最新の薬物療法

 

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認定内科医、認定痛風医

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

 

飯嶋正広

 

 

肝疾患の治療薬について(No2)

 

<C型・B型肝炎の治療には医療費助成制度があります>

 

わが国では、ウイルス性肝炎に対する医療費助成制度があり、患者の経済的負担も少なくて済みます。

ただし、申請の詳細は都道府県によって異なります。そして、肝臓専門医による適応判断も求められます。

そのため私のような肝臓の非専門医は、専門医への紹介が必要となります。

 

C型慢性肝炎の治療は、抗ウイルス治療によるウイルス駆除を目標とします。

 

C型肝炎の治療は、この数年間に大きく変わりました。

治療の中心はインターフェロン(IFN)(註1)から経口抗ウイルス薬(DAA製剤)へと移行しました。

この種の経口抗ウイルス薬は副作用も少なく忍容性・安全性が高く、効率に治療が完遂できるため、ウイルス排除が可能な症例であれば80歳を超える高齢者でも速やかな治療開始が推奨されています。

 

とはいっても、糖尿病の治療薬を使用している方、血栓防止のためにワルファリンを使用している方、膠原病などで免疫抑制剤のタクロリムスなどを使用している方は、これらの薬剤は肝臓で代謝される治療域が狭いため、C型肝炎直接型抗ウイルス薬(DAA)を開始して、出血傾向等が生じたら、すぐに主治医に連絡しなければなりません。
 

また、C型慢性肝炎がIFNや抗ウイルス薬治療により著効が得られたとしても、発癌がみられる例があります。したがって、どのような治療経過でも、長期的に経過観察することを怠ってはなりません。

 

(註1)インターフェロン(IFN):

1) IFN単独の使用によって、うつ症状が約30%にみられます。さらに、自殺の危険を伴うことから投与前後2週間に精神状態を評価します。また、労作時呼吸困難、咳嗽、発熱がみられれば間質性肺炎を疑います。

2) PEG-IFNは、従来型のIFNに比べて、掻痒症、注射部位の赤斑、血球減少(血小板・好中球の減少)の副作用が多いため、白血球数(分画を含む)や血小板数の測定が義務付けられいます。

 

 

そして、非代償性肝硬変を含むすべてのC型肝炎が対象となっています。ただし、ウイルス消失後も10年以上にわたって肝癌の発症をモニターすることが必須となります。

 

C型非代償性肝硬変に対しては、2019年にソホスブビル・ベルパタスビル(エプクルーサ®)が使用できるようになりました。ただし、重度の腎障害合併例では使用できないこと、Child-Pughスコア≧13点では極めて慎重に使用しなければなりません。また、リバビリン(RBV)(註2)の併用も安全性が確認されていません。

 

(註2)リバビリン(RBV):

抗C型肝炎ウイルス薬の一種でRNAポリメラーゼ阻害薬。RNA及びDNAウイルスに幅広く抗ウイルス活性を持っています。
 

 

主な副作用は溶血性貧血であるため、貧血や心疾患患者では慎重に検討して適応を決めます。また、腎排泄性の薬剤であるため、透析中の腎不全患者には原則禁忌である他、腎障害のある患者では慎重投与となります。その他、催奇形性の懸念があるため、妊娠・授乳中の女性には禁忌とします。

 

新型コロナウイルスも1本鎖RNAウイルスであるため、リバビリンの効果について京都大学で2020年に検討されていました。しかし、2020年10月にファイザーはリバビリン錠 200mgRE(マイラン®)を「誠に勝手ながら、諸般の事情により販売を中止」と発表しています。ただし、リバビリンは現在でも他社(MSD)からレベトール®が販売されています。

 

これに対してB型慢性肝炎の治療に関しては、現時点でウイルスを完全に排除できる治療法はありません。そのため、B型肝炎ウイルス(HBV)のDNA量が一定以下に持続的に減少し、肝機能のマーカーであるALT値を正常化させることを目標にします。この目標が達成できれば、肝炎の進展や発癌が抑制されるからです。

