最新の薬物療法

 

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認定内科医、認定痛風医

アレルギー専門医、リウマチ専門医、漢方専門医

 

飯嶋正広

 

リウマチ専門医が診る血液病

 

日頃、私が勉強不足を感じている分野の代表に、造血器腫瘍があります。
造血器腫瘍というのは、簡単に言えば血液のがんです。

 

なぜ、勉強不足になったのかを反省してみると、答えは単純でした。それは、症例経験数が乏しかったからです。
 

2018年のデータでは、その年に新たにがんと診断された患者はおよそ98万人でした。そのうち、悪性リンパ腫は約3万5千人、白血病は約1万4千人、多発性骨髄腫は約8千人です。全がん中で、これら造血器腫瘍は10%程度を占めるに過ぎません。
 

しかし、悪性リンパ腫は年々増加しています。これは、実は、リウマチ専門医としても警戒しておくべきトレンドです。

 

その理由は、まず、関節リウマチなどの自己免疫疾患はリンパ腫になるリスクが高いばかりでなく、関節リウマチのアンカードラック(決め手となる基本的な治療薬)であるメトトレキサート(リウマトレックス®)などの免疫抑制薬投与中にもリンパ腫の発症リスクが高まることが知られているからです。

 

私これまでのところ、メトトレキサート投与中の関節リウマチの患者さんで腹部リンパ腫を来した1例を経験しています。
 

 

幸いなことに、リンパ腫は腫瘍性疾患でありながら、過半数の患者で治癒が望めます。そして、多くは一般内科医(血液専門医を除く内科医)によってリンパ節腫脹を契機に診断されるため、日常の外来診療で早期に鑑別診断をすることが有用です。
 

関節リウマチの患者さんに対しては、日頃からリンパ節腫脹に注意を払うように指導するとともに、積極的に触診で確認しておくことを心がけたいと思います。
 

概ね40代以降の中高年者で、無痛性かつ弾性硬で長径1.5㎝以上の表在リンパ節腫大を認める場合は特にリンパ腫を疑う必要があるとされます。表在リンパ節の大きさは、表在部エコー(超音波)検査で簡単に計測することができます。
 

一般検査では血清乳酸脱水素酵素(LDH)が単独で高値になるという特徴があります。可溶性IL-2レセプターの値も高値になりますが、感染症やリウマチなどの自己免疫疾患でも高値になるため、これらの疾患との鑑別が必要になります。当クリニックの関節リウマチのための定期血液検査(3カ月に1回)の項目の中にはLDHが含まれるので、経過をモニターしています。

その他、リンパ腫では、貧血や血小板減少なども来すたすことがありますが、関節リウマチも炎症性貧血を伴いがちなので注意を要します。

 

治療を急がなければならないリンパ腫があります。血液専門医に紹介すべき場合があるからです。

 

具体的には、腫瘤の増大が早いケースの他、腫瘤の長径が3㎝以上、血清LDH高値、肝機能異常、血球減少、全身症状(発熱、体重減少など)を認める場合です。発熱に関しては、受診のたびに測定するため、見落としは避けることができます。

また、血清LDH高値、肝機能異常、血球減少なども定期血液検査の項目に含まれているため、見逃さずに済みます。

 

リウマトレックス服用中の関節リウマチの患者さんにリンパ腫を認めた場合には、まずリウマトレックス®の服用を中止します。それだけでリンパ腫が治る場合がほとんどですが、関節リウマチ自体にリンパ腫のリスクがあるため、その場合には、リンパ腫が治らない可能性もあります。

 

確定診断はリンパ節生検によりますが、その場合は、ただちに血液内科などの専門診療科へ紹介すべきであると考えています。