循環器・腎臓・血液内科Vol.1

今月のテーマ<腎臓の特定内科診療>

 

「難治性腎疾患」グッドパスチャー症候群(肺⁻腎症候群)

 

 

還暦目前の男性。「血を吐いたので肺がんや結核や腎臓のがんではないか」

 

と心配する家族とともに来院。1日60本というヘビースモーカで大の医者嫌い。

 

問診によると「今朝起きてトイレに行ったら尿が真っ赤で、血痰が出るようになった。

 

2日前から尿の出が悪くなり、膝から下が浮腫んできたので、気にはなっていた。

 

全身がだるくて食欲がない状態が1ヶ月半くらい続いている。」とのことでした。

 

 

 

血圧198/112mmHg(⇒コントロール不良の高血圧)、

 

脈拍114/分、脈不整なし、

 

体温37.7℃。

 

身長165㎝、体重56㎏(BMI=20.6)、体温36.6℃

 

尿検査:蛋白3+、糖(-)、尿潜血4+(⇒進行性の腎炎を疑う!)

 

 

診察所見:下腿の浮腫あり。

 

両側の肺に水泡音(プツプツいう雑音⇒肺胞腔の液体貯留所見)を聴取。

 

胸部レントゲン検査:肺浸潤像のみ

 

臨床判断:吐いた血液は消化管からではなく痰交じりなので肺胞出血を疑いました。

 

また、急速に進行する腎炎(急速進行性糸球体腎炎の疑い)

 

が発症していていることから、顕微鏡的多発血管炎、多発血管性肉芽腫、

 

グッドパスチャー病あるいは全身性エリテマトーデスなどの膠原病を疑い、

 

血液検査を済ませて、

 

即日、某大学のアレルギー・リウマチ内科を紹介するための準備をしました。

 

 

血液検査データが届いたため、紹介先のドクターに報告しました。

 

血液所見:赤血球245万、ヘモグロビン7.6g/dL,ヘマトクリット21%、

 

白血球8,800、血小板19万。

 

 

血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL、アルブミン4.4 g/dL、尿素窒素78mg/dL,

 

クレアチニン5.8mg/dL,尿酸10.8 mg/dLナトリウム142 mg/dL、

 

カリウム5.8 mg/dL、クロール103 mg/dL。

 

 

免疫学的所見:C反応性蛋白3.8mg/dL, 抗基底膜抗体(+)

 

肺胞出血、急速進行性腎炎の疑い、抗基底膜抗体陽性の所見が揃ったため、

 

グッドパスチャー病を強く疑い、確定診断のため、腎生検を依頼しました。

 

 

この病気は、結核などの感染症やがんではありません。

 

一言でいえばアレルギー性の病気です。

 

細胞傷害型あるいはⅡ型アレルギー群の一つです。

 

体内で形成された自己抗体が直に自己の正常組織を障害するものです。

 

慢性甲状腺炎(橋本病)、バセドウ病、自己免疫性溶血性貧血、

 

特発性血小板減少性紫斑病などと同じグループです。

 

 

 

グッドパスチャー症候群はしばしば急速に進行し,

 

早期発見と早期治療が遅れた場合,死に至ることもあります。

 

この方は、幸いなことに呼吸不全または腎不全の発症前に治療が開始され、

 

即日禁煙を開始してくださったため、現在もお元気です。

 

 

 

教訓:臓器別専門医療で陥りやすい大問題の一つは、

 

複数の臓器が同時に侵される病気についての見落としです。

 

患者さんの全身を診察しなければ診断がつかない専門医である、

 

アレルギー専門医やリウマチ専門医は、その点が強みである、

 

と言えるかもしれません。