認定内科医、認定痛風医
アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医
飯嶋正広
見落とされがちな微量栄養欠乏症<亜鉛>No.1
<なぜ亜鉛欠乏が増え続け、見落とされがちなのか?>
今日のわが国では亜鉛欠乏症は決して稀ではありません。そもそも、亜鉛欠乏症に関しては,最近まで国内で信頼できる診療指針が発表されていなかったため大きく見落とされていたといえるでしょう。
2003年の全国調査では、亜鉛欠乏症に関連する味覚異常者は推定23万人と報告されています。しかし、食生活の欧米化・現代化による食事性亜鉛欠乏(註1)および近年の高齢化社会と慢性疾患者の増加を考えると、亜鉛欠乏症患者は非常に増加していることが推定されます。
なお、高齢化に伴って、薬剤の服用量が増える傾向(ポリファーマシー)が問題視されていますが、どうしてもキレート作用のある薬剤による薬剤性亜鉛欠乏(註2)を長期に服用することになりがちとなり、それによってますます亜鉛欠乏をきたしやすくなります。
(註1)食事性亜鉛欠乏
キレート作用(配位子が金属イオンをはさむようにして錯体を形成する)の強いポリリン酸やフィチン酸が繁用されている加工食品(ファーストフードやコンビニの弁当など)の増加、偏食、ダイエットなどによる亜鉛不足。
アルコールの飲み過ぎ。(体内では飲酒後、アルコールを分解するために亜鉛が多量に消費されます。)
(註2)薬剤性亜鉛欠乏
キレート作用を持つ薬剤(降圧薬、脳循環改善薬、抗腫瘍薬、抗うつ薬など(下記リスト参照)の長期連用・併用による亜鉛不足。
(これらの薬剤の使用により、尿からより多くの亜鉛が排出されるために亜鉛不足となる、多くの場合は服用後 2~6 週間で症状が発現します。)
日常診療で頻用する多くの薬剤が亜鉛キレート作用をもっていることに着目する必要があります。
・・・・・・・・・
味覚障害を起こす可能性がある薬剤の例(リスト)
<睡眠剤・抗不安薬>
ゾルピデム酒石酸塩、フルニトラゼパム、ブロチゾラム
<抗てんかん薬>
カルバマゼピン、ゾニサミド、トピラマート
<解熱鎮痛消炎剤>
イブプロフェン、エトドラク、ジクロフェナクナトリウム、セレコキシブ
<抗パーキンソン薬>
エンタカポン、セレギリン塩酸塩、プラミペキソール塩酸塩水和物、ペルゴリドメシル酸塩、レボドパ、レボドパ・カルビドパ水和物
<精神神経用剤>
アミトリプチリン塩酸塩、アモキサピン、塩酸セルトラリン、デュロキセチン塩酸塩、トラゾドン塩酸塩、フルボキサミンマレイン酸塩
<不整脈用薬>
アミオダロン塩酸塩、メキシレチン塩酸塩
<利尿薬>
アセタゾラミド、フロセミド
<降圧薬>
アムロジピンベシル酸塩、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カンデサルタン シレキセチル、グアナベンズ酢酸塩、シルニジピン、テモカプリル塩酸塩、バルサルタン、マニジピン塩酸塩、リシノプリル水和物、ロサルタンカリウム
<高脂血症治療薬>
アトルバスタチンカルシウム水和物、ニプラジロール、ピタバスタチンカルシウム、プラバスタトチンナトリウム、ベザフィブラート
<消化性潰瘍薬>
オメプラゾール、ファモチジン、ラベプラゾールナトウム、ランソプラゾール、レバミピド
<抗甲状腺薬>
チアマゾール、プロピルチオウラシル
<副腎皮質ホルモン剤>
デキサメタゾン
<泌尿器用剤>
イミダフェナシン、コハク酸ソリフェナシン、シロドシン、タムスロシン塩酸塩、ナフトピジル、プロピベリン塩酸塩
<抗血小板薬>
サルポグレラート塩酸塩、シロスタゾール、チクロピジン塩酸塩、クロピドグレル硫酸塩、リマプロスト アルファデクス
<痛風治療薬>
アロプリノール
<糖尿病用剤>
ボグリボース、メトホルミン塩酸塩
<抗アレルギー薬>
エバスチン、オロパタジン塩酸塩、ケトチフェンフマル酸塩、プランルカスト水和物、レボセチリジン塩酸塩
<抗生剤>
アジスロマイシン水和物、アモキシシリン水和物、クラリスロマイシン、ミノサイクリン塩酸塩
そこで、亜鉛欠乏症の代表的な症状である味覚障害の症状と原因についてまとめました。
代表的な亜鉛欠乏症の症状として、味覚障害の症状として、部分的には舌の一部や片側が、また舌全体が味覚を感じないことがあります。味覚障害の程度も、濃い味でないと感じないもの(味覚減退)、全く味を感じないもの(味覚消失)があります。さらに、本来の味を異なった味に感じること(異味症)もあります。
こうした味覚障害の原因には、大きく分けて以下の 4 つがあります。
① 食事性と薬剤性の味覚障害
については、上述した通りです。
他の原因として、② 全身疾患、③ 口腔の病気、④ 心因性味覚障害、を挙げることができます。
② 全身疾患:
亜鉛欠乏症はリウマチ専門医としても常に注意すべき課題です!
糖尿病や腎不全・ネフローゼ・透析、肝不全・その他の肝疾患、鉄欠乏性貧血、甲状腺疾患、膠原病、シェーングレン症候群、腫瘍などの全身疾患。妊娠や火傷。
頭頚部腫瘍に伴う放射線治療や末梢神経障害(味覚を感じる顔面神経などの障害) あるいは、脳腫瘍、脳血栓などの病変による味覚中枢障害など。
③ 口腔の病気:
新型コロナ感染症も例外ではないと考えます。
舌炎・舌苔・口内乾燥(シェーングレン症候群・加齢による唾液分泌低下など)、風邪でおこった咽頭の炎症、咽頭の病気や嗅覚障害からも味覚障害をおこすといわれます。
④ 心因性味覚障害:
心因性ストレスが身体症状化することが見落とされがちなので、心療内科専門医のように心身両面の相互関係に詳しい医師が必要です。
うつ病・精神的ストレスなどとの関連があります。また抗不安薬や抗うつ薬の服用が原因となっている場合もあるため注意が必要です。
次回は、<亜鉛欠乏状態に陥らないためには?>というタイトルでお話を続ける予定です。
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