もっとも、HBs抗原が陰性化すれば発癌率はいっそう低下させることができます。治療は核酸アナログ(註3)あるいはPEG-インターフェロン(IFN)を使用します。

両者はそれぞれ特徴があり、その優劣は一律には判断できないため、いずれを選択するかは、自然経過やそれぞれの薬剤特性を見極めたうえで、個々の症例の病態に応じて選択します。

 

(註3)核酸アナログ製剤:

B型肝炎ウイルス(HBV)の複製過程を直接抑制するB型肝炎ウイルス薬。服薬中止後にウイルス量は元に戻り、ALTも再上昇する症例が多いため、長期にわたり投与せざるを得ません。また、血液・悪性疾患に対する免疫抑制や癌化学療法後にHBVが再活性化し、劇症化する例もあります。
     

 

そこで、治療開始前には、HBs抗原、HBc抗体およびHBs抗体を測定して、ウイルスキャリアか既往感染かを鑑別します。
     

・HBs抗原(+)⇒キャリア、 

 

・HBs抗原(-)かつHBc抗体(+)かつ/またはHBs抗体(+)⇒既往感染

 

ただし、HBc抗体(+)あるいはHBs抗体(+)であれば、血中HBVが未検出でも、免疫抑制薬や抗悪性腫瘍投与中であったり、治療後12カ月以内であったりする場合は、HBVのモニタリングを継続し、≧20(IU/mL)であれば核酸アナログ製剤を投与します。
 

アデホビル(ETV)

テノホビルジソプロキシル(TDF) 

テノホビルアラフェナミド(TAF)
 

 

長期投与にあたっては、血清リン値、推定糸球体濾過率(eGFR)、骨密度の低下に注意し、ファンコーニ症候群(註4)発症を予防します。

 

(註4)ファンコーニ症候群:

腎臓の近位尿細管の機能不全によって生じる疾患の一つです。ブドウ糖、アミノ酸、尿酸、リン酸、炭酸水素塩(HCO3)が再吸収されずに尿中にそのまま排泄されてしまいます。診断は尿検査で、糖尿、リン酸尿、アミノ酸尿を証明することです。遺伝性のものもありますが、後天性(薬剤性、重金属)によるものは予防が必要です。
    

 

治療の対象は、慢性肝炎・肝硬変、いずれも①組織学的進展度、②ALT値、③HBVのDNA量により選択します。

 

慢性肝炎では②ALT≧31(IU/mL)かつ③HBV・DNA量≧3.3log(IU/mL)すなわち≧2,000(IU/mL)です。

 

肝硬変では、③HBV・DNAが陽性であれば治療対象となります。

 

肝臓病の治療薬は、1)広義の抗ウイルス薬と2)その他の治療薬に分けて整理すると把握し易いと思います。当クリニックで使用経験のある薬剤は限られています。また、肝臓の病気以外の目的で使用することが多いです。

 

1) 広義の抗ウイルス薬(肝炎ウイルスに直接作用)

❶ インターフェロン製剤:

直接の抗ウイルス作用の他に免疫調整蛋白を誘導します。

例)ペグインターフェロン(PEG-IFN)α-2a

 

❷ 抗C型肝炎ウイルス薬:
・RNAポリメラーゼ阻害薬(RNAおよびDNAウイルスに幅広く抗ウイルス活性をもつ)

・NS5Bポリメラーゼ阻害薬(HCV複製の中心的役割をもつポリメラーゼの働きを抑える)

・配合剤

 

❸ 抗B型肝炎ウイルス薬:

B型肝炎ウイルスの複製過程を直接抑制する

 

 

2) その他の肝臓病治療薬

❶ 肝機能改善薬(肝細胞保護に働く肝庇護薬):

ウイルスには直接作用しないが、肝機能の指標(AST,ALT)を改善させる

 

例)

グリチルリチン製剤

当クリニックでは、主として中毒疹や慢性肝臓病に静脈注射しています。

ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)

当クリニックでは、主として、コレステロール系胆石症に処方しています。

 

❷ 肝不全治療薬(栄養製剤を含む):

アンモニア代謝、アルブミン合成に働きかける

 

❸ 金属解毒薬:

銅や鉄の代謝に作用して、病気の進行を抑制する

例)

酢酸亜鉛水和物(ノベルジン®)

当クリニックでは、もっぱら低亜鉛血症の治療に処方し、免疫力を強化しています。