最新の薬物療法

 

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認定内科医、認定痛風医

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

 

飯嶋正広

 

 

 

肝疾患の治療薬について(No3)

 

<脂肪肝とアルコール性肝障害>

 

全国の人間ドック受診者の33%に肝障害があり、その大部分は脂肪肝です。

 

脂肪肝には、1)過栄養性(肥満や糖尿病に伴う)と2)アルコール性があります。
アルコール性か非アルコール性かの区別は、1日平均アルコール摂取量で決定することができます。これには男女差があります。

 

飲酒量がエタノール換算で男性では30g/日以下、女性では20g(日本酒換算1合)/日以下の脂肪肝であれば、非アルコール性脂肪肝性疾患(non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)と総称します。NAFLDも、わが国で有病率の高い疾患です。

 

NAFLDのうちで、肝生検でアルコール性肝炎と類似した病理組織を呈し、進行性で肝硬変や肝癌にも進展し得るものを非アルコール性脂肪肝性肝炎(NASH)と呼びます。
しかし、実際に、日常診療で肝生検を実施できる頻度は少なく、組織による確診を得ることが必ずしも容易ではありません。そのような場合には、非アルコール性脂肪肝(NAFL)と呼びます。

 

診断の黄金基準は、肝組織診断ですが、具体的には、肝臓に脂肪蓄積(肝細胞の5%以上)を認め、アルコール、薬剤、遺伝子疾患等による二次性脂肪肝を除外して診断します。

 

NASHの診断のためには、肝細胞傷害(風船様変化)や小葉内炎症を伴います。また、画像検査や肝線維化マーカーによる低侵襲の肝線維化評価の有用性が注目されるようになってきました。

 

第119回日本内科学会講演会(2022年)の教育講演18.NAFLDの病態と治療(竹井謙之:三重大学名誉教授)によれば、「NAFLとNASHは相互移行がある.NAFLDはメタボリックシンドロームに関連する諸因子と共に、組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認めた病態である.内臓脂肪型肥満、それに起因するインスリン抵抗性は発症・病態進展の重要な因子である.」と述べています。

 

杉並国際クリニックでは肝生検などの組織診断は実施していませんが、画像診断として超音波検査を積極的に活用できるので、脂肪肝の診断とともにNAFLDのうちでNAFLと診断することまでは可能です。ただし、NASHと診断するためには、肝生検などの組織診断が不可欠です。

 

ただし、NAFLDと診断できた段階で、「脳・心血管イベントや多発臓器の発癌リスクとしても重要である.」(再掲:竹井謙之)ため、脂肪肝は初期の段階から積極的に治療介入する必要がある病態であると考えます。

また、「現時点でNAFLEDに対し保険適応を有する薬物は存在しないが・・・NAFLD/NASHの病態解明の進展に伴いパラダイムシフトというべき大きな変化が起こった. 肝線維化の程度が最も重要な生命予後規定因子であることが示され」(再掲:竹井謙之)たことを受けて、2020年に日本消化器学会・日本肝臓学会の「NAFLD/NASH診療ガイドライン」が全面的に改訂されました。

 

NASHの治療では、食事と運動による体重の減量(肥満症例では7~10%の減量で組織学的改善が示される)が基本です。

 

また、ビタミンEやウルソデオキシコール酸(UDCA:ウルソ®)の有効性が報告されています。

 

さらに基礎疾患(生活習慣病)合併例で有効性が報告されている薬剤を考慮します。

 

・糖尿病合併例:インスリン抵抗性改善薬(チアゾリジン薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、メトホルミン)

 

・脂質異常症合併例:スタチン系薬、フィブラート系薬

 

・高血圧合併例:降圧薬(ARB,ACE阻害薬)

 

これに対して、アルコール性脂肪肝の治療法は、節酒(断酒または減酒)につきます。
動機付け面接法などを取り入れて患者教育と生活指導を十分に行います。

 

アルコール性肝障害は常習飲酒家に発症する肝障害です。

 

常習飲酒者とは摂取エタノール60g(日本酒換算3合)/日以上に相当します。

わが国では、肝硬変の約20%を占めます。

女性では男性の2/3の飲酒量で肝硬変になり、しかも短期間に進展し易いので注意を要します。

それぞれの段階の肝病変に対する基本的治療法は、ウイルス性のものと本質的な違いはありません。飲酒に伴う低栄養だけでなく、肥満も肝障害進展の危険因子なので、過栄養に対するとりわけ、薬物療法よりも、禁酒を含めた生活指導を優先し、アルコール依存症患者には自助会(AAなど)への参加を促します。

 

嫌酒薬(ノックビン®)は、禁酒の意思を強化するために服用を勧めます。

 

また、断酒を維持する目的には、飲酒の強い欲求(渇望感)を抑えるアカンプロサート(レグテクト®)があります。また、アルコール依存症者の飲酒量の低減や肝線維化に対する効果を期待できる薬剤としてオピオイド受容体拮抗薬ナルメフェリン(セリンクロ®)があります。

 

重症アルコール性肝炎は、連続飲酒発作など過度の飲酒をきっかけに発症し致死率は約70%にも及びます。