循環器・腎臓・血液内科Vol.3

 

今月のテーマ<腎臓の特定内科診療>

 

「難治性ネフローゼ症候群」②

 

症例:50代男性。「足がむくみをとってほしい」と来院された方

 

<続き>

 

腎生検所見:

 

     1)H-E染色標本<基本検査>:腎糸球体の基底膜肥厚

 

     2)二重蛍光抗体法:腎糸球体基底膜上皮側にIgGの顆粒状沈着

 

     3)電子顕微鏡:腎糸球体の基底膜上皮側に高電子密度沈着物

 

 

病理組織学的診断:膜性腎症によるネフローゼ症候群

 

「一般臨床で、ネフローゼ症候群の診断をすることは難しくありませんが、

 

病理学的診断レベルである膜性腎症を疑って紹介されたのは飯嶋先生がはじめてです。」

 

とおっしゃってくださりました。しかし、これは褒めすぎです。

 

なぜなら、医師国家試験レベルの知識に過ぎない、と私は思っているからです。

 

 

ネフローゼ症候群では脂質異常症になり、

 

腎臓の糸球体から濾過される脂肪成分が増加します。

 

その結果、腎臓の尿細管上皮細胞が脂肪変性をきたし、

 

それが脱落して尿中に出現します。

 

この症例では、膜性腎症に特徴的な尿沈渣所見が得られていました。

 

 

この患者さんの脂質異常症の原因はネフローゼ症候群によるものであり、

 

食生活の乱れが原因なのではありません

 

循環器内科の先生は、「高血圧と脂質異常症が合併した生活習慣病」

 

との思い込みがあったのだと思います。

 

多忙な専門外来では有り得る話だと思いました。

 

 

ネフローゼ症候群の食事指導:腎臓に負担を掛けないように

 

低たんぱく食が推奨されています。

 

すると筋肉や血液などの体のタンパク質が分解されてしまう

 

「蛋白異化亢進」に傾きがちです。

 

そこで、十分なエネルギー補充(体重1㎏あたり、1日35kcal以上)が必要です。

 

この方は、入院後体重が63㎏となり、理想体重になりました。

 

ですから、63×35=2,200kcal以上を摂取していただく必要があります。

 

 

エネルギーは炭水化物と脂質から十分に補うべきなので、

 

この方が続けている低炭水化物食は軌道変更していただくことになりました。

 

その代わりに、頑張っていただかなくてはならないのが塩分制限です。

 

ネフローゼ症候群では、腎臓の血流が低下することによって、

 

アルドステロン症がもたらされます。

 

この病気では、体にナトリウムが蓄積して浮腫みを生じさせるからです。

 

 

循環器の先生には手紙を書いて、降圧薬の変更をお願いしました。

 

 

 

患者さんからのご報告:

 

「母親から、父親のように早死にしないよう厳しくしつけられてきました。

 

私自身もかなりの健康オタクで、体に良いといわれることは、

 

なるべく実行してきました。一生懸命に健康管理しているのに、

 

病院の専門医の先生に、『生活習慣の改善を!』

 

と言われ続ける自分が情けなくなり、意気消沈していました。

 

今回は、自分の病気のことが良くわかり、

 

納得のいく無理のない健康管理の大切さに気付くことができ、

 

とても気が楽になり、体調もすこぶる良好です。」

 

入院中は1日食塩摂取量が4gに制限されて、とても辛かったそうです。

 

ただ、真面目な方なので、それを順守したため、

 

現在では8gに緩和でき、それで十分食事を楽しめるようになったとのことでした。

 

 

痛々しさを感じさせるくらいとてもまじめで方でした。

 

しかし、他のドクターには苦手扱いをされてきたようで、

 

気の毒に思いました。