5)CKDの経過・予後

 

軽度のアルブミン尿やわずかな腎機能低下が心血管病の危険因子となることが明らかにされましたが、一般の患者さんでこれを知っている人は限られています。

 

特に糖尿病を病原とするCKD患者は、末期腎不全よりも心血管病により死亡するリスクが高いです。

 

その理由としては、CKDと心血管病は危険因子を共有しており、またCKDに関連する合併症であるCKD-MBD(註1)や腎性貧血(註2)は心血管病の危険因子となります。 

      

CKD-MBD(註1)慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常

慢性腎臓病では様々な骨ミネラル代謝異常を伴ないます。

      

高リン血症を伴うCKD患者には、蛋白質制限を行なった後に、必要に応じてカルシウム非含有リン吸着薬で血清リン濃度を正常範囲内に管理します。

      

また高副甲状腺ホルモン(PTH)血症を伴うCKD患者には、活性型ビタミンD製剤の投与が推奨されています。杉並国際クリニックでも、高カルシウム血症を来さないようにモニターしながら、この治療法を行なっています。

      

骨粗鬆症を伴うCKD患者には、ビタミンD製剤、ビスホスホネート製剤その他による治療を行いますが、杉並国際クリニックでも、同様です。

 

      

腎性貧血(註2)

腎性貧血を認めるCKD患者には、まず鉄欠乏の有無を判定して、必要に応じて鉄を補充します。しかし鉄欠乏性貧血をとは異なり、腎性貧血の原因は、腎障害により、腎臓で生産される造血刺激因子であるエリスロポイエチン欠乏によるものです。鉄欠乏がなければ、赤血球造血刺激因子製剤を投与します。

      

杉並国際クリニックでは、少量の鉄剤補給で調整可能なケースしか経験していません。

 

<肝脳心血管病予防における慢性腎臓病(CKD)の考え方(完)>

 

3) CKDの管理・治療

 

CKD患者の生活習慣改善のポイントは、禁煙と肥満・メタボリックシンドロームの是正です。

 

ただし、杉並国際クリニックでは、前身の高円寺南診療所時代の30年間に、禁煙指導を徹底してきたため、喫煙者であった方もほぼ禁煙に成功されました。

 

また、肥満・メタボリックシンドローム等も生活習慣カウンセリングや水氣道®参加の推奨により、該当者はかなり減ってきました。肥満・メタボリックシンドロームの方には、運動療法の実践が重要となり、運動量を無理なく自然に徐々に増やしていくことができる水氣道®のような運動がのぞましいです。

 

まず、体重の3%減少を目標とすることになります。水氣道®の本稽古を週2回行うか、集に1回のみでも欠かさず参加できれば目標到達は容易です。

 

 

栄養に関しては、CKDの進展抑制のためには、蛋白質および食塩の摂取制限が推奨されます。


・蛋白質は、CKDステージG3aで0.8~1.0g/㎏/日、G3b以降で0.6~0.8g/㎏/日とします。最近の食事トレンドで心配になるのは極端な糖質ダイエットの流行です。糖質とはこの場合、ほとんどが炭水化物ですが、これを極端に減らした分の摂取熱量を脂質や蛋白質の増量で賄わなければなりません。腎機能の保持の観点から考えると、極端な糖質ダイエットは望ましくありません。

 

 

・食塩は、全ステージを通して3~6gとします。

 


・飲酒に関しては、適度であれば許容されますが、上限の目標は明らかではありません。実際に毎日晩酌を続けている方にとっての適度・適量はかなり制限しておかないと加齢に伴い腎機能低下は避けられません。

 

 

       <明日に続く>

 慢性腎臓病(CKD)の診断は、以下の①②のいずれか、または両方が3カ月以上持続することで診断します。

 

尿異常、画像診断、血液、病理における明らかな腎障害の存在。

 

特に0.15g/gCr以上の蛋白尿(30㎎/gCr以上のアルブミン尿)の存在が重要とされます。

 

杉並国際クリニックで行う尿検査試験紙検査では(±)以上に相当します。この場合、必要に応じ尿生化学検査で厳密に測定して確認します。

 

