最新の薬物療法

 

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最新の薬物療法

 

認定内科医、認定痛風医

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

 

飯嶋正広

 

 


免疫力低下と感染症

 

<悪性リンパ腫外来治療成績から学ぶ>

 

リンパ腫の治療で使用される薬剤の多くは、現在、外来治療患者にも使用されるようになりました。

その場合、有害事象の発生については特に注意を要します。

 

リンパ腫治療に伴う主な症状のうち、免疫力低下との関係で、私は特に白血球減少(特に好中球減少にともない発熱すすタイプ)によるウイルス性感染症に注目しています。

 

 

1 新型コロナ感染症

 

血液内科の専門医は、新型コロナウイルス感染症は、リンパ腫患者で重症化しやすいことを認識しているため、新型コロナウイルス感染症の発症に注意しています。ただし、厚生労働省の公式サイトによる情報提供には、きわめてあいまいな印象を受けます。

 

悪性リンパ腫の患者に限らず、種々の疾患で分子標的治療薬のリツキシマブ(抗CD20抗体)が投与されるとBリンパ球が減少します。抗体を産生するBリンパ球が減少することによってワクチンの効果が著しく低下します。

 

 

2 単純疱疹/帯状疱疹

 

これらはヘルペスウイルス感染症であり、がんをはじめ悪性リンパ腫に限らず免疫不全状態の患者で発症リスクが高くなります。抗がん剤治療によっても免疫不全が増強してしまうので、治療を担当する医師を悩ませる課題の一つです。造血幹細胞移植後ではアシクロビル(抗ウイルス薬)の少量(200㎎/日)が保険適応で発症予防に使われますが、一般的には、予防のために保険処方は不可です。

 

帯状疱疹については、予防ワクチンが推奨されており、当クリニックでも実施しています。これまで、ワクチン接種後に帯状疱疹を発症した症例は皆無でしたが、今年から複数例の発症を確認しています。

 

当クリニックに限っての検討ですが、どのような背景の方が、帯状疱疹ワクチン接種済みにもかかわらず発症を来したかについて検討してみました。すると、帯状疱疹ワクチン未接種者に多く見られた亜鉛欠乏症、ビタミンD欠乏症等は該当せず、新型コロナワクチン接種後1カ月以内という共通因子を認めました。ファイザーなどのコロナワクチンで帯状疱疹が発生するリスクが高まることは明らかにされています。

 

以上のことから、新型コロナワクチン接種は、目標とする新型コロナウイルス(武漢株、オミクロン株ではありません!)感染症予防のための抗体の産生を促すとしても、それ以外の多数のウイルス感染症(武漢株でない、最新の変異株)に対する自然免疫力を低下させてしまう可能性があることを示唆するものであることは直ちには否定できません。

 

つまり、新型コロナワクチンを接種すればするほど、免疫力が低下し、新型コロナウイルスの変異株に感染・発症し易くさせてしまう、という皮肉な結果をもたらすことになりかねないということです。わが国において発生以来、およそ2年半を経ても、新型コロナウイルス感染は収まらない現状を省みて、抜本的な見直しを進めていく時期なのではないか、と私は憂いているところです。

 

 

3 ニューモシスチス肺炎

 

末梢血CD4陽性細胞が200/μl未満の場合に発症リスクが高まります。高熱、呼吸困難、動脈血中酸素濃度(SpO₂)低下を認めた場合には、本症を疑います。

 

エイズ(HIV)患者をはじめ,特にリンパ腫などに伴う免疫不全例で肺病変がみられた場合には,ニューモシスチス肺炎(PCP)と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎の鑑別は、院内感染対策の観点からも非常に重要であることが指摘されています。

 

まず特徴的画像所見を呈する場合には、両者の鑑別は比較的容易であるとされます。

しかし、非典型所見もみられるため、画像所見のみでCOVID-19を否定するのは誤診のリスクが高くなります。特にHIV例におけるCOVID-19肺炎の画像所見については報告が少なく、したがってエビデンスが限られているため、慎重な臨床判断が求められています。

 

 

4 肝炎ウイルス再活性化

 

免疫力が低下するとB型およびC型肝炎ウイルスが再活性化し易くなります。そのため、リンパ腫治療中では常に肝炎ウイルス再活性化の可能性に対して警戒されています。新型コロナワクチン接種による免疫力低下が肝炎ウイルス再活性化をもたらすかどうかについては、現時点では明かなことはわかっていません。今後の綿密な観察による検討が必要です。