今月のテーマ「循環器疾患」

 

 

<失神①…診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)>

 

失神は日常診療の場でよく遭遇する病態です。

 

失神は「一過性の意識消失の結果,姿勢が保持できなくなり、

 

かつ自然に,また完全に意識の回復が見られること」と定義されます。

 

 

「意識障害」を来たす病態のなかでも、

 

「速やかな発症,一過性,速やかで自然の回復」という特徴を持つ1つの症候群です。

 

 

失神は英語のsyncopeに相当し、faintと同義です。

 

syncopeの語源はギリシャ語の“syn” (英語:with,together)と

 

“koptein”(英語:cut off,strike)に由来します。

 

 

失神は前駆症状(浮動感,悪心, 発汗,視力障害等)を伴うことも伴わないこともあります。

 

 

失神からの回復後に逆行性健忘をみることがあり,、特に高齢者に多いです。

 

 

< 逆行性健忘 (retrograde amnesia) とは、

 

発症以前の、過去の出来事に関する記憶を思い出すことの障害です。

 

過去の出来事は本人の生活史上の経験であっても、

 

本人が生活してきた時代における社会的な事実であってもよいです。>

 

 

失神前状態(near-syncope,pre-syncope)は,

 

失神に至る寸前の状況を指す表現として使用されます。

 

しかし,真の失神の前駆状態であることもあれば

 

非特異的な「めまい感」をこのように表現することもあります。

 

 

失神は救急来院例の1~2%を占めます。

 

Framingham研究では26 年間の追跡期間中に男性で3%,

 

女性で3.5%が少なくとも1回の失神を経験しています。

 

 

今月のテーマ「血液透析」

 

「急性進行性糸球体腎炎(RPGN)」

 

 

急性進行性糸球体腎炎(RPGN)は、急速に腎機能低下が進行する病気です。

 

 

これは急速に進行する腎不全症候群であり、放置すれば末期腎不全に至ることが多いです。

 

 

原因はMPO-ANCA陽性血管炎やPR3- ANCA陽性血管炎ですが、

 

潜在性に発症する場合もあり、発見が遅れがちです。

 

 

つまり、発熱、倦怠感、感冒様症状、体重減少といった非特異的な全身症状が主であり、

 

肉眼的血尿、蛋白尿、貧血を伴いますが、特異的症状に乏しいです。

 

 

高齢者に好発し、透析導入例が増加しています。

 

 

ANCAと抗GBM抗体の両者が陽性の場合、優意に腎死が多くなります。

 

 

ANCA陽性の急性進行性糸球体腎炎(RPGN)に対する初期治療として、

 

学術的にはリツキシマブと副腎皮質ステロイドを併用すると、

 

腎および生命の予後を改善する可能性が報告されています。

 

 

しかし、リツキシマブの保険適応は、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、

 

多発血管炎性肉芽腫症(GPA)の、しかも難治例に限定されているため使用できない、

 

という実務上の悩みがあります。

今月のテーマ「血液透析」

    

 

「ヨード造影剤による腎障害(造影剤腎症)」

     

ヨード造影剤は臨床的画像検査で頻用されますが、腎臓に負担をかけます。

 

 

造影剤腎症発症の予防のために、輸液が行われます。

 

 

そこで、飲水も勧めることがありますが、

 

飲水が輸液と同等の効果があるかどうかのデータはありません。

 

 

血液透析は造影剤腎症発症リスクを軽減しないため、

 

造影剤投与後の血液透析は推奨されません。

 

 

ヨード造影剤を用いた臨床的画像検査が必要な糖尿病患者は増加しています。

 

 

慢性腎臓病(糸球体濾過率<60mL/分/1.73 )を伴う糖尿病は造影剤腎症発症の危険因子となりますが、

 

慢性腎症を伴わない糖尿病は明らかな危険因子ではないようです。

 

 

また糖尿病患者の治療薬であるビグアナイド薬は、直接的には造影剤腎症発症には関係しませんが、

 

たまたま造影剤腎症発症した場合には、ビグアナイド薬は乳酸アシドーシス発症リスクが増加するため、

 

検査前の投薬は中止します。

 

 

因みに、腎動脈狭窄症では、ヨード造影剤を用いるCT血管造影は造影剤腎症を惹起して、

 

さらに腎機能を低下させる可能性があります。

 

 

また、ガドリニウム造影剤は腎性全身性線維症を惹起する可能性があるため、

 

腎動脈超音波ドプラ検査、単純MRA検査が推奨されています。

 

今月のテーマ「血液透析」

 

 

腎性貧血:保存期慢性腎臓病(CKD)患者での貧血管理

 

 

腎臓の病気が原因で貧血になったものを腎性貧血といいます。

 

 

腎性貧血の是正は、保存期慢性腎臓病(CKD)患者の生活の質(QOL)や

 

腎予後を改善することが報告されています。

 

 

日本透析学医学会が作成した「2015年版 慢性腎臓病患者における

 

腎性貧血治療ガイドライン」では、複数回の検査でHb値が11g/dL

 

