第1週:呼吸器・感染症 11月1日(金)

 インフルエンザワクチンについて 

 

インフルエンザ対策が済んでいるかどうかを確認しなくてはならない季節になりました。そこで国立感染症研究所感染症情報センターのHPの情報等をもとに、新たに編集しました。
 

インフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症です。ただし、「重くなりやすい疾患」であり、いまだ人類に残されている最大級の疫病です。そのため、「一般のかぜ症候群」とは明確に分けて考えるべきです。

 

<疫 学>


毎年世界各地で大なり小なりインフルエンザの流行がみられます。わが国のインフルエンザの発生は、毎年11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1~3月頃に患者数が増加し、4~5月にかけて減少していくパターンを示します。しかし、流行の程度とピークの時期はその年によって異なります。夏季に患者が発生し、インフルエンザウイルスが分離されることもあります。
 

インフルエンザ流行の大きい年には、インフルエンザ死亡者数および肺炎死亡者数が顕著に増加します。さらには循環器疾患を始めとする各種の慢性基礎疾患を死因とする死亡者数も増加します。結果的に全体の死亡者数が増加することは明らかです(超過死亡)。ことに高齢者がこの影響を受けやすいです。
 

A型インフルエンザでは、数年から数十年ごとに世界的な大流行が見られます。これは不連続抗原変異(antigenic shift)といって突然別の亜型のウイルスが出現して、従来の亜型ウイルスにとって代わることによって起こります。
  

一方、同一の亜型内でも、連続抗原変異(antigenic drift)といって、ウイルス遺伝子に起こる突然変異の蓄積によって、HAとNAの抗原性は少しずつ変化することがあります。インフルエンザウイルス では連続抗原変異が頻繁に起こるので、毎年のように流行を繰り返します。

 

そのため、インフルエンザワクチンは毎年ごとに準備して、接種しておかなければなりません。

 

 

<臨床症状>
 

潜伏期間は、A型またはB型インフルエンザウイルスの感染を受けてから1~3日間ほどです。その後に、発熱(通常38℃以上の高熱)、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが突然現われ、咳、鼻汁などの上気道炎症状がこれに続きます。約1週間の経過で軽快するのが典型的なインフルエンザです。

 

特徴はいわゆる「かぜ」に比べて全身症状が強いことです。とくに、高齢者や、年齢を問わず呼吸器、循環器、腎臓に慢性疾患を持つ患者、糖尿病などの代謝疾患、免疫機能が低下している患者では、原疾患の増悪とともに、呼吸器に二次的な細菌感染症を起こしやすくなることが知られており、入院や死亡の危険が増加します。

 

 

<病原診断>
 

最近は外来、あるいはベッドサイドなどで20~30分以内に迅速簡便に病原診断が可能なインフルエンザ抗原検出キットが広く利用されるようになりました。これは、わが国での例外的なトレンドに過ぎません。

 

むしろ、インフルエンザ抗原検出キットには、その限界、抗ウイルス薬使用との関係など、新たな問題が生じていることを深く認識しておく必要があります。

 

 

<治療・予防>
 

従来対症は療法が中心であったが、1998年にわが国でも抗A型インフルエンザ薬としてアマンタジン(シンメトレル®)を使用することが認可されました。アマンタジンはB型ウイルスには無効です。元来、この薬剤は、ドパミン遊離促進剤といってパーキンソン症候群、脳梗塞後遺症に伴う意欲・自発性低下の改善のための治療薬でした。

 

そのためもあってか、神経系の副作用を生じやすいです。その他にも、患者に使用すると比較的早期に薬剤耐性ウイルスが出現すること、などのため、注意して使用することが推奨されていますが、杉並国際クリニックではデメリットの方が大きいと判断し、アマンタジン(シンメトレル®)処方しない方針です。

 

ノイラミニダーゼ阻害薬(ザナミビル:リレンザ®、オセルタミビル:タミフル®)は、わが国では2001年に医療保険に収載されました。ノイラミニダーゼ阻害薬はA型にもB型にも有効で、耐性も比較的できにくく、副作用も少ないとされております。発病後2日以内に服用すれば症状を軽くし、罹病期間の短縮も期待できます。

 

対症療法としての解熱剤が必要な場合は、なるべくアセトアミノフェンを使用します。肺炎や気管支炎を併発して重症化が予想される患者に対しては、これらの合併症を予防するために、抗菌薬の投与が行われることがあります。インフルエンザ脳症の治療に関しては確立されたものはなく、臨床症状と重症度に応じた専門医療機関での集中治療が必要です。
 

予防としては基本的事項として、流行期に人込みを避けること、それが避けられない場合などにはマスクを着用すること、外出後のうがいや手洗いを励行することなどが挙げられています。ただし、そのために過度に外出を避け、心身の健康の維持と増進のために必要な社会活動や運動活動への参加までを制限してしまうことは感心できません。

 

現在わが国で用いられているインフルエンザワクチンは、不活化HAワクチンです。感染や発症そのものを完全には防御できないが、重症化や合併症の発生を予防する効果は証明されています。とくに高齢者に対してワクチンを接種すると、接種しなかった場合に比べて、死亡の危険を1/5に、入院の危険を約1/3~1/2にまで減少させることが期待できます。現行ワクチンの安全性はきわめて高いと評価されています。

 

 

わが国においては、インフルエンザワクチンは定期予防接種二類に分類されます。

1)65歳以上の高齢者、

 

2)60歳以上65歳未満であって、心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能に、またはヒト免疫不全ウイルスにより免疫の機能に一定の障害を有する者に対しては、本人の希望により予防接種が行われ(一部実費徴収)ます。


また万一副反応が生じた際には、予防接種法に基づいて救済が行われます。
その他の年齢では任意接種となります。
 

2004年7月からは、原則として発症者の同居家族や共同生活者で、しかも特殊条件の者を対象にリン酸オセルタミビルの予防投与が承認されましたが、接触後2日以内の投与開始を条件としています。