分のみを排泄させるため

 

高ナトリウム血症(意識障害、橋中心髄鞘崩壊症)に注意が必要です。

 

 

両室ペーシングによる心臓再同期療法は、左脚ブロックで有効性が高いです。

 

今月のテーマ「循環器疾患」

 

 

<心不全についての基礎知識>

 

 

心不全とは何らかの原因で心臓の機能が低下する疾患のことです。

 

 

心不全には心臓の右側の機能が低下する右心不全と、

 

心臓の左側の機能が低下する左心不全の2種類があり、

 

それぞれ症状と原因がことなります。

 

 

右心不全になると、心臓の右心室と呼ばれる部分の機能が低下し、静脈がうっ血します。

 

 

左心不全になると、心臓の左心室と呼ばれる部分の機能が低下し、

 

肺がうっ血し血液の拍出量が低下します。

 

 

また、両心不全になると、左右心不全の症状が同時に見られることがあります。

 

 

心不全には症状の持続期間によって慢性心不全と急性心不全の2つの種類があります。

 

 

慢性心不全は、「長期間にわたる心臓の機能の低下で、血液の流れが徐々に悪くなる状態」です。

 

 

急性心不全は、「慢性心不全がなんらかの原因で急激に悪化した状態もしくは、

 

急性心筋梗塞などの原因で突然心不全になった状態」です。

 

 

心不全の治療方法は慢性心不全か急性心不全かで治療方針が大きく異なります。

今月のテーマ「循環器疾患」

 

 

<失神②…再発性失神>

 

失神の原因別の頻度は国内に2つの報告があります。

 

1つは失神精査のため循環器病棟入院患者を対象とした研究で,

 

原因別の頻度は心原性が64%,非心原性が18%,不明が17%でした。

 

 

もう1つは東京都内の大学病院に救急搬送された失神患者を対象とした研究で,

 

原因別頻度は心原性10%,血管迷走神経性31%,原因不明32%でした。

 

 

原因疾患の多くは生命に直接影響しませんが、むしろ失神時に軽微な外傷ばかりでなく

 

骨折,硬膜下血腫,自動車事故等の合併症を起こし得ることが問題になります。

 

 

しばしば再発し,ときに精神的問題を生じることもあります。

 

 

失神を繰り返す再発性失神は心臓の病気が原因となる

 

致死的な可能性のある心原性失神の鑑別が大切です。

 

 

失神の原因となる病態生理の理解が進み,

 

不整脈に対する非薬物治療の進歩とともに適切な診療が可能になってきました。

 

 

そのためにはまず十分な病歴聴取にはじまります。

 

 

診断手技として,心電図(12誘導)、運動負荷心電図、

 

心エコー検査の他、ホルター心電図を行います。

 

 

特に不整脈にはその他の電気生理検査,

 

反射性(神経調節性)失神にはヘッドアップチルト試験、頚動脈洞マッサージ、が広く行われます。

 

さらには植込み型のループレコーダー(ILR)が2009年よりわが国でも植え込み可能となり、

 

再発性失神患者の原因を究明するうえで極めて有用です。

 

小切開で植え込み可能であり、約三年間の電池寿命があります。