<分類困難な患者群から学んできたこと>その2
先週は、タイプA:自分の悩みが病気に該当するのかどうかがわからない、というタイプについて考察を加えました。
今週はタイプBを取り上げてみます。
ところでタイプBとは、自分の病気の相談窓口かどこなのかがわからない、というタイプです。
このタイプも3つほどのサブ・タイプがあります。
タイプB1:
そもそも病院の診療科目の内容が良くわからない、というタイプ
このタイプは、わかっていないことをわかっていないことが多いようです。
タイプB2:
自分の病気をどのように表現したらよいのかがわからない、というタイプ
このタイプは、あやふやな思い込みの医学用語や病名で語る方が多いようです。
タイプB3:
どの病院にかかって良いのか決めかねてしまう、というタイプです。
もっと深刻なのが、タイプB1の特殊事例です。
特殊事例とはいえ整体院・接骨院と診療所(医院)との区別がつかない方が多いのが現実です!ケースを2つ紹介します。
ケース1:整体院(整体師)通所例
医師の立場から誠意をもって病歴等の質問をさせていただいている際に、患者さんがしばしば、ご自分自身でのお答えではなくて、
『整形の専門の先生がおっしゃっていたので…』とお答えになる方が多数いらっしゃいます。
余りにも医学的な常識とかけ離れた理解不能の内容の場合は<どちらの整形外科を受診されているのですか>とお尋ねします。
すると、それが整形外科(医師)はおろか接骨院等(柔道整復師)でもない整体師(民間療法家)だったりします。
整体師の知識・技術の水準はバラツキが大きく、ときには平均的な柔道整復師の水準を遥かに超えている場合もあります。
中には、巧みに医師に成りすましている例もあるので注意が必要です。
健康保険取扱い対象外ですから、施術家も受療者も必然的に意識が高くなるので、私は代替医療として自己責任で上手に活用することも悪くはないとさえ考えています。
ただし、条件があります。整体師と医師を同列に扱うことだけはご一考いただきたいということです。
私は内科医ですがリウマチや骨粗しょう症、変形性関節症を専門的に診ていますが内科医なので比較的冷静に対処することができます。
しかし、整形外科医の先生は、これらの業者と同一視されることに対し内心穏やかではないと思い、同情いたします。
以下に、注意点をまとめてみます。
整体師は公的な資格ではない、つまり無免許です。
整体師はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師ではないので、
当該国家資格を持たない限りあん摩・指圧・マッサージ・はり・灸・接骨、整骨等は禁止されています。(あはき法第一条/第十二条、柔道整復師法)
医業類似行為を行い、それが著しく好ましくない結果をもたらした場合、刑法の定める業務上過失傷害罪などに問われます。
ケース2:接骨院/整骨院(柔道整復師)通所例
慢性の痛みの治療目的で接骨院/整骨院に通所する方が最近顕著に増えています。
中には優秀な柔道整復師の先生があり、リウマチや膠原病あるいは痛風などの患者さんを私のところへ紹介してくれます。
それも、『自分では判断がつかないため、よろしくお願いいたします。』と依頼書に書かれているのですが、
その先生の見立てはほとんど外れることはありません。
しかし、最近困った例もあります。
膠原病の患者さんで、膝の変形があるため、ヒアルロン酸ナトリウムの関節注射を開始する必要があることを説明しました。
ところが『整形外科のお医者さんが関節注射はクセになるから良くない、とおしゃるので注射は結構です』という患者さんがいらっしゃいました。
相当の御立腹であったため、詳細についての情報交換もできないままお帰りになりました。
その後、一月ほどして、その患者さんが受診されました。
『注射はダメだといった若いイケメンのお医者さんが毎日通うように言うので、その通りにしていたら、膝がだんだん腫れてきて歩けなくなってきたのでタクシーでこちらに来ました。』
そこで、その患者さんにお尋ねすると『膠原病があることを、その若いイケメンのお医者さんに伝えると、なぜ最初に言ってくれなかったのか、自分は医者じゃないから病院に行ってほしい』と言われ、訳が分からないといって泣いておられました。
幸い、彼女は関節注射を受け入れてくれたのでたった1回の注射で歩行可能となりました。
ヒアルロン酸の注射は5回以内で終了するのが原則ですので、『注射がクセになる』という指導は見当はずれです。
もっとも、その発言の主は医師ではなく柔道整復師でしたので知識不足であると同時に、
みずから関節注射をする資格も経験もないはずなので、甚だしい思い込みであったと断言せざるを得ません。
柔道整復はあん摩マッサージ指圧、はり、きゅうと並んで医業類似行為の一つとされ、柔道整復師は国家資格です。
そしてスポーツや日常生活の中で生じた、打撲、捻挫、脱臼および骨折などの急性の損傷を治療対象とします。
しかし、怪我等によるものではない、また慢性化した病態の患者は引き受けることはできません。
つまり、応急的もしくは医療補助的方法により、その回復を図ることを目的に施術を行います。
また、骨折や脱臼の場合には、応急手当てを行う場合以外は、治療について医師の同意を得てから行うこととされています。
医師ではないため、レントゲンその他の画像検査、外科手術、薬品の投与等は許されていません。
私は、柔道整復師の多くが純粋な志で職業選択をされたのであろうと思います。
問題なのは養成施設です。
それは法的な扱いを含めてきちんとした教育を行っていないどころか、脱法行為を暗黙の裡に推奨しているかのような印象を受けざるを得ないからです。
最後に、インチキ整骨院の見分け方をお伝えします。
その第一は、医師法違反の表記をしているところです。
甚だしく僭越なのは<整形外科さんと接骨院の違いを教えます>などと表示してはばからないところです。
説明できるのは柔道整復師ではなく整形外科医です。
たとえば柔道整復師の職業名の例示として 整骨医、接骨医を挙げることができます。
しかし、医師法第18条は、医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない、と定めています。
そして、柔道整復師向け情報サイトでも「接骨医」「整骨医」「東洋医学医」など「医」を付けた名称を用いてはならないと呼びかけています。
治療という言葉は使用可能ですが、「診」という言葉は一切使用できません。
なぜなら、診察は医師の専権事項だからです。ですから診察、診療、往診などの用語は医師でなくては用いることはできません。
往診とは言えず往療(おうりょう)という言葉を使わなくてはなりませんが、ほとんど見かけません。
つまり、柔道整復師業界がこぞって医師法違反を既成事実化しようとしているといっても過言ではないでしょう。
これは、個々の柔道整復師の問題というよりは、養成施設や業界全体の問題であると思います。
一般の患者さんが柔道整復師を医師と同格・同列あるいはそれ以上の上級の専門家と誤解してしまうのも無理はありません。
インチキ整骨院の見分け方の第二は、適応外表示です。
例<頭痛を治します><うつ治します> これなどは無知の極致です。
私は医学博士号を持つ医師ですが、開業してこの方、自信をもって<頭痛を治します>と表明したことはありません。
否、表明できませんでした。なぜなら、頭痛は生死にかかわるケースも少なくないことを熟知しているからです。
そのため、11月10日(金)をわざわざ休診にして大阪で頭痛専門医受験資格取得のための最後の研修を受けてくるのです。
賢明なる皆様は、ご自分自身の健康のみならず国の医療制度を良くしていくことができるはずです。
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