声楽の理論と実践から学ぶNo.5
水氣道の稽古と声楽のレッスンの共通点(続)
歌をうたうという芸術の神髄と水氣道(その1)
私は今年、武蔵野音大に通っていますが、現在すでに62歳です。そして、今年63歳を迎えます。クラシックの声楽家歌としての今後の活躍についてとなると、多くの皆様から期待していただける可能性は乏しいかもしれません。
しかし、師匠の岸本力先生は、先日、デビュー50周年記念リサイタルを立派に成功させているし、私と同年の時に、立派な業績を残したソプラノ歌手の事例によって、勇気を与えられています。そのソプラノ歌手とは、リリー・レーマン (Lilli Lehmann, Elisabeth Maria Lehmann 1848年11月24日-1929年5月17日) です。彼女はドイツのヴュルツブルク出身のオペラ歌手で声楽教師でした。
生涯にわたって現役の声楽家であることは至難の業ですが、可能な限り、高齢に至っても進歩を遂げようとする声楽家の姿こそ、生涯エクササイズを名乗る水氣道が目指している方向性なのです。
彼女は著書でこう述べます。「科学の目が歌をうたうことにほとんど向けられていない、科学的にものをとらえることのできる声楽家がほとんどいない」と。
これは現在に至っても変わらない事実です。私は、科学的な教育を受けてきた医師として声楽に入門したのですが、科学的なメソッドでレッスンを受けたことはほとんどありません。しかし、医師であるからこそ、指導者のアドバイスを医学的な知識や理解を助けとして、再構成して身につける機会に恵まれていたことには大いに感謝しています。
そこで、リリー・レーマンについて、まず簡単に紹介します。
リリー・レーマンは、63歳の時にODEON RECORDに多数の優れた歌唱を録音している。
まだ旧式の機械式録音の時に行ったのであるが、その歌声は非常に張りが在り、綺麗な美声であって、アーティストの名前を知らずに聴くと、既に63歳になっている人が歌唱をしていると、 誰もが気付かないし、いつ録音したか、何歳での録音かを知ら無い人が聴いたら、その歳とは気付くことは不可能である。
若い歌手と同様な高音部も難無く熟しており、他の優れていた著名な歌手が衰えて、高音部の歌唱の時に、苦労しているのが観られたり、音程を下げての歌唱に代えたりしているが、リリー・レーマンにはそのような事は無縁であった。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
・声楽教師としてのリリー・レーマンは1902年に『Meine Gesangskunst』という声楽理論書を出版しています。(邦訳『私の歌唱法—テクニックの秘密—』川口豊訳 2010年 シンフォニア)。
そこで、水氣道に対して重要な示唆を与えるレーマンの考え方を、この翻訳書の18頁から「抜粋」して、紹介するとともに、そこから、改めて水氣道に光を当ててみたいと思います。
抜粋1「歌をうたう芸術の神髄は、特に呼吸について正確に知るということにある。また、鼻、舌、上あご等によって作られるフォームーすなわち歌うためにのどのフォームを組み立てるーを知るところにある。息はそのフォームの中を通り抜けて行く。」
水氣道の目指すものは、健やかに生きる姿勢について、仲間と共に生涯を通して探求し続けることにあります。水氣道にもフォーム(形)があり、各種の航法があります。この形(かた)や航法の稽古を通して、健康的な姿勢や呼吸、動作を組み立てていくのが水氣道です。稽古を通して身に着けた形(かた、フォーム)は、水中に限って有効に作動するのではなく、ふだんの陸上での日常生活全般を通してイキイキとして活気に満ち、生産的で創造的な活動を可能とします。
水氣道では、まず姿勢、つぎに呼吸、さらに動作という一連のステップが水中では陸上よりも自然に、自動的に整うことに着目して体系が組まれています。
ですから、水氣道の稽古を続けていくうちに、歌う人にとっては、特に呼吸について正確に知らなくても、鼻、舌、上あご等によって作られるフォームーすなわち歌うためにのどのフォームが組み立てられていきます。
水氣道は声楽家に特化して発展してきた訳ではありませんが、結果的に、水氣道によって整えられた姿勢、呼吸、動作によって構築されたフォームの中を、芸術的な歌唱をするにふさわしい息が通り抜けて行くようになります。
私がしばしば、「水氣道は人体を楽器にしてくれる」と発言している根拠はここにあるのです。
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