糸球体濾過量(GFR)<60mL/分/1.73m²

 

ただし、日常診療では血清Cr値、年齢、性別から日本人のGFR推定式を用いて算出した推定糸球体濾過量(eGFR)で代用します。

 

杉並国際クリニックで行う血液生化学検査では、血清Cr値は基本項目であるため必ずチェックしています。年齢、性別を入力しておくことによって、検査会社からeGFR値が報告されるシステムになっています。

 

このCKDの診断に直接役立つのが、<慢性腎臓病重症度分類>シートです。初回の判定のみでは診断が確定しませんが、3か月後の再度の判定で診断することができます。

        

CKDの重症度は、上記の腎機能(GFR)、蛋白尿・アルブミン尿の他に原疾患にも基づいて分類評価されます。

         

<慢性腎臓病重症度分類>シートでは、糖尿病のみ尿アルブミンを測 定し、その他(高血圧、腎炎、多発性腎嚢胞、移植腎、不明等)は尿蛋白を測定します。 

         

縦軸(CKDステージG3b~G5)は末期腎不全や心血管病のリスク因子です。

         

横軸(蛋白尿・アルブミン尿)は排泄量が増加するにつれて、末期腎不全や心血管病のリスクが上昇します。

         

なおCKDには、IgA腎症やループス腎炎などの腎疾患が含まれるため、血尿を見落とさないようにします。

 

 <明日に続く>

水氣道の方略 その基本目標②・・・日常性からの解放<自己実現>

 

 

水氣道は、水中で行う活動であるため、日常の活動の場である陸上とは大きく次元の異なる環境に身を置くことになります。

 

これは<日常性の打破>を意味します。つまり、日常的生活環境という<常識の打破>です。

 

私たちは日常においては、身体表面のほとんどすべてが大気によって覆われている状態に置かれていますが、そこから水に覆われる環境へ変化することになります。身体を水に委ねている状態は、入浴でも経験できますが、入浴時の体位は坐位であるのに対して、水氣道では、原則として立位となります。

 

この点で、臥位(腹臥位もしくは背臥位)の体位となる水泳とは異なります。

 

 

ここで、また、よくあるやり取りをご紹介します。水氣道の説明をはじめると、
「私は金槌で、泳げないので、水泳は昔から嫌いです。」という拒否反応がしばしば返ってきます。

 

これは固定観念、先入観、思い込みなどに囚われている方の典型的な反応です。もっとも、学校教育がいささか乱暴で、水遊びを経験したことのない児童達にまで、いきなり、泳がせようとする性急さこそが問題なのだと思います。

 

そうした苦い経験を味わわされた方たちは、まるで泣きべそをかいた小学生のような表情を見せます。そして、「プールに入ったら、泳ぎ続けなければならない。金槌では恥をかきそうだ。泳げている人に迷惑だ。・・・」など、実に様々な懸念材料が頭の中を駆け巡るようです。
 

 

 

たしかに水泳プールは泳ぐところであるというのは一般常識です。ただし、この常識にばかり囚われていると、新しい創造的で生産的な人間活動の無限の可能性について思い至ることは困難です。

 

つまり、<自己実現>に向けての可能性を狭めてしまいます。そもそも、水泳だけがプールでの運動ではありません。

 

 

ところで、私たちは大気に包まれて生活していることは当たり前の日常のことになっています。

 

しかし、生命の誕生までを振り返ってみますと、私たちは1個の単細胞から約9カ月の間に、母体の羊水に全身全霊を委ねて細胞分裂を繰り返して数十兆個の細胞を抱える生命体としてこの世に出現しました。ただし、この9カ月の間の記憶は忘却の彼方にあり、その記憶を保持している人はほとんどいないはずです。

 

ただし、私たちの身体は、しっかりとそれらを記憶しているのです。水中での水氣道の活動は、胎内還元といって、胎児のような環境を再現することになるので、身体が保持していた記憶を蘇らせることができます。

2)CKD診療の夜明け前

       