未満となった時点で腎性貧血治療を開始すべきとしています。

 

 

腎性貧血治療の目標Hb値は、11 g/dL以上13 g/dL未満とされています。

 

 

また、重症の心血管系の病気を合併する患者では、12 g/dLを超えないように

 

管理することを勧めています。

 

 

腎性貧血の治療には、赤血球造血刺激因子製剤(ESA)を用います。 

 

今月のテーマ「血液透析」

 

 

血液透析患者の血糖管理

 

 

血液透析患者は全国で30万人を超え、その約半数が糖尿病合併例です。

 

そこで、血液透析患者の血糖管理については、

 

糖尿病患者や家族も理解しておく必要があり、ポイントを述べます。

 

 

1)インスリン使用患者では、糖尿病の病型にかかわらず、

 

透析前後で血糖値を測定するようにしましょう。

 

特に透析前血糖値が高い場合、透析中から血糖値が低下する場合が多いです。

 

 

2)透析によって血中インスリン濃度は低下するので、

 

透析日と非透析日でインスリン投与量や投与時間を変更しなければならないことがあります。

 

 

3)血液透析患者ではHbA1cが実際より低値を示すため、血糖コントロールの指標には使えません。

 

 

4)血液透析患者にとってトレラグリプチン(DPP-4阻害薬)、エキセナチド(GLP-1受容体作動薬)、

 

ナテグリニド(速効型インスリン分泌促進薬)は禁忌となる薬剤なので注意を要します。

 

今月のテーマ「血液透析」

 

 

不均衡症候群

 

 

血液透析は、尿毒症物質を多く含む血液を、半透膜による拡散現症により、

 

透析液側に移行させ、体液の恒常性を維持する方法です。

 

 

透析療法による効果は、

 

1)過剰水分の除水

 

2)体内電解質・代謝性アシドーシスの是正

 

3)尿毒症物質の除去

 

などです。

 

 

血液透析では、電解質など分子量が小さいものほど除去されやすいので、

 

もともと血中に一定程度の濃度が必要な物質に関しては、

 

その濃度を維持しておかなければなりません。

 

 

血中から尿毒症物質を除去するのが血液透析の目的ではありますが、

 

これを急激に行うと、血漿浸透圧が急低下することによって『不均衡症候群』が発生しやすくなります。

 

 

血漿浸透圧は脳脊髄液より早く低下するため、

 

血液から脳脊髄液に水分が移動し、脳浮腫がおきます。

 

 

『不均衡症候群』の症状は、頭痛、吐き気などです。

 

今月のテーマ<循環器の特定内科診療>

 

 

「解離性大動脈瘤」

 

 

<症例報告>50代の男性。職場の検診の胸部レントゲンで異常陰影を指摘され来院。

 

自覚症状はない。

 

6か月前に背部痛のため整形外科を受診し、鎮痛剤を処方されたが改善せず。

 

 

聴診:第4肋間胸骨左縁に3/6度の拡張期雑音

 

 

胸部レントゲン写真読影:胸部大動脈瘤

 

 

高血圧のため降圧療法を開始しました。

 

手術目的で某大学の心臓血管外科に紹介しましたが、ご本人は手術を拒否されました。

 

その代り、ご本人は禁煙をはじめ減塩につとめ「水氣道」に参加して減量にも成功されました。

 

半年に1回ほど継続して通院し、やっと手術を受ける覚悟ができましたが、担当の外科医から、

 

手術しないで経過で行けそうだと保証されて、

 

喜んでおられました。その後、米国に移住されました。

今月のテーマ<循環器の特定内科診療>

 

 

「急性心不全」

 

 

高血圧は放置しておくと心不全を招くことがあります。以前から高血圧を指摘され、

 

しかも「心臓が大きくなっている(心拡大)」と注意を受けたとすれば、

 

それは確実に心不全へ向かっています。

 

 

多忙を誇る頑固な喫煙者のケアはなかなか骨が折れます。

 

 

心不全には左心不全と右心不全とがありますが、両者が合併すると両心不全をきたします。

 

 

多様な症状のために、心臓が原因であることに気づかず、

 

また喫煙の悪影響を認めようとしない方がいらっしゃいます。

 

禁煙に言及しない各科を受診した挙句、改善を見込めないため、医療不信となり

 

不機嫌な面持ちで高円寺南診療所を受診される方は少なくありません。

 

 

 

<症例報告>60代男性。「息切れと下肢のむくみが気になって来院。

 

 

問診:2年前、耳鼻咽喉科で蓄膿症の手術を受けたときに血圧190/120mmHgと

 

心拡大を指摘されたが、多忙を理由に未治療であった。

 

1か月前から下肢の浮腫みがひどくなってきた。

 

 

問診票より:たばこ40本/日を40年間、現在も喫煙中。禁煙に関心なし。

 

睡眠時間は1日5時間、週末は寝だめ。

 

身長165㎝、体重78㎏。体温36.0℃、呼吸数20/分、脈不整なし。

 

血圧190/130mmHg、意識は清明。

 

 

視診:大腿から足背にかけての顕著なむくみ、触診:肝腫大

 

 

聴診:両側頚動脈に血管雑音、胸背下部に粗い水泡音、腹部血管雑音

 

 

検査:尿たんぱく2+、胸部レントゲン(心拡大、肺うっ血)

 

 

心電図(高血圧による左心房や左心室への負担、左心室の壁が厚くなっていることを示す所見)

 

 

診断:高血圧症+両心不全⇒急性心不全

 

<息切れや、肺の水泡音は左心不全の徴候です。>   

 

<下肢の浮腫や肝臓の腫れは右心不全の徴候です。> 

 

 

転機:入院を頑なに拒むため、禁煙を絶対条件として、外来診療をはじめました。

 

1ヶ月後に完全禁煙を達成し、毎日最低6時間半の睡眠を確保、

 

その後、半年間をかけて血圧も徐々に正常化しはじめ浮腫みも目立たなくなりました。

 

しかし、データの改善を喜んだ翌日から喫煙を再開し、薬の内服を中断し、

 

自宅の備え付け自転車で運動最中に死亡された模様です。

 

死後数時間を経て家族に発見されたそうです。

今月のテーマ<循環器の特定内科診療> 

 

 

「急性心筋梗塞」Vol.3

 

 

残念ながら救命できなかった症例を2例ご紹介いたします。

 

 

症例3)76歳男性

 

「今朝、急に呼吸困難が出現した。呼吸困難を主訴に家族に連れられて来院した。

 

4日前に強い前胸部圧迫感が数時間持続した。」

 

最終診断:左室乳頭筋断裂による心原性ショック

 

 

症例4)55歳男性、患者の妻よりの報告

 

「登坂時の突然の胸痛を主訴に3日前に某病院に緊急入院しました。

 

集中治療室に収容され、内科的治療により胸痛は消失した。

 

しかし、今朝、診察中に突然意識が消失しました。」

 

 

担当医の見立て:心筋梗塞およびその後の心破裂

 

 

ドクトル飯嶋の記録:肥満でヘビースモーカー、

 

初診時の血圧160/110㎜Hgであるため、妻に伴われて来院されました。

 

ただちに禁煙を勧めたところ再診を拒否されました。

 

およそ一か月後、救急入院先の病院から奥様の電話をいただきました。

 

残念ながら、翌日お亡くなりになりました。

今月のテーマ<循環器の特定内科診療>

 

「急性心筋梗塞」Vol.2

 

 

助かった症例を2例ご紹介いたします。

 

 

症例1)55歳男性

 

「今朝から激しい前胸部痛が出現し持続している。

 

一週間前から階段を登るときに前胸部痛を自覚したが

 

安静にて消失するため放置していた。」

 

 

ドクトル飯嶋の初期対応:

 

病歴より40歳から検診で高血圧、脂質異常症を指摘されるも放置してきたことを確認

 

バイタルサインのチェック

 

(意識清明だが苦悶様顔貌、体温36.8℃、呼吸数28/分、脈拍70/分、脈不整なし。血圧148/98㎜Hg)

 

 

視診(貧血・黄疸なし、皮膚湿潤・冷汗、腹部平坦、下腿のむくみ無し)、

 

聴診(心雑音・呼吸音の異常なし)

 

検査(尿検査異常なし、心電図異常あり、血液検査)

 

 

ドクトル飯嶋の見立て:急性心筋梗塞(下壁)

 

 

ドクトル飯嶋の指示:静脈路を確保して、緊急入院先に連絡。

 

酸素投与を受けながら救急搬送となりました。

 

 

紹介先病院からの報告:「救急外来到着後ただちに静脈から輸液・薬物投与ができたため、

 

一命をとりとめることができました。

 

翌日、心エコー検査中に意識が消失し、その原因は高度な房室ブロックが発症したためでした。

 

高円寺南診療所での心電図、血液検査データと比較できたので助かりました。』とのことでした。

 

 

最終診断:急性心筋梗塞(下壁)   

 

 

 

症例2)70歳男性

 

「持続する前胸部痛を主訴に来院した。

 

同症状は昨夜から出現し、冷や汗を伴うようになった。」

 

 

ドクトル飯嶋の初期対応:

 

バイタルサインのチェック(体温37.3℃、呼吸数26/分、脈拍108/分、脈不整なし。血圧84/54㎜Hg)、

 

胸部の聴診で水泡音。

 

 

ドクトル飯嶋の見立て:急性冠動脈症候群(急性心筋梗塞の疑)、心原性ショック

 

 

ドクトル飯嶋の指示:緊急入院検査(冠動脈造影検査など)の手配

 

 

紹介先病院からの報告:即日入院、

 

冠動脈造影検査にて左冠動脈主幹部の90%狭窄により、バイパス手術を施行。経過良好。

 

 

最終診断:急性冠動脈症候群⇒急性心筋梗塞⇒心原性ショック