水氣道稽古の12の原則(5)漸進性の原則(その2)
漸進性の原則についての凡そのことは、前回説明しましたが、水氣道にける「漸進性の原則」とは、体力、スキル、パフォーマンスを向上させるためのパーソナルトレーニングプログラムを作成するために使用されるトレーニング原則という位置づけにとどまるものではありません。
この原則は「身体が運動プログラムに適応すると、適応し続けるためには、徐々に負荷を上げていかなければなりません。身体の回復能力に過度の負荷をかけないように、すべての進行は徐々に小さくすることが重要」であるということです。
そこで特にプロの指導を受けずに個人的に運動をされてきた方には、なぜこの原則が重要なのかを取り上げたいと思います。
まず従来の「漸進性の原則」は、アスリートがフィットネスレベルを向上させることを目的とするものでした。そのために、過負荷の最適レベルに到達するために物理的な要求を継続的に増加させなければならないことに主眼が置かれてきました。
しかし、全人的活動である水氣道は、単に生理的身体的な身体機能の向上、すなわち物理的な要求に対する能力(キャパシティー)の増加のみを目指すのではなく、心理的精神的な機能の向上など、非物理的な要求に対するキャパシティの増加をも目指すものです。
しかも水氣道はパーソナルトレーニグ(個人研修)ではなく、グループトレーニング(集団研修)もしくは二重のコレクティヴ(Collective集合、Corrective矯正)研修であるという特質を備えることによって、各人の社会的な機能までをも高めようとするものです。
そして水氣道のトレーニングの目的は疾患や障害の克服、怪我予防およびパフォーマンス向上であるので、心身の疾患をエクササイズで整え、かつパフォーマンスをアップさせる必要があります。そのために神経筋の疾患などをシステマチックに評価していき、プランを立てて統合的に疾患を改善していくというのが水氣道のコレクティブエクササイズ(矯正訓練)です。
筋肉を増やしていくためには、同じ負荷でずっと続けるのではなく、徐々に負荷を高めていくことが必要です。これを「漸進性(ぜんしんせい)の原則」といいます。この原則のポイントは、「徐々に」という点です。
たとえば、負荷を急激に高めてしまうとどうなるでしょう。
急激に筋力が向上するかといえば、そんなことはありません。むしろ筋肉や関節を痛めたり、効果が減少してしまったりする原因になります。少しずつ段階を経て負荷を増やしていくことが、稽古の効果を引き出すための要点となるのです。
漸進性の原則はまた私達に適切な休息および回復のための必要性を気づかせます。身体とその関節に継続的なストレスを与え続けることは、一定の過負荷と同様に、潜在的に疲労や怪我を引き起こす可能性があります。
いつもハードな稽古をしてはいけません(できません)。それは物理的に不可能であり、賢明ではありません。そうすると、オーバートレーニングにつながり、身体的・精神的なダメージが大きくなります。
疲労が抜けずコンディションを落としてしまったり、最悪の場合、身体が耐えられずにケガをしてしまったりする可能性もあります。
安全性の確保がすべての前提です。
ここで水氣道の方法論から2つのキーワードに注目してください。
それは 「段階的」と「控え目」です。 フィットネスのレベルに関わらず、漸進性とは安全にゆっくりと挑戦的なものになっていく必要があります。
稽古計画の中に漸進性を活かす方法はたくさんあります。 筋肉量を増やしたり(1~2%でも)、反復回数を増やしたり、セット数を増やしたり、休息時間を少なくしたり、持続時間を長くしたり、強度を高くしたりすることができます。
「漸進性の原則」は、水氣道の<段・級制>にも反映されている
もし何らかのケガをしてしまった場合、たとえ筋肉を引っ張られたような小さなケガであっても、陸上トレーニングでは最低でも1~2週間は休むことになります。
筋肉や腱を断裂したり、足首を捻挫したり、腱鞘炎になったりと、もう少し深刻な場合は、4週間から12週間の範囲で休むことになります。 手術や物理的または作業療法の可能性があることは言うまでもありません。
「急がば回れ」という言葉の通り、そのような無駄で無益なことは積極的に排除していかなければなりません。
安全性と有効性を同時に確保するためには「トレーニングの負荷や難易度は少しずつ高めていくこと」が必要であり、漸進(ぜんしん)とは「順を追って進むこと・少しずつ進歩すること」を指します。トレーニングを続けていくと、負荷(使用している重さや回数など)に慣れてきて以前よりも楽にこなせるようになってきます。
さらなる体力向上のために、負荷を上げていく必要があるわけですが、あくまで負荷は“少しずつ”上げていくことが重要になります。
もちろん、目的や時期によってもどの変数(重量・回数・セット数・その他)を操作するかは変わってくるでしょう(筋力向上においては、回数よりも重量を増やしていくのが一般的ではあります)。
このあたりは、計画的にトレーニングの内容に変化をつけていく「ピリオダイゼーション」の理解が必要です。
エクササイズ難易度の漸進
どんな技法を実施するかという種目選択も漸進的であるべきです。
例えば、移動を伴わない単関節運動はフォーム習得が容易なのに対し、移動を伴いバランスを取りながら股関節や膝など複数関節を適切に動かしていく運動は多くのことを気にしなければならない分、比較的習得が難しい種目といえます。
目的やその時の体力・「形」習得レベルに合わせてどのような稽古をどのくらいの負荷で実施するのか、漸進性をしっかり考慮して選択する必要があるでしょう。
水氣道では、まずは基礎的な「形」エクササイズを適切に実施できることを目標の1つにしていますが、体験生(初心者)の方でも無理なく習得していけるよう、その時のレベルに合わせた段階的な指導が可能になるように工夫を重ねて体系化し、訓練生以上の参加者は皆そのことを心がけています。
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