慢性腎臓病(CKD)の多くは自覚症状に乏しいです。そのため、平成時代の国民の健康観《症状がなければ健康》に留まっている限り、手遅れになります。

 

しかし、CKDという国民病を正しく認識していれば、血液・尿検査で診断が可能です。しかも、わざわざCKDのためにだけ血液検査をする必要は必ずしもありません。

 

杉並国際クリニックに通院中の方であれば、概ね3カ月に一回(四季の変わり目ごと)の血液検査の結果がそのまま使用できるからです。

 

また、尿検査は、最も初歩的な試験紙法で実施しているため、非常に低コストです。

 

 

杉並国際クリニックの前身である高円寺南診療所時代にもすでに、試験紙での尿検査による初診時スクリーニングを推進していました。

 

しかし、非常に低コストであるにもかかわらず有用な検査であることを説明しても拒否される方もいらして、非常に残念な経験をしました。

 

思えば、平成の時代とは医療不信が蔓延した時代でした。前医からの紹介状なしで受診される方は、期待と信頼以上に疑念が強く、被害者意識とも相まって、後医である私を悩ませることがしばしばありました。

 

 

典型例を3例挙げてみます。

 

Case1:

他院の皮膚科から処方されたステロイド軟膏による治療で治らない全身性痒疹の患者さん(糖尿病で、その後の尿検査で糖⧻でした)や、

 

Case2:

他院の整形外科で骨折後の後療法を半年続けているが脚の浮腫みが改善しないという患者さん(高血圧とネフローゼ症候群で、その後の尿検査でタンパク⧻でした)、

 

Case3:

他院の心療内科(御多分に漏れず、実は精神科医)でうつ病が治らず抗うつ剤が増える一方なので助けてほしいという患者さん(甲状腺機能低下症:橋本病と耐糖能低下合併で、その後の尿検査で、糖⧺、タンパク+)など、その他も例を挙げればきりがありません。 

 

この3人は、すべて、初診時で尿検査を拒否された方々でした。

 

幸い、その後、信頼関係を構築し、ようやく尿検査を受けていただくことができました。その結果が診断と治療に大いに役立ち、

Case1:全身湿疹の方も、軟膏ではなく糖尿病治療で全快、Case2:むくみの方も、整形外科医から処方されていた鎮痛剤を中止し、適切な降圧剤使用でコントロール可能となり、Case3:うつ病もどきの患者さんも、甲状腺の治療によって、抗うつ薬を全廃し、見違えるほど明るい美人となりました。

 

この頃は、まだ慢性腎臓病(CKD)の概念は確立していませんでしたが、高円寺南診療所時代に以上の経験をされた方は、令和の時代を迎える前に、尿検査の重要性を身をもって学習されました。

そして、そのときからすでに10年以上先の自分たちの健康管理のために、賢明な健康行動をとっています。

 

令和時代を迎えて杉並国際クリニックで<慢性腎臓病重症度分類>シートを導入して以来、必要かつ重要なスクリーニング検査がスムーズに実施でき診療の質にも向上が図れたことは、とても喜ばしいことです。

 

        

<明日に続く>

11月4日 脳心血管病予防における慢性腎臓病(CKD)の考え方

 

      

令和時代の医療は、少なくとも10年後の自分の健康に自信が持てる医療を目指さなければ、本人も家族も、そして国の帳尻も合わなくなってしまう瀬戸際にたっています。

 

いつまでも、昭和の健康観《今、働けていれば健康》は言うに及ばず、平成の健康観《今、症状がなければ健康》といった低次元の健康観のままでは、将来の認知症、介護、腎透析、心不全、脳卒中などからわが身を守ることが難しくなります。《備えあれば憂いなし》という言葉は昔からありますが、

 

少なくとも10年後の自分の健康と幸福のために、誰もがきちんと健康管理を継続しておくことが望まれる時代になりました。

 

      

昭和や平成の健康観のままでいると、アルブミン尿や軽微な腎機能障害は、ほぼ完全に無視され、見落とされることになります。

 

そうすると、将来の脳卒中、虚血性心疾患、心不全などの新血管病や死亡と強く関連していることに気づかないままリスクをさらに高めるという結果を招きます。

 

