『嘱託産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

<今月から、当面の間、職場の健康診断をテーマとして、産業医紹介エージェント企業各社が提供しているコラムを材料として採りあげ、私なりにコメントを加えてみることにしています。>

 

産業医紹介サービス企業各社が提供する<健康診断>コラム

 

No1.エムスリーキャリア提供資料から(その3)

 

 

健康診断の実施方法

 

健康診断の実施にはいくつかのパターンがあります。会社全体で健康診断を実施したり、会社が指定する病院で診断させたりすることが考えられるでしょう。
 

もちろん、従業員各自に受診させて結果を提出させる方法もあります。それぞれにメリットやデメリットがあるため、会社の規模や業種などによって適切な手段は異なります。複数の方法を併せて受けても問題はありません。企業ごとに判断して実施するのが重要です。
 

また、気を付けたいのはそれぞれの実施項目です。場合によっては、必須とされる診断項目が診断されないこともあります。特に従業員各自に受診させるパターンにおいては、従業員が間違えて受診してしまうケースも多いです。推奨する病院などを紹介して、スムーズに受診ができるよう促してあげるのも大切です。
 

 

一般健康診断の項目

 

従業員を雇い入れたときの健康診断や定期健康診断などは、一般健康診断という呼称で分類されます。その項目をみてみると、既往歴および業務歴の調査、自覚症状および他覚症状の有無の検査、体重、視力、腹囲および聴力の検査、胸部X線検査、血圧測定、尿中の蛋白の有無検査は、必須項目として診断を受けなければなりません。
 

ただし、定期健康診断の場合、年齢や医師の判断により、省略できる項目もあります。身長喀痰検査、血色素量および赤血球数をみる貧血検査、肝機能検査、LDLコレステロールやHDLコレステロールおよび血清トリグリセライドをみる血中脂質検査、血糖検査、尿中の糖の有無検査、心電図検査がそれにあたります。
 

しかし、雇い入れのときの健康診断ではこれらを省略することはできません。定期健康診断のときのみ省略可能なので注意しましょう。

 

【参照】一般財団法人 日本健康倶楽部

 


健康診断について企業が理解しておきたいポイント

 

健康診断を企業が行ううえでは、注意したいポイントがいくつかあります。ここではその気を付けたいポイントを紹介していきます。

 

 

費用の負担は企業側

 

事業者に実施が義務付けられている健康診断の費用は、ほとんどの場合において、事業者側に負担義務があります。ただし、たとえば人間ドックなどの高額な健康診断を受診する場合は、定期健診費用に相当する部分のみを企業側が負担するに留めることも可能です。

 

その際には、トラブルを回避するためにも、従業員にその旨をあらかじめ通知するとスムーズでしょう。また、周辺の病院の定期健診費用をもとにして、会社が負担する上限額も併せて伝えることも大切です。

 

一般健康診断においては、企業側に実施義務があり、一般的な健康確保を目的としています。そのため、業務遂行との直接の関連はなく、受診時間の賃金については支払い義務は生じないと考えられています。

 

しかし、従業員の不満などを考慮すると、支払うことが望ましいとされていることは事実です。双方が納得いく形で、健康維持に努めることが大切です。

 

なお、特殊健康診断は業務の遂行に関して必ず実施しなければならない健康診断ですので賃金の支払義務が発生することに注意しましょう。
 

 

健康診断結果の保管義務がある

 

会社側には、健康診断の結果から個人票を作成して、5年間保有しなくてはならないという義務があります。その際には、本人の承諾が必要です。病院側から本人用と事業所保管用の結果が送られてくる場合も多いです。

 

それを保管しておけば問題ありません。また、個人で受けた場合など、一般健康診断の必須項目以外の診断結果については、保管義務は特にありません。

 

派遣労働者の場合は、一般健康診断に関する健康情報の取り扱いを、派遣元事業者の責任において行うのが一般的です。派遣元の事業者は、派遣労働者の同意を得ずに取り扱ってはいけません。

 

たとえば、同意なしに派遣先事業者に健康情報を渡すことなどは禁止されています。

 

 

受診結果の報告義務がある

 

常時50人以上の従業員を雇用する事業者には、所轄の労働基準監督署に対して健康診断結果を報告する義務が生じます。この報告義務も労働安全衛生法によって定められているため、守らないと違法行為とみなされてしまいます。

 

また、50人未満の従業員数であっても、報告する義務が免れるのみという点には注意が必要です。健康診断を受けさせる義務がなくなるわけではありません。

 

 

健康診断を実施しないと罰則がある

 

前述の通り、適切な健康診断を受けさせていないということは、違法行為にあたります。労働基準監督署からの指導が入り、それを無視していると、罰金50万円以下の罰則がくだることがあるので、従業員の健康管理は絶対にするようにしましょう。

 

ただし、忙しさなどを理由に、従業員が健康診断を拒否することも考えられます。未受診のまま会社がいずれかのアクションもかけずに、結果その従業員に健康被害がでた場合、会社は安全配慮義務違反という責任を負ってしまう場合もあります。必ず受診するよう促しましょう。

 

従業員に健康診断を受けさせる意味合いは、従業員の健康や安全を担保するだけに留まりません。企業イメージや信頼の獲得につながります。特に社会の働き方に対する意識が変わりゆく中においては、従業員ひとりひとりに対する健康面での配慮が大切です。