そうした認識の上に、これらのリスク病態としての慢性腎臓病(CKD)の概念が確立されました。

 

      

現在CKDの該当者は全国で1,300万人を超えると推計されています。この数字は糖尿病患者数や東京都の人口に匹敵します。

有効かつ包括的なCKD対策の実施が、透析導入の減少・心血管病の予防に重要な手段となります。

 

わが国における腎疾患患者全体も年々増加傾向にあり、国民の死因の第8位を占め、2016年末で、すでに約33万人が透析療法を余儀なくされています。

 

透析に至る3大原因疾患は糖尿病、慢性糸球体腎炎、腎硬化症です。なかでも糖尿病患者の急増、糖尿病性腎症および腎硬化症が、高齢化・超高齢化を背景として増加しています。

 

そのための有用な対策ツールとして、日本腎臓病学会より、2018年に「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」が5年ぶりに改訂されました。

 

杉並国際クリニックは、このガイドラインに基づき、外来診療用の<慢性腎臓病重症度分類>シートを作成して現在すでに有効活用しております。

 

該当する方には説明と共に、検査所見と評価結果、対策などを個別に記入し、お渡ししています。

 

  <明日に続く>

 

 (図1)

スクリーンショット 2019-10-29 時刻 12.53.00

 

JFIQは線維筋痛症の経過観察に欠かせない指標です。

 

 

最高点が100点で、20点未満が正常値になります。

 

 

 (図1)は左側が初期時の点数、右側が現在の点数でその2点を結んだものです。

 

 

 

 図2)

スクリーンショット 2019-10-29 時刻 12.52.38

 

 

(図2)は線維筋痛症の治療効果の割合を表したものです。

 

 

 50以上点数が下がると「著効」です。

 

 

 20以上50未満点数が下がると「改善」です。

 

 

 20未満の点数の低下は「無効」の判定となります。

 

 

 

 

 

<今回の考察>

 

 

正規性の検定で初期値、現在値共に正規性がありました。

 

 

その後、関連2群の検定と推定を行いました。

 

 

1)統計的にみて、JFIQスコアが有意に改善したことが証明されました。P(危険率)=0.001%でした(図1)

 

 

pが0.05以下であれば統計学的優位である。

 

 

pが0.01以下であれば統計学的に極めて優位である。

 

 

 

2)JFIQスコアの判定基準として、20点以上改善されると治療が有効、50点以上改善されると著効となります。

 

 

  今回、 15名の平均で   35.3点改善していたため、全体として鍼治療は有効であったと言えます。

 

 

個別でみると、著効4名(26.7%)、有効6名(40.0%)、無効5名(33.3%)でした。(図2)

 

 

 

杉並国際クリニック 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

 インフルエンザワクチンについて 

 

インフルエンザ対策が済んでいるかどうかを確認しなくてはならない季節になりました。そこで国立感染症研究所感染症情報センターのHPの情報等をもとに、新たに編集しました。
 

インフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症です。ただし、「重くなりやすい疾患」であり、いまだ人類に残されている最大級の疫病です。そのため、「一般のかぜ症候群」とは明確に分けて考えるべきです。

 

<疫 学>


毎年世界各地で大なり小なりインフルエンザの流行がみられます。わが国のインフルエンザの発生は、毎年11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1~3月頃に患者数が増加し、4~5月にかけて減少していくパターンを示します。しかし、流行の程度とピークの時期はその年によって異なります。夏季に患者が発生し、インフルエンザウイルスが分離されることもあります。
 

インフルエンザ流行の大きい年には、インフルエンザ死亡者数および肺炎死亡者数が顕著に増加します。さらには循環器疾患を始めとする各種の慢性基礎疾患を死因とする死亡者数も増加します。結果的に全体の死亡者数が増加することは明らかです(超過死亡)。ことに高齢者がこの影響を受けやすいです。
 

A型インフルエンザでは、数年から数十年ごとに世界的な大流行が見られます。これは不連続抗原変異(antigenic shift)といって突然別の亜型のウイルスが出現して、従来の亜型ウイルスにとって代わることによって起こります。
  

一方、同一の亜型内でも、連続抗原変異(antigenic drift)といって、ウイルス遺伝子に起こる突然変異の蓄積によって、HAとNAの抗原性は少しずつ変化することがあります。インフルエンザウイルス では連続抗原変異が頻繁に起こるので、毎年のように流行を繰り返します。

 

そのため、インフルエンザワクチンは毎年ごとに準備して、接種しておかなければなりません。

 

 

<臨床症状>
 

潜伏期間は、A型またはB型インフルエンザウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどです。その後に、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われ、咳、鼻汁などの上気道炎症状がこれに続きます。約1週間の経過で軽快するのが典型的なインフルエンザです。

 

特徴はいわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強いことです。とくに、高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者では、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られており、入院や死亡の危険が増加します。

 

 

<病原診断>
 

最近は外来、あるいはベッドサイドなどで20~30分以内に迅速簡便に病原診断が可能なインフルエンザ抗原検出キットが広く利用されるようになりました。これは、わが国での例外的なトレンドに過ぎません。

 

むしろ、インフルエンザ抗原検出キットには、その限界、抗ウイルス薬使用との関係など、新たな問題が生じていることを深く認識しておく必要があります。

 

 

<治療・予防>
 

従来対症は療法が中心であったが、1998年にわが国でも抗A型インフルエンザ薬としてアマンタジン(シンメトレル®)を使用することが認可されました。アマンタジンはB型ウイルスには無効です。元来、この薬剤は、ドパミン遊離促進剤といってパーキンソン症候群、脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善のための治療薬でした。

 

そのためもあってか、神経系の副作用を生じやすいです。その他にも、患者に使用すると比較的早期に薬剤耐性ウイルスが出現すること、などのため、注意して使用することが推奨されていますが、杉並国際クリニックではデメリットの方が大きいと判断し、アマンタジン(シンメトレル®)処方しない方針です。

 

ノイラミニダーゼ阻害薬(ザナミビル:リレンザ®、オセルタミビル:タミフル®)は、わが国では2001年に医療保険に収載されました。ノイラミニダーゼ阻害薬はA型にもB型にも有効で、耐性も比較的できにくく、副作用も少ないとされております。発病後2日以内に服用すれば症状を軽くし、罹病期間の短縮も期待できます。

 

対症療法としての解熱剤が必要な場合は、なるべくアセトアミノフェンを使用します。肺炎や気管支炎を併発して重症化が予想される患者に対しては、これらの合併症を予防するために、抗菌薬の投与が行われることがあります。インフルエンザ脳症の治療に関しては確立されたものはなく、臨床症状と重症度に応じた専門医療機関での集中治療が必要です。
 

予防としては基本的事項として、流行期に人込みを避けること、それが避けられない場合などにはマスクを着用すること、外出後のうがいや手洗いを励行することなどが挙げられています。ただし、そのために過度に外出を避け、心身の健康の維持と増進のために必要な社会活動や運動活動への参加までを制限してしまうことは感心できません。

 

現在わが国で用いられているインフルエンザワクチンは、不活化HAワクチンです。感染や発症そのものを完全には防御できないが、重症化や合併症の発生を予防する効果は証明されています。とくに高齢者に対してワクチンを接種すると、接種しなかった場合に比べて、死亡の危険を1/5に、入院の危険を約1/3~1/2にまで減少させることが期待できます。現行ワクチンの安全性はきわめて高いと評価されています。

 

 

わが国においては、インフルエンザワクチンは定期予防接種二類に分類されます。

1)65歳以上の高齢者、

 

2)60歳以上65歳未満であって、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に、またはヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に一定の障害を有する者に対しては、本人の希望により予防接種が行われ(一部実費徴収)ます。


また万一副反応が生じた際には、予防接種法に基づいて救済が行われます。
その他の年齢では任意接種となります。
 

2004年7月からは、原則として発症者の同居家族や共同生活者で、しかも特殊条件の者を対象にリン酸オセルタミビルの予防投与が承認されましたが、接触後2日以内の投与開始を条